約一ヶ月ぶりです
がんばります。
学校にギリギリで来た古城は机に
「そういえば今日、うちの学校に転入する人がいるみたいだぜ」
「ああ、なんか一週間だけらしいけどな。唐突過ぎだろう」
「学校来るときに見たやつがいるみたいだけどすごい美人だって言ってたぞ」
周りのクラスメイトは今日突然来る一週間だけの転入生の話で盛り上がっていた。が、古城には嫌な予感しかしなかった。
「おはよう古城、だらしない顔してるわね」
「浅葱……だらしないは余計だ」
「本当なんだからしょうがないじゃない。それより……」
浅葱は周りを見て苦い顔をして続ける。
「今日転入生が来るって話だけど、やっぱり
「ああ、
周りが転入生の話で盛り上がる中、古城と浅葱はお互いの顔を見てため息をつく。
「おまえら席につけ、ホームルームを始める」
ざわめいた教室が那月が入ってきたことにより一気に静かになり、それまで立ち歩いていた生徒は自分の席へと戻る。
「今日は転校生を紹介する。とはいっても一週間程度だがな。入れ」
教室のドアに向かって那月が言い、一人の少女が入ってくる。
その直後、おお、と教室内の生徒たちが感嘆の声を
「始めまして、今日から一週間お世話になります。
楠香織と名乗った少女は優雅に微笑み、ぺこりと礼をする。
「「「うおおおおおおおお――――っ!!!!!」」」
その瞬間、教室に歓声が響く。
「銀髪巨乳美人キタ――――!」
「やっば、超可愛い!」
「結婚してください! 一生幸せにするから!!」
次々と湧いてくる言葉に香織は笑顔で返しながら、しかしどこか引きつったような笑顔で男子たちを見る。
「静かにせんか。馬鹿共!」
那月の一喝で教室にまた静寂が訪れる。彼女はため息をつきながら古城のほうを見て、
「おい暁、こいつの面倒を見てやれ」
「はぁ!?」
古城は思わず立ち上がる。クラス男子の殺気が古城に向く中で、那月はニヤリと笑い、
「お前は
「いやそれはそうっすけど……」
「なら決まりだ。異論は認めん。ホームルームを終わるぞ」
言うだけ言って那月は教室から出て行ってしまった。
クラス中の嫉妬の視線を集めている古城は今日二度目のため息をついて香織を睨む。彼女は笑いをこらえているようにプルプルと小刻みに震えていた。
「悪い古城、頼んだ」
「ふざけるな! なんで俺まで巻き込むんだよ!?」
わざとらしく言って手を上げる
「しょうがないだろ、那月ちゃんに相談したらこうなったんだから。無理やり女子の制服を着せられた俺の身にもなれ」
「知らねーよ! なんで俺まで巻き込むんだよ!!」
「それは俺が苦労してるのにおまえだけのうのうとしているのが気に入らないからだ」
理不尽極まりない理由にこれ以上怒る気にもなれなかった古城は疲れた顔で香織を睨む。
「暁君、ちょっといい?」
後ろから突然声をかけてきたのはクラスメイトの月島倫だった。その後ろにはげんなりとした様子の浅葱がいた。
「その娘、
倫はそう問いかけて古城に詰め寄る。クラスメイトたちは倫と同じことを思っていたのか一気に古城に視線が集まる。
「あーそれはだな……」
「それはわたしが説明しましょう」
静かに香織が前に出た。驚いた表情でみんなが香織のほうを見る。
「私は楠劉曹の妹です。古城さんとは兄の知り合いということで交流がありました」
「ちょっと待って、妹さんがなんで高校に? 普通なら中学のはずだよね?」
「わたしと兄は義理の兄妹ですので」
「あ……ちょっと悪いことを聞いちゃったかな?」
周りが変に静まってしまう。だが――
「いえ、気にしないでください。兄さんたちに引き取られて私も幸せなので」
ニコッ――
「「「うおおおおおおお!!!! 超可愛いいいいいい――!!!!」」」
男女問わずクラスの歓声の中、口に手を当て満面の笑みを浮べている香織に、彼女の正体を知っている古城と浅葱は顔を蒼くして戦慄するのだった。
「あ゛ー、疲れた……」
「おいおい、気をつけておけよ、今おまえは女子生徒なんだから」
古城は足を投げ出し、だらしなく椅子に座っている香織――もとい、女の子になった劉曹を注意する。
「そうよ、一週間とはいってもばれるわけにはいかないんでしょう」
しょうがないだろ、と劉曹は疲れたように呟いた。
高等部にはもちろん、中等部にも
次々とやってくる野次馬たちをかいくぐり、全力で誰もいない屋上へと逃れてきた。
「それにしてもおかしいだろ、あの数は。うちの学校はあんな馬鹿共が多かったのか? 俺は男だってのに……」
「今のあんたは正真正銘女の子よ。男だって気づくほうが無理な話よ」
呆れて言う浅葱にぐうの音もでない劉曹。古城はそんな彼に問いかける。
「本当にこれからどうするんだ、劉曹」
「那月ちゃんに言われた以上、学校を休むわけにもいかない。なるようになるさ――ん? 悪い電話だ」
ポケットの中で振動した携帯電話と取り出し、ディスプレイを確認した瞬間劉曹は固まった。
ある程度経つと携帯が鳴り止んだ。だが、まだ劉曹は動かないままだった。
「おい、劉曹?」
「ちょっと、どうしたのよ。電話切れたわよ?」
心配した古城と浅葱が劉曹に声をかける。するとまた携帯電話が鳴り響いた。
「でたほうがいいんじゃないの?」
浅葱に言われ、我に返った劉曹は恐る恐る受信ボタンを押し、機器を耳元へと持っていく。
「もしもし」
『なんで一度でなかったんですか――兄さん』
澄み切った透き通ったような、だがしかし、どこか威圧するような声。そして兄さんと呼んだ少女の声に劉曹は顔を青くする。
「いや、これはだな……」
『なんででなかったんですか?』
ごめんなさいと、素直に謝る劉曹に電話の向こうの少女はあれ? 不思議そうな声を出す。
『兄さん風引いているんですか? なんか声が変ですよ』
ギクッ、と体を強張らせる劉曹。
「あ、ああ! 最近少し体調が悪くてな、ちょっと声が裏返るんだ。だけど大丈夫、それでどうしたんだ? 電話なんて珍しいじゃないか」
『ええ、ちょっと兄さんに知らせておこうかと思いまして』
なにをだ? と聞く劉曹に彼女は声を弾ませた様子で、
『実は明後日から
「……ヨクキコエナカッタモウイチドイッテクレナイカ?」
そういう劉曹にですから、と電話相手の少女は楽しそうに繰り返す。
『明後日から
ソ、ソウカ。と頭を抱えながら劉曹はひとことだけ返す。そんな劉曹の気配を感じ取ったのか少女は声のトーンを落として、
『なんか残念そうですね。まさかわたしに知られたくないことでもあるんですか?』
追い詰めるように問いかける少女。劉曹は出来るだけ平静を装う。
「いや、そんなことはないぞ。久しぶりに会うのを楽しみにしてるから」
『はい、わたしも楽しみにしています』
それでは、と一変して上機嫌になった彼女との通話が終わる。携帯をしまった劉曹は雲ひとつない空を見上げる。
「劉曹、大丈夫か?」
「……古城、来世で会おう」
「まてまてェ――!!」
フェンスに手をかける劉曹を慌てて古城は制止する。
「放せ古城、俺はどのみち死ぬことになる。ならおまえらに見取ってもらったほうが――」
「落ち着け! 一体さっきの電話で何があった!?」
古城の必死の説得で我に返った劉曹は悪い、とひとこと謝る。
「さっきの電話は妹からだ。明後日絃神島に来るから俺のところで世話になりに来るらしい」
「あんたって、妹いたの?」
「ああ、日本本土で暮らしているけどな」
「でも、その妹がなんで絃神島に? いくらなんでも急過ぎないか?」
そうだな、と理由を聞いてなかった劉曹はしばらく考える。そして、あることを思い出したのか劉曹はああ! と大きな声を上げた。
「月末の
「
「詳しい説明ありがとう、浅葱」
「妹が来る理由はわかったけど、なんで劉曹は慌ててるんだ?」
古城の問いかけに劉曹は憂鬱そうな表情を浮べ、ため息をつきながら、
「うちの妹は一癖どころか二癖以上あってな。兄貴が姉貴になったと知ったらどうなるか……」
震える劉曹をどこか同情の目で見る古城と浅葱。
「それに、あいつにこうなった理由を知られでもしたらそれこそなにをされるかわかったもんじゃない」
「でも、会わないわけにはいかないんじゃないの?」
そうなんだよな、と劉曹はうなだれる。
電話で会う約束をしてしまった以上、劉曹に会わないという選択肢は存在しない。かといってこの姿を晒せばその先に待っているのは死しかない。
「
「いや、一つは違うだろ……」
古城は呆れたように劉曹に言う。劉曹はしょうがないともう一度深くため息をついて、
「まあなるようになるだろ」
劉曹は空を見上げて言うのだった。
二日後、学校が終わった劉曹は空港へと来ていた。その表情は浮かばれないものだった。それというのも――
「なんでおまえたちまでいるんだよ!?」
後ろには古城、凪沙、雪菜、浅葱、そして基樹までいた。
基樹には古城と浅葱と相談した結果、協力者は一人でも多いほうがいいということで正体を明かしたのだ。そのときの基樹の反応に劉曹は半狂乱になったが。
「まあまあ、そんなこと言わずにそうちゃん。同じ妹として気になるし」
「俺たちのことは通行人とでも思ってくれれば大丈夫だ」
明るく言う凪沙と基樹に、はあ、とため息をつき、時計を見る劉曹。そろそろ来る時間だと、そう思った矢先――
「兄さん、お久しぶりです!」
「うわっ!!」
後ろからいきなり抱き疲れてバランスを崩しそうになる劉曹。
「おい、愛華。いきなり抱きついてくるのはやめろ」
「いいじゃないですか、久しぶりに兄妹が再開するんですから。それにしても兄さんまだ風邪が治っていないんですか? 「むにょん」まだ……こ……え……が……」
愛華と呼ばれた少女が劉曹に本来ないものを触って、次第に声が沈み無表情になる。
「あなた、誰ですか。なぜわたしの名前を知っているんですか。あなたと兄さんの関係はなんですか」
無表情のままもの凄い声のトーンを低くし問いかけて、愛華は殺気を放つ。
「愛華、こんな姿してるけど劉曹だ。おまえの兄だ。だから落ち着いてくれ、な?」
まじまじと姉に代わってしまった劉曹を見る愛華。
「たしかに、どこか兄さんの面影がありますし、喋り方も兄さんと一致しますね。とりあえず信じておきましょう」
よかったと一安心する劉曹だったが、やはり一筋縄ではいかなかった。
「それで、なんで兄さんはそんな姿になっているんですか」
まっすぐ自分を見て問いかけてくる愛華から劉曹は目線を逸らし、
「ちょっと色々あってな……」
「色々ってなんですか。まさか……また無茶したんですか?」
「いや、それは……その……」
いいごもる劉曹に愛華は周辺から冷気のようなものを漂わせる。
「また無茶したんですね。昔から変わらないんですね。いつも仕事だと言ってふらっとどこかに行っては死にそうになって帰ってきて、そのたびに女の子と仲良くなって、わたしが心配しているのもそっちのけでまたどっかに行って……」
「お、おい……愛華……?」
絶対零度にも匹敵するほどの冷気を纏って愛華は劉曹を睨む。
「いつもいつも兄さんは……お兄ちゃんは……」
「ま、待て、愛華。それはマジでやばい!」
肩を震わせながら愛華は構える。それを見た劉曹は顔を青くして制止するが、
「わたしのことなにもわかってくれないんだからああああ――――っ!」
愛華は聞く耳を持たずに叫び、正拳や上段蹴りを劉曹に叩き込もうとする。しかも仙術の力をこめて。
「ちょ、落ち着け愛華! 洒落にならないから!!」
次々と出される攻撃を
「なんだこれ……ってか、妹の身体能力高すぎじゃね……?」
「なんかそうちゃんの妹だから落ち着いているようなイメージがあったんだけど……」
「たぶん普段は落ち着いている人なんでしょうけど、そこは楠先輩の妹なんでしょうか……?」
「劉曹も大変ね……」
「これは劉曹の自業自得なんじゃないのか?」
目の前で繰り広げられている激しい兄妹ゲンカ(?)を
いかがでしたでしょうか?
がんばります(二回目)