ハドラーはダイ……いやダイ達を圧倒していた。強さもそうだが覇気だ。まるでその場にいる全ての者を呑み込むかのような雰囲気がダイ達を圧倒していたのだ。ハドラーと同じ超魔生物の身体に自信のあるザムザですらもその覇気に呑まれていた。
「まさかこの程度ではあるまい! それではパワーアップしがいがないぞ! ダイ!」
そしてハドラーは超魔生物となって新しく身につけた技の構えを取った。
「な、なんだぁ!? その構えは!?」
ポップが今まで見たこともない構えにそんな声を上げていた。
「超魔爆炎覇!」
イオナズン、ベギラゴンに代わるハドラーの新しい必殺技がダイに直撃し、ダイは氷山に突っ込んでそのまま動けなくなった。
「おいおい、嘘だろ……ダイがこんなに呆気なくやられちまうなんてよ」
ポップが情けない声で地面を殴る。ポップは信じられなかったのだ。ザムザは油断したにせよベストな状態ではない為にバラン以上の敵ではなかった。しかし今回は違う。最善を尽くし新たな武器を手に入れた状態で完全敗北したのだ。ダイはバラン戦の時よりも強くなっている。しかしそれをハドラーが超えただけのことなのだ。
「呆気なく? 貴様それでもアバンの使徒か?」
「え?」
「……自分で考えろ。どうやら俺にはもう一人戦わねばならぬ者がいるようだ」
「もう一人?」
少なくとも今の情けない自分ではない。ポップはザムザを見るがザムザはハドラーとは向き合わず一点だけを見ていた。そしてそれをポップが見るとそこにいたのはガルーダに捕まって飛んでいた獣王クロコダインが君臨していた。
クロコダインが地上に降りるとミストバーンやキルバーンに見向きもせずハドラーだけを見ていた。
「久方ぶりですな。ハドラー殿」
クロコダインもハドラーを見つめ、今にも戦闘が始まろうとしていた。
「クロコダイン。お前は俺の部下ではあるまい。わざわざ敬語で話す必要もないだろう」
「それもそうだな」
「獣王クロコダイン。武人としてお前とは決着をつけねばならぬ」
「……すまんがそれは出来ん」
「何っ?!」
「かあっ!」
クロコダインは煙を上げ、その場にいたポップやザムザを連れ去り逃げた。
「ひゅ~っ! エクスタシィ~!」
キルバーンは呑気な声でクロコダインを賞賛した。
『……』
ミストバーンは沈黙。ハドラーをただ見つめていた。
「まさかクロコダインが逃げの一手を打つとはな」
『追わぬのか?』
「放っておけ。クロコダインはダイを救いに来たのだ」
「あの勇者君を? でも君の一撃で葬ったじゃないか?」
「あの場にクロコダインがいてはどうしようもあるまい。あいつはバランのギガブレイクをも封じた強敵だ」
「あの鰐君のことを随分買っているんだね。僕はあの魔法使い君が一番厄介になりそうな存在だと思うよ?」
「ダイ! この勝負次会うときまで預けて置くぞ!」
ハドラーはキルバーンの言葉を無視してダイの方向へとそう叫んだ。
~某所~
フレイザードは相変わらず、ラーゼルの世話をしていた。
「……にぃ……!」
突然誰かの声が聞こえフレイザードはそれに反応した。
「ん? 今誰か呼んだか?」
フレイザードはあたりを見回すがいるのはラーゼルのみで他はいない。
「にぃに!」
するとちょうど良い適温にしたフレイザードの炎の岩のあたりからそんな声が聞こえた。
「お前か? ラーゼル」
「にぃに! にぃに!」
ちなみに赤ん坊は言葉を何回も繰り返して覚えさせないと言わないのでフレイザードの兄馬鹿加減がうかがえる。
「全く……ほらお兄様だぞ!」
現在のフレイザードはまさしく赤ん坊の妹を世話をする兄そのものだった。
「(ま、おふくろが帰ってくるまでラーゼルを鍛えてやるか)」
などと兄馬鹿になっていたフレイザードだった。
~カール王国~
一足早くジゼルはカール王国についた。その目当てはクロコダインがパワーアップした破邪の洞窟である。クロコダインはそこでパワーアップしてヒュンケル、いやそれよりも強いベンを倒すまでに至った強さの秘密を探るべくジゼルはカール王国に来ていたのだ。
「(全く信じられないわね。見た目こそ超竜軍団によって攻め滅ぼされた感じなのに人々はもう復活している)」
ジゼルはカール王国を一目見てそう思った。カール王国はバランがフレイザードの勇者討伐の時に攻略していた国だ。わずか5日しか持たなかったがそれも仕方ないだろう。ドラゴンもそうだがバランが強すぎるのだ。この国出身である勇者と呼ばれるアバンですらバルジ島の時のハドラーに自己犠牲呪文メガンテを使っていたくらいだ。しかもハドラーが耐えきるという有様だ。カールにアバン以上の大物が現れたと聞いたなどという噂は流れず、僅かに聞いたことはあるのは剣術のみならアバンを凌ぐとまで言われていたホルキンスくらいのものだった。逆にいえばそれ以外はバランからしてみれば雑魚であり、鬱陶しいハエ程度にしか感じなかった。
「(もしかしてこれがカール王国の強さかもね……フレちゃんが滅ぼしたオーザムとは訳が違う)」
そんなことを考えて数分、ジゼルはようやく破邪の洞窟にたどり着き、破邪の洞窟へと入って行った。
「これが破邪の洞窟」
ジゼルはスライム等の雑魚はまるで掃除するかの様に進んでは宝箱を開け、宝箱を開けては進み、進んでは宝箱を開け、それがミミックならば正拳突きで倒し、倒しては進んで、進んでは階段を降りて……そのループが8日間進み132階で止めた。ちなみにその記録は世界最速記録である。ありえないという方もいるとは思うがそれがジゼルクオリティ。気にしてはいけない。
むしろ気にするのは何故ジゼルがそんな中途半端な位置で止めたかということだ。
「(ダイ君達に合流しないと!)」
そう、ジゼルが止めたのはダイ達に合流するためだった。もしもここでいつまでもいてハドラーとダイが戦ったら元も子もないのだ。ハドラーを救うヒントになれば良いと思い入ったのだが、まるで意味がなかったので引き返すことにしたのだ。
「はああぁぁぁっ!」
ジゼルは物凄い勢いで逆走し、階段を登り続けた。途中の魔物達はジゼルの突撃によりぶっ飛んでいった。
「ん……? 朝?」
あれからジゼルは全速力で走り、8日かかったところを2日かけて元の場所に戻った。久しぶりに朝日を拝むことになり、しばらく歩くとカールにてハドラー親衛騎団なるものの襲撃があると聞いた。
「ハドラー親衛騎団?」
自分は魔軍司令親衛隊の隊長であるし、ベン達が新しく独立するとは思えない……となればハドラーが新しくスカウトしたか禁呪法で作ったかのどちらかだ。
「トベルーラ!」
そしてジゼルはその襲撃した場所、サババへと向かった。
~サババ~
「ノーザン・グランブレード!!」
1人の人間がオリハルコンの人形に飛びかかり、闘気剣を振った。その威力は不死身のヒュンケルですらもまともに受ければ気絶するライデインストラッシュ並だった。
「効いたぜ今のは」
しかしその人形はまるでダメージを受けていない。
「そうだな。人間の痛みでいうなら頭にタンスの角をぶつけたくらいだ」
その人形は頭を少し掻き、次の言葉を放とうとしたが、ザムザの時に現れた疾風がそれを阻止した。
「うおっ!?」
その人形は他の人形、特に巨体な人形によって止められた。
「不意打ちとはいえ俺をここまで飛ばすなんて一体誰だ?」
その人形は驚きの声を上げた。上司のハドラーからダイ達一行の話は聞いていたがここまで強いパワーを持っているとは聞いていない。だがその人形はハドラーに不満があるわけではなくむしろオモチャを与えられた子供のような目をしていた。
「あの方のようですね。ヒム、気をつけなさい」
この中で唯一女性型の人形が先ほどまで戦っていた人形ヒムに注意を呼びかけた。
「わかってるってアルビナス。俺をここまで飛ばした相手だ。油断は出来ねえよ」
ヒムは女性型の人形アルビナスにそう言って再び前へと出た。
「さてとあんたの名前を聞こうか?」
ヒムは相手を強者として認め、名前を尋ねた。先ほどの人間ノヴァにはやらなかった行為だ。
「ゼシカ。さすらいの魔法戦士さ」
ジゼルは男性的な口調でヒムに返した。
「俺の名前はヒム。ハドラー様に仕えるハドラー親衛騎士団の1人だ」
「そう名乗った以上わかっているだろう?」
「もちろん」
そして二人が互いに向き合い片方は右手、もう片方は左手を素早く出し……
ガキンッ!!
「「勝負!!」」
二人の拳がぶつかり合い戦闘が始まった。