ハドラーはかつて魔界の一つの村の若い村長だった。今回はそんな彼がジゼルと出会った過去……
ハドラーは気晴らし出来るものがないかと散歩をしていた。すると5人の魔族が立ち止まっていたのが気になりそこに行く。
「やめて!」
魔族の少女が男の魔族達に虐げられ、身を縮め頭を庇っていた。
「はははっ! おもしれーこいつ!!」
そのゲスじみた言葉にハドラーはキレた。ハドラーはこういった事を嫌い、正々堂々とした事を好む。
「おい、止めろ」
ハドラーは魔族の腕を掴んで止めた。
「なんだ? てめえは?」
「貴様らは恥ずかしくないのか?」
ハドラーは魔族を無視して話を続けた。
「あぁっ!?」
魔族が逆ギレしハドラーを睨む。
「いたいけな少女を数人がかりで襲いかかるとは……魔族の恥晒しめ」
後々ハドラーも人間に対してやるがそれは言ってはいけない。何故なら魔族は人間を見下しているからだ。ハドラーとて例外ではなかったからだ……話がそれた。ハドラーは人間はともかく魔族に対しては寛容だ。
「ふざけんなっ!」
そして魔族の一人がハドラーに殴りかかるが所詮は素人、格闘戦を好むハドラーからしてみればかなり弱い。
「ふんっ!」
ハドラーは魔族の腹に一発入れると魔族は胃液をゲェーゲェーと吐き戦闘不能となった。
「さて、覚悟は出来ているんだろうな?」
ハドラー無双が始まり、魔族達はとにかく逃げた。だがハドラーに回り込まれてしまいボッコボッコになった。
「あ、あの!!」
ハドラーが立ち去ろうとすると少女が呼び止めた。
「何かようか?」
ハドラーはそれを見て驚いていたが顔にだすことはなかった。その少女は竜と魔族のハーフだった。
「助けてくれてありがとうございます!」
そのハーフの少女は深々と礼をした。ハドラーはそれを見ると立ち去ろうとするが立ち止まった。もしこのままハーフの少女を置いて行ったらどうなるだろうか……? 明日には死んでいるかもしれない。それだと後味が悪すぎるのでハドラーは決心した。
「俺の家で働かないか?」
ハドラーはその少女を雇うことにした。ハドラーは人間を見下すことはあっても竜を見下すことはない。その理由は竜の身体にある。竜は身体が鋼よりも硬く、しかも呪文をものともしない鱗を持っており、その力はモンスター随一の強さを誇る。魔界の歴史でもそう呼ばれているのだ。
魔力を高く持っている魔族とモンスター最強の竜のハーフ。
ここで埋めて置くにはあまりにも惜しい存在だった。
「でも私は見ての通り竜でもなければ魔族でもない。そんな私でいいんですか?」
「構わん。それよりもお前の名前は? 俺の名前はハドラーだ」
「ジゼルです」
こうして2人は出会った。
その後、ハドラーとジゼルはハドラーの家へと戻った。
「ここがハドラー様のご自宅……」
ジゼルは圧倒されていた。ハドラーの家はまさしく屋敷と呼ぶに相応しいからだ。ジゼルの家はこんなデカくはなかった。
「そうだ。さあ入るぞ」
ハドラーはジゼルは連れて入るとそこに現れたのはハドラーの家にいるメイド達だった。
「おかえりなさいませ! ハドラー様!!」
人間年齢18~30前のメイド達がハドラーに敬礼するとハドラーは満足そうに頷いた。
「出迎えご苦労。早速だがお前達に託したい仕事がある」
「なんでしょうか?」
「こいつの身体を洗ってやれ。その後こいつをメイドとして雇うから教育を頼む」
「わかりました」
メイド達はジゼルを連れていくと身体を洗い、メイド服に着せ替えた。その際にジゼルの胸に嫉妬したメイド達が暴走したのは言うまでもない。
「わあ……綺麗」
ジゼルはメイド服に着替えてそう呟いた。というのもジゼルは現在着ているメイド服以上に清潔な服を着たことがない。いつもボロボロの服しかなかったからだ。
「ジゼル。ぼけっとしてないで私の方を向きなさい」
メイド長らしき女性がそう言ってジゼルを振り向かせる。
「あ……すみません」
ジゼルは素直に謝り、頭を下げた。
「さて、ジゼル。あんたは家事も知らないだろうしメイド長である私が徹底的に教育してあげるわ」
「ありがとうございます!」
「よろしい。では始めに私のことはメイド長と呼びなさい」
「PAD長!」
何故ジゼルがそういうのかと言うとメイド長はジゼルとは逆にまな板の胸でPADで誤魔化していると丸わかりだからという理由ともう一つ……ここに来る途中ハドラーに言われたからだ。
「違う! メイド長よ!」
などと初歩的なことからスタートしてジゼルのメイド生活は始まったが……料理をやらせれば包丁でまな板ごと切ってしまう。掃除は床が擦り減る程雑巾掛けをしてしまう……
とにかく問題だらけでメイド達も嘲笑い、陰口を叩くようになった。
「(……やっぱり私はここにいちゃいけないんだ)」
ジゼルは次第にそう思い始めメイド長にどうするべきか相談した。メイド長に相談すれば自分を罵倒し、自分を雇うキッカケも無くなるだろう……と思っていた。
「……そう。それじゃ貴方のしたいことって何かしら?」
「え? ……私のしたいこと?」
「私はね貴方と同じようにハドラー様に拾われたのよ」
「そうなんですか……?」
「私は新人時代、こんな胸と子供っぽい体格に童顔……苛められる要素は一杯あった。例えばモップが届かない場所にあったりとか、子供メイドとかバカにされたりね」
「……PAD長じゃ怒らないんですね」
「まあ……それはハドラー様がつけた渾名だからね。渾名はそれぞれの代のメイド長につけられるからハドラー様に認められたって証拠なのよ」
「……」
「ハドラー様の為を思うには手を抜かずに慎重にやること。それが貴方の目標よ」
「……ありがとうございます!」
その日からジゼルは変わった。ジゼルは張り切り過ぎずに程よい力加減で家事をした。
そしてある日……ハドラーが外出し、留守となっていた。残っていたのはメイド達だけである。
「さあ、ハドラー様のお帰りの為に掃除をしましょう!」
メイド長はメイド達にそう告げ大掃除を始めた。
「……」
この時ジゼルは違和感を感じていた。何かが違う。ジゼルの心の中でそう感じており、ジゼルは人目のつかない場所で掃除をし始めた。
「イオラ!!」
すると玄関の方から大爆発が起き、大きく屋敷が揺れた。
「キャァッ!」
ジゼルはそんな経験はなく、どうすれば良いかわからずに慌てて壺の中にすっぽりと入り隠れた。
「薄汚い魔族達め! 今日こそがお前達の最後だ!」
その言葉が聞こえてジゼルは震えていた。
「(人間……ってこんなに怖いの?)」
そして悲鳴が次々と聞こえメイド長も殺された。
「(来ないで……!)」
ジゼルはただひたすらに祈っていた。だがそれが仇となった。
「おい! あの壺動いているぞ!」
それを聞いてジゼルはもう終わったと思った。だが予想外の方向へと動いた。
「ああ? それはほっとけ。ツボックとかそんなモンスターだ。下手に刺激したらザキ系の呪文で殺されるぞ。あいつらはマホトーンが効かねえから無理だ」
「そ、それもそうだな」
などと勘違いをして人間達はその場を立ち去った。
「(助かった……の?)」
ジゼルはホッとその壺から出ようと体制を整えて頭を出し……肩がつっかかった。
「あれ?」
その後何度も試してみるがジゼルは頭だけが出てそれ以上先は壺から出ることは不可能だった。
「……出れない」
頭だけひょっこりと出した状態でその姿はひょうきんだった。壺を破壊しようにも力は出ない。まさに詰んでいた。
~数日後~
ジゼルは眠りにつき、ただずっと待っていた。
「おい! 誰かいないのか!?」
ハドラーがいつの間に帰って来たのか大声を出して呼んでいた。
「ハドラー様!」
ハドラーに頼めばこのひょうきんな格好も何とかして貰えるだろうと思い、返事をした。
「いたか……」
そしてハドラーは近づくと目を丸くした。
「お前……何をやっているんだ?」
「人間がこの屋敷に襲撃して来たので私は咄嗟に壺の中に隠れていたら出れなくなってしまいまして……」
「……はぁ」
ハドラーは渋々壺ごとジゼルを持ち上げるとジゼルが顔を真っ赤にした。
「ハ、ハドラー様!?」
ジゼルは壺の中で暴れて壺から出ようとするが無駄だった。メイドをやっているとはいえ戦闘員ではなかった……それ故に非力であり力任せに脱出することは不可能だった。
「大人しくしてろ」
言われるがままにジゼルは大人しくなり顔が苺……いやそれ以上に赤くなった。
「そいっ!」
そしてそれをハドラーは投げた。
壺が割れ、ジゼルは脱出することに成功した。
「ありがとうございます! ハドラー様!!」
ジゼルは90度のお辞儀をして感謝した。自分の為に私物を破壊したのだ。メイドという立場からすれば歓喜するのは当たり前である。
「ジゼル。お前以外に生存者はいないのか?」
「ええ……メイド長ことPAD長……グズッ……それにヒッ……私以外のメイド達の悲鳴が聞こえ……ましたから……」
ジゼルは自分の仲間達が死んだことを未だに受け入れられず泣いた。
「……泣くなジゼル。お前にやって貰いたい事がある」
ハドラーは何か決意したかのようにジゼルに頼みごとをした。
「なんでじょうか?」
ジゼルはまだ涙目でハドラーにそう尋ねた。
「この屋敷の留守番をしろ」
「えっ? それじゃハドラー様は?」
「地上だ。俺は地上の人間を滅ぼす」
「イヤです! 私もどうか……「黙れ」えっ!?」
ハドラーはジゼルの言葉を遮った。
「ジゼル。俺はお願いをしているのではない。命令しているのだ」
「……ハドラー様。何故地上の人間を滅ぼそうとしているのですか? 魔界に住む人間でもよろしいのでは……?」
ジゼルは地上に出る理由を尋ねた。別に復讐をするなら魔界にいる人間を屈すれば良いからだ。
「……魔界にある魔素の影響は人間を魔物に変える。そんな人間を狩った所で意味などない」
「だから地上を……!」
「そうだ。そして俺は地上を征服する」
「なっ……!? 地上を!?」
「女であるお前には理解出来ないだろうがな……俺は1人の武人としてどこまで通じるのか試してみたい……その衝動を抑える度に俺を苦しめる」
そしてハドラーは地上に出る支度をいつの間にかしており、ジゼルはそれに気がついて手伝った。
その後、ジゼルはバランと出会い別れ、しばらくするとハドラー敗北の情報を得た。
「私は一体何のために修行してきたの? ハドラー様無しでどうやって生きていけばいいの?」
ジゼルは自問自答していた。ハドラーはアバンに敗北し、アバンは勇者として生き生きとしていた。一方自らの恩人ハドラーは死んでいた。ならばどうするか? それだけがジゼルの頭で一杯だった。
「会いたいか?」
するとどこからともなく声が聞こえた。
「誰?」
ジゼルが振り向くとそこにあったのは悪魔の目玉だった。その映像にはカーテン越しに写っている声の主がいた。
「余は大魔王バーンなり。それよりも貴様はハドラーに会いたいのか?」
声の主、バーンがそう言ってジゼルを勧誘しに来たのだ。
「もちろんです!」
「貴様の実力は大したものだ。悪魔の目玉越しでもよくわかる。そこでだ。余の魔王軍に所属せんか? もちろんハドラーの配下として所属することも可能だ」
バーンはハドラーを餌にジゼルを上手く勧誘し、ジゼルの様子を見た。
「なります!」
ジゼルはそれを聞いて即答だった。とにかくハドラーに会えるなら何一つ問題はない。そう思っていたからだ。
「よかろう。それでは迎えを待っていろ。余の配下ミストバーンが迎えに来る」
こうして魔王軍の親衛隊隊長は生まれた。
ABC「モンスターABCのあとがきコーナー!」
A「と言う訳で再びジゼル様の過去でしたね。」
B「なんでこんな過去編やったんだろうな?」
C「バラン様だけが語られちゃバラン様ルートになるからじゃないからですか?」
ABC「…ありそうだな。」
A「いやいやそんなことはないよな?フレイザードもジゼル様のことは慕ってたし。」
B「でもハドラー様のことは慕ってなかったし…どうコメントしたらいいかわからん。」
C「ああくそっ!もう時間だ!」
ABC「次回も見てくれよな!!」