ストライク・ザ・ブラッド~白き焔~   作:燕尾

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ちょっと早めに投稿します
今週早くもテストがあるので勉強せねば……


第十一話

「なんでおまえここにがいるんだよ」

 

古城が非難の目を向ける先には、ほっそりとした身体で背の高い少女がいた。

身に着けているのは、短いプリーツスカートにサマーベスト。ポニーテールに束ねた栗色の長い髪。咲き誇る桜のような、清楚にして艶やかな美貌。そして戦闘機の主翼を思わせる、流麗な長剣。

獅子王機関の舞威媛、煌坂紗矢華――

 

「黙りなさい、犯罪者! そして死ね!」

 

古城の非難を気にもせず紗矢華は叱責し、古城にむかって剣を振りまわす。

古城も当たるわけにはいかず、ほとんどカンだけを頼りにして必死によけている。

 

「なんで避けるのよ!」

 

「避けなきゃ死ぬだろうが!」

 

「おとなしく死ねって言ってるのよ、女の敵っ! 雪菜の血を吸ったくせにほかの女とイチャイチャと……。あなたがいなければ、雪菜が危険な目にあうこともないのよ。あの子にはロタリンギアの殲教師(せんきょうし)や、黒死皇派の残党と戦う必要なんてないのに!」

 

「うっ」

 

怒りとともに放たれた紗矢華の言葉が、古城のいちばん触れられたくなかった部分を正確にえぐる。

 

「あなたには妹さんや両親や学校の友人も大勢いる! それなのに私から雪菜を奪う気なの!? 私のたった一人の友達を――!」

 

紗矢華の叫びに集中力を奪われて、古城は攻撃に対する反応が一瞬遅れる。

殺意そのものが形になったような勢いで、紗矢華の剣が突き出される。古城は避けきれないことを直感して、迫り来る苦痛を覚悟した。

 

 

 

 

 

 

―――だが、いつまでたっても痛みがくることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「学校の屋上でなにをやっている。煌坂紗矢華」

 

濃密な殺気を紗矢華に向けて放ち、指二本で彼女の剣を止めている白髪紅眼の少年と虹色の手を出現させ古城の前に立っている少女。

 

「劉曹……? それにアスタルテも……」

 

「あなた、どうやって……」

 

劉曹は動揺している紗矢華の隙を突いて彼女の剣を止めていた手を離し、思いきり剣を蹴り上げる。

 

「……くっ」

 

剣を蹴り上げられてようやく我に返った紗矢華は劉曹から距離をとる。空高く上がった剣はやがて落ちて劉曹の手に収まる。

 

「"あなたがいなければ雪菜が危険な目にあうこともない"か……。まったく、呆れてものもいえないな」

 

そういいながら劉曹は剣を紗矢華に放る。異常なまでの殺気にあてられた紗矢華は剣を取ることができず冷や汗を流し、ただ立ち尽くしている。少しでも動けば()られる、そう思えて仕方がないのだ。

 

「とれ」

 

「えっ……?」

 

思ってもいなかった言葉に紗矢華は間の抜けた声で返す。だが劉曹は無感情に、

 

「とれっているんだ。おまえは姫柊のために古城を殺そうとしているんだろ? なら、俺は古城を守るためにおまえを殺す」

 

普通の人間には出すことのできないほどの殺気を出して、紗矢華を睨む。

劉曹の様子に古城はもちろん、普段表に感情を出さないアスタルテでさえ戸惑っている。

 

「おい、劉曹、落ち着けって。俺は大丈夫だから」

 

古城がどうにか劉曹を落ち着かせようとするが、劉曹の耳には届かず彼は紗矢華を罵倒する。

 

「政府機関の人間が私情に駆られて人を殺そうとすることがどういうことかわかってないみたいだな」

 

「そ、それは暁古城が第四真祖で、雪菜にいやらしいことをしたから――」

 

「第四真祖、それで殺すだなんて、おまえは神にでもなったつもりか? それに姫柊と古城のことも、それは本人たちが決めることであっておまえが決めることじゃない」

 

正論を言われて言葉に詰まる紗矢華。

 

殲教師(せんきょうし)との一件も今回の黒死皇派のことも姫柊が首を突っ込んでいっただけだ。俺から言わせてみればお前ら(獅子王機関)が古城にちょっかいを出さなかったら何事もなく姫柊ももう少しは平和に過ごせたはずだがな。まあ、あんなところに所属している時点でいつかどっかに駆り出されるのはわかりきっていたけど」

 

「そんなことはない! 暁古城が、第四真祖がいるから雪菜が……あの子が苦しむのよ!」

 

精一杯声を上げて劉曹に反論する紗矢華。

話の平行線をたどっても意味はない。お互いの主張を押し通すためにはもう言葉だけでは足りないのだ。

 

「もう話すだけ無駄だ。どちらが正しいか決めようじゃないか。おまえが勝てばおまえが正しい。古城も殺せるなら殺せばいい」

 

殺れるものならな、念を押すようにいって劉曹は構える。

紗矢華もようやく剣を拾って構える。だがその顔はまだ劉曹に対する恐怖と戸惑いが残っている。

先に仕掛けたのは劉曹だった。

 

「――っ!」

 

「はっ!」

 

一瞬で紗矢華との距離を縮め、右ストレートを放つ。

 

(速いっ――!それにこんなに重いなんて……!)

 

紗矢華はそれをぎりぎり剣で防いだが、予想以上の拳の重さに紗矢華の手が痺れる。

次々に繰り出される劉曹の拳の嵐に、紗矢華は防戦一方になっている。

 

(くっ……いったいどうすれば……)

 

「獅子王機関の舞威媛の力はこんなものか? もっと足掻いてみろ。そんなんじゃすぐ殺されるぞ」

 

紗矢華の焦りを見透かしたように劉曹は挑発し回し蹴りをする。紗矢華は呪力を剣に注ぎ込んで回し蹴りを弾き、劉曹から距離をとる。

 

「おい、やめろ。おまえが暴れまわってどうする!?」

 

古城は劉曹に向かって叫ぶ。だがやはり劉曹に届くことはない。

 

「くそっ、しょうがねえ。力を最小限に抑えて……」

 

古城は立ち上がり野球ボール程度の雷球をつくり劉曹と紗矢華の間に投げようとする。

しかしその瞬間、アスタルテの眷獣の片腕によって消されてしまった。

 

「アスタルテ、邪魔しないでくれ! このままじゃ煌坂が殺される」

 

「否定、あなたが力を使えば学園が倒壊する恐れがあります」

 

「うっ」

 

アスタルテの指摘に古城は言葉を詰まらせる。

第四真祖の力は最小限に抑えたとしても建物ごと吹き飛ばすほどの力があるのは間違いない。それを放てば一般生徒まで巻き込まれるのは当然のことである。

結局、古城は行く末を見ることしかできないのだ。

 

「だんだん様になってきたな、だがまだ全力を出せていない。本気を出せずに殺されました、なんてお笑いものだぞ」

 

「うるさい!」

 

ようやくある程度の冷静さを取り戻した紗矢華は劉曹に向かって怒鳴る。劉曹はそんな紗矢華の様子を見てニヤリと笑い、

 

「威勢は戻ってきたようだな。なら、これを防いでみろ――」

 

劉曹は紗矢華に向かって正拳突きを放つ。紗矢華との距離があるので直接正拳突きが当たることはない。しかし――

 

「――っ! 煌華麟(こうかりん)!」

 

あることに気づいた紗矢華は剣で空中を切り裂いた。するとなにかが紗矢華の眼前で見えない壁にぶつかったように遮られ、消滅する。

 

「まさか衝撃波を空間のつながりを切り裂いて防ぐとはな。獅子王機関のやつらもいろいろと考えたものだ」

 

それを見た劉曹は感心したように呟く。だが、紗矢華にはそんな余裕はなく、憎々しげに劉曹を睨む。

 

「いったいなにが起こったんだ?」

 

「説明、劉曹は衝撃波、いわゆるソニックブームというものを放ち、煌坂紗矢華は剣で一時的に空間を断絶し防ぎました」

 

戸惑っている古城にアスタルテが説明に入る。

古城の戸惑いはそれだけではなかった。

 

(劉曹の様子がおかしいな……)

 

さっきまでは劉曹は怒りで我を忘れていると思っていた古城。しかし、殺気はあれど怒っているようには見えなかった。

 

(もしかして、最初から怒っていなかった……?)

 

もう一度対峙している劉曹を見る。明らかに彼は殺気を飛ばしているのがわかった。しかし、本当にそれだけで殺そうとしているわけではなく、どこか紗矢華を試しているように見えた。

すると、今度は紗矢華が劉曹に仕掛ける。劉曹のところまで一気に詰め寄り、剣を振り回す。

劉曹は次々と紙一重で回避している。まるで紗矢華がどう振るうのかを読んでいるみたいに。

 

「どうした、当てられなければ意味がないぞ」

 

劉曹の言葉に紗矢華は焦る。そして焦りからは必ず隙が産み出されてしまう。

 

「はああああああ!」

 

上段から剣を大きく振りかぶる紗矢華。劉曹はその隙を見逃すほど甘くはなかった。

振り下ろされる前に自分から剣に向かい手を伸ばし、動きを止める。

 

「動きはなかなか。だがまだ無駄が多すぎる」

 

そして劉曹は紗矢華のお腹あたりに衝撃波を叩き込み吹き飛ばす。

吹き飛ばされた紗矢華はごろごろと地面を転がる。

 

「うっ……」

 

「そんな状態でも待ってはくれないぞ」

 

劉曹は追撃の準備をしていた。彼の片手のなかにはなにか圧縮されたものがあった。

それを放とうとした瞬間、劉曹の様子が一変した。

 

「――っ!? おい待てっ、そこまでする必要はない!!」

誰かと対話するように叫ぶ劉曹。そこには誰もいない。しかし、やめろ、と声をあげてもう片方の手で必死に制御しようとしている劉曹。

彼の手のなかにあるモノの力がどんどん強大になっていくのが古城にもわかった。ソレがヤバイということも――

 

 

 

 

 

 

 

 

「古城!? 劉曹もいったいなにやっているのよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで少女の声が響く。先ほど古城と一緒にいて飲み物を買いに行くるといっていった浅葱だった。

一番来てはいけないタイミングで来てしまった彼女に古城は叫ぶ。

 

「浅葱! 来るなっ!」

 

「あ、浅葱!? ――っ、しまっ――」

 

いきなり聞こえて浅葱の悲鳴に劉曹は動揺してしまった。それにより劉曹の両手にあった留まっていたものが暴発して屋上にいる全員に破壊的な超音波が襲う。

 

「くっ……がああ!」

 

「きゃああああああ――!」

 

「ああああああっ!」

 

眷獣のおかげでアスタルテと古城は超音波にやられることはなかった。だが無防備だった劉曹と紗矢華、浅葱がそれぞれ苦悶の表情を浮かべる。

そして、超音波がやんだとき紗矢華と浅葱はがっくりと倒れこむ。

 

「大丈夫か!?」

 

止んだ後、古城は浅葱のところへ駆け寄る。どうやら気を失っているみたいだった。

紗矢華のほうを見ると彼女もまた気を失っており、あの中で唯一意識を保っていたのは劉曹だけだった。

 

「おい、劉曹! なにやってんだよ!!」

 

古城は劉曹のもとに近づく。彼は片膝をつき荒々しく呼吸をしていた。

 

「わ、悪い……ちょっとやりすぎた……」

 

「ちょっとどころじゃねーよ! 明らかにやりすぎだ!! こんなのを姫柊にでも見られたら……」

 

「誰に見られたらですか……? 先輩」

 

「だから姫柊に……は?」

 

間抜けな声を出して後ろを向いて表情を凍らせる古城。そこには"雪霞狼"をもった雪菜がいた。

 

「先輩方はいったいこんなところで、なにをしているんですか?」

 

全てを凍らせるような声と目で劉曹と古城を睨む雪菜。どう言い繕っても彼女が納得する答えを古城は出せる気がしない。

 

「いや、それは……」

 

「古城……俺が、説明する」

 

言葉に詰まっている古城の肩を引き無理やり後ろに下げる劉曹。

 

「で、なにがあったんですか?」

 

「煌坂が古城を殺そうとしていたから俺が介入した」

 

劉曹は端的に説明した。だが、雪菜は厳しい表情を変えず、

 

「それで、なんでこんな状況になっているんですか?」

 

「状況を利用して煌坂の強さを試してたんだが、俺が力の制御を(あやま)った。結果この有様だ。悪いな……」

 

素直に謝る劉曹に雪菜は、はあ、と溜息をつく。

 

「事情はわかりました、詳しい話は後にしてとりあえず二人の治療をしないと……」

 

「それは俺がやる」

 

そういって劉曹は立ち上がり、まずは紗矢華のところへ行く。

 

「おい、劉曹。大丈夫か?」

 

ふらついている劉曹の足取りを見て心配そうに声をかける古城。

 

「問題ない――治癒(ヒーリング)

 

そういって劉曹は紗矢華を目の前にして屈み、手を地面に置く。すると劉曹と紗矢華の体が(あわ)く光りはじめた。

その光景を始めてみる古城と雪菜は驚いた表情をしている。しばらくたった後、二人から輝きが失われる。

 

「悪いがアスタルテと古城、煌坂を見てやってくれ、そいつを校舎に入れることはできないから。浅葱は保健室で治療する」

 

そういって浅葱を抱えて歩き出す劉曹。

しかし、紗矢華の治療を終えてからいっそう劉曹の足取りが悪くなっていた。

 

「わたしが藍羽先輩を保健室まで連れて行きます。それにもっと詳しいことを知っておく必要もありますし」

そんな劉曹の状態をみて、そう申し出たのは雪菜だった。劉曹は(こば)むことはせず、

 

「頼む」

 

と、一言だけ言って浅葱を任せ、一緒に保健室に向かうのだった。

 





いかがだったでしょうか
読んでくださっている皆さんに感謝です。
次回投稿は来週の日曜日になるかもしれません
ですが出来次第投稿するつもりです。

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