「ジゼル様、よろしいでしょうか?」
ジゼルがフレイザードと共に娘ラーゼルをあやしているとベンが敬礼しながら尋ねてきた。
「ベン、どうしたの?」
「ダイを見かけませんでしたか?」
「ダイ君? そう言えば今日見かけなかったわね……デスカールに探させてみようかな」
「デスカールに?」
「お呼びでしょうか? ジゼル様」
突如タイミングを図ったように登場したデスカールにベンは目を丸くする。
「どっから現れたんだ……?」
「ダイ君がいなくなったから探してくれない?」
「ではこの水晶で探しましょう」
フレイザードの疑問などスルーし、デスカールが水晶に魔力を込め、ダイの居る場所を探しだす。すると水晶の中に景色が生まれダイとバラン、そして白銀の竜も写し出された。
「ふうむ……どうやらこの白銀の竜がダイを拉致しようとしたが、バランがそれを止めている現場ですな」
「で、そこにいくにはどうすればいい?」
「その場所に行くには竜の騎士であることが条件。つまり我々のような魔族は永遠にその場へ向かうことは出来ない。しかしダイ達の話が終わった後ならわかる」
「その場所は?」
「ここだ」
デスカールが地図を出し、テラン王国に指差す。
「テラン王国……?」
「さよう。かつてガルヴァスに命じられダイを討伐する為に竜の騎士についての歴史を調べたら、テラン王国に竜の騎士の原点があった。ということは白銀の竜が竜の騎士を我々の場所に戻すには原点であるテラン王国に戻す可能性が高い」
「むう……正論だ」
「言われてみれば……」
「テラン王国にか」
「おや、どうやらハドラー様もその考えにたどり着いたようですね」
三人がデスカールの水晶玉をみるとそこには竜の騎士二人を待ち伏せるように仁王立ちしているハドラーが写っていた。
「ちょっと待てよ? お袋、ハドラー様はデスカールのように水晶でその場所を見るなんて真似は出来ねえよな?」
「うん。ハドラー様が得意なのは物体に息を吹き込んで命を与えたりすることくらいであとは戦闘に特化しているからそんなことは出来ないわ」
「なるほど。しかしよろしいので?」
「うん?」
「ハドラー様の元に駆け寄らなくて」
「……フレちゃん、あとは任せた!」
「了解だ!」
「そ。じゃあ行くわよ!ベン!」
「ははっ!」
フレイザードにラーゼルを任せたジゼルとベンはルーラを使い、テラン王国へと向かった。だがその先にいたのは別の人物だった。
~テラン王国~
「これはこれはジゼル様にベン。この先に何か用でも?」
アルビナスがジゼル達の前に立ち塞がるようにジゼル達に対面し、妨害する。
「アルちゃん……そこを退いてくれない?」
「ハドラー様の命令に背きます故にお断りします」
「命令とは?」
「ハドラー様の邪魔をする輩は排除する。それだけですよ」
その瞬間、アルビナスの口元から毒針が飛び出し、ジゼルを襲う。しかしジゼルは毒を触れないようにそれを掴んだ。
「それだけ? 本当はハドラー様と戯れる私が羨ましいんでしょ? 素直にハドラー様とボディタッチしなさいよユー」
「んな訳あるか!!」
ジゼルが体をくねくねとうねらせ、アルビナスの耳元でそう呟くと腕を開放したアルビナスの拳がジゼルの顔面に炸裂する。
「痛っ~! ちょっとアルちゃん! お母さんに向かってグーはないでしょ!」
「黙れ! 私達親衛騎団がハドラー様個人の力によって生まれている以上、母親面する貴様が許せん! 母親面したいのならフレイザードだけにしろ!」
ここまでブチ切れたアルビナスを目にしてジゼル達は目を丸くし、呆然としていた。
「ハドラー様から妨害はしても殺すなと言われていますが、今度ばかりはそうもいかない……殺してあげます」
「アルちゃん……」
ジゼルが寂しそうに、顔を伏せアルビナスを見る。
「死ね! サウザンドボール!」
「って俺からかよ!」
アルビナスの灼熱の球が、ベンに向かう。しかしベンとて黙ってやられるほど弱くはない。
「イオナズン!」
ベンがイオナズンで対処し、それを打ち消すと煙が舞う。その瞬間、金属音が響いた。
「(ふん、どうやらジゼル様との一騎討ちに持ち込みたいが故にあの技を繰り出したということか……そんなことをせずとも俺は手を出さないというのにご苦労なことだ)」
ベンがそう思考しつつも自分の腕を見ると、火傷のような症状を出していた。
「(この傷痕を見るとあの技はベギラゴンを改良したものか。ベギラゴンは通常、というか当たり前の話なのだが両手を使わないと出来ない。しかしあのサウザンドボールとやらは片手のみでベギラゴン以上の威力を出している。不意討ちとはいえ俺に傷を負わせたのが何よりの証拠。そしてあの異常なまでのスピードとオリハルコンの身体は厄介なものだ)」
アルビナスがジゼルのカウンターに屈し、腹をくの字にしてよろけながらもまだ立ち向かうその姿を見てベンはため息を吐いた。
「(……尤もイオナズンではなくイオグランデであれば傷を負ったのは俺ではなくアルビナスの方だったがな。そんな奴にジゼル様に勝てる要素など一つもありはしないか)」
ジゼルの背負い投げがアルビナスに炸裂し、アルビナスの身体の亀裂が更に深くなる。
「何故、何故妨害するんですか?」
アルビナスが亀裂の入った身体に鞭を入れ立ち上がりながらジゼルにそう尋ねる
「アルちゃん。貴女はやっぱり私の子供だよ」
「まだそんなことを!」
「私の子供でなければ良心が傷まずに戦えるからとっくに終わっているよ。少なくとも私はアルちゃんをこれ以上傷つけることは出来ないわ」
「やはり貴女は温い。その甘さが命取りとなる……っ!?」
アルビナスの目から涙が流れ、アルビナスはそれを止めようと目を瞑ったり、擦ったりするも止まらない。
「な、何故私の顔から涙が?」
「それはアルちゃんが私を受け入れた証拠よ。だから擦ったりしないで思い切り私の胸で泣いてもいいのよ」
「くそっ!止まれ、止まれぇぇぇっ!」
ジゼルを無視してアルビナスが涙を止めようと必死に抗うが止められない。そしてついに最終手段に出た。
「この止まらぬ涙を流す目は不要!」
アルビナスが目を自らの指で潰そうと目に目掛けて指で刺そうとするがそれはジゼルによって止められた。
「……アルちゃん。その目は誰のためにあるの?」
「ハドラー様の為。しかしこんな涙を流す目になってはハドラー様も不要に思われる!」
「アルちゃん、自分の目というのは自分の成長の為にあるのよ」
「成長?」
「うん。目というのは理想だけを見るものじゃない。そこには様々な現実がある。現実を見て見直したり受け入れたりすることで成長するの。アルちゃんはハドラー様の為って言ったけどそれは間違いじゃない。アルちゃんが成長してハドラー様の手助け出来る範囲を広められるからね」
「……完敗ですね。私もまだまだ未熟だった。そんな状態でお義母様を止めようなんて早すぎた」
「えっ? 今お義母様って言ったよね!?」
「さて、貴女の想像にお任せします。敗者は黙って去るのみ」
アルビナスがそう言ってリリルーラを唱えその場から消えてしまう。
「さあ、ハドラー様の元に行くよ! ベン!」
「はっ!」