ストライク・ザ・ブラッド~白き焔~   作:燕尾

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集中講義も終わりようやく春休み!

……と思ったらバイト三昧になりそう(泣)
私に長期休みなんてないみたいです……


天使炎上編
第十七話


 

 

時刻深夜0時ちょうど、劉曹の元に一本の電話が入る。ディスプレイを見て表示されている名前を見た劉曹は顔をしかめたが無視した方が余計に面倒臭くなるので通話ボタンを押した。

 

『楠、起きているな』

 

声の主は攻魔官兼彩海学園英語教師で"空隙の魔女"の異名を持っている南宮那月だ。

那月が劉曹に連絡するのは教師としてか攻魔官としてかの二つ。

電話口から聞こえる周りの騒がしい声や電話してくる時間帯からして今は攻魔官として動いているのだろう。

 

「那月ちゃん、またなんか依頼でもあるのか? 俺、そろそろ寝ようと思ってたんだけど」

 

『私をちゃん付けで呼ぶな! 今すぐ西地区(ウエスト)の市街地まで来い。今お前が言ったとおり依頼だ』

 

那月の言葉に劉曹は、はっ? と聞き返す。しかし、那月は詳しいことは来てから説明するとだけ言って一方的に電話を切った。

劉曹は都合上、南地区(サウス)東地区(イースト)に住家を持っている。そして今いるのは東地区の住宅。つまり正反対のところに呼ばれたのだ。

 

「俺の家から凄く遠いんだけどな……面倒くさ」

 

誰もいない部屋で一人呟く劉曹だったがここで行かなければ、後で那月にどんなことをされるかわからないので、動きやすい格好に着替えて家を出たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

指定された場所付近に着いた劉曹は周りを見渡して小さく呟いた。

 

「これはまた……派手にやらかしたもんだ」

 

半壊したビルが五棟に延焼したビルが八棟ほどでいまも消火活動をしている。この有様だと停電や断水そのほかの被害も考えられた。

特区警備隊の人たちが慌ただしく動いている中、その中心で指示を出している小柄のゴスロリ服を着た女性が劉曹に気づく。

 

「来たか、楠」

 

「ああ、随分と急がしそうだな、那月ちゃん?」

 

「だから私をちゃん付けで呼ぶなといっているだろう!」

 

那月が額目掛けて振り下ろすも劉曹はひょいとかわす。なんでもない風にする劉曹を那月は恨めしそうに睨んだ。

 

「それで? なんの依頼?」

 

改めて劉曹が訊ねると那月はため息をついて呼び出したわけを言う。

 

「少しおまえに診てもらいたい小娘がいる」

 

小娘? と問いかける劉曹に那月はコクリと頷く。そして、那月に少女を乗せた救急車まで案内された。

おそらく中に(くだん)の子がいるのだろう。

 

「南宮教官、お疲れ様です」

 

特区警備隊の一人が那月に敬礼している。小学生と間違いそうになるほどの容姿をしているが、彼女のオーラは本物なのだ。

ただのちびっこ教師ではないんだよな――そんなことを劉曹が考えていることなど知らず那月は隊員にご苦労、とだけ言って救急車の中に劉曹を入れようとする。

 

「きょ、教官!? 困ります、こんな一般学生を入れるのは!」

 

しかし隊員が慌てて那月を止めにはいった。当たり前だ。逆の立場ならば劉曹だって同じことをするだろう。相手からしてみれば劉曹は一般人となんら変わりないのだ。

 

「心配ない。癪だがこいつは指折りの実力者だ。私が保証する」

 

だが、那月にそういわれて引き下がらない隊員はいない。そのまま扉を開けてお気をつけて、と紳士的に対応される。

中に通された劉曹は見て早々言葉を失った。

 

「これは……」

 

簡易ベッドに横たわる少女の姿。身には服など何も纏っておらず、秘所と怪我をしている部分だけ包帯が巻かれている。しかも、傷が深いのか巻いている包帯は血だらけだ。

後ろから那月の厳しい声が聞こえる。

 

「最近、未登録魔族が暴れまわっているというのは知っているな」

 

「何度かニュースでやっていたな。この()はその原因の片割れ、ということだな」

 

そういうことだ、と頷く那月。

 

「………」

 

劉曹は腹部の傷周辺に手を当て触診する。何かに貫かれたような、それとも、食い破られたような穴。

一目見た劉曹は苦虫噛み潰したような表情をする。

 

「傷の位置からすると横隔膜(おうかくまく)腎臓(じんぞう)の周辺。腹腔神経叢(マニプーラ・チャクラ)のところだ」

 

「喰われたのか……」

 

要点だけまとめて劉曹が言うと、那月が吐き捨てるように呟いた。

 

「詳しく言うと奪われたのは内臓じゃなく、霊的中枢……霊体そのものだ」

 

劉曹も苦々しい顔している。そして劉曹が終始そんな顔をする理由は他にもまだあった。

 

「この件は未登録魔族が暴れまわったと報道さているみたいだがこの()は魔族じゃない」

 

「魔族じゃないだと……?」

 

那月がめずらしく驚きを表に出す。それも当たり前のことだろう。西地区の市街地の被害を考えると魔族以外にこんな被害を出せるのはゼロといっていいほどだ。

この女の子を喰った相手が魔族や魔獣ということもあるが、劉曹はその可能性はないと断言する。

 

「ああ、今回のこの事件を考えると誰かが何らかの実験として普通の人間だったこの()を魔術的肉体改造をしたといっていいだろう。おそらく他にも数人、この()のような人がいるだろうな」

 

「ただの人間が魔族特区の上空を飛びまわり、ビルを薙ぎ倒し炎上させたというのか。笑えるな」

 

「笑えねェよ、こんなこと」

 

劉曹は静かに憤怒の感情を抱いていた。握り締めた拳から血が滴れる。

 

「那月ちゃん、この()の治療、俺がしても?」

 

那月の方を向くこともなく問う劉曹に那月は好きにしろ、と言って外に出て行った。

残った劉曹は重体の少女に治癒をかける。彼女の身体が輝き、傷を負っている部分の血が次第に止り、塞がっていった。

 

「ぐっ……」

 

治療を終えた後、代償として彼女のダメージが劉曹にフィードバックし彼女が傷を負っていたところと同じ場所に劉曹が傷を負い、血が滝のように流れた。

 

回復(リカバリー)――」

 

力を集中させて傷を治そうとする劉曹。しかし、そこで違和感を感じた。

いつもより治りが悪い――というより、ほぼ回復していないのだ。

 

「どういうことだ……!?」

 

初めての事態にさすがの劉曹もと(まど)う。何度か回復をかけるが効果が出たとしても雀の涙程度だった。

 

「くそっ、しょうがない。ちょっと拝借するか……」

 

救急車に備え付けられていたガーゼや包帯などを手に取り、体に巻きつける。しかし、定期的に取り替えなければすぐに血が滲み出てしまうほどひどいものだった。

だが、自分の身体よりも今はやらなければならない事があるのだ。劉曹は眠っている少女に目を移す。

 

「あまりやりたくはないがしょうがない。ごめんな」

 

劉曹は名を知らない少女に謝り、彼女の頭に手を置き、静かに目を閉じた。

直後、車の中が光に包まれて車外にも漏れたはずなのだが、那月を含め誰一人気づくことは無かったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と遅かったな……何だその傷は!?」

 

車から出てきた劉曹の状態に那月はギョッとする。

巻かれている包帯からは血が滲み出て、劉曹が着ている服にも血が広がっている状態だ。

 

「なぜか、"回復(リカバリー)"が効かなかった。それで、用件は?」

 

「あ、ああ。おまえにはこの件について調査をしてもらいたいと思っている。私のほうでも調べはするがな」

 

「わかった……その依頼受ける……それと報酬なんだが……」

 

「ギャラはいつもどおり振り込んでおくから安心しろ」

 

すると劉曹はいや、と首を横に振る。

 

「報酬は無しでいい」

 

そういう劉曹に那月の眉がピクリと動き怪訝そうな顔をする。

劉曹の生計は主に依頼の報酬で成り立っている。それを自ら断るということは普通ならばありえないのだ。

 

「どういう風の吹き回しだ?」

 

「今回、俺は自由にやろうと思っている。ようするに那月ちゃんの指示も受けない――こういう類は一番嫌いだ」

 

劉曹は今まで見せたことのない鋭い目をして那月を見据える。普段の劉曹からは想像もつかないほどの強い言葉と確固たる意思。

 

「そうか……なら好きにしろ」

 

それを感じ取った那月はフッ、と優しく笑って、そう返した。劉曹も申し訳ないと思いつつ頷く。

 

「悪いな。手伝ってほしいことがあれば言ってくれ。ちゃんと情報も渡すから」

 

そして協力と情報提示の約束をする劉曹に対して那月は、当たり前だ、と言って空間転移でどこかに去っていった。

 

「必ず潰す……潰してやる……」

 

残った劉曹の呟きは、周りの喧騒に溶けて消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平日である限り、学生は学園に行かなければならない。劉曹は痛む傷を我慢しながら家を出て、駅に向かう。

 

「今日も暑いな……」

 

モノレールの駅は劉曹の家から徒歩でも十分もかからない距離であり、比較的に楽な通学である。なのだが、腹部の一番深い傷が劉曹の足を遅くする。

朝起きたときに"回復"を何度かかけるも治る気配が一向にないので、消毒液に浸したガーゼを何重にも重ねて包帯を巻いてきたのだが、気休めにもならなかった。

 

「(普通じゃないのは当たり前だが、原因はなんだ?)」

 

駅に着き、モノレールを待っていた劉曹は思考の海に意識を沈める。

 

「劉曹」

 

「(傷が治らない――傷を負わせたやつの力だろう。ならそれはなんだ?)」

 

後ろから声をかけられているが、劉曹は気づかない。傍からしてみれば無視しているように見えるが劉曹にはそんな気はないのだ。

 

「おい、劉曹」

 

「(昨日の記憶からだと、やっぱ――)」

 

強めに声をかけられるもやはり劉曹は気づくことはない。

 

「劉曹!!」

 

「うおう!?」

 

肩をつかまれ飛び退く劉曹。

振り向くとそこには灰色のパーカーを着てフードをかぶった男子高校生と黒いギターケースを背負った女子中学生。事情を知らない人が見ればカップルに見えるが実際そんな関係ではない。

 

「おはよう……古城、姫柊」

 

最強の吸血鬼(第四真祖)監視役(剣巫)である古城と雪菜に挨拶をする。それぞれ、おはよう、おはようございます、と返すが、その直後二人はマジマジと劉曹の顔を見てくる。

そして先に口を開いたのは雪菜だった。

 

「楠先輩……すごく顔色が悪いですけど、大丈夫ですか?」

 

「ああ、顔が真っ青だぞ、おまえ」

 

「別になにもないぞ、気のせいじゃないのか? 俺は普通だぞ」

 

劉曹何とか隠そうと平然と装うが、この二人にはまったく通じなかった。

 

「いやいや、いまのお前が普通なわけないだろ。こんなクソ暑いのに上着なんて着てるし」

 

「なにか、あったんですね?」

 

二人は引き下がらず、雪菜においては勝手に結論付けている。

間違っては居ないのだが、この二人のことである。必ず関わってくるに違いない。

それだけは何としてでも避けたい劉曹は抵抗を試みる。

 

「だから――」

 

「――なら、上着を脱いでください楠先輩」

 

が、最後まで言うことも叶わず雪菜に迫られる。

上目遣いで見てくる雪菜の顔を直視できず劉曹は顔を背ける。

 

「何もないというのなら上着脱げますよね?」

 

そういわれた劉曹は自分の肩を抱いて、恥ずかしそうな表情を作る。

 

「……いやん、雪菜さんのエッチ」

 

「そういう意味ではではありません」

 

「それ棒読みで言っても意味無いし、そもそも逆だろ」

 

ポーズと顔の割に棒読みだった台詞(セリフ)に雪菜のジト目の睨みと古城の呆れたツッコミが炸裂する。

このまま誤魔化せるとは思えなかった劉曹は諦めたようにため息をつき、上着を脱いでワイシャツのボタンを外す。

 

「「なっ――!?」」

 

古城と雪菜は劉曹の身体に巻かれている包帯を見て絶句した。

傷から出ているであろう血は包帯から滲み出てワイシャツに付着していた。

 

「どうしたんですか!? そのきむぎゅっ――」

 

「声がでかい。もう少し音量を落とせ」

 

劉曹は雪菜の口を塞ぎ自分たちに注目している周りの人に一礼して雪菜の口から手を放した。

 

「劉曹、本当になにがあったんだ?」

 

古城は真面目な様子で劉曹を問いただす。劉曹は他の人に見られないようにボタンを閉め、上着を羽織り、

 

「ちょっといろいろなあったんだよ……まあ、古城と姫柊が気にすることじゃない」

 

暗に、関わるな、と言う劉曹。しかし当然、雪菜が退くわけがなかった。

 

「その傷を見て気にしないほうがおかしいです」

 

雪菜は語調を強め、劉曹を見上げる。劉曹はだから見せたくなかったんだよ、ともう一度ため息をついて、

 

「お前らが厄介ごとに首を突っ込むのはこういうところがあるからなんだろうな」

 

と小さく呟いた。

 

「とある事件の調査をしていた、怪我した人がいた、その怪我を治した、その代償。俺が言えるのはこれだけだ」

 

「おまえ、またあの治癒術を使ったのか!?」

 

古城は先日の紗矢華と屋上での一件を思い出したのだろう。劉曹はアスタルテと古城の目の前で紗矢華に治癒術をかけていた。そのとき劉曹は仕組みを教えなかったのだが、どうやら勘付かれたようだった。

叫ぶ古城に迂闊(うかつ)だったと後悔しつつ劉曹はああ、と端的に答える。すると雪菜は不思議そうに、

 

「なんで先輩はその傷を治さないんですか。前に言ってましたよね? 他人より自分を治すほうがあまり力を使わずに済むと。だったらもう治せるほどの力は――その傷を負ったときからあったのではないんですか?」

 

雪菜の言っていることは正しい――が、今回はそうではないのだ。

 

「姫柊の言う通り、余力は全然ある。ただ、治らないんだよ。これ」

 

「「は?」」

 

二人とも面食らったような顔をする。

 

「だから、いくら"回復"を使っても治らないんだよ」

 

「その理由は? わからないんですか?」

 

「わからないからこうして考えていたんだが?」

 

古城を見て言う劉曹。すると今度は古城がバツの悪そうな顔をして顔を逸らす。

 

「さっきも言ったけどお前らが気にすることはない」

 

「そうかもしれないですけど……」

 

さっきと同じことをもう一度言うが、納得しない雪菜。なおも食い下がってくる雪菜に対して劉曹は頭を掻く。

 

「なあ、知ってるか?」

 

そして突然の劉曹の問いかけに古城と雪菜は首をかしげるすると劉曹は飛びっきりの笑みを浮かべた。

 

「苦痛ってしばらくすると快楽に変わるらしい。俺は今どんな気分だと思う?」

 

まったく想定外すぎることを言われて雪菜と古城はドン引きしていた。

冗談だ、といいながらホームに入って来た学園行きのモノレールに乗り込む劉曹。

 

結局、なにも知ることができなかった二人は怪訝そうな顔をするだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「那月ちゃん、いるか」

 

放課後、劉曹は那月のいる学園の執務室に来ていた。

 

「……なぜお前たちは私をちゃん付けでしか呼ばないんだ」

 

高価なアンティークチェアに座る那月は心底不機嫌そうに呟いた。その隣にいるメイド服のアスタルテが劉曹に一礼する。

 

「こればかりは仕方ないけど那月ちゃんは童顔で身長が低すぎるからなあ。あとその服装がいけないと思うぞ」

 

「ほう……言うようになったな楠。そういえば、来週英語の課題を出す予定だったな。なんか無性に誰かの課題を百倍にしたくなってきた」

 

ニヤリと不適に笑う那月の前に劉曹は資料を置く。何の反応も示さなかった劉曹をつまらなさそうに見て、那月は資料に目を通す。そこには事件に関わっている人間、会社などこと細かく書かれていた。

 

「これは本当なのか? 昨日の今日でここまで詳しいものを作り上げるのは無理だと思うのだが」

 

那月は若干驚いた様子で資料から目を離し、劉曹に訊く。

 

「憶測で書いているところもあるが信憑(しんぴょう)性はあるはずだ」

 

もう一度資料に目を移し、あらかた読み終えた那月は劉曹に向き直る。彼女の表情は厳しいものになっていた。

 

「――核心部分が無いぞ」

 

「まだ材料が足りない。だけど、その会社と人物を重心において調べればいずれわかるだろう。俺も時間はかかるがまだ調べるつもり――」

 

すると突然、携帯の着信音が部屋に鳴り響いた。画面には非通知の表示。

嫌な予感しかしないが、劉曹は悪い、とひとことだけ那月に詫びを入れて電話に出る。

 

「もしもし」

 

『やあ、愛しの劉曹。元気に――』

 

受話器の向こうにいる相手が言い終わる前に劉曹は電話を切った。

那月も声が聞こえたのか、もの凄く嫌そうな顔をしており、アスタルテも無表情ながらどこか哀れむような顔をしている。

すると、沈黙していた部屋にもう一度着信音が鳴り響いた。

このまま黙っていたら、また何度でも着信音がなりそうなので劉曹は渋々電話に出る。

 

『ひどいじゃないか、劉曹。愛しの僕から電話をかけたというのにいきなり切るなんて――』

 

「黙れ、この駄吸血鬼。お前を愛した覚えは一度たりともない、なんの用だ、ヴァトラー」

 

開口一番くだらないことを言うのは、戦王領域アルデアル公国の君主にして"長老(ワイズマン)"を二人も喰らい、真祖に最も近いといわれている吸血鬼――ディミトリエ・ヴァトラーは陽気な声で話す。

 

『面白い情報を手に入れてね、君はいま、最近騒がれている事件について調べているのだろう』

 

「情報? おまえ、なにか知っているのか」

 

昨日調査し始めたばかりなのにどこでどうやって知ったのか、劉曹は疑問に思ったが、そこはいま重要ではない。

 

『"ランヴァルド"という名前に聞き覚えあるかい?』

 

「……アルディギアの装甲飛行船だな。聖環騎士団の旗艦でヴェルンド・システムが搭載されているやつか。それがどうした」

 

『まだ公式には発表されていないが、昨夜から消息を絶っているそうだよ。位置情報が途絶えたのは、絃神島の西、百六十キロの地点だそうだ』

 

なんだと? と劉曹は聞き返す。

アルディギアはアルデアル公国に隣接している決して小さくはない国だ。そんな国の飛行船が非公式で空を渡っていて、消息を絶った。そしてそのことをわざわざヴァトラーが知らせてくるということは、考えられることは一つしかない。

 

「お前はアルディギア王家がこの事件に関わっているといいたいのか」

 

劉曹とヴァトラーの電話のやり取りを聞いている那月も厳しい顔をしていた。

当然那月がいることなど知らないヴァトラーは陽気な声で答える。

 

『確たる証拠はなにもないけどね。だけど、タイミングがよすぎるとは思わないか? いずれにせよ、僕はしばらく傍観させてもらうから安心してくれ』

 

「俺がお前の言うことを信じるとでも思うのか?」

 

『このことについては僕も見返りがほしくてやっていることだからね』

 

「見返り?」

 

すると電話の向こう側の雰囲気が一瞬にして変わった。本物の殺意を放ち威圧するような声で、

 

『この件に、第四真祖を巻き込むな』

 

「俺は古城を巻き込むつもりははなからないが……どういういうことだ」

 

『古城では彼女に勝てないからさ。我が最愛の第四真祖には、まだ死なれては困るんだ』

 

それじゃそういうことでヨロシク、とだけいってヴァトラーは電話を切ってきた。

 

「……那月ちゃん、どう思う?」

 

「アルディギアがこの件に絡んでいるかどうかか?」

 

那月が問うと劉曹はこくりと頷く。

 

「今の状態ではなにも言えん……ただ、あの蛇使いと同じなのは(かん)(さわ)るが、確かにタイミングが良すぎるな」

 

「そうだよな……とにかく、情報が少ない今は結論を出せない。俺はもう少し情報を集める」

 

そうか、という那月を背にして、劉曹は執務室から出て行った。

 

 






お疲れ様です。
自分が同じことをしていたのでこんなこと言える立場じゃないんですけど
計画立てていて希望とか問いかけているのに反応がまったくないって言うのはなかなか腹が立ちますね。
私も反省しなくては……

というわけでいかがでしたでしょうか、第十七話。
楽しめたのならば幸いです。
また十八話で会いましょう。
ではでは~


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