〜バルジ塔〜
ジゼル達一行はバルジ塔に来ていた。それというのもフレイザードが眠っている地であるからである。
「しかし今更何故ここに来たんですか?」
「うん。フレちゃんと過ごしたあの日が懐かしく思って、ここに来たの」
ジゼルは思い出す。フレイザードが食事の前に(本当にその必要性があるのか疑問だが)つまみ食いをして追いかけたことを。
だがジゼルもフレイザードも幸せだったに違いない。形はどうあれジゼルはハドラーとの子供の面倒を見て楽しかったし、フレイザードはジゼルを本当の母親のように感じていた。フレイザードにあそこまでの出世欲があったのはジゼルへの恩を返すためだ。
「フレイザード様に報告でもするんですか?」
しばらく出番のなかったアークデーモンAことアクデンがそう言って尋ねる。
「そんなところ。はあっ!」
ジゼルはそれだけ言うと地面を殴った。
すると地面が揺れ、亀裂が入り、そこからマグマが発生した。
「い、一体何をする気ですか!?」
ガーゴイルCことカラスがそう聞くがジゼルは無視した。
「マヒャド!」
ジゼルはマグマの出した方向の逆にマヒャドを唱えた。
「/$%〒^×*€¥°」
ジゼルは某情報思念体の早口言葉のように通常の人間や魔族が理解出来ない言葉を発した。すると凍てつくマヒャドの氷の塊と灼熱のマグマから生まれた炎の岩石が一つに集まると徐々に人型が出来て来た。
「まさか、そんなやり方でやるとは」
ベリアルBことベンはジゼルのチートじみた行動に呆れ、溜息を吐いた。
「……ん? 俺は確か、ダイにやられて死んだはずじゃ?」
そう、ジゼルはフレイザードを復活させたのだ。
「フレぢゃ〜ん!! 良かったよ〜!!」
ジゼルは涙をボロボロと流し、フレイザードに抱きついた。
「わっ!? お袋!?」
フレイザードはジゼルが抱きついたことに驚き、前よりも冷静に状況を把握する。
「(……お袋、どうやら俺を蘇らせたみたいだな。こいつは嬉しい誤算だ。ダイ達に復讐するのもいいが、一番許せねえのは俺を利用したミストバーンだ。お袋やハドラー様には悪いが魔王軍を抜けさせて貰うぜ)」
フレイザードはミストバーンに復讐する為に魔王軍から抜けることを決意した。それを言おうとしたが予想外の言葉がフレイザードの時を止めた。
「フレちゃん。私、ハドラー様との子供を産んだんだよ」
ピシィッ! フレイザードはその言葉に硬直した。
「言語が限りなく今の言語に近かったが、何語で話したんだ? 古代語か?」
「だから、私とハドラー様との子供なのよ。この赤ちゃん」
「ついにハドラー様耐えきれなかったか。仕方ねえか」
フレイザードはまだまだ産まれたての上、禁呪法で作られた存在であるが故に性欲の概念もない。しかしジゼルが押して、ハドラーはそれを回避する。それの毎日を見ていたら限界もくることはフレイザードにもわかっていた。
「フレちゃん、貴方に頼みがあるの。しばらくの間この子の面倒を見て欲しいの」
「……なあ、ベン」
フレイザードは思わずベンに尋ねた。
「なんだ?」
「お袋はなんて言ったんだ? 俺には全くわからない言語で喋っているようにしか聞こえなかったが?」
フレイザードは現実逃避をし始め、ジゼルの言った言葉を古代語か何かと置き換えた。
「現実逃避をするな、フレイザード。ジゼル様はお前にその赤ん坊の面倒を見るように頼んでいる」
「ふぅ~、やっぱりか。しかしなんで俺なんだ? 別にお袋が面倒見ても問題はねえと思うが」
フレイザードは何も考えていない訳ではなくジゼルが何故自分に子守を押し付けるのか理解出来なかったのだ。と言うのも魔王軍でも子守をするケースもあったからだ。ハドラーの魔王軍最強の騎士バルトスはヒュンケルの面倒を見ていた。そのおかげでフレイザードにとっては認め難い事実だがヒュンケルは六軍団長にも推薦された……だからフレイザードにとっては下の兄弟にあたるこの子供も魔王軍にいた方が都合がいいと思った。
「フレちゃん。どうせ魔王軍に戻らないでしょ?」
「なんのことだ?」
フレイザードはすっとぼけるがジゼルには無駄だ。
「ハドラー様から聞いたけどミストバーンに利用されたそうね。フレちゃんの性格上、ミストバーンに復讐することを望むはず。復讐がいけないことなんて言わない。むしろ私はそれで正しいと思っている。それが当たり前の感情なんだから……」
「お袋、俺を応援するのはありがたいんだがそれは魔王軍の敵を作ることになるんだぜ?」
「もう、魔王軍には絶望したわ」
「ハドラー様が死んだからか?」
「ううん……生きているよ。むしろ元気なくらい。だけど違和感を感じていたのよ」
「そりゃどういうのだ?」
「ミストバーンによって復活した時のハドラー様、殺し屋キルバーン。この二人から感じた匂いがどうも変な感じだったの。で、その匂いがハドラー様に抱きついてとあるものの匂いだって気づいたって訳」
「黒の核晶か?」
フレイザードはジゼルが嫌がるものをある程度知っていた。そのなかには黒の核晶という爆弾が入っていた。この爆弾は魔法使いなどではタブーとされている禁呪法をホイホイと使う魔族ですら恐れる恐怖の爆弾だ。使用例はヴェルザーなどの超過激な者しか例がない為使ったら歴史に悪い意味で残る。
「「「な、なんだって!?」」」
モンスター三匹はその事実に驚く。黒の核晶もそうだが、何よりも驚いたのはあの抱きつくスキンシップに意味があったことだ。
「そう! あの大魔王バーンは、ハドラー様との約束を違えたばかりか、ハドラー様に黒の核晶を埋め込んだ張本人……私はバーンが許せない……っ!! だから私はバーンに復讐する為に育児休暇と偽ってさりげなく魔王軍を抜けるっ!!」
ジゼルは育児休暇を利用して魔王軍を抜けることをフレイザード達に話した。
「ふ〜ん。それで俺が赤ん坊を世話することの理由になっていないがどう説明するんだ?」
「それはね、フレちゃんは魔王軍に直接対峙する訳にも行かないでしょ? 私は変装すればダイ君達を使って魔王軍とも対峙できるけどこの子の面倒を見なければならない。お互いに有利に事を運ぶにはそれが一番良いかなって思って」
「なるほどな、それでお前らどうするつもりだ?」
フレイザードはモンスター三匹に対して忠誠心があるか一応質問した。
「ふっ、舐めるなよフレイザード」
ベンがそういうとアクデンが続いた。
「その通り、我々三人は」
アクデンの次はカラスが続いた。
「ジゼル様に」
そして三人が声を揃えた。
「「「忠誠するのみ!!!」」」
三人はドヤ顔でそう答えた。
「ありがとうみんな!!」
「お袋、そういえば赤ん坊の名前は決まっているのか?」
「もちろん! 名前はハドラー様、ラーの鏡、伝説の不死鳥ラーミアのラーと風のゼファーと私の名前のジゼル、そしてヒュンケルとその義父バルトスからちなんでラーゼル、この子はラーゼルよ」
「絶対ハドラー様とお袋の名前を足して2で割っただけだろ?」
フレイザードが触れてはいけないところを突っ込んだ。
「ラーゼルよ。この子は……良いわね?」
ジゼルは半ギレし、低い声を出した。
「わかったから殺気飛ばさないでくれよ」
フレイザードはそれに呆れながらもラーゼルをみた。
「そういえば、ジゼル様」
カラスがそれまで疑問に思っていたことを聞こうとジゼルに尋ねた。
「何?」
「ラーゼルって男の子なんですか?」
そう男女の区別がわからなかったのだ。
「いや女の子よ。可愛いでしょ?」
ジゼルはラーゼルという名前が女の子の名前だと完全に思っていた。
「はあ、そうですか」
カラスにはそのセンスが理解出来なかった。
というわけでオリキャラ、ラーゼルの登場です。ラーゼル自身はこちらが原点ですが私の作品の中では初登場ではありません。登場するのに遅れたのはバラン編が長引いたことが原因です。