~某所~
「はあっ、はあっ! くそっ!!」
ガルダンディーはとにかく逃げていた。その理由はというと
「ほ~ら、おとなしく殺されちゃいなよyou!」
キルバーンがしつこく追いかけて来たからである…キルバーンの口調が変わっているのは気分によるもので、特に意味はない。
「キャハハハ! キルバーン、ドS~!!」
使い魔ピロロが笑いガルダンディーをコケにする…
「ほらもういっちょ。」
グザッ!
キルバーンの鎌がガルダンディーの羽根を斬り、ガルダンディーを動けなくする。
「グッ……!!」
ガルダンディーはそれを堪え、羽根を羽ばたき逃げようとするが、飛べない。ガルダンディーの騎乗していたスカイドラゴンのルードはキルバーンによって殺されている。それを知らないガルダンディーはむしろ幸運かもしれない。知っていたらガルダンディーはキルバーンに立ち向かい、真っ先に死んでいたはずだ。例えジゼルによるトラウマが植えられてもだ…現在ガルダンディーが逃げているのはジゼルのトラウマが原因である。
「仕方ねえ」
ガルダンディーはこうなったら足で逃げるしかないと判断し、地上に降りて足で駆けるが、キルバーンが飛ぶ速度に比べたら遥かに遅い。
「無駄だよ無駄無駄♡」
キルバーンはガルダンディーの背中を斬り血吹雪を出させる。
「グァッ…!!」
しかしガルダンディーはその痛みすらも感じないように出来るだけ逃げようとする…いや正確には竜騎衆の集まるアルゴ岬へと移動しようとしていた。そこに行けばバランがいると思っているからだ。
「君の狙い、わかっちゃった。大方君はあれだろう?バラン君に助けを求めようとしている。だけど無駄だよ。君は気絶していたからわからないけどバラン君は今、傷を癒している真っ最中。君を助ける暇なんてないんだよ。」
キルバーンはガルダンディーの狙いに気づき、そう指摘した。
「う、嘘をつくな……ぜー、バラン様がそんなに弱いわけない……!」
しかしガルダンディーは信じなかった。何故ならガルダンディーにとってはバランは絶対の存在だと認めていたからだ。
「残念だけど奇跡が起きてね。勇者ダイが記憶を取り戻して疲れ果てたバラン君を倒したんだよ。流石に死にはしなかったけどそれでも重傷は負ったみたいだしね。」
しかしキルバーンの言ったことは事実だ。バランは今治療をしておりガルダンディーの元に駆け寄るのは無理だった。
「じゃあね。」
キルバーンがそう言ってガルダンディーにトドメをさそうとするが…何者かによって止められた。
「そこまでだ、死神。」
その声はガルダンディーの主人であり、ダイ達とも戦った竜の騎士であるバランだった。
「バラン様。ありがとうございます。」
ガルダンディーはバランに礼を言ってその場に倒れる。
「ふ〜んもう身体の方は良いのかい?」
キルバーンはバランの登場に意外そうな声を出した。
「貴様ごときに遅れを取る私ではない。死ね。」
バランは真魔剛竜剣を取り出し、キルバーンを真っ二つに斬った。
「流石バラン様、ありがとうございます。ですが俺はもうダメです、血を流し過ぎました。」
ガルダンディーは気づいていた。どのみち自分は助からず、このまま多量出血で死ぬということを。
「ラーハルトもボラホーンも死に、せめてお前だけは生きて欲しかったが死神が相手では運が悪かったか」
バランは自らの部下が自分よりも早く死ぬことを哀しみ、そう言った。
「バラン様、最後にこれを……」
ガルダンディーがそう言って渡したのは一枚の普通の薬草だった。
「む?これは!?」
バランはそれを受け取り、薬草を見て驚く。
「まさか竜騎衆の中で一番弱い俺が長生きしちまうなんて思いもしませんでした…」
ガルダンディーは最期にそう言い、死んだ。
「ガルダンディー、逝ったか」
バランはガルダンディーを棺桶の中に入れて軽く土を掘り…その穴に棺桶を入れて土葬した。
「た、大変だ〜!!」
バランが去るとピロロがそう言って粉を取り出し、真っ二つにされたキルバーンにかけた。
「う、ふふふ。バラン君相当やるね。まあ一匹は駆除したし良しとしよう。」
キルバーンは復活し、元に戻った。
〜ロモス〜
ロモスではロモス国王主催の武道会が開かれていた。その武道会には様々な人間達が集まり、優勝賞品を狙っていた。
「覇者の剣か」
その優勝賞品は覇者の剣。世界で最も硬く強い金属、オリハルコンで出来た剣なのだが、一人だけその覇者の剣が偽物だとわかっていた。
「(覇者の剣は既に魔王軍の元にあるのを知らないの?)」
そう、ジゼルだった。彼女は武器回収をする際に覇者の剣を回収していた。覇者の剣はハドラーに献上しており、魔王軍の元にあった。
「(魔王軍の誰かが裏切ったか。あるいは人間を集めて何かをする作戦なのか。どちらにしても気になるわね。)」
ジゼルは何にしてもここで考えても仕方ないので武道場に入った。
「それでは受付が終わりました。ゼシカ様。控え室でお待ちください。」
ゼシカというのはジゼルの偽名だ。もし本名であるジゼルと登録したら魔王軍の足を引っ張ることになるし、それに悪魔の目玉で見た顔…マァムがいたのでジゼルが魔王軍の手先だとわかれば襲われる危険もある…それ故にジゼルは顔を隠していつもの格好とは違いモシャスをして人間に化けて魔法戦士のような格好をしていた。
ちなみにジゼルがゼシカという名前を使ったのは暗黒神ラプソーンを封じた七賢者の内の一人シャマル・クランバートルの娘ゼシカ・クランバートルに由来する。
「それでは選手の皆様は集合してください。」
ジゼル達一同はそう呼ばれ集合することになった。
「それでは予選を開始しますので名前を呼ばれたらリングに立ってください」
司会者がそう説明すると紙を開いた。
「ではラーバ選手とゼシカ選手舞台にお立ちください。」
早速名前が呼ばれ、ジゼルがリングに立つと…
「おいおいあの嬢ちゃん、可哀想だな。」
「ああ、優勝候補No.1のラーバに当たるなんて不幸にも程があるぜ」
そんな話を聞いてジゼルは…
「(この人ボロボロにしたらどうしよう。手加減出来るかな? いや手加減しないと注目を浴び過ぎて逆に危険ね)」
そう、よりによってジゼルは優勝候補No.1の相手と戦わなくてはならない…ボロ勝ちしても注目されてしまうので手加減することは当たり前のことだった。
「それでは始め!」
「(私のような闘技場のなかでは小柄な体型はスピードタイプが多い。少なくともパワーでねじ伏せるような真似は止めないと)」
ジゼルはそう考えて作戦を立てた。
「ウォォォォッ!!」
ラーバがジゼルに殴りかかってくるがクロコダインという典型的なパワータイプをパワーでねじ伏せたジゼルにとっては脅威ではなく、冷静に対応する。
「遅い…」
ジゼルはヒュッ!と避けてラーバの攻撃を避けた。
「(速いっ!)」
それを見ていたマァムはそう思わざるを得なかった。マァムはブロキーナに師事してきたがあれ程までに速く動けるかと言われれば否だ。ジゼルは修行の際にベンに後ろを取られたことがある。スピードが遅い? 違う、スピードならジゼルの方が上だろう。ベンの最大の特徴は立ち回りの良さだ。パワーアップしたクロコダインですらもベンの立ち回りの良さに苦しめられた。ジゼルはそこから学び取り、1〜2回行動くらいは出来るようになった。
「はあっ!!」
ジゼルは避けた瞬間に素手で疾風突き(普通ならリーチの関係上槍だがそれを補うスピードがジゼルにはあった)を放ちラーバの腹に炸裂する…すると
バキバキッ!
という音がラーバから聞こえてきた。ラーバの背中の骨は折れ、気絶し戦えなくなってしまった。
「(この人、パワーに関しては私と同じくらいだけどスピードが桁違いね)」
ジゼルは疾風突きを放ったはずなのだがマァムからしてみれば正拳突きに見えた。何故ならラーバからは自分の正拳突きでやったと同じような音が聞こえたからだ。それ故にマァムがジゼルの戦闘スタイルが超スピード型と判断してしまった…
「審判?」
審判からジゼルの勝利宣言の声が聞こえて無かったのでジゼルは審判に尋ねた。
「10.2!魔法戦士ゼシカ選手予選突破です!」
こうしてジゼルは予選最速のタイムで予選を通過した。
それからしばらくし、予選も順調に進んでマァムの予選が始まった。マァムの相手はクロコダイン並の大男でかなりマッチョだ。何をどう食事したらそうなるのか疑問だがそれはジゼルにとってどうでも良かった。
その理由はある一人の男に視線を注がれていたからだ
「(これはダイ君の匂い…?)」
ジゼルは竜の血を引いており身体能力が非常に高く、嗅覚も高かった。そのため何度も会ったことのあるダイの匂いを覚えており嗅ぎつけたという訳だ。某犬刑事などと突っ込んではいけない。
「3分15秒!武道家マァム選手予選突破です!」
ジゼルがそんなことを考えているとマァムが試合を終わらせてダイ達にいる方向に近づいた。
「聞こえたわよぉ? ポップ?」
マァムがドスの効いた声でそう言ってポップに近づくとポップが青い顔をした…と言うのもマァムの試合を見ていたポップが「こんな化け物見たいな力の持ち主が可愛い顔してる訳ねーって!」などとマァムの顔を見ずに大失言してしまったからだ。
「も、もしかしてマァム、か?」
ポップは頭ではわかっていた。しかし身体が拒否していた。「ええ…もちろん。」
マァムはにっこりと笑っていたが目が笑っていなかった…
「歯ぁ食いしばりなさいっ!」
ドガッ!バキッ!!メキャッ!!!
〜お仕置き中しばらくお待ちください〜
「まひかいねえや、このほうりょくせいとなくりかた…(間違いねえや、この暴力性と殴り方…)」
ポップはお仕置きされたことによってマァムだと確信する。ちなみにマァムがポップに対して最初にお仕置きしたのはマァムが男と勘違いされたのに対しジゼルがスタイル抜群の持ち主だと発言したことである。
「痛っ、何だ?」
しかし後ろから不自然な痛みを感じ後ろを振り向くとそこには大ネズミがいた。
「ん? なんだこいつ?」
ポップは今までのことが非常識過ぎて全く動じなくなっていた…クロコダインは魔王軍の元軍団長という立場だったが平気で人と混ざって宴会を楽しんでいたし、ヒュンケルも魔物に育てられていたのいうのは聞いた…またアバンから邪悪なる魔物から邪気を追い出して魔物を扱い、戦う魔物使いやそれらに酷似したモンスターマスターなる職業の話も聞いていた。もちろんポップは魔物から邪気を追い出す才能はなかったため魔物使いやモンスターマスターにはなれないが…
閑話休題…恐らくこの大ネズミは魔物使いなどの手によって邪気を追い出され、生活が自由にできるのだろうとポップは考えた。
「なにやっているんだよ?! ポップ!?」
しかしダイはそんなことは知らない。ダイだけがパプニカのナイフを出して警戒していた。端から見ればアホ丸出しである。
「おめえ、アバン先生から魔物使いやモンスターマスターの話聞いてないのか?」
「何それ?」
ポップはダイに魔物使いやモンスターマスターの説明をした。
「ふ〜ん、そんな職業があるんだ。俺も出来そうだしやってみようかな。あ、俺勇者って職業だし無理か。」
などとダイは冗談を織り交ぜつつも感心していた。実際にダイはデルムリン島でモンスター達を巧みに操っていた…もしもダイが勇者で無ければ魔物使いやモンスターマスターになっていたのかもしれない。
「正確に言うとこの子は私の師匠、武術の神と言われる拳聖ブロキーナに改心されて私と一緒にブロキーナ老師に師事した兄弟弟子なの。空手ねずみのチウよ。」
マァムがそうチウを紹介するとチウは偉そうにふんぞり返っていた。
「僕が空手ねずみのチウだ。以後よろしく頼むよ。フフフ…」
そう言ってチウは不敵に笑う…
「空手ねずみ…ってそのリーチの長さで届くのか?」
ポップは空手と言うからには何か手があるのかと思っていたら…
「僕ならなんとでもなるさ!」
とウザいまでのドヤ顔でチウは答えた。
「ところで君が勇者ダイかい?」
チウはダイに話しかけた。
「そうだけど。」
「意外と小さいんだな…プ…」
チウはバカにするように少しだけ笑った。
「そ、そうかな…」
ダイは複雑だった…スケベ大王にスケベと言われるかミラクルバカにバカと言われるようなことは初めてだった…チウの身長はダイの胸程なので察して欲しい。
「それではレスラー・ゴメス選手と空手ねずみのチウ選手。リングにお上がり下さい。」
「おっと…時間だ。それじゃ僕の勇姿を見たまえ。ハハハ!」
司会者の声が聞こえ、チウは笑いながらリングへと向かった。
「もしかして勇者ダイってのは君かな?」
するとチウと入れ代わりにジゼルがダイに話しかけてきた。
「え?ええ、そうですけど。」
「いや〜君がダイ君か。噂は聞いているよ。なんでも魔王軍の軍団長をバッタバッタと倒して行ったとか!」
ジゼルは初めて会うかのように接してしかも口調も男みたいに変えた。こうすることでジゼルだと悟られないようにするためだからだ。
「ところであんたは?」
案の定、ダイはジゼルに気づかず名前を聞いてきた。
「私か? 私はゼシカだ。この武闘大会に出場している者だ。マァム君、予選突破おめでとう。君と戦うことを祈っているよ。」
「あ、ありがとうございます。そちらも予選突破おめでとうございます。」
マァムはまさか優勝候補No.1を破った相手に声をかけられるとは思わずに戸惑っていた。
「そう言えば、そこの魔法使い君は一体?」
ジゼルは一応知っているが初めて会う設定なのでポップの名前を聞いておいた。
「俺? 俺はポップだ。よろしくなゼシカさん。」
「ああ、よろしく。」
かくしてジゼルはゼシカとしてダイ達に接触することに成功した。
ABC「モンスターABCの後書きコーナー!」
A「はい。というわけでまたもや出番がなくなった俺たちですがザムザ編スタートしましたね。」
B「う〜ん…作者がやる気を出してくれればいいんだが…」
C「作者は武道会編ってほとんどネタを考えていませんしね…」
A「それはともかくガルダンディーは即死亡しましたね…」
B「作者としてはガルダンディーをゲスのまま殺したかったそうだが…まあ仕方あるまい。」
C「ガルダンディーって作者が一番嫌いなタイプですからね〜」
A「それにしてもゼシカってあれですよね…」
B「元ネタはもちろんⅧだ。俺もⅡじゃなくてⅧが元ネタだ…作者はⅧが好きなんだよ…」
C「あ、そろそろ時間です…」
ABC「次回も見てくれよな!」