「大した奴だ…クロコダイン。」
ベンがクロコダインを賞賛し、目の前の鰐を見る。
「がはっ…」
クロコダインは既に腹に穴が空き、ろくに喋れる状態ではなくなり、答えられない。
「一体何があったというのだ…?」
吹き飛ばされただけで済んだラーハルトが代わりに質問し、ベンは律儀に答える。
「俺は究極爆裂呪文イオグランデを放った…だがあの場からクロコダインは咄嗟に前に詰め寄り、自らを盾としてヒュンケルにダメージを行き届かないようにしやがった…あいつらは仲間を庇うということがよほど好きなようだな。だが…逆に中途半端に来てもクロコダインの被害が増しただけだし、ヒュンケルも被害を受けていただろう。クロコダインの判断力と勇敢さは賞賛すべきものだ。」
「…そうか。それだけ聞ければ十分だ。」
ラーハルトはそれだけ言うと吹き飛ばされたヒュンケルを見て、気づく。ヒュンケルはまだ生きていると…
「ほう…流石は不死身と言われることだけのことはある。俺の技を受けてまだ動けるとはな…だがこれ以上はお前達を相手に構っている暇はない。一刻も速くバラン様に合流しなければならないからな。」
「そうはさせん…!」
ヒュンケルは気力のみで立ち上がり、ラーハルトを止めようとする。何故なら先ほどテラン城に向かったバランだけでも厄介なのにラーハルトが来てしまっては確実にダイがさらわれてしまう…ヒュンケルは少しでもその可能性を減らそうとして立ち上がったのだ。
「大した根性だ…だが貴様のその根性は何処からくる?」
「ダイは地上の希望だ!それを奪われる訳にはいかん!」
「下らん…人間の為にディーノ様の力を使うこと…いやそれ以上にディーノ様の力によって希望を得ようとする態度が気に食わん!」
ラーハルトの顔が憎悪に満ち溢れ、顔が歪む。
「そもそも人間達はディーノ様の母君の仇だ。バラン様がその仇を打つのは筋だ!!その仇を御子息のディーノ様の手によって守らせようとするとは腹立たしい…!!」
「ダイの母の仇が…人間?!」
「そうだ…あれは今から12年前の話しだ。」
ラーハルトはバランの過去を話した。
要約すると…
・バランは魔界でヴェルザーに勝利はしたものの満身創痍の状態で死にかけたところをアルキード王国の王女のソアラに助けて貰った。
・バランとソアラはその出会いの後仲良く暮らし子供まで授かった。
・しかしアルキード王国の家臣が嫉妬、権力欲に駆られアルキード王にバランが魔物だと告げ口をする。
・アルキード王はバランを処刑しようとしたがソアラに妨害され、『恥さらし』といってしまう。
・バランはアルキード王が実の娘に向かって恥さらしと言ったことにブチ切れ。その日のうちにアルキード王国は潰れた。
・以後バランは人間を滅ぼすことを決める。
「その話しは本当なのか?」
それを聞いたヒュンケルはラーハルトに思わずそう尋ねてしまった。
「バラン様が俺だけに語ってくれた悲しい過去だ。」
「そうか…だが尚更だ。尚更、倒れる訳にはいかなくなった…!!ダイの為にも、バランの為にもな!」
「なんだと?」
「俺はバランの気持ちもよくわかる。俺もかつてはバラン同様に人間を憎んでいた。だがダイ達に出会ってわかった…人間もそう捨てたものでない…とな。」
「ほざけ。貴様にバラン様の気持ちがわかるか!」
ラーハルトは遂にキレて、ヒュンケルに槍で首を取ろうとしたがとあるもので防がれた。
「…なっ!?首飾り!?」
「これはアバンの使徒の卒業の証に貰えるものだ。いってみればアバンの使徒の…ダイ達の絆の証なのだ!」
そしてヒュンケルは闘気を溜めてとある技を使う…
「いかん!逃げろラーハルト!」
ベンがそういうがラーハルトの身体は不思議と動かずヒュンケルの技を直に受けることになった。
「グランドクルス!」
ネックレスから光の闘気が放たれ、ラーハルトを襲った。
光が収まり、ヒュンケルの攻撃が終わった。
「ヒュンケル…これを受け取ってくれ…」
ラーハルトが力尽きる前にヒュンケルに槍と防具を渡そうとしたが…ある者によって阻害された。
「させんわ!」
そのある者とはベンだった。ベンは槍と防具を蹴り飛ばしたのだ。
「な、何をする…!?」
ラーハルトはベンにそう抗議するがベンは無表情で答えた。
「敵に塩を送るのは結構だが…俺とヒュンケルの戦いが終わってからにして貰いたいものだ。それに俺に勝てない男がバランに勝てるとは思えん…」
つまり、ベンは自分を鎧なしで倒して見せろといっているのだ。鎧が有ればベンのイオグランデは無効化とまではいかなくともかなり減少されてしまう為であった。
「それも、そうだな…お前がまだいたか…」
ヒュンケルは闘気を使ってしまったので自らの気力のみでベンに立ち向かった。
「それでこそ、不死身の男よ!」
ベンはヒュンケルの大きな壁なり立ちふさがり、持っているトライデントを振った…
カラン、カランカラン…
ベンがトライデントを落とした。
「…っ!なんだ!?」
突如、ベンの身体に異変が起きた。身体が痺れ動けなくなってしまったのである。
「ようやく…効いてきたか。がぶっ!げほっ…!」
クロコダインが血を吐きながらも立ち上がった。
「何を、した…!?」
ベンは麻痺し始め、身体が動けなくなり始めた。
「俺はイオグランデを喰らった瞬間に焼け付く息(ヒートブレス)をお前に吐いた…それだけのことよ。ほんの一瞬だったがどうやら修行の成果はあったようだな。」
クロコダインはただデイン系の克服ではなく、技も磨いていたのだ。特に焼け付く息はジゼルを相手に想定して磨き続けた。
しかし、それでもベンが麻痺するには理由が足りない。ベンは体質上、麻痺に弱い。下手したら下級モンスターと同じくらいに弱いため麻痺に関しては警戒していたが、まさかクロコダインがこんな技を使うとは思わなかったのだ。
「ジゼル…さ…ま…ご…許し…下…さい…」
ベンは完全に麻痺し、動けなくなった。
「行くぞ!ヒュンケル!」
「ああ!」
「ブラッディースクライド!」
「獣王会心撃!」
二人の必殺技がベンに炸裂し、心臓を貫いた。