ストライク・ザ・ブラッド~白き焔~   作:燕尾

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更新は二ヶ月ぶりです。大変申し訳ありませんでしたぁ!

テストにバイト、その他諸々で更新できなかったというのもあります。

申し訳ございません。

第二十五話目です。どうぞ楽しんでください。



第二十五話

 

 

「……ん、なんだ?」

 

生暖かい感触を体中に感じた劉曹は目を覚ます。その瞬間、劉曹は絶句した。

 

「まったくいっつも無茶ばっかりして、今回は特にひどいよ!!」

 

意識が完全に覚醒した劉曹に対して唐突に説教を始めたのは全裸の女性。しかも、劉曹と同じように寝転がって足を絡ませるようにして、正面から抱きしめていた。

 

「……」

 

だが、劉曹は何も答えない。と、言うより答えることができないほど唖然としてた。

 

「しかもここ数年間、全然会いにきてくれなかったからすごく寂しかったし」

 

女性は頬を膨らませていかにもな怒っているアピールをする。

 

「……」

 

「ちょっと、無視は良くないよ」

 

「…………ろ」

 

搾り取るように言葉を発する劉曹。しかし、よく聞こえなかったようで女性は首をかしげる。

 

「なに?」

 

「いいから服を着ろおおおおおおおおお!!」

 

劉曹は我慢ならずに叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識を失った劉曹が目を覚ましていた場所ははまっさらな純白の世界だった。

 

目を覚まして早々に絡んできた女性はなぜか裸だった。劉曹に怒鳴られたその女性は口を曲げて手を振りかざす。すると、(またた)く間に衣服が女性を包み込む。

 

「相変わらずだな、天照大神(あまてらす)。てかなんで巫女服なんだ?」

 

劉曹は問いかけながら女性の名を口にする。

 

天照大神(あまてらすおおみかみ)――明治時代以降に日本で最高神の高位に位置づけられた太陽を神格化した神であり、皇祖神の一柱。

 

「その名前で呼ばないでよー。ちゃんと劉曹が付けた名前で呼んでほしいな」

 

「……」

 

神はぷくっと頬を膨らませて劉曹に抗議する。その姿はとても神とは思えないものだった。

 

「ねえってばー」

 

反応しない劉曹にもたれかかる神。劉曹は疲れたように溜息をつく。

 

「わかったよ。わかったから離れてくれ――空音(そらね)

 

空音――そう呼ばれた神は満足そうに微笑み、ぴょんと劉曹から離れる。劉曹はどこか感慨深そうに辺りを見回す。

 

「こういう形で幽世(ここ)にくるのは初めてになるのか……」

 

「そうだよ」

 

空音は劉曹の呟きに首肯する。しかし、どこかその様子がおかしかった。

 

「……空音?」

 

「ほんと――なんで死んで(こんな形で)こっちに来ちゃうのかなぁ、劉曹?」

 

呟いた劉曹に空音は笑いながら問いかける。

 

「そ、空音? 目が笑ってないぞ」

 

「笑えると思う?」

 

その一言だけで劉曹は悟った。目の前の神様は怒っている、と。

 

「劉曹が優しいのは昔から知ってた。でも、その優しさが今は甘さになってない? わかってる? あの時、わたしの名前を呼んでなかったらもう終わってたんだよ?」

 

「それは」

 

「傷つけずに救おうだなんておこがましいにも程があるよ、人間」

 

低く、有無を言わせない言葉が劉曹に突き刺さる。

 

「劉曹は他より飛び抜けた力を持っているけど、なんでも出来るわけじゃない。君は(わたしたち)じゃないんだし、そこのところを勘違いしちゃ駄目だよ」

 

「ああ……そうだな。悪かった」

 

目を伏せながら、劉曹は空音の言葉を噛み締める。

 

今まで周りの心配を余所に大丈夫、何とかなると言い聞かせていた。そして、実際それで何とかなっていた。

 

しかし今回は違う。取り返しのつかないほどの失敗だった。

 

自分一人でもどうとでもなる、そんな慢心が心の中であったのだ。

 

劉曹はそのことを反省する。

 

「なあ、空音」

 

気まずそうに言う劉曹。

 

これから言うことはあまりにも自分勝手なこと。そして、それを通そうとしようとする自分に嫌悪してしまう。

 

「あの女の子を助けたいんだよね」

 

しかし、空音はすべてわかっているという風に言った。本当に彼女には頭が上がらなくなる。

 

「でも大丈夫? これ以上わたしの力を使うのなら、それなりの代償があるんだよ。加えて、わたしから引き出すということはあなた本来の力が戻り始める」

 

「ああ、覚悟は出来ている。もう迷わないし、間違えない」

 

迷いなく答えることに神は優しい笑みを浮かべ、劉曹をぎゅうっと抱きしめた。

 

「お、おい……」

 

「ふふふ、やっぱり劉曹は優しいんだね。十年前、わたしと初めて会ったときもそうだったよね」

 

抱きしめられて戸惑っている劉曹の頭を優しくなでる。劉曹は気恥ずかしさから顔を逸らす。

 

「気のせいだ。というか早くしてくれ」

 

「もうわかったわよ、久しぶりに会ったのにそんなに()かさなくてもいいじゃない」

 

空音は不満そうにして手を振りかざす。その直後、二人の足元が光で包まれ始め、上へと迫ってくる。

 

「まあいいわ。あなたへの身体の影響は最小限に抑えるようにしてあげる。でも、完全ではないから覚悟はしておいてね」

 

「さっきも言ったが覚悟はできている。ありがとな」

 

「なにが?」

 

感謝の言葉を言った劉曹に空音はきょとん、と見つめる。しかし、彼はすぐにそっぽを向いて、

 

「いや、なんでもない」

 

「なによー、教えてくれてもいいじゃない! 珍しい言葉を聞けたんだから」

 

「な、なんでもないって! そろそろ時間だ、行くぞ」

 

「了解!」

 

そして、光は強さを増し、二人は純白の世界ごと包まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー……怠っ! 余計な手間ァかけさせてんじゃねーわよ、第四真祖!」

 

ベアトリスが、制御端末(リモコン)を弄る。

 

すると船から新たな"仮面憑き"が二体飛び出し、唐突に古城へと無数の光剣を乱射し始める。

 

「――邪魔だ」

 

古城は振り返りもせずに、飛来する剣を無造作に右手で受け止める。それだけで、いびつな光剣はすべて消滅した。

 

「……おい、どういうことだよ、BB!?」

 

それを見たキリシマは、話が違うじゃねーか、といわんばかりの顔で隣にいる女吸血鬼に訊く。

 

「知らねーよ! さっきのクソガキといい、第四真祖といい舐めた真似しやがって……!」

 

ベアトリスは声を荒げて叫ぶ。顔は屈辱の怒りで(ゆが)んでいた。だが、その顔はすぐに勝ち誇ったような不適なものに変わった。

 

「いいのかい? お仲間ががら空きだよ!!」

 

ベアトリスは制御端末(リモコン)をすばやく操作する。"仮面憑き"は光剣を古城から離れて仮面憑きだった少女たちをを介抱しているラ・フォリアへと放った。

 

「なっ――!?」

 

古城は驚愕する。だが、それは当然のことだった。ベアトリスたちにとってはもうつかえることのない少女たちを生かす理由もない。ラ・フォリアと共に少女たちも処分しようとする。

 

「ラ・フォリア! くそっ――!」

 

急いで、駆けつけようとするが、夏音が光剣を乱射しきて、防ぐのに精一杯だった。

 

そして、ラ・フォリアが為す統べなく爆炎に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、どうやら間に合ったようだな」

「(間一髪ってやつかな? 大丈夫?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

声と共に爆心地から風が吹き荒れる。

 

嵐のような風は炎と黒煙を吹き飛ばし二人を守るように渦巻いていた。

 

「悪いな心配かけて。もう大丈夫だ」

 

劉曹はそういって、自分の腕の中にいるラ・フォリアに優しく微笑みかける。

 

「劉曹? 本当に劉曹なのですか……?」

 

王女はまっすぐ劉曹をみて返す。

 

「ああ、偽者でも幽霊でもない。心配かけて悪かった」

 

「いえ、信じてました。あなたは約束を違わないと」

 

そういって微笑み返してくるラ・フォリアに劉曹はバツが悪そうに苦笑いする。

 

もう少しでその約束を違える所だったなんて口が裂けてもいえない。誤魔化すようにラ・フォリアの頭を撫でる。

 

「――っ!!」

 

最初こそ気持ちよさそうにしていたが、置かれている状況を理解したラ・フォリアは茹蛸のように顔を真っ赤にさせた。

 

横たわっているような体勢の自分を抱きかかえている――いわゆるお姫様抱っこである。

 

「どうした?」

 

不思議そうに顔をのぞいてくる劉曹。吐息がかかるほどの近さに劉曹の顔があることにラ・フォリアはさらに顔を赤らめた。

 

「イチャイチャしてんじゃねーよクソビッチどもが!」

 

ベアトリスは"仮面憑き"に指示を飛ばし、劉曹たちに光剣を飛ばさせる。ラ・フォリアを抱えた劉曹はピクリとも動かない。

 

二人を貫くと思われた光剣は目の前で消滅した。それでも諦めずに二人の"仮面憑き"は劉曹たちに向けて連射する。しかし、二人には当たらずに目の前で消滅する。

 

「無粋な奴らだな。ラ・フォリア、俺は古城と一緒に夏音を助ける。メイガスクラフトの連中を任せても大丈夫か?」

 

「はい、わたくしのことは気遣い無用です。存分に、劉曹」

 

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

ラ・フォリアをおろして、古城と雪菜の元に駆け寄る。

 

「姫柊、お前もメイガスクラフト(連中)を頼む。ベアトリスが持ってる制御端末(リモコン)を奪えば"仮面憑き"も止められる」

 

はい、と力強く頷いて、雪菜はベアトリスたちのほうへと駆け出した。

 

「"蛇紅羅(ジャグラ)"っ!」

 

雪菜の接近に気づいた女吸血鬼が、舌打ち交じりに眷獣の槍を構えた。

 

自由自在に形や長さを変え、あらゆる角度から雪菜へと殺到する。雪菜は槍で迎撃しつつ槍をかいくぐり、

 

「――若雷(わかいかずち)!」

 

零距離で、呪力をこめた肘打(ひじう)ちを女吸血鬼の無防備な脇腹に叩き込んだ。

 

「――(ゆらぎ)よ」

 

それだけでは終わらず雪菜はよろめいているベアトリスの頭に掌打を打ち込む。

 

脳を揺さぶられれば脳震盪(のうしんとう)を起こす――それは人外の魔族といえども例外ではなかった。

 

一瞬意識が飛んだベアトリスから雪菜は携帯電話型の制御端末(リモコン)を奪い取る。

 

「冗談……だろ。こんな小娘が素手で、あたしを……」

 

「眷獣は確かに強力ですが、あなたが強いわけではありません」

 

劉曹と同じことを口にされたベアトリスは屈辱と怒りで表情を歪ませていた。

 

「ロウ――!」

 

追い込まれた女吸血鬼は部下の名を叫ぶ。王女を捕らえ人質にし、三人を(なぶ)り殺す。そう考えた。が、

 

「ハ……ハハッ……なんだよ、そりゃ……完璧に(だま)されたぜ、畜生」

 

()まし討ちをしたような言われ方は心外です」

 

人の姿へと戻り、鮮血を吐きながら倒れこむキリシマを、呪式銃を構えたままの姿勢で冷酷に見下ろすラ・フォリア。銃の先端に取り付けられた銃剣(バヨネット)が彼の胸を貫いたのだ。

 

「雌豚一匹絞められねーのかよ、このカス野郎……!」

 

血まみれで倒れる部下を苛立たしげに叫ぶベアトリス。雪菜の攻撃で平衡感覚を失った彼女はどうにか立ち上がった。しかし、足取りはおぼつかず、それだけで精一杯の様子だった。

 

雪菜は警戒し攻撃の構えを取るが、ラ・フォリアが制止した。自分が片を付けるから手出しは無用、と目配せしながら。

 

「やってくれるじゃないの……小娘ども。商売なんざ知ったことか、全員ぶっ殺してやる……!」

 

女吸血鬼の手中に、再び深紅の槍が現れる。宿主の怒りに呼応してなのか、槍方の眷獣は、いくつもの鉤爪や逆棘を生やした凶悪な姿へと変わっていた。

 

「まずはおまえからだ、雌豚ァ! 串刺しにして腹腑(はらわた)引きずり出してやる!」

 

ベアトリスは絶叫し、槍を振るう。彼女の眷獣が幾筋にも枝分かれしながら、王女へと殺到する。

 

「――我が身に宿れ、神々の娘。軍勢の守り手。剣の時代。勝利をもたらし、死を運ぶ者よ!」

 

ラ・フォリアの口から紡がれた美しい祈りの詩。

 

その詠唱が終わる前に、ラ・フォリアの銃剣(バヨネット)が閃光に包まれる。王女は太陽のような温かい光を放つ剣を一閃した。

 

「ヴェルンド・システムの擬似聖剣……!?」

 

自分の眷獣を(ほふ)った光の剣をベアトリスは凝視し、

 

「馬鹿なっ、そいつは精霊炉を備えた母船が近くになきゃ……――っ!」

 

彼女は自分が持っている情報をすべて言い終える前に気づいたように言葉を切った。

 

「……まさか……精霊を召喚したのか……自分の中に!?」

 

「ええ。今は、わたくしが精霊炉です。ベアトリス・バスラー――」

 

自らの肉体を精霊の依代(よりしろ)とし、膨大な霊力を操りながら、王女は高々と剣を掲げた。

 

「騎士のみならず、非戦闘員にまで手にかけたあなたの所業――ラ・フォリア・リハヴァインの名において断罪します。我が部下たちの無念、その身で思い知りなさい」

 

劉曹と雪菜に深手を負わされたベアトリスが、ラ・フォリアの攻撃を避けられるわけもなく、魔族の天敵である聖剣で袈裟懸(けさが)けに切り倒される。

 

ちくしょう、とだけ呟き、ベアトリスはそのまま動かなくなった。

 

ラ・フォリアは空を見上げる。そこには交差する二つの閃光。人ならざるものへと変わりつつある少女を救うために戦っている少年たち。

 

「信じていますよ、古城、劉曹」

 

彼らなら必ずやってくれる、と心に刻み王女は静かに行方を見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古城と軽い打ち合わせをした劉曹は空を舞っていた。

 

「Kriiiiiiiiiiiiiiii――――!」

 

深紅の涙を流しながら絶叫し、劉曹と古城の両方に向けて閃光を乱射する。劉曹は虚空を蹴ってかわし、古城は手を振りかざして光の剣を消滅させる。

 

「待ってろ夏音、すぐに助ける――空音」

 

(ええ、わたしの力はあんなまがい物とは違うところを見せてあげる。)

 

再び黄金の輝きを纏う劉曹。しかし、始めのものとはなにかが違っていた。輝くだけでなく全てを浄化するような暖かさがあった。

 

「いくぞ、神霊武装・神」 

 

(うん!)

 

劉曹は虚空を蹴り夏音の背後に回る。

 

"仮面憑き"の状態だったときと違い、人の身体をも貫く鉤爪が無く、接近戦ができない模造天使(夏音)は劉曹から距離をとろうとする。しかし、霊的進化だけさせた霊媒の強い夏音ではスピードで劉曹に勝てるはずも無く、肩翼両断される。

 

「古城!」

 

劉曹は地上にいる古城に向けて叫びその場から離脱する。コクリと頷いた古城は左腕を天に突き出し、

 

「"焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)"の血脈を継ぎし者、暁古城が、汝の(かせ)を解き放つ――」

 

突き出した腕からは鮮血が迸り、徐々にその血が魔力の波動へと変わっていき実体を持つ形へと変化していった。

 

「――疾く在れ(きやがれ)、三番目の眷獣"龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)"!」

 

出現したのは龍だった。緩やかに流動してうねる蛇身、鉤爪を持つ四肢、そして禍々しい巨大な翼。水銀の鱗に覆われた蛟龍だった。それも、二体――

 

「叶瀬、今そこから引きずりおろしてやる」

 

古城が呟くのと同時に双頭龍は模造天使へと襲い掛かる。

 

「Kriiiiiiiiiiiiiiii――!」

 

残った肩翼から、古城の眷獣に向けて、模造天使(エンジェル・フォウ)が光剣を放つ。

 

だが、龍たちは、それぞれ巨大な(あぎと)を開き、その奥の底知れぬ深淵へと光の剣を?みこみ、一片の欠片も残さずに消滅させる。

 

「やれ、"龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)"!」

 

二体の龍たちは残った模造天使(エンジェル・フォウ)の肩翼を喰いちぎる。

 

翼力を失った夏音は垂直に落下する。

 

「劉曹、頼んだ!」

 

交代といわんばかりに大声で叫ぶ古城。劉曹は一直線に落ちる夏音の元へと翔ける。彼女に触れようとしたまさにその瞬間、

 

「なっ――!?」

 

夏音は凄まじい閃光を放ち、劉曹を弾いた。体勢を立て直し向き直ると、夏音の千切れた翼の断面から神気の炎が噴き上げていたのだ。

 

「危ねェ、この力が無かったら、一瞬で死んでたな」

 

(本当よ、気をつけてよね。そうそう幽世から連れ出すことは出来ないんだから)

 

呆れたように呟く神に悪いと一言謝る劉曹。

 

ふわりと浮き上がり劉曹たちを見下ろす夏音を見て、劉曹は冷静に分析する。

 

「夏音の霊的中枢を引きずり出すしかないか。それも賢生の施した魔術を無効にして」

 

できるか? と、うちにいる神に問いかける。

 

(馬鹿にしてるの? 所詮は人の子がやったこと。わたしがどうにか出来ないはずが無い)

 

自信満々に答える神に劉曹は軽い笑みをこぼし再び模造天使へと向かう。

 

もはや暴走気味に、無数の光剣を無差別に放っている。劉曹はお構い無しに夏音へと突っ込み、

 

「ごめんな」

 

それだけを言って、光を纏っている腕で掌打を夏音の腹部へと叩き込んだ。

 

身体の空気をすべて吐き出すように夏音の身体はくの字に折れ、淡い光に包まれる。それと同時に夏音から三対六枚の翼が離れた。制御の術を失った霊的中枢が暴走する。

 

落下する夏音を今度こそ受け止め、古城へと目配せする。

 

「古城、終わらせろ」

 

「ああ――喰い尽せ、"龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)"!」

 

飛来した巨大な二つの(あぎと)が、全てを呑みこんだ。金色の輝きが消滅し、あふれ出していた神気が消失する。

 

「終わったな……」

 

夏音を抱えたまま劉曹は賢生の前に着地し、座り込んでいる彼を見下ろした。

 

「ああ、そのようだ」

 

賢生は喪失感に満ちた目で劉曹を見上げる。

 

「あんたがしたことは許されることじゃない。自分の価値観を押し付けて、何人もの命を危機に晒した。そして、何よりも夏音がしたくないことをあんたはさせたんだ」

 

劉曹は少し怒気のこもった声で言った。賢生は黙ったまま夏音を見る。

 

「なぜ、こんなことをした?」

 

「娘を大事に想い、幸福を願わない親がいるかね?」

 

「本当にそうだったのか……?」

 

「なに……」

 

すぐさま否定された賢生は少し怒りが混じった目で劉曹を睨む。劉曹は落ち着いた様子で、

 

「いや……親として曲がりなりにも(夏音)のことを大事に想い、幸福を願っていたのは間違いないだろう。だが、それは建前だったんじゃないのか? 本当は――あの御方を滅ぼすためだろ」

 

劉曹が言った言葉に賢生は息を呑む。その反応を見た劉曹はやっぱりな、と軽いため息をついた。

 

知りたいことを知れた劉曹は賢生に背を向け、古城たちの元へと歩き始める。

 

「きみはどうするんだ"白炎の神魔"」

 

問いかけられた劉曹は立ち止まる。しばらく黙り続けたが、やがて賢生のほうを向き、

 

「なるようになるだろ。それに、俺はもう立ち止まってはいけないんだ。それに――」

 

劉曹は古城たちに視線を向ける。古城たちはようやく来た救助船に手を振っている。

 

「いざとなれば()ってくれるやつがたくさんいるさ」

 

それだけを言って今度こそ劉曹はその場を去っていった。

 

 





いかがでしたでしょうか?

久しぶりの更新なんでおかしなところとかがあったら教えてください

「ラブライブ」の二次も書き始めたので興味のある人はぜひ見てください。

では、また次に(・ω・)ノシ

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