「うえ~」
ジゼルは無茶しすぎて身体を横たわせていた。
「ザムザ後で覚えてなさい」
この場合ほとんど自業自得だが気にしてはいけない。それがジゼルクオリティだ。
~某所~
『ハドラーはいるか?』
ミストバーンはハドラーを探していた。かつてのクロコダインの住処、ヒュンケルの拠点などを探したがどこにも見当たらなかった。となればいる場所はジゼルの場所かザボエラの場所──前者は無理なので後者であるザボエラの拠点にミストバーンは来ていた。
「えっ、いや、その、居るにはいますが……」
ザボエラはミストバーンに怯えていた。何回も殺気付きで睨まれていたらそうなる。
『……』
ミストバーンは無言でザボエラの抗議を無視して入っていった。
そして奥深くに入ると変わり果てたハドラーが蘇生液の中にいた。
「ミストバーンこの姿惨めだろう?」
ハドラーは目を開き、ミストバーンに話しかけた。
『……』
「ミストバーン。パプニカ王国で世界会議──つまり世界の要人が集まるのは知っているな? そこで頼みがある」
『お前の代わりにそれを潰せというのか?』
「そうだ。俺はあいつに守られたまま今まで魔軍司令として過ごしてきた。だがもううんざりだ、そんな怠惰な生活は。俺はダイとバランとの戦いを見て何を思ったかわかるか? ミストバーン」
『……』
ミストバーンは無言を貫いた。
「俺は興奮した。あの二人の戦いを見てな……あの二人と戦い、倒してみたいと心からそう願った。だがそれをするにはあまりにもレベルが違う! 少なくともジゼルを超える必要がある……」
『その為の超魔生物化か?』
「そうだ! ジゼルを超えるにはそれ以上のスペックが必要だ!」
『だが超魔生物はお前の得意としている呪文も使えなくなる欠陥だらけのものだぞ? バーン様にとってもお前にとってもメリットはない』
そう、それだけならまだロモスを攻めた時のクロコダインの方がマシだ。ハドラーはパワーと呪文が使えてこそ価値がある。それを捨てるなどとんでもない。
「その心配は無用だ。変身という機能があるから魔力を失うのだ。俺自身を超魔生物にすることによって魔法は使えるようになる!」
『なっ、何ぃっ!?』
ミストバーンがハドラーの前では初めての驚愕の声を上げる。
『ハドラーよ! お前は魔族の身体を捨てて永遠に化け物のまま生きるというのか!?』
ミストバーンが驚いたのは自らの身体を捨ててでもダイ達に挑むということだ。
「構わん! 俺はあいつらと戦いたい……ジゼルもわかってくれるだろう。それに妻を守るのが夫の役目だ」
『……わかった。お前の意見を聞こう。だがジゼルはどこだ?』
「知らん。あの馬鹿またやらかしたのか?」
『そうではない。奴は育児休暇を貰って以来行方がわからんのだ』
「……そういう時は放っておけ。奴のことだ。何か考えているに違いない」
そこらへんは相変わらず、対処は変わらなかった……
『……そうか。パプニカは私に任せておけ』
そしてミストバーンはパプニカ王国へと向かった……
~数日後~
いよいよ世界会議当日となりパプニカに世界各国の要人達が集まったがそこにジゼルの姿はなかった。
「キィ~ヒッヒッヒッヒッ!」
パプニカにザボエラの笑い声が響り渡り、全員が上にいたザボエラを見ようとするがそこに姿はなく代わりにあったのは、岩の蛇と、それに乗っかっている悪魔の目玉に妖魔師団の魔物だった。
「おはよう諸君! ワシは魔王軍妖魔師団長ザボエラ。本日をもってこのパプニカは滅亡するのじゃぁぁぁっ!」
ザボエラは問答無用で空から妖魔師団の魔物達を使い、パプニカの建物や人間達をヒャド系の魔法で凍らせた。
「(さて……ミストバーン。ワシの補助を受けたんじゃからワシに感謝すんじゃぞ? 見返りはたっぷりとして貰うからの……ヒヒヒッ!)」
ザボエラは鬼岩城を隠すと聞いてチャンスだと思い、部下達にパプニカに行きヒャド系の呪文だけを使うように命令した。ヒャド系の呪文ならば温度だけが下がり、結果空気中の飽和水蒸気量が減り、霧を発生しやすくなる。
しかしそれ以外は温度の上昇や風の影響で霧がなくなり台無しになってしまうがメラ系やギラ系それとイオ系の呪文は威力が強い為対策が出来ているが、ヒャド系の呪文を対策しているというのはほとんどない。
ヒャド系の呪文を一気にやられたら、威力も大きいが魔力の消費も多い3系統の呪文に頼ざるを得なくなる。つまり無駄に魔力を消費させるというのがザボエラのもう一つの目的なのだ。
「(さあ……呪文を使うなら使えばいい。その時は貴様らが絶望するのじゃからな!)」
更にそれだけではない。呪文を使えば気温が必然的に上がり鬼岩城が見えるようになり精神的なダメージを負わせることになる。使わなかったとしても鬼岩城が隠れるので好都合だ。
「最初は妖魔師団の魔物をやっつけるんだ!」
ダイ達がそう言って剣を持つが前に立つものが現れ妨害された。
「待てダイ」
そこにいたのはヒュンケルだった。ヒュンケルが剣を持つとラーハルトから授かった鎧を着た。ヒュンケルの鎧よりもラーハルトの鎧は視界が大きく、スピードも出やすくなっている為メリットが大きい。結果ヒュンケルの鎧は御蔵入りとなってしまったのだ。
「ここは俺達二人で十分だ」
クロコダインが前に上がり、右腕に闘気をみなぎらせる。ボラホーンを一撃で倒した獣王会心撃だ……この技は威力もあり範囲も広い。クロコダインの一番の切り札と言っていいくらいの大技だ。
「無茶だよ! たった二人であんな数どうやってたおすんだよ!?」
しかし、二人が相手にするにはあまりにも妖魔師団の魔物達は多すぎた。妖魔師団の魔物は100を超える勢いなのに二人でやるには荷が重い。ダイは少なくともそう思っていた。
「何、心配いらん。俺もヒュンケルもパワーアップしてきたのだ」
クロコダインが左腕にも闘気をみなぎらせる。
「その通りだ。俺達は今までの俺達とは違う」
ヒュンケルが剣を構え、剣を火で纏わせた。
「なっ……!?」
クロコダインが両方の腕で獣王会心撃をすることとヒュンケルが魔法剣を使えることにダイは目を開いた。
「さあしかと見よ! 獣王──」
クロコダインは更に両腕に闘気を溜め、威力を高めさせる。
「ブラッディー──」
ヒュンケルは回転させるスピードを上げ火をより炎上させる。
「会心撃、痛恨撃!」
「スクライド!」
二人の必殺技が妖魔師団達を飲み込んだ。
「凄えっ! あの大群を一気に蹴散らしたぜ」
ポップは妖魔師団が消えたことに驚き、目を開いた。
「いや、どうやらもっと厄介な奴が出てきたようだな」
クロコダインのセリフの直後、霧が晴れ次第に巨大な鬼のようなものが見えてきた。
「な、なんだこりゃあっ!?」
ポップは久しぶりに鼻を垂らし、それを見る……
「あれは俺達が見た頃とは違うが鬼岩城だ」
ヒュンケルがその巨大なもの──鬼岩城を解説した。
「撃てーっ!!」
ドドドドッ!
すると隣からそんな声が聞こえると大砲の発射音が連続し、大砲の弾が鬼岩城を攻撃した。
「がはははっ! どうか! 見たか驚いたかびっくりしたか! これが我がベンガーナ王国が誇る最新兵器だ!」
ベンガーナ国王がそう大声で大砲の威力などを自慢し、ベンガーナの力が如何に優れたものか国民だけでなく他国民達にも理解させる。事実鬼岩城はひび割れて鬼岩城が崩壊した……かに見えた。
鬼岩城は徐々に姿を現した。鬼岩城は周りの表面の岩を攻撃されただけで本体は全くの無傷。それを見たベンガーナ国王は大したことはないと思い、大砲を打たせたが……それでも無傷。そして大砲は鬼岩城の攻撃によってぐちゃぐちゃになり使い物にならなくなった。
「なんということだ……!」
ベンガーナ国王は心を折られてしまい、膝をついた……
『パプニカ王女レオナ、そして世界各国の指導者よ』
氷のような冷たい声が鬼岩城から響き、全員が鬼岩城を見る……
『我は偉大なる大魔王バーン様の配下、ミストバーンである』
その声の持ち主……ミストバーンが自己紹介をするとヒュンケルが鬼岩城を更に睨み、今にも飛びかかりそうだった。
ミストバーンはヒュンケルの闇の師──言ってみればヒュンケルの黒歴史の一つなのだ。
食事は魔界の植物などを使うためゲテモノばかりでロクでもないものだった。しかし味が悪かったと言えばそうではない。むしろミストバーンの上司であるバーンが絶賛する程だ。アバンとジゼルによってヒュンケルの舌が肥えているだけなのでそれに比べるとどうしてもゲテモノにしか感じなかった。
とにかくヒュンケルにとってミストバーンは倒すべき存在である。
『命令する……死ね』
ミストバーンは降伏すらも許さなかった。
ABC「モンスターABCの後書きコーナー!」
A「ジゼル様の出番は少なかった今回でしたが…ようやくここまで動きましたね。」
B「そういえばこの小説が始まってから一年以上経つんだな…」
C「そう思うと作者も頑張ってよかったと思っていますよ。そして俺たちも。」
A「まだまだ伏線回収し終わっていないから終わる気配すらも見せない…これはいいことなんだが回収できないなんてことはやめて貰いたいものですよ…」
B「全くだ…それで失敗した例はかなりかなりあるしな…」
C「おっと…時間ですね…」
ABC「次回もお楽しみに!」