ストライク・ザ・ブラッド~白き焔~   作:燕尾

20 / 38

こんにちわ。燕尾です

第(十九話+一話)目です。

次回更新早くできるといいなぁ……


第二十話

 

 

「(やっぱり、長くは保たなかったか……それに失血が多すぎる。動けない……どうしよ)」

 

"仮面憑き"との膠着(こうちゃく)状態から力尽きたように落下していく劉曹。いつの間にかまとっていた白い光も消えていた。

 

「いきなりどうしたんだ!?」

 

その光景を見ていた古城は戸惑い始めた。よく理解はできないがこの高さから地上にたたきつけられれば人間である劉曹が死ぬのは明確だ。だが、劉曹は身動き一つとることなく――正確にはとることができず自然の摂理(せつり)に身を任せていた。

劉曹のような空中移動の手段を持たない二人には彼を助けることはできない、そう絶望した瞬間、

 

執行せよ(イクスキュート)"薔薇の指先(ロドダクテュロス)"」

 

無機質な声が古城たちの背後で響く。少女から生えるように現れた腕が劉曹に向かって伸び、受け止める。

 

「ありがとう……アスタルテ」

 

劉曹は自分を助けてくれた少女の名を呼び、礼を言う。

引き寄せられた身体はゆっくりと床に置かれる。

 

「楠先輩!」

 

「おい、大丈夫か!?」

 

古城と雪菜は慌てて、そばに駆け寄る。

横たわる劉曹の身体は以前の傷に加え、胸元を大きく抉られている。生きているのがおかしいほどにダメージを負っている。

 

「先輩、今すぐ救急車を呼んでください。 アスタルテさんは楠先輩の止血をお願いします!」

 

指示を出す雪菜の声に古城はスマホで電話をし始め、アスタルテはどこからか取り出したのか医療道具を取り出し、劉曹に応急処置を施そうとする。

しかし、劉曹はアスタルテの手を払いのけ、身体を起こす。

 

「楠先輩、無理したら駄目です!」

 

「いい……それより、"仮面憑き"…は……?」

 

「そういえば見当たらないな。どこにいったんだ?」

 

古城は周りを見わたすが、空に"仮面憑き"の姿はなかった。それに加え、先ほどまで戦闘が行われていたのが嘘のように静かだ。

 

「先輩、あそこです!」

 

雪菜が指差した先には劉曹に落とされた"仮面憑き"がいた。そこにもう一体の"仮面憑き"が馬乗りになり、鍵爪の生えた腕で、負傷した同類の身体を抉った。

 

「なっ……!?」

 

「えっ!?」

 

劉曹と戦っている姿しか見ていなかった二人は予想外の出来事のように驚いている。

激しく抵抗した"仮面憑き"の攻撃がもう一体の"仮面憑き"の仮面を砕く。

 

「……馬鹿な! あいつ……あの顔!?」

 

「嘘……」

 

仮面の下の素顔を目にした瞬間、古城と雪菜は言葉を失った。

 

「叶瀬……」

 

古城は先日まで捨てられた子猫の里親探しを一緒にやっていた、動物好きの女子中学生の名前を呟いた。

古城と雪菜を気にすることなく、夏音は同類の喉元に鋭い牙を突き立てた。

喉を裂かれた"仮面憑き"が、傷ついた身体を痙攣(けいれん)させる。

淡い碧眼から涙を流しながら、夏音は噛みちぎった肉片を咀嚼(そしゃく)し、目的を果たしたようにその場から離れて飛翔する。

古城たちは為すすべもなくそれを呆然と見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「洗いざらい吐いてもらおうか、楠」

 

ベッドに横たわる劉曹を威圧的に見下ろして、那月は言った。その後ろにはアスタルテもいる。

昨夜の"仮面憑き"との戦闘のあと、古城が呼んだ救急車によって劉曹は緊急搬送で病院送りとなっていた。劉曹自身は自宅に運んでもらえればよかったのだが、古城と雪菜、そしてアスタルテさえもそれを許さなかったのだ。

 

「わかりました……」

 

劉曹は動くようになった片腕で傷が塞がっている脇腹をさすりながら溜息をついた。

 

「最初に那月ちゃんに呼ばれたあの夜、重傷の少女を治したあとに彼女の記憶を覗かせてもらった」

 

「ああ、わたしが出たあと(みだ)らな行為に(ふけ)っていたのは知っている」

 

面白がるように言う那月にどうしてそうなる、と劉曹は那月を睨み、続ける。

 

「見えたのは彼女に改造を施したやつとそれに加担した会社。それとそいつらの会話の内容だ」

 

「まわりくどい説明はいらん。結局、やつらは小娘どもを使ってなにをしようとしていた?」

 

「そいつらは彼女を霊的進化させようとしていた――つまり、天使を造ろうとしていたんだよ」

 

「なんだと?」

 

表情には表れていないが、言葉の節から察するに珍しく那月が驚いていた。それほどまでに劉曹の言葉が信じられないことなのだ。

 

「仮説はあるけど、まだどういう理論なのかははっきりわからん。でも間違いない。」

 

そういう劉曹に、いいから全部言え、と言わんばかりに睨む那月。劉曹はもう一度溜息をついた。

 

「最初に見た少女と昨日のことから、彼女らは自分の同類と戦い、霊的中枢の奪い合いをしていた。敗者は勝者にソレを喰われる。ということは、だ。魔術的改造を施されたのは彼女らの霊的中枢。そしてその人体の限界まで強化された霊的中枢を取り入れることで――」

 

「人間の肉体の霊的容量(キャパシティ)を超えることなく、霊的進化――つまり天使になる」

 

そういうことだな、と確認してくる那月に、劉曹は頷く。

 

「那月ちゃんの鎖や姫柊の"雪霞狼"、古城の眷獣が効かないのは神に近しい存在……天使だったから――神や天使を傷つけることは普通の人間や魔族にはできない、そういうことだ」

 

「となると、おまえはどうやってあの天使を……ああ、なるほどな」

 

勝手に納得する那月。劉曹の事情を知っているからこそである。

 

「まあ、俺は新世界の神だからな」

 

劉曹はニヤリと不適に笑い、片腕を前に突き出して言う。そんな劉曹に対して那月は、

 

「アスタルテ、楠の頭を治してやれ。ついでに、わたしの言うことを絶対に聞くように脳を改造しろ」

 

それだけを言い残して、空間転移でどこかに行ってしまった。

 

命令受諾(アクセプト)

 

「待てェい! 前半もそうだけど明らかに後半おかしいだろ! アスタルテも受諾するな! お願いします、無言で両手を挙げてこっちにこないでください!!」

 

唯一動かせる片腕を伸ばしてアスタルテに懇願(こんがん)する劉曹。アスタルテは冗談です、と少しだけ笑って、いつもの無表情に戻った。しかし、その顔には今まで見たことのない真剣な顔が混じっていた。

 

「この件はマスターに任せてしっかり休んでください。劉曹の身体は本来人間ではあいえないほどの疲労を蓄えています。これ以上無理すると高確率で死亡する可能性が――」

 

「ストップだ、アスタルテ」

 

伸ばした手でアスタルテの口を塞ぐ。むぎゅ、と可愛らしい声を出したアスタルテは不満そうに劉曹を見る。

最近、アスタルテが色々な表情をするなー、と嬉しく思いながらも劉曹は口を開く。

 

「それについては、力が戻れば回復で全快できる。脇腹の傷も手術で一応塞がったし」

 

「否定、そういう問題では――」

 

「夏音を必ず助けると俺が言ったんだ。それに、この件には心底腹が立っているんだ。徹底的に潰してやらないと気がすまない」

 

有無を言わさない圧倒的な威圧感を放つ劉曹にアスタルテは息を呑む。だが、次の瞬間には優しい笑みを浮べて、

 

「大丈夫だ。普段やる気のない俺がここまで言ってんだ。だから安心しろ」

 

アスタルテはしばらく無言だったがようやく頷いた。

 

「まあ、体が動くまでしっかり休ませてもらうさ。アスタルテ、そこに置いてる携帯をとってくれ」

 

命令受諾(アクセプト)

 

アスタルテは棚においてある携帯をとって劉曹に渡す。劉曹は動くようになった手で携帯を操作して、

 

「あ、俺だけど――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと……大丈夫か、姫柊」

 

岸壁に呆然と立ち尽くす雪菜に近づいて、古城はおそるおそる呼びかけた。

 

「すみません、先輩。わたしの失策です」

 

「別に姫柊が謝ることじゃないだろ、騙されたのは俺も同じだし」

 

「いえ、油断していました。メイガスクラフト社が"仮面憑き"の事件に関わっている可能性は、当然予想できたのに」

 

「まあ、油断っつーか……あんだけ飛行機にビビッてたらなあ」

 

「そんなことありませんから! 油断しただけですから!」

 

声を上げて虚勢を張る雪菜に、まあなんでもいいけど、と古城は苦笑いしながらパーカーのフードで強い陽射しを遮る。

 

「結局、あのメイガスクラフト社のベアトリスって女も叶瀬の親父とグルだったってわけか……クソ。携帯もつながらないし、那月ちゃんや劉曹に黙って会いに行ったのが完全に裏目に出ちまったな」

 

「そうですね。やられました。まさかこんな方法で"第四真祖"を絃神島から排除するなんて」

 

昨夜、"仮面憑き"と化していた叶瀬夏音を目撃してから一夜明けた今日。古城と雪菜は夏音に会うため、彼女が住んでいるメイガスクラフト社に行った。

しかし、夏音はいなかった。そこで、夏音の保護者的立場である叶瀬賢生と接触しようとした。

だが叶瀬賢生もおらず、現れたのが登録魔族であり、彼の秘書と名乗ったベアトリス・バスラーという女性だった。

賢生は島外にあるメイガスクラフト社所有の研究施設に行っており、夏音もそこに行っていると彼女はそう言ったのだ。

古城と雪菜は連絡用の軽飛行機に乗り、これまた登録魔族であるロウ・キリシマ操縦のもと、研究施設がある島へと送ってもらったのだが、

 

 

「悪いな、バカップル。ま、恨むならベアトリスのやつを恨んでくれ」

 

「ちょ……待てコラ、オッサン!」

 

「誰がオッサンだ、クソガキ! 俺はまだ二十八――――!」

 

 

そんな叫び声とともに飛行機は去っていき、古城と雪菜は無人島に残されてしまったのだ。

 

「脱出する方法は後で考えるとして、とにかく水と食べ物。それと雨風をしのげる場所も見つけないといけませんね。できれば日が暮れる前に」

 

ギターケースから取り出した銀色の槍で、邪魔な木の枝を切り払って森の中を進んでいく雪菜。

 

「……なんか無人島に流れ着いた漂流者の気分だな」

 

緊張の欠片もない声で言う古城に、雪菜は溜息混じりに見返して、

 

「気分じゃなくて、本当に無人島にいるんですけど」

 

「そ、そうか……このまま救助がこなかったら、最悪、ここで二人きりで暮らさなきゃいけないのか。それはシャレになんねーな……」

 

「最悪、ですか……わたしと二人きりだとシャレにならない……そうですか」

 

そういいながら雪菜は目の前にある木の幹を片手でへし折る。

 

「え? 姫柊……さん? なんか怒ってるのか……?」

 

「いいえ。全然、怒ってませんから。道に迷わないように目印をつけているだけです」

 

そういいながら次々と木をへし折り、森の中を進んでいく雪菜。

古城はあまり納得できない気分で、どんどん進む雪菜のあとを追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――わかった、ありがとな。それじゃ」

 

耳から携帯を放して、ピッ、と電話を切った劉曹は曇り一つない空を見上げて大きく溜息をついた。

 

「どうしたの?」

 

突然聞こえた声にも振り向くことなく、携帯を操作しながら答える。

 

「いやちょっとな……とあるアホ共二人が居なくなったせいで問題がさらに面倒臭くなったというかなんというか。でもまあ、とりあえず場所とかはわかるからなんとかなる――」

 

そこまで言って劉曹の手が止まる。

 

「へー、そう君はまた危険なことに手を出してるんだ……」

 

非難するような声にギギギ、と錆付いたロボットのように首を動かす劉曹。

そう君と呼ぶのはこの世に一人しかいない。

 

「な、凪沙ちゃん……?」

 

窓から吹き込む風でポニーテールを揺らしながら仁王立ちして劉曹を睨んでいたのは古城の妹だった。

どうしてここに、と引きつった顔をする劉曹をむすっとしたような顔で、

 

「そう君が事件に巻き込まれて大怪我して入院したって聞いたからお見舞いにきただけなんだけど……悪かった?」

 

「いや、悪いことはないんですけど……凪沙ちゃん、なんかすごい怒ってる……よな?」

 

「別に。少し前にテロ事件にあって死にかけたはずなのにまたなんかの事件に首突っ込んで大怪我してわたしや浅葱ちゃんを心配させて性懲(しょうこ)りもなく病院から抜け出そうと画策していることに対して怒ってなんかないよ。うん、まったく、これっぽっちも怒ってないよ」

 

「……なんで覚えてんの?」

 

劉曹は青ざめる。

以前凪沙が黒死皇派に捕われたときの記憶は書き換えて置いた筈だ。しかし、彼女は本当の情報を知っていた。

 

「あ、そうだ美森ちゃんに連絡取らないと。そう君が動けないから女の子の格好させるチャンスだって。MARに連れて行けるって」

 

「ちょっ、待ってください! お願いします!」

 

笑顔で携帯を高速で操作する凪沙に劉曹は土下座するような勢いで懇願(こんがん)する。ここで彼女の母親が居るところに連行されたら、抵抗できない劉曹は着せ替え人形にされること間違い無しだ。それはなんとしてでも阻止せねばならない。

 

「話して」

 

どうやって逃れるか考えていた劉曹は虚をつかれた。

 

「はっ……?」

 

「こんなに大きな怪我をしている原因。凪沙の知らないところでそう君がなにしているのか。私が納得するように話して」

 

操作の手を止めてまっすぐ劉曹を見つめる凪沙。

大きな瞳はいつまで経っても一瞬たりと劉曹から逸らされることはない。話さない限りてこでも動かないという意思が凪沙にあった。

 

「――わかった」

 

諦めて劉曹は息を吐く。ここまで詰め寄られたら話さないと彼女は引かない。劉曹は大きく溜息をついた。

俺が呪術とかを使えるのは知っているよな? と、劉曹が訊くと凪沙はコクリと頷く。

 

「俺が使う呪術は少し特別なんだ。それでたまに攻魔官の仕事に駆り出されて……いや、それを売りにして依頼を受けている」

 

「どういうこと?」

 

「そのまんまだよ、俺は呪術の力をその方面にアピールして売り込む。そのときに力を貸してほしいという依頼者の仕事をこなす。それで報酬をもらって生計を立てているってことだ。要するに何でも屋だ」

 

「資格もないのにそんなことしていいの?」

 

そう訊いてくる凪沙に劉曹は感心する。

見た目と普段の印象からそう思われないことが多いが、凪沙は頭の回転が速い。兄である古城も勉学面では優秀ではないが、発想力や機転に関してはずば抜けて秀でている。

 

「何でも屋だからな」

 

「こう言っちゃあれだけど、そんなことわたしに言っちゃってよかったの?」

 

凪沙は真剣に返しながらも不安そうな顔をしていた。

 

「納得してもらうにはしょうがないからな、でもこのことは内密に……そういうことで、要は仕事で少ししくじってその結果がこれだ」

 

だから心配するな、と言う劉曹だったが、凪沙の顔は晴れなかった。

 

「それでも……わたしは心配なんだよ。そう君、わたしや古城君に黙ってどっかに行ってしまいそうで」

 

「凪沙ちゃん」

 

「なにそうく――ふにゃ!? ひゃひふるの(なにするの)!?」

 

手招きして、近寄ってきた凪沙のほっぺたを劉曹は片手で軽く引っ張った。マシュマロのような白く柔らかい凪沙の頬を劉曹はくりくりとこね回す。

 

「おー、柔らかーい。ほーら、笑って笑って」

 

ほへはい(おねがい)やめへ(やめて)!」

 

適当に弄り倒したあと、劉曹は手を離した。

 

「もう、なにするの!?」

 

凪沙は頬をさすりながら、涙目で劉曹に抗議する。劉曹は軽い感じで笑って、

 

「元気出たか?」

 

一言だけそう訊く劉曹に凪沙はいじけたような顔でうー、と唸り、劉曹を睨んだ。

劉曹はさっきとは違う優しい笑みを浮べて、凪沙の頭に手を置いた。

 

「安心しろ。凪沙ちゃんや古城たちを置いていなくなることは絶対ない。これでもしぶとい方なんだよ」

 

頭をなでられている凪沙は恥ずかしさからなのか、少し顔を赤らめて、

 

「ん……、約束だよ。もし、破ったら女の子の格好で一週間すごしてもらうから」

 

劉曹にとってシャレにならない言葉を残して病室を出る凪沙に、劉曹はわかった、と声を震わしながら言うのだった。

 

 





いかがでしたでしょーか

次回更新早くできるといいなぁ(二回目)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。