その頃のジゼル達はというと談笑していた。
「もう痛いじゃないアルちゃん」
「自業自得です」
口を尖らせ文句を言うジゼルに容赦なくアルちゃんことアルビナスがバッサリと切り捨てた。
「だからってハドラー様とくっついただけでサウザンド・ニードルをやらなくてもいいじゃない」
「お義母様が自重しないからでしょう」
「ねえハドラー様、今の聞いた!? 私のことお義母様だって!」
「ジゼル、それは何度も聞いたぞ。だから離れろ」
「お義母様!」
アルビナスがハドラーからジゼルを引きはなそうと必死の形相で引っ張る。しかしジゼルはハドラーから離れず、ハドラーは苦笑いするだけだった。
「……アルビナス変わったな」
「まあ確かにな」
「うむ。変わった」
「ブローム」
ヒムの意見に親衛騎団三人が肯定し、頷く。しかしフレイザードが解せないのか首を傾けた。
「そうなのか? お袋と仲直く喧嘩してばっかりじゃねえか」
「仲良く喧嘩してばかりとは頓珍漢な言葉だな」
フレイザードの発言に突っ込みを入れるザムザ。彼はザボエラを越える為にジゼル達と同行していた。
「前だったらハドラー様云々言っていたはずだぜ。それが今ではジゼル様に絡んでいる。一体何があったんだ? マックス何か知っているのか?」
「何故我輩に聞く?」
「そりゃマックスは対象者の過去を知ることが出来るんだろ。アルビナスの過去を調べれば一発でわかるんじゃないのか?」
「一応出来なくないがしたくない。そう言うことは本人に聞くべきだ」
「とかなんとか言って、本当は知っているんじゃないのか?」
「お袋に似てきたな……ヒム」
「どうあがいても子は親に似るものだ。兄者」
フレイザード達がそんな会話を繰り広げていると地響きが起こり地面を見ると地割れを起こし、空を見ると一気に暗くなる。
「ありゃ……魔王軍か?」
「今の状況を説明するなら、天地両方から魔王軍の軍隊が現れた。というところか?」
「ということはミストバーンや親父もいるのか?」
ザムザがかつての同僚達がいるかどうか確かめていた。
「ミストバーンは魔軍司令になっている為なのかいない。しかし魔軍司令補佐のザボエラならいるぞ」
「あのザボエラが……?」
「らしくないな」
クロコダインとフレイザードが首を傾げる。フレイザードとザボエラはよく言えば軍人主義、悪く言えば勝つためなら卑劣な手段も問わない。しかしフレイザードは他人の手を借りないのに対して、ザボエラは前線に出ることも事態も少なく、前線に出る時は味方と共に行動してかつ勝利を確信した時のみである。
その事を特に知っていたクロコダインとフレイザードが首を傾げるのは当たり前のことだった。
「親父のことだ。バランを目の前にして逃げないということは……」
「罠だな」
「ヒヒヒ……裏切ったとはいえ流石じゃの。伊達に儂と長い付き合いはしておらぬわい」
ザボエラがバランとザムザを誉め、笑みを浮かべる。
「しかしそう推測したところで何が変わるのじゃ? 儂が態々こんな前線まで来た以上、儂が万全に備えておるということをわからぬお主らではない。つまりこの場にいる全員一網打尽にしてやる確信があるということじゃよーっ!」
ザボエラの腕輪が光輝き、ザボエラが連れた魔王軍の軍隊が倒れるとザボエラを中心に死体が集まり次第に大きく変化していく。
「せっかくじゃザムザ、お主に教えてやろう。お主は竜魔人の身体を研究していたから竜魔人こそが最強の身体だと思っているじゃろう。しかしそれは間違いじゃ。どんな攻撃も受け付けず圧倒的な力で捩じ伏せられるには竜魔人では足りぬぅっ!」
「竜魔人を超える答えがそれか?」
「その通りじゃ。見て死ぬが良い。儂やバーン様を裏切った愚息達にはもったいないくらいの処罰じゃ!」
そしてザボエラの形態変化が終わる。そこにあったのは巨大な大猿の姿だった。
「これは……なんだ?」
「ヒヒュドラードだ。かつて闘神と名乗る前のレオソードが唯一臆した魔物だ」
マックスが解説するとベンが「出番取られた!?」と嘆いているが全員無視した。
「流石、とでもいっておこうかのマックス。その通り儂はヒヒュドラードを参考にして、ネオ・ヒヒュドラードを造り上げたのじゃよ!」
「どこからどうみてもヒヒュドラードだろうが!」
ベンが二つの意味で突っ込み、爆裂斬りをすると逆に自らにその衝撃が返ってくる。
「何故俺の攻撃が弾き返された……?」
「ヒヒヒ。甘いのう……この身体はヒヒュドラードと同様にマホカンタバリアを常に貼れるだけじゃなく、アタックカンタも常に貼れるんじゃよ!」
「何っ!? バカな……ハッタリだ!」
「ガラクタが儂の身体を見抜けると思うたか? アホめ」
「いや親父、単純にそんなベラベラと喋るから皆信じられないんだよ」
ザムザがザボエラのキャラ崩壊にツッコミを入れて指摘すると、全員が頷いた。
「どちらにしても、だ。奴にアタックカンタとマホカンタがあるのには違いない。となれば物理でも呪文でもない攻撃しかあるまい」
「というと、ヒュンケルのようなグランドクルスや俺の獣王会心撃、バランのドルオーラのようなものか?」
「いやジゼル様のジゴスパークも可能だ。とにかく直接攻撃しないでかつ、魔法でもない攻撃が良い」
ベンがそう答え、攻撃を促す。
「つまりこういう攻撃も通用するってことか!」
促す前に真っ先に動いたフレイザードが炎の鎖をヒヒュドラードに巻き付け、笑みを浮かべる。
「流石フレイザード、炎のような残虐さを兼ね備えた上に冷静じゃ。ただの戦闘狂とは訳が違うわい……じゃが!」
炎の鎖を無理やりほどき、フレイザードに巨大な手が襲いかかる。
「今のこの儂には通用せんわ!」
フレイザードがそれをステップで避け、ザボエラに向けて指を差した。
「けっ、やっぱりてめえは素人だ。動きもバラバラ、近接戦が苦手なのにそんな近接戦で戦うなんて戦わざるを得ないなんてバカじゃねえのか?」
「バカ? この偉大なる儂にバカとな? 儂が六軍団長任命された理由が何だがわからぬようじゃな」
「てめえの知識じゃないのか?」
「いいえ、フレちゃん。ザボエラは魔力がハドラー様を凌ぐ程に豊富だったからよ」
「そう。しかしそれは半分の理由、もう一つの理由がこれじゃぁぁぁっ!」
ザボエラが両腕を頭の上に上げると闇の究極呪文が出来上がる。
「ドルマドン!」
闇の究極呪文、ドルマドンがザボエラのハドラー達を襲いかかるがシグマがそれを阻んで、魔法を反射させる。
「無駄じゃ無駄じゃ!」
ザボエラがマホプラウスでドルマドンを吸収し、更に威力を高める。
「超魔生物の弱点、呪文が使えなくなる上に過剰回復呪文に極端に弱いというものじゃが、儂はそれを克服した。そこの元魔軍司令とは違ったやり方でな」
「っ! そうかそういうことか!」
「ザムザ、一体どういうことだ?」
「結論からいうと親父は死体を纏って操っているだけなんだ」
「……はあ?」
「つまり、あのダニは自分が超魔生物とならずに死体を集めて超魔生物ならぬ超魔ゾンビを作り上げそれを操作している。こういうことですか?」
「認識としては間違ってない。あくまでもアレは鎧みたいなもので呪文を使うには支障がないんだ。身体を別のものに書き換えた俺とは違ってな」
「しかも回復も出来るわい。この通りな」
先ほど負ったであろうヒヒュドラードの火傷が治り始め、笑みを浮かべるザボエラ。
「そうじゃついでに教えておこう」
「何をだ?」
「ワシはあくまで囮でしかない」
「嘘だ!」
「はったりだ!」
「ありえない!」
「見栄張るな!」
「この腐れ爺が!」
「見え透いたブラフを!」
「それは現実じゃなく妄想の話だろ?」
「──────」
「────」
「──
「」
ジゼル達がまさかザボエラからそのような発言を聞くとは思いもよらず、声を荒げた。
「お主達の驚く声がここまでどうして心地好いじゃろうな? キヒヒッ!」
ジゼル達の非難の声にザボエラは余裕の笑み、いやどや顔でそう答えた。
「確かに儂の最悪の役目は囮じゃが、お主達を始末すれば最高の手柄となる。いくら儂が慎重な軍師とはいえネオ・ヒヒュドラードを使える以上これを逃すほど愚かではないわい」
「まさか、ザボエラがフレイザードのような大胆な手段を使うとは……!」
「そうじゃ、理解しておらぬようじゃからもう一回言っておこう。儂はあくまでも囮でしかない。二回聞いてこの言葉の意味を理解出来ぬようであれば貴様らの頭は鶏以下じゃな」
「囮……まさか!? 他方面に魔物が!?」
「半分正解じゃ。正解は各国に魔王軍の新・六軍団長達が攻めこんでおる、でしたー! 残念賞に貴様らに死を与えてくれようぞ!」
ザボエラの操るヒヒュドラードの腕が伸び、アルビナスとブロックを掴む。
「私達を握り潰そうとしたところで無駄──っ!?」
ザボエラの手に握られたアルビナスが動揺しただけでなくブロックとアルビナスの体に軋む音が響く。
「ネオ・ヒヒュドラードの血液はオリハルコンをも溶かし腐食させる。そして腐食したところを強引に握り潰した……ただそれだけのことじゃよ」
その解説が終わった途端、暴風が吹き荒れた。
「な、なんじゃぁこの風は!?」
「ザボエラぁぁぁっ!!」
そこにはぶちギレたジゼルが仁王立ちしており、顔は般若のように憤怒していた。
「ジゼル……!」
「今すぐ私達の娘と息子を離せ」
「お主わかっておるのか? このまま儂がこやつらを握り潰せばこやつらの人生さようなら──」
ザボエラが語り尽くすまえにヒヒュドラードの腕が切断され、アルビナスとブロックが解放された。
「ななな、なんじゃとぉっ!?」
「かまいたち。本来であればもっと弱いけど私が冷気と暖気を利用して風を強くし、その腕をスッパリ切断出来るように改良したわ」
「おのれぃっ! だがその程度で儂を倒せる道理はないわ!」
ザボエラがヒヒュドラードの腕を生やしてジゼルに襲いかかったが、それを淡々とジゼルは見つめ口を開いた。
「さようなら、ザボエラ。最期の貴方はフレちゃんみたいだったから割りと好感持てたわ。だけど私の息子達に手を出した以上、その罪は重いわよ」
皮肉げにそう呟き、ジゼルがブレス版メドローアとも言えるオーロラブレスをヒヒュドラードに喰らわせ消滅させた。
だがこれで終わりではなかった。
「ジゼルめ、まさかあのような攻撃を持っているとは思わなんだ……が、神は微笑んだ」
ヒヒュドラードの消滅寸前に、ザボエラはヒヒュドラードから緊急脱出し、下半身こそ消滅し重傷こそ負ったがとうにか生き延びていた。
「ヒヒヒ……儂がこうして生きているとは知らずにあのように終わった空気を醸し出しおって……そのお陰で儂は生き延びられるのじゃからあの者共の呑気さに感謝せねばな」
下半身が消滅している為にザボエラが腕を使って這いつくばり移動する。そして大きな壁にぶつかった。
「よう、親父」
「ザムザ……」
その壁の正体、それは自らの倅ザムザだった。
「ネオ・ヒヒュドラード。確かにあれは素晴らしい出来だった上に男のロマン、脱出装置を着けたのもポイントが高い」
「ちなみに自爆装置もあったわい」
「流石親父だな」
「のうザムザ、いや我が倅よ。儂は無念で堪らん。お主の最高傑作を見る間もなくこの世を去るのじゃからな」
「親父……」
「ザムザ、最期にお主の超魔生物となった姿を見せてくれぬか?」
「良いだろう。親父よ見ておけ、これが俺の最高傑作だ」
そしてザムザが変身の構えを取ると、ザボエラが最後の力を振り絞って動いた。
「喰らえっ!」
毒を含めたザボエラの爪が変身途中のザムザに襲いかかり、ザムザが硬直した。
「ザムザよ、お主は甘すぎる。故に命を落とした……まあ殺したのは儂じゃが。そしてお主の体を有効活用してやるわい」
ザボエラの考えていた計画は、息子ザムザに会った瞬間から計画されており、ザムザの超魔生物となった体を解体して新たに超魔ゾンビを作成してこの場から逃走しようと目論見、ザムザに襲いかかった。結果はザボエラの想像以上に上手くいき、今にもザムザの体を解体せんと言わんばかりに手を動かす。
「さらばザムザよ。最期に役立ったお主のことは三日間くらいは忘れぬわい」
そしてザボエラの魔の手が伸びた瞬間、ザボエラの背後から衝撃が襲いかかった。
「やはり貴様は煮ても焼いても食えぬ奴か」
「く、クロコダイン!?」
「一部始終見ていたぞ。己の息子ザムザを騙し、闇討ちまでするその腐った根性……どこまでも見下げた奴だ!」
「待ってくれクロコダイン!」
「良いだろう。ただし俺はそいつを止めることは出来んぞ」
クロコダインがそう冷淡に告げると先ほどまで硬直していたザムザが復活し今にも虫の息となったザボエラにトドメを刺そうとしていた。
「なっ──」
ザボエラが何もいう暇もなく、ザムザはその拳を振り下ろし、ザボエラを殺した。
「親父よ、俺はあんたを信頼している。良い意味でも悪い意味でもな。その結果あんたは俺の期待を裏切らなかった。だからどんな行動を仕掛けるかわかったんだよ」
ザムザの声は震え、いつの間にかその目には涙が流れていた。
「ザムザ……」
「だけど親父、俺は期待を裏切って欲しかった。安らかに眠って欲しかった。ただそれだけなんだ」
ザムザの溢れる涙にクロコダインはどうすることも出来なかった。
没ネタ
「けっ、やっぱりてめえは素人だ。動きもバラバラ、近接戦が苦手なのにそんな近接戦で戦うなんてバカだ」
「どのくらいバカなの?」
空気を読まず、ジゼルが口を挟む。
「そりゃライトマ──ライトマシンガンのこと──で敵陣に突っ込む──敵が潜り込んでいるであろう場所に突撃すること。通常はショットガンなど近距離武器でやる──のと同じだ」
FPSの用語やらなんやら多いのでカット。
後書きらしい後書き
最後の方はファイアーヘッドさんがSS投稿掲示板にて掲載されていたドラゴンクエストUSBみたいな感じになってしまいました。
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