バランはダイをずっと見つめていた…
「おじさんは誰?」
ダイが口を開き、バランに尋ねた。
「私はお前の父親だ…」
バランは竜魔人となっても父親としての意識はあり、物静かにそう答えた。
「でも、おじさんの姿…まるでバケモノだよ。」
「……確かに今の私の姿はバケモノそのものだ。お前はどうやら母親の血が濃いようだ…故に竜魔人とはなれぬだろう。だが…その布をとってみるがいい。」
バランは竜の紋章を輝かせた。するとダイがポップが託したバンダナをとった。
「再びダイの竜の紋章が輝き出した!?」
ポップは驚きの声を上げた…というのもダイの記憶が消えてしまい、竜の紋章が全くと言っていいほど輝いていなかったからだ。
「あ…わかる!わかるよ!おじさんは嘘をついていない!」
「その紋章こそが私とお前をつなぐ証なのだ…私はお前の父さんなのだよ…」
「父さん…!」
フラッ…!
ダイはバランに近寄ろうとするが…そこに立ちふさがったのはこの中で唯一動けるポップだ。
「…どけ!」
バランが激怒し、ポップに殺気を放つが今のポップには無意味だ。
「どくかよ…俺は他の誰よりも無様だった…けどな!俺はダイに出会って人生が変わった!ダイに出会っていなければ俺はもっと無様に暮らしていた!!そこにいるヒュンケルもそうだ!ヒュンケルは育ての親をアバン先生に殺されたと思い込み一生アバンを恨んで過ごしたかもしれないし、誤解が解けても永遠に罪悪感に苦しんでいるはずだ!姫さんもダイがいなければ死んでいた!…そんな俺たちを救ってくれたダイが俺たちの敵になっちまうなんて……死んでも我慢出来ねえ!!!」
ポップは魂の篭った熱い想いを言って涙を流した…ポップがレオナのことを知っているのはフレイザードを倒した宴会の時にレオナが泥酔してポップに話したからである。
「そうか…ならば死ぬが良い!」
バランが歩いてポップに徐々に迫ってくる…
「(くそっ…何かないのか?ん…この球宴会の時におっさんに貰った物だよな…この球使えるか?ダメだ!こんな球が役に立つとは思えない…アバン先生ならどうした?!考えろ…考えろ!)」
そしてポップは一つの案を思いついた。自己犠牲呪文メガンテだ…
「ダイ…そのバンダナずっと持ってろよ!俺のトレードマークなんだ…」
ポップは笑ってそれだけ言うとダイを突き飛ばした。
「え?!」
ダイは突然のことに驚き、尻餅をついてしまう。
「うおおおおぉぉぉーっ!!」
ポップが出た作戦は特攻…のように見せかけ、バランの頭に手を差し込むのが目的だ。
「あああ…!」
ダイはその時点で苦しんでいた…ヒュンケルの過去、バランの殺気、倒れているクロコダイン、そしてポップにバンダナを託されたことがキーポイントとなっていた。
「だろうな…こんな無様な姿見たくもなければ触りたくもない!ギガデイン!」
そしてバランがかなり毒を吐きながらギガデインをポップに向けて放ち、ポップに直撃した。
「ぐぁぁぁーっ!」
そしてポップの断末魔…
それは一つの奇跡だった。氷魔塔、炎魔塔での出来事…ジゼルとの対峙が関係していた。
ダイが一番最後に忘れた記憶が今蘇り、そこから連鎖が続き…
「ポップ~っ!!」
ダイの記憶が完全に戻った…
「ダイ…記憶が戻ったのか!?」
ヒュンケルがそのことに驚き、思わず叫ぶ。
「うん、大丈夫!」
ダイは笑い、そう答えた。
「また記憶を取り消せばいいだけのことよ…」
バランは竜の紋章を光らせ、再びダイの記憶を失わせようとした。
「もうそんな手には乗るか~っ!!」
ダイは紋章を無理やりというか力任せというかほぼ強引に右手に動かした。
「バカな…」
それはあり得ないことだった。本来日光や流水に弱い吸血鬼が「ガハハ」とか言いながらサングラスをかけて日光浴をしたり、「俺は世界水泳チャンピオンになる!」とか言って流れるプールに逆らって泳いでいたりするのと同じ行動である。
「バラン…俺は許さないぞ。俺の大切な記憶を奪ったばかりか大切な親友の命を奪ったりして…!!」
ダイは素手だが構え、バランに立ち向かって行った。
「戯け、小僧がぁぁぁっ!」
バランは逆ギレし、ダイの動きに合わせてカウンターを放ち直撃するが…
「そんな程度かよ…みんなには全力を出せて俺には全力が出せないと言うのかぁぁぁっ!!」
ダイは気づかないようだが実際にはバランは疲れ果てている…それもそのはず、ポップとの対峙では時間稼ぎを見事にさせられてスタミナを削られ、クロコダインとヒュンケルにはギガデインを何発も打ち、魔力が切れていた…当然ながら疲れないはずがなかった。
「舐めるなぁぁっ!!小僧!」
しかしバランは竜の騎士としての根性があり、両手を竜の形に変えた。
「貴様のような調子こいたガキにはこれが丁度良い…」
そしてそこにありったけの竜闘気を溜めた…
「この技は一撃でも大陸を破壊する技だ…受けてみよ!ドルオーラ!!」
ベンのイオグランデ、いや…それをしのぐ技が放たれた。
「うぉぉぉぉっ!」
しかしダイは両手をバランと同じように構え…ドルオーラを受け止めた。
「なんだと!?」
バランが驚くのは無理もない…同じ竜の騎士が相手となれば未知の領域も多い…だが今の彼は知能のない竜魔人である。
「ふ~っ…いて~っ!!」
バランは某世界一の殺し屋が某サイヤ人にドドン波を両腕で止められた顔をしていた…
「おのれ…」
するとバランは何を思ったのか剣を持ち出し、ダイに切りつけた。
「やはり貴様と言えど素手では歩が悪いようだな!」
バランがだんだん小物臭くなっているがそこは気にしないで欲しい…
「くそっ!」
ダイはパフニカの短剣を取り出し、必死に抵抗するが…無駄だった。リーチに差があり過ぎるのだ。
「ダイ…!受け取れ!」
すると身体を動かせるようになったクロコダインが真空の斧を投げ渡した。
「その斧は特別製だ…多少のことなら壊れはせん…!思い切りやってやれ!」
ダイは斧を持つのは初めてだが短剣よりもマシなのでバランとの攻防に応じることができた。
「アバンストラッシュ!!」
そしてダイの竜闘気入りのアバンストラッシュがバランに炸裂し、真空の斧がボロボロになり壊れた…
「…やった!やったぞ!」
ダイはバランに手応えを感じそう宣言した。
「よくぞやったダイ!真空の斧は惜しかったが、まあ…バラン相手ではやむを得ん。」
クロコダインはそう言ってダイを祝福した。
「うん!ありがとうクロコダイン!」
「それよりもレオナ姫を起こさないとな…ダイ起こしてやれ。」
ヒュンケルは冷静に状況を判断し、レオナを起こすように促した。
「はあっ、はあっ…今のは死ぬかと思ったぞ…!」
そしてダイがレオナに近づくと通常の状態のバランが現れた。
「バ、バラン!?」
「あれだけの攻撃を受けて生きていたのか!?」
「あの斧が壊れなかったら私と言えども死んでいた…」
バランが死ななかった理由はまさにその通りであり、真空の斧がオリハルコンだったら間違いなく死んでいただろう…
「…ヒュンケルよ。あのまま全員を殺し、ディーノと共に過ごしたら永遠に苦しむことになっただろう。礼は言っておく。ありがとう…」
「気にするな…ラーハルトが気にしていたことを俺は代弁したにしか過ぎない。」
「そうか…餞別としてそこの魔法使いの小僧に出来ることをしよう。」
「餞別?」
「私の血だ…私の血には当然ながら人間の血だけでなく魔族の血、竜の血も混ざっている。それ故に生前に闘志があるならばこの小僧は生き返る。」
そしてバランは自らの血をポップに流し込んだ…
「げほっ…ごほっ…!」
するとポップは生き返り、眠りについた…だが生き返るのはあまりにも早過ぎた。
「信じられん…早過ぎる…」
バランもそれに驚きの声を上げた。
ここで解説しよう…何故ポップがそんなに早く生き返ることが出来たのかを…
クロコダインに貰った球…あれこそがポップが生き返ることが出来た物なのだ。それを復活の球という…復活の球は所有者が死んだ場合復活することができる。ただしその際に復活の球は破壊されボロボロになる…
「なあ、あんたこれからどうするんだ?魔王軍に戻るのか?」
ダイがそう言ってバランに尋ねる。
「魔王軍には戻らん…もはやあそこに未練はない。」
そのことにダイはホッと息をつく…
「じゃあどうするんだ?」
「これからのことを考える…いずれ私とお前は会う機会ができるだろう。さらばだ…」
バランはそう言って立ち去って行ってしまった…
~鬼岩城~
「…終わりましたね。」
ジゼルがそういい、状況を把握する。
「バランの奴め…まさか魔王軍を抜けるとは…」
ハドラーがかなり意外そうな声を出し、興味深く見る。
「それでどうするんですか?バーン様…」
キルバーンがそう聞くとバーンは少し考え、キルバーンに向けた。
「そうだな…キルバーン、空戦騎ガルダンディーと竜騎将バランの暗殺を命じる。」
「わかりました…では失礼します。」
キルバーンは歩いて、その場を立ち去った…
「では皆の者、これにて解散だ…」
バーンが全員を解散させた。
「では私達も失礼します…」
ハドラーがそう言い、立ち去ると全員が立ち去った…
~荒地~
「こちらでどうですか?ジゼル様…」
蘇生液で復活したベンがそう言って建物を見つける。
「いいわね。ナイスよ、ベン。」
スカートを履いていたジゼルは妙な違和感を感じていた…腹痛、吐き気、その他諸々の症状が出ていた。
「もうすぐだから…待ってて…」
建物内に入ったジゼルは誰かをあやすかのように腹を撫でた…そう…ジゼルは妊娠していたのだ。
「…痛~っ!?」
しばらくするとジゼルはものすごい激痛に襲われ、ベットに横たわった。
「だ、大丈夫ですか!?」
連れてきたモンスター三匹が駆け寄りジゼルを心配する。
「こ、この~っ!!治りなさい!!」
そして…瞬時最大級の痛みが来たがそれを乗り越えて…ジゼルは赤ん坊を生み出した。
「オギャー、オギャー!」
通常なら一発で赤ん坊を生み出すのは相当難しいことである。だがジゼルの場合痛みを堪えようと力み過ぎて赤ん坊を生み出した…と言うわけだ。
「…えっとどういうこと?」
ジゼルはなんで赤ん坊がいて、しかも泣いているのかわからなかった…それもそのはず…人間ならば妊娠して10ヶ月してから子供を生み出す物だが…魔族の場合はそれに比べかなり早い。
「あー…どうなっているんだ?」
「知らん…なんで赤ん坊がここに?」
「俺が知りてえよ…」
このモンスター三匹はついに現実逃避をし始めた…
「オギャーオギャー!」
そして二回目の赤ん坊の泣き声にはっとしてジゼルは赤ん坊のへその緒を辿ってみると…自分の方に出ていた。
「もしかして私とハドラー様の子供?…どうしよう?」
しばらくの間ジゼル達は子守と名前をどうするか考えた…
ABC「「「久々のモンスターABCのあとがきコーナー!」」」
A「いやー謎の展開ですね…まさかジゼル様が子供を生むなんて…」
B「全くだ。あの人はなんでああもマイペースなんだ?」
C「いやいやそれは関係無いでしょ…それよりもB身体大丈夫なんですか?」
A「あ!それ俺も気になっていました!」
B「ん〜まあ一度死んだけどもう平気だぞ。」
C「それは良かったです…あ、そろそろ時間です。」
ABC「「「では次回もよろしくな!」」」