ジゼルとヒュンケルはハドラーの命令により、武具、薬草類など冒険には欠かせないものを買い占めていた。その理由は…
「勇者達は武器がなくては何もできまい。だったらなるべく買い占めておけば良い。」
と言う提案だった。勿論、クロコダインやバランから反対もあったが…
「武器があったから負けました…などとお前達はバーン様に言えるのか?」
と言い、クロコダインやバランを説得。
何故ジゼルとヒュンケルが買い占めに向かっているのかというと…ヒュンケルは魔王軍唯一の人間なので怪しまれない。ジゼルは変身魔法モシャスを使える中では一番人間臭かったのでばれたとしても問題はないからだ。
「ジゼル…何故司令殿が好きなんだ?」
ヒュンケルがいきなりハドラーについて聞いてきた。
「あのお方のおかげで私は助かったからね…」
ジゼルがハドラー様と言わないのは街中なので言ったら問題になるからだ。事実ヒュンケルも魔軍司令とは言っていない。
「そう…あれは…私がまだ幼い頃。」
~回想ジゼルSIDE~
私は竜と魔族のハーフとして産まれた。当然母親以外からは忌み子とかして嫌われ、迫害されていた。
母親がストレスで死んでからついに…
「お前のような竜とのハーフは死んじゃえ!」
同世代からもそう言われて、死のうかと辺りを彷徨っていた。
そんな感じで私はついに倒れた。
「大丈夫か?」
と声が聞こえてきた。その声こそハドラー様だった。
「助け…て…」
私はその声に身を委ねた。
ハドラー様は当時、近くの地域では有名な方で、私を匿ってもらいました。
「どうだ?身体の調子は?」
「おかげでよくなりました。ありがとうございます。」
「ところで何故お前は一人なんだ?」
この辺りの地域の魔族は群れで生活する習慣があり、一人で暮らすことは大変珍しかったのでハドラー様はそれを尋ねた。
私は事情を話し、ハドラーはそれを受け入れたのです。
「ふむ…なるほど。ようは竜と魔族のハーフだから迫害されたのだな。下らん。人間ならともかく、竜と魔族のハーフで揉めるなどあってはならんな。」
そしてハドラー様は動き、私を群れで生活できるようにしてくれたのです。
それはいつしか恋に変わりました。私もハドラー様も幸せでした。ところが…
「人間が攻めてきたぞ!」
「逃げろ!逃げるんだ!!」
人間による強襲によって私達の群れは私とハドラー様以外は全滅。そしてハドラー様は決意した。
「ジゼル…こんな犠牲者が二度と出ないよう、俺は地上の魔王となろう。地上を完全に制覇する時までは会えん…さらばだ!」
私はハドラー様を止めることができずに別れました。しかし、私を連れて行かなかったのは私が弱かったからです。私を守るために、ハドラー様はあえて連れて行かなかったのです。私も決意をしました。
私も強くなってハドラー様と一緒に闘いたい…
そう決意をして私はただひたすらに闘い、勝っては負けて、負けては勝っての闘いの毎日でした。
勝っても負けても、得られたものは大きかったです。そのおかげで色々な呪文や技も覚えました。だからハドラー様がなしでは私は語れません。
~回想終了~
「まさか司令にそんな過去があったとはな…」
実際にはジゼルはハドラーを美化しており、ハドラーはそんな大層なことはやっていない。
ハドラーは利用できるかできないかで判断し、救ってやっただけだし、一緒にいたのも家事に困っていたからだ。
「でしょ?だからヒュンケルもそんな立派な男になって欲しいの。」
ヒュンケルがハドラーを少し尊敬するようになり、美化されたハドラーは自分の父バルトスが産まれたのもそのせいだと思った。
~鬼岩城~
「ぶぁっくしょっい!」
ハドラーがくしゃみをして鼻水を垂らした。
「ハドラー様どうなされました?」
それを見たザボエラはハドラーの様子を伺った。
「いやまたジゼルの奴が俺の噂でも流しているんだろう…」
「念のため、風邪薬でも飲んでみたらどうです?ワシが用意しますので…」
「すまん…」
ザボエラに心配され、ハドラーはまたストレスが溜まった。
~ロモス~
なんだかんだで買い物は終わり、ジゼルはやることをしてから帰るといってヒュンケルに先へ帰らしてもらった。
「勇者でろりん様が幻のゴールデンメタルスライムを持ち帰って来たぞ!」
ジゼルが聞くには、ロモスでは勇者でろりんと名乗る者が現れ、しかも世界に一頭しかいないゴールデンメタルスライムを捕獲して帰ってきたらしい。ジゼルがやることは決まってきた。
ゴールデンメタルスライムを野生に帰らせるか魔王軍に所属させる…
後々、ハドラーが地上に出れば勝手に魔王軍に所属するので野生に帰すことにした。
「へえ…」
そういうとジゼルはロモス城へと向かった。
「うんせ、うんせ…」
ズルズル…
ジゼルが見た先にはモンスターを連れている青い服を着ている少年の姿があった。
「面白いことしているじゃない…ちょっと観察してみよ。」
ジゼルの悪い癖が出て、寄り道をした。
~ダイSIDE~
俺の名前はダイ。爺ちゃんと一緒にデルムリン島で暮らしていたんだだけど…
「ゴールデンメタルスライムはもらった!」
とか言ってゴメちゃんをさらって行ったんだ!
で、その一味のずるぼんが買い物をしていたところをデルムリン島から連れてきたお化けキノコの力を借りて眠らせて小屋に連れたのはいいんだけど…
「これからどうするの?その娘?」
いきなり後ろから声をかけられた。
ダイSIDEEND
「うわぁぁぁ!」
ダイは後ろからジゼルが話しかけられたことに驚き、ずるぼんの方へと寄って行った。
「そんなに驚かなくていいじゃない…」
ジゼルは国の兵士と間違えられるような格好をしていた。そのためダイが驚くのは無理はない。
「お役人様!この子は私を監禁しようとしていたんです!どうかとっちめてやって下さい!」
ずるぼんが役人と勘違いしたのかジゼルにダイを捕まえるように訴える。
「こいつはゴメちゃんをさらった泥棒なんだ!」
ダイも役人と勘違いしたのかジゼルにずるぼんを訴える。
「あー…落ち着きなさい。私は役人じゃないわ。じゃあそこの僧侶から聞きましょう。」
ずるぼんが言うにはダイを捕まえろだのなんだのとそんなセリフばかりだった。
「次…そこの少年!」
「俺はデルムリン島に住んでいたんだけど、こいつらがやって来て友達のゴメちゃんをさらって行ったんだ。」
「そのゴメちゃんっては?」
「ゴメちゃんは、ゴメちゃんだよ。」
「外見的特徴は?」
「小さくて、金色の羽根が生えたスライムだよ。」
この時点でジゼルはダイの言うゴメちゃんは、ゴールデンメタルスライムとわかった。
「成る程…ちょっと待ってて。」
ジゼルはそういうとずるぼんに向かって薬を出した。
「何をする気!?」
「ちょっとした自白剤よ。これ飲んで王様のところへ行くとどうなるかわかっている?自白剤を飲みたくなければ大人しく本当のことを言いなさい。」
これはカマをかけた脅しだ。自白剤を飲むと明らかに不利になる。もし、何もやっていないならば自白剤を飲むだろう。だがずるぼんが選んだのは…
「…わかったわよ。」
あたりだった。
「素直でいい子ね~。」
ジゼルはずるぼんの頭を笑顔で撫でてダイから見れば母親みたいに見えた。
「…おばさ「はあっ!」っ~!!」
ずるぼんがジゼルのことをおばさんと言おうとしたのでジゼルはずるぼんのすねを蹴り、黙らせた。
「自白剤決定ね。」
ジゼルはそう言ってずるぼんを担いだ。
「ちょっと!話が違うわよ!!」
ずるぼんが抗議するが聞く耳持たない。
「あ~…そういえば少年の名前は?私はジゼル。」
「ダイだよ!」
「ダイ君も一緒にくる?」
「当たり前だよ!」
「それじゃ行こうか。」
~ロモス城内~
そして、夜になり宴会が開かれた。
「では勇者でろりんに「待った!!」何者じゃ!」
ロモス国王がでろりんに覇者の冠を渡そうとした時、ジゼルとダイ、そして縄に縛られているずるぼんがいた。
「そのでろりんの仲間が言いたいことがあるそうです。ずるぼん…早く言いなさい。」
「はい…」
ずるぼんはそう言って国王の前に立った。
「私達、でろりん一行は、そこのデルムリン島の少年ダイを傷つけ、ゴールデンメタルスライムを奪ったのです。」
そのことに城内は騒然…それはそうだ自分達の信じていた勇者の仲間が罪もない子供を傷つけたと言っているのだ。
「静まれ!」
国王の言葉で場は静まり、でろりん達は硬直した。
「でろりんよ…それはまことであるか?」
「いえ滅相もない…」
でろりんが否定するとジゼルがまた話す。
「そのずるぼんには自白剤を飲ませています。なんならそのずるぼんにでろりん一行がやってきたことを吐いて貰いましょうか?」
「やめてくれ!」
その言葉でロモス国王はでろりんが偽者の勇者だと確信した。
「どうやら本当のようじゃな…このワシを騙そうとした愚か者を牢に叩き込め!」
「「「はっ!」」」
国王の命令に従い、兵士がでろりん達を抑えた。
「くそ~!」
という声が聞こえなくなったところでジゼルは立ち去ろうとした。
「待ってくれぬか?そこの婦人。」
ロモス国王に呼び止められ、ジゼルは立ち止まった。
「なんでしょうか?」
「お主がいなければあのでろりんとやらに騙されるところだった。ありがとう。礼とはいってはなんだが覇者の冠を貰ってくれぬか?」
ロモス国王は覇者の冠をジゼルに渡すと言ったのだ。
「…王様。私に褒賞を与えるならそこの少年ダイに与えて下さい。ダイは一人で、でろりん達に立ち向かおうとしたのです。私は無用な殺生を避けただけです。」
しかし、ジゼルは断った。あくまで与えられた仕事は武器を買い占めること。それよりも荷物が多くて、持てないのだ。
「そうか…ではダイ。君こそが勇者だ!」
そう言って国王はゴメちゃんを解放し、ダイに覇者の冠を渡した。
「では失礼します。」
「あっ、待ってよ!ジゼルさん!」
ジゼルは今度はダイに呼び止められた。
「どうかしたの?」
「その…ゴメちゃんを助けてありがとう!」
「どういたしまして。」
そう言ってジゼルは帰っていった。