えー、お久しぶりです。燕尾です。
こちらの更新は一ヶ月半ぶりぐらいでしょうか?
理由としてはラブライブのほうに筆が乗ってしまってという――すみません
第二十九話目です。楽しめたら幸いです。
「えーと、先ほどは見苦しい姿をお見せしてすみません」
「紹介するよ……左からクラスメートの暁古城、藍羽浅葱、矢瀬基樹、後輩で古城の妹の凪沙ちゃん、そして凪沙ちゃんのクラスメートの姫柊雪菜」
「いつも兄がお世話になっています。妹の
礼儀正しくお辞儀をする愛華。どこぞのお姫様を連想させるような美しい動作に、異性の古城たちはもちろん、同性の浅葱たちまでもが見惚れていた。
「なんというか……」
「ええ、すごいわね」
「すごいですね」
「うん、すごいよね」
「ああ、すごいな」
五人はそれぞれすごいという言葉を口にした。今まで劉曹の影からしか姿を見ていなかったが正面から見るとその理由がはっきりとわかる。
大人びた、だがどこか幼さを感じさせるような顔立ち。肉付きがよく、それでいて締まるところは締まっており、女性としてのラインが綺麗に映っている。そしてなにより――
「「「「「でかい……」」」」」
古城たちは口をそろえて言った。男である古城と基樹が言うのもどうかというものだが女性陣たちはそんなことを気にする余裕がなかった。
「なにあれ、反則じゃない……」
「どうやったらあんなに……」
「うらやましい……」
浅葱の年下、凪沙、雪菜と同い年ぐらいとは思えないほどの山脈が胸元にそびえたっているのをみて三人は自信を無くしたように呟いた。
「それで、どうしたんだ? いきなり
「もともと、今月末にある
笑顔で兄冥利に尽きることを言ってくれる愛華。だがその笑顔になにか裏があることを劉曹は見逃さない。
「愛華、なにを隠している?」
劉曹が言った瞬間、愛華はぎくりと固まる。だが、固まったのも一瞬だけで愛華はすぐに取り
「なにを言っているんですか兄さん。わたしが兄さんに隠し事なんてあるわけないじゃないデスカ」
「……」
明らかに隠している様子だったが、古城たちの手前、言いづらいのかと思った劉曹は、
「!?」
愛華に顔を近づける。いきなり近づいた兄の顔に愛華は真っ赤になった。
「兄さん!? いきなりなにを……今の兄さんは女の子ですし、するなら人がいない、家とかで……でも、いま兄さんがしたいというのならわたしは……」
「後でちゃんと聞くからな、覚えて置けよ」
ひとこと耳元で
そんな楠兄妹のやり取りを見て不機嫌そうにしていた人物がいた。
「むー……」
「どうした、凪沙?」
「なんでもないっ!」
不機嫌になった自分の妹に問いかける古城だったが、凪沙はちょっとお手洗い、と言ってその場からすばやく離れてしまった。
「どうしたんだ凪沙ちゃんは」
「さあ?」
走っていく姿を見て劉曹は問いかけたが、古城にもわからず首をかしげている。
「ねえ、古城もそうだけど劉曹もつくづく鈍いわよね。どうしてわからないのかしら?」
「普通は気づいてもおかしくは――というより気づくはずなんですけど」
「こいつらの鈍感さは現代の医学じゃ手のうちようのないものだからな。もう諦めて周りが頑張るしかないだろ」
「矢瀬さんの言う通りです。兄さんのこれには何度被害にあったか……正直私も心が折れかかっています」
深々と言う愛華に雪菜、浅葱、基樹の三人は同情の眼差しを送るのだった。
「はぁ……酷い顔……」
ため息混じりに呟く凪沙。鏡に映るのは誰が見てもわかるようなイラついた顔だ。
長い時間ここに居られないのはわかっているのだが、まだ表情は戻りそうにない。
先ほどの楠兄妹のやりとりを思い出すと苛立ちこみ上げてくる。
「あんなの、家族の距離じゃないよ」
何を言っていたのかはまったくわからないが、顔を近づけて耳打ちするのは兄妹でもしない。凪沙自身、古城にやれといわれても絶対断るだろう。
「はぁ、本当に何であんなことしちゃったんだろ……」
しばらく思考を巡らせているうちに少し落ち着いて、込みあがってきたのは後悔だった。
心配してくれた兄にやり場のない気持ちをぶつけて、空気を悪くした。
そんなことした自分にいやな気持ちが湧いてくる。だが、劉曹が他の女の子と仲良くしているのを見るとどこか気に食わないと思っている自分がいる。その気持ちに凪沙は心当たりが合った。
「――嫉妬、なのかなぁ……」
もっと自分を見てほしい、他の子ばかりを見ないでほしい。そんな感情を表に出してしまったことに
もっとも、なぜ嫉妬をしてしまうのか、その原因には凪沙は気づいていない。
「そろそろ戻らないと、本当にみんなを心配させちゃう」
頬を両手で叩いて気合を入れ、皆の所に戻る凪沙。
持て余した気持ちがなんなのか、それがわかるのは大分後のことだった。
「まさかこんな店があったなんて、今まで知らなかったわ」
ナポリタンを口に運びながらそう言う浅葱。
凪沙が戻ってきた後、劉曹たちは空港から移動し、やってきたのは
「その店を劉曹が知っていたのも驚きだよ、俺は」
「基樹の言い方に何か引っかかるんだが――散歩していたときに偶然見つけたんだよ。コーヒーも飯も美味いし、今じゃすっかり常連だよ」
週一回は必ず、多いときだと二、三回はこの店に足を運んでいる劉曹。カウンターにはマスターが居るのだがチラッと見るとマスターは恭しく一礼した。
「それに劉曹に妹がいるって聞いていたけどまさかあそこまで美人だとは思わなかったわ」
浅葱が、通路を挟んで向かいの席に座っている愛華を見る。
劉曹、古城、基樹、浅葱の高校生組み。愛華、雪菜、凪沙、の年下妹組みという分け方で席についていた。彼女たちは彼女たちで話に華を咲かせている。
「まあ、前から愛華は可愛かったからな」
当然のように言う劉曹に古城たちは引いていた。
「あんたもシスコンだったのね……」
「おい、浅葱。何で俺のほうをながら言うんだ。俺はシスコンじゃないぞ!?」
在らぬ疑いに古城は
「妹が嫌いな兄は極少数だ。愛しているし、大事に思ってるよ」
いっそ清々しいほど断言する劉曹に古城は苦笑いする。一方、浅葱と基樹は――
「(あるのは家族愛だけ――愛華さんも苦労してるわね)」
「(こりゃ、余程の事がないと一生愛華ちゃんの気持ちに気づかないだろうな)」
と、心の中で愛華に同情した。
「でも、兄妹って言うほど似ていないよな、劉曹と愛華さん」
単純な疑問を古城は口にする。対して劉曹はあー、と目を愛華に向ける。
「俺と愛華は血は繋がっていないんだ」
「わ、悪い。なんか込み入ったこと聞いた」
別に聞かれるのが嫌な訳ではない。劉曹自身、愛華との関係に気まずさなどの感情は持っていない。
「再婚、って訳じゃないのよね? 物心ついたときには両親が居ないって言っていたものね、劉曹」
古城とは違い、確認するように訊く浅葱。劉曹は彼女のようにフランクにしてくれるほうが疲れず、楽に感じる。
「愛華とはアルディギアの路地裏で出会ったんだよ」
「アルディギア……? でも愛華ちゃんって――」
「ああ、日本本土の人間だよ」
艶やかな黒い髪に、漆黒の瞳。鼻が高いという訳でもない、日本本土に見られる人達の顔立ちだ。
愛華は日本で、日本の両親の間に生まれ、そして――
「愛華は、アルディギアで捨てられたんだ」
劉曹の告白に三人は息を呑む。今見えている愛華の表情からは想像できないことだった。
「愛華は望まれて生まれた子供じゃなかった。物心ついたときには虐待されていたそうだ」
死なない程度にしか与えられないご飯。ストレスの捌け口として殴る、蹴るの暴力を受けていた愛華。
「毎日受けていた暴力に精神がやられて、愛華はいつの日か殴られても蹴られても反応しなくなった。ストレス発散の道具として使えなくなった愛華を両親はばれないようにアルディギアに渡航して、捨てたんだ」
「信じられないな……」
古城が言う、信じられない、というのは劉曹の話がということではない。愛華がそんな目にあっていたというほうだ。
「俺が最初見たとき、愛華は糸の切れた人形のようだったよ。物のように居た」
「今の愛華さんを見てると、本当に想像もつかないわね」
「だろ? 感情を取り戻すのに一年かかったよ」
瞳には何も映さず、話しかけてもほとんど反応しなかった愛華には当時の劉曹も少しばかり困っていた。
「でも、本当に大変だったのはそのあとだったよ」
「どういうことだ?」
「感情を失っていたのは自分の心が完全に壊れないよう守っているためだったんだよ。だけど感情を取り戻したことで両親と居た頃のことを思い出して感じてしまうようになった」
「なるほど、トラウマか」
基樹の答えに劉曹は頷いた。
「ああ。日常的なフラッシュバックと夢を見るようになって毎日毎晩、悲鳴を上げるように取り乱しながら泣いてたよ。それが落ち着くまでの一年間、まともに寝た記憶がない」
三人は言葉も出なかった。
愛華と同い年ということは、当然、その頃の劉曹も幼い。浅葱が言ったように、物心ついたときから劉曹には両親が居ない。ということは、病んでしまった愛華を日々支えてきたのは幼い頃の劉曹だ。
尚且つ、その当時から攻魔官かぶれとして働いていたのは三人とも訊いた
「あんた、小さい頃から化け物だったのね」
「なんでそんな不名誉なこと言われないといけないんだよ!?」
浅葱の一言に劉曹は声を上げる。
おかしいだろ、と古城と基樹のほうを向くも二人はごめんと言って、
「悪い劉曹。俺に浅葱の言葉は否定することできない」
「俺も」
浅葱の言葉に同意した。
「お前ら覚えて置けよ。特に古城」
「なんで俺!?」
おまえが
「まあとにかくだ。今は別で暮らしているが、俺と愛華は幼い頃から二人三脚で生きてきたんだ。パートナーであり、同士であり、大切な家族だよ」
劉曹は愛華の方に視線を向ける。それと同時にあのときの記憶が呼び起こされる。
目の前にいる膝を抱えたボロボロの少女。劉曹は目線を少女に合わせてまっすぐ瞳を見つめている。
『俺はおまえのお兄ちゃん――家族だ。だから愛華はもう一人じゃない』
『かぞく……? おにいちゃん……? おにいちゃん、わたし……かぞく?』
言葉の意味がよくわかっていない少女は言葉を
『ああ、家族だ。これからはお兄ちゃんが愛華を守っていく。約束だ』
少女に手を伸ばす。そして、ビクつく少女を劉曹は優しく抱きしめて背中をポンポン、とゆっくりしたリズムで叩いてやる。
少女の体は震えていたが、やがてそれも止まる。そして、少女の手が恐る恐る、劉曹の背中に添えられた。
『わたし、おにいちゃんと……かぞく、か…ぞく……っ……ひぐっ……うっ……』
『そうだ、お兄ちゃんと愛華は家族だ』
『う……うわあああああああああああああん……!! え、えぐっ……うぐっ……ああああああ……!!』
今まで溜まっていたものをすべて吐き出すように泣く少女。それは少女が泣き疲れて寝てしまうまで続いていた。
「(あれから約十年。俺はちゃんと約束を守れて居ただろうか。なあ、愛華?)」
コーヒーに口をつけて、笑顔の義妹を見ながらそんなこと思う劉曹なのであった。
いかがでしたでしょうか。
つぎは……なるべく早く投稿できるといいなぁ……