「止まれ!」
ヴェルザー領に来ていたジゼル達だがバランが突如声を出し三人を止めた。
「どうしたバラン?」
「この先からとてつもない威圧感を感じる。一度休んで万全の状態で行こう」
「それもそうだな」
バランが慎重な提案を出すことは珍しくないがこの先にいる敵は不完全だったとはいえオルゴ・デミーラを超える敵であり、万全の状態でなければ勝てない相手である。故にバランの提案にハドラーが頷き、ジゼル達がそれに従った。
「ベン、ちょっといい?」
「何でしょうか?」
「今まで貴方には申し訳ないことをしたわ。ごめんなさいね」
ジゼルが頭を下げるとベンが鼻で笑い飛ばした。
「はっ、何を今更……こちとら今まで散々ジゼル様に振り回されてきたんです。湿っぽい話は止めましょう」
「だけどね、貴方のような部下を持てて私は幸せよ。もし貴方がいなければ死んでいた場面もある」
「んな大袈裟なジゼル様」
「いや大袈裟でもない」
バランが口を挟み、語る。
「オムド・ロレスの時などはお前が止めを刺さなければジゼルや私は死んでいただろう」
「そうよ。貴方はこの中じゃ非力に感じるだろうけど存在そのものが支えになっているのよ。それにこの中で一番史学に富んでいるのはベン、貴方よ」
「バラン、ジゼル様……」
「ジゼル達の言うとおりだ。縁の下の力持ちとはお前のことを言う。俺は工学系故に見たことない魔物の弱点はキラーマシンといった魔物しか予想がつかん。しかし相手を一瞬で判断する能力は誰よりも優れている」
「ハドラー様、流石です! その調子で私のぱふぱふを受け取って下さい!」
「やめい」
ジゼルが飛びかかるがそれを押し退け、顎を撫でると猫のように丸くなるとハドラーが口を開く。
「それにベン、マックスがお前のことを俺達の戦いについていけると評価しているだけじゃない。フレイザード達と共に我が娘のことを守ってくれた。それだけでも感謝している。ありがとう」
ハドラーの礼の言葉にベンが涙を流し、しばらくその場から動けずにいた。
そしてしばらくしてその場所へ向かうとそこには魔王時代のハドラーのような格好をした魔族がそこにいた。
「よくぞ来た。オルゴ・デミーラを討伐した者達よ。我が名は竜王。かつて勇者ロトに滅ぼされたが、長い年月をかけて復活した竜の王だ」
魔族に化けた竜王がそう語り、ジゼル達を見つめる。
「半端者二人に魔族二人がここまでくるとは大したものだ」
「竜の騎士を半端者呼ばわりとはいい度胸だ」
「儂は竜族の長、竜王だ。貴様らみたいな竜の血が半端に持っているのを者を完全なる竜族とは認められん。だから半端者と読んでいるだけのこと」
「さて、それよりも貴様ら。もし儂の部下になればこの装置の使用権限を分けてやろう」
竜王がそう誘うとジゼルが即答した。
「いらない」
「ほほう、いらんと申すか。しかし良いのか? この装置の使用権限があればかつて魔王と呼ばれた猛者達をも従えさせることが出来る。それを聞いた上で尋ねよう。儂の部下にならんか?」
「ならないわよ。その魔物達は昔存在したもので、無理やり忠誠を誓わせるものでしょ? 禁呪法で生まれた生物だって生き物であることに違いない……貴方のそれはただの奴隷作成マシーンでしかない! そんなものの為に忠誠を誓える程、バカじゃないわ」
ジゼルが即答した理由、それは禁呪法で生まれた生物であっても愛を持って接しており、奴隷のように洗脳するのがどうしても許せないからだ。
ハドラーと共同作業で生まれたフレイザードは当然、ハドラーが単身で命を吹き込んだ親衛騎団も例外なく愛を持って接している。
もし何らかの誤りで禁呪法によって大魔王ゾーマが生まれたとしてもジゼルは愛を持って接するだろう。
それ故に竜王が持つ機械に対して抵抗感──いや拒絶反応が出ていた。
「全くだ。それに俺達はそれを壊しに来た以上交渉の余地など全くない」
「よかろう。交渉決裂という訳だな。ならばかかって来るが良い!」
竜王が指を鳴らすとその場で大爆発が起こりベンが仁王立ちし全員を庇う。
「大丈夫ですか?」
「うむ、助かった。俺はともかくジゼルにイオ系に耐性がないから、俺のイオナズン級の爆発では負傷するからな」
ハドラーがジゼルを見ると無傷でありベンに感謝の言葉を告げる。
「しかし無詠唱でイオナズンを起こすとは竜王などと名乗る割には魔法に特化しているな」
バランが冷静に分析すると竜王が口を挟む。
「今のはイオナズンなどではない。イオだ」
「!?」
「今のがイオナズンではなくイオだと?」
「無論。呪文は使い手の魔力によって威力が変化する。儂のイオがお主達のイオナズンと同等の魔力であったということだ」
「聖母竜に大魔王バーンを超えると言わしめるだけのことはある……だが、呪文だけで勝てると思うな!」
バランが剣を抜き竜闘気を纏わせ斬りかかると竜王が竜闘気を出し杖でそれを止めた。
「竜闘気だと!?」
「ほう、我ら竜王の一族しか扱えぬこの技術をこちらでは竜闘気というのか。それでは本当の竜闘気の使い方というのを見せてやろう」
竜王がそう告げると竜闘気を纏った無数の球が変則的にバランを襲う。初めは竜の騎士による本能でそれを避けていたが次第に均衡が崩れ、竜王がバランを攻める。
「ぐぉぉぉぉっ!?」
「バラン!」
「去ね、ギラマータ!」
一発の威力がベギラゴンの威力を遥かに超えるギラマータがバランを襲うがハドラーが庇い、フォローする。
「ハドラー様、大丈夫ですか!?」
「安心しろジゼル、俺の身体はギラ系の呪文に耐性がある」
「強がりは良くないぞ。儂のギラは貴様らのベギラゴン以上の威力。それが複数当たった以上無事な訳が──」
「ベギラゴン!」
ハドラーのベギラゴンが竜王に直撃し、目を見開く。
「どうやら貴様らを過小評価してたようだ。儂のギラマータを受けて呪文を放つ奴など勇者ロトくらいだ。最も奴は儂のベギラマと同じ威力のベギラマを放ったがな」
顔を事前に手で覆って防ぎ、竜王が笑みを浮かべると一歩前へ歩む。それだけで四人が脂汗をかき、流す。
「ふむ、では懐かしい顔触れを出しておこうか」
竜王が機械のボタンを押すと機械が作動し、複数の物体を生み出すとハドラーが驚愕し、目を丸くする。
「なっ!? ガンガディア、キギロ、バルトス……!」
ハドラーが口にしたのはかつて魔王時代のハドラーの部下だった魔物達だ。その魔物達が現れたことによりハドラーと言えども冷静ではいられなかった。
「ふん、下らぬ。退け! お前がやらないのなら私がやる!」
バランの一喝とともに剣が亜人樹──キギロを切り捨てようとすると一つの影が現れ、それを庇おうとするとバランが剣の軌道を反らした。
「竜王、貴様ぁっ!」
バランが反らした理由──それは庇ったのがバランの妻でありダイの母、ソアラだったからだ。ソアラはバランを庇って命を落としている。それがバランのトラウマの引き金となり、ソアラを傷つけないように剣の軌道を変えてしまった。
「斬ればいいではないか。尤も斬れるのであればの話しだがな」
竜王がそう告げると再び椅子に座り、肘をつくと産み出された悪霊達がハドラー達に立ち塞がる。
「竜王よ、どうやら俺を舐めているようだな」
「何?」
「確かにお前達は忠実な俺の部下だった。しかしバルトスは命令違反を起こし俺によって処刑された。立場が変われば殺すことなど容易いものだ」
ハドラーがバルトスに接近するとソアラが立ち塞がる。
「バラン、こいつは任せた!」
ハドラーが手首から鎖を出し、ソアラを拘束させ、バランに渡す。
「バルトス、このような形で蘇生されてはヒュンケルも本意ではあるまい。大人しく成仏しろ」
ハドラーがかつてバルトスを処刑したようにバルトスの頭を殴ろうとすると、バルトスがそれを防ぐ。
「容易いとは、一体何のことを言うのか是非ご教授して頂きたいものだ。元魔王ハドラー」
「それはこういうことだ、メラゾーマ!」
ハドラーのメラゾーマがバルトス達を焼き付くす。
「俺のメラは地獄の炎、そいつを焼き付くすまで消えることはない」
「
無機質な声が響き、ハドラーのメラゾーマの炎が吹き飛ぶと共に姿を表す。その姿は全身を鎧に包みこんだバルトス達の姿だった。
「その鎧はロン・ベルクの……!」
「そうですハドラー様、いやハドラーぁぁぁっ! 今の僕はお前を凌ぐ! この呪文を通さない鎧に鋼鉄の身体は完全にむて──」
「喧しい」
「ぎゃぁぁぁっ!?」
キギロの鬱陶しさにハドラーが爪を立てキギロに突き刺すとそこからメラゾーマを流し込まれ、キギロが身体の内側から燃えていく。いくらキギロが鋼鉄の身体で蘇ったとしてもハドラーの爪はオリハルコンをも貫いてしまい、その中からメラゾーマを流しこまれれば一溜まりもなく勝てる要素がどこにもなかった。
「キギロ、どれだけパワーアップしようが慢心というお前の弱点が根本的に解決された訳ではない……ジゼル、竜王は任せた。ベンはガンガディアを頼む」
「はっ!」
「畏まりました」
ジゼルが竜王の元に、ベンがガンガディアの元に行くとハドラーが構える。
「……斬るしかないのかソアラ」
葛藤の末、バランがそう決断する。
元々のソアラの戦闘力はバランどころか旧魔王軍時代の魔物にも劣る。しかしバランに対してはかなり効果があり、動きも魔物というよりも人間のそれに近く、しかもソアラの意識が時折戻る為に躊躇してしまう。それ故にバランは引き延ばしに伸ばして決断をしていた。
だが呪文でソアラを倒すという考えはバランのトラウマに触れてしまう。ソアラの直接の死因は呪文による攻撃であり、それを彷彿をさせてしまうからだ。その結果バランは剣で斬り成仏させようとしていた。
「さらばだ!」
「バルトス、二度もお前の失態の尻拭きをすることになるとは思いもしなかったぞ……」
「ハドラー様、人間の子供を育てるという酔狂を許して頂きありがとうございました。しかし儂は貴方を倒さなければなりません。ヒュンケルと会う為にも!」
「その気迫、もし魔王時代の俺の時に発揮していたら許していたかもしれん……だがもうとっくに過ぎたことだ。来い、バルトス」
6本の腕によって産み出されたバルトスの剣技がハドラーを襲うがハドラーはそれを覇者の剣が装備された右腕のみでいなす。
「バルトス、地獄から蘇ったお前の怒りはそんな物なのか? これだったらヒュンケルの方が上だぞ!」
「ヒュンケルが生きているのですか!?」
「勿論だ。奴は不死身そのものだ。例えメラゾーマで焼かれようが闘気が尽きようが死なん」
ハドラーは一度ヒュンケルと戦った際にメラゾーマでヒュンケルを焼き付くしている。通常であればそれだけで致命的なダメージを受け、まともに動くことすら出来ない。しかしヒュンケルは最後の力を振り絞り、ハドラー達を倒すことに成功している。
「そうでしたか……ならばこの勝負何も意味がありませぬ。私と竜王が交わした契約は死んだヒュンケルに会わせる為でした。それが儂の息子ヒュンケルではございませぬ以上どこに戦う理由などありましょうか?」
「確かにな。お前の息子ではなく魔界の剣豪の方が蘇ったら不本意だろうな。戦わぬというのならバルトス、俺はお前に謝ることがある」
「私を処刑したことですか?」
「違う。お前はそれに値するだけの罪を犯し、俺はお前を処刑した事に後悔や反省はない。だがお前は決して失敗作等ではない。お前の騎士道精神はヒュンケル、そしてお前の弟妹にも受け継がれている」
「弟妹?」
「バーン率いる大魔王軍時代に産み出した自慢の息子達だ。いずれもお前に勝るとも劣らない精神の持ち主だ。だからハドラー親衛騎団の騎士道精神の原型たるお前を失敗作などと言ったことに対して俺はお前に謝罪しなければならぬ……すまんな」
「そうでしたか……これで悔いなく儂も死ねるというもの……竜王との契約上の関係上、息子ヒュンケルと会うことは叶いませぬがハドラー様、どうかお伝えください」
──我が息子ヒュンケル、無事に育ってくれて嬉しいと
契約を破ったバルトスが灰になり、ハドラーだけがその場に残る。
「バルトス……確かにその言葉ヒュンケルに伝えよう」
ガンガディア──彼はトロール族でありながら頭脳明晰、ハドラーの参謀のようなポジションで活躍していた。それ故に頭脳戦では絶対の自信があり、ベンに対してもそれは変わらず優勢に戦い、止めを差したと思われたがベンのイオラが鎧を貫きガンガディアの心臓を爆発させた。
「油断、したな?」
「おのれぇぇぇぇっ! 完全体であったなら、貴様らごときに……ぐふっ」
「……全く大した野郎だ。完全体であったとしても勝てただろうがな」
ベンがそう呟きベホマをかけると回復し、ベンの身体が癒えていく。
「ふむ、一番感情的な娘が相手とな……良かろう。感情的であることと強さはそこまで比例関係にない。元魔王が儂相手に任せたというだけあってその実力は折り紙つきということなのだろうな?」
「当たり前よ、私は元魔王軍親衛隊隊長にして雷竜ボリクスの孫娘にしてハドラー様の最愛の妻ジゼル! ハドラー様の障害になる貴方を殺すわ」
「儂を殺すと来たか……何? 雷竜ボリクスの孫娘だと?」
「そうよ、なら証明してあげるわ……その身体でね!」
ジゼルが地獄から雷を呼び出し竜王に直撃させると竜王が紫に輝く巨大な竜となり本性を現した。
「我が名は竜王! 竜の王にして全てを統べる者! 勇者ロト亡き今恐れる者などない!」
カミュ主人公の物語はまだかって?まだです。
AIのべるすに任せるのもいいんですが、あれはどちらかというと自分の設定したオリジナル小説用に使うものですから……
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