Sword Art Online ”Camellia” 作:りこぴん
期末試験等でなかなか時間を取れませんでした。
近々ある旅行が終われば、ある程度定期的に更新できるようになると思います。
ただしパソコンの修理がデータが消えずに戻ってくれば......。
「じゃあアイスラビットの革20個で1万コルでいいな?他に出す奴はいないか?」
NPCには僅かなコルの価値しかなかったものが、高値で落札されてゆく。何だか不思議な気分だ。
エギルさんとアスナによって開催されたオークションはどんな経路を使ったのか、ここの階層以外の人であろう人達も居り、かなりの賑わいだった。
人が多い環境で目立つのは学会等で何度も経験しているものの、こういう賑やかな場で目立つのはそれだけで身体が固まりそうになる。
隣にアスナがいなければ、逃げ出してしまいたくなる気分だった。
彼女は普段とは違う、毅然としてなお柔らかさを忘れない表情でその場に立っている。
あれがきっと、彼女の副団長としての姿なのだろう。
と、一人の冒険者がキャロルに歩み寄る。
軽い挨拶を交わすと、彼は早速といった様子で交換の提示を行った。
「買って頂き有り難うございます」
交換ウインドウから内容を確認し、了承ボタンを押す。そして目の前に立つ冒険者に笑顔で礼を言う。
正直に言えば緊張するし出来るだけ遠慮したいが、せっかく買って頂いたのに何も言わないのは失礼だろう。
それに、さっきから何度もやっているため多少慣れから来る余裕も来ていた。
「こ、こちらこそありがとうございます!」
冒険者は慌てたような様子で顔を赤くし、礼を返すとそそくさといなくなってしまった。
これも慣れたものだ。
ゲームを多くプレイする者は内向的である傾向が高いという論文を読んだことがあるが、あながち外れてもいないらしい。
去っていった彼もきっとあまり会話が得意ではないのだろう。
そう考えると親近感に近いものを感じる。
「キャロルも罪作りな人ですね」
一人で納得していると、アスナが苦笑交じりといった様子で話しかけてきた。
罪作りとはどういう意味だろうか?
表情が硬い、などの指摘ならば十分すぎるほど理解も納得もできるのだが。
「キャロルちゃん、あとアイテムは何が残ってる?」
意味をアスナに尋ねようとするキャロルに、エギルがそう声を掛ける。
アイテムウインドウを開き確認すると、あんなにあったアイテムが殆んど無くなり、代わりに大量のお金が手に入っていた。
これだけあれば家をいくつか買えてしまいそうな大金である。
「あとは、希少ドロップの指輪ですね。結構ステータスがあがるみたいなのですが......生憎装備出来なくて」
何処でドロップしたかも覚えてない、高性能の指輪。
ステータスだけでなく、何と自動回復まで付くという素晴らしさ。
しかしメインスキルに加え、戦闘回復のスキルまである程度要求されるのである。
自動回復する為に戦闘回復のスキルを上げなくてはならないとは、何とも嫌らしいシステムだ。
そしてキャロルは生憎、戦闘回復のスキルはレベリングどころか、習得すらしていなかった。
メインスキルとその他武器スキルいくつか、後は索敵くらいしかスキルレベルは高くない。
「これは......凄いけど、確かに使える人が限られてきそう」
「ええ。ですから私の手には余りまして」
指輪を渡すと、アスナの手からエギルにも指輪が渡る。
やはりというか彼も難しそうな表情だった。
「まぁ、これだけ居れば一人くらい買うやつもいるだろう」
呟くように言うと、彼は口上と共に初期金額を提示する。
初期金額だというのに驚いてしまうくらいの巨額だ。
「安いくらいだと思いますよ。私も戦闘回復を上げてたら欲しかったんだけど......」
横のアスナに伝えると、残念そうな様子と共にそう返ってきた。
成程、自分の中の相場感覚は相当可笑しいらしい。
NPC相手にひたすら同じ金額で売却していたのだから当然といえば当然か。
しかしやはりというべきか、中々購入者が出ない。オークションだというのに、誰も金額を提示しないのだ。
転売目的にするには買い手が付きにくいだろうし、装備目的にするにはスキルが足りない。
皆が目配せし互を牽制し合うだけのこの状況。
いくら価値のあるものでも売れなければ何の意味もない。
見兼ねてエギルさんが何かを言おうとした瞬間。
「その指輪、俺が買った」
その場の空気など気にしない、力強い声が辺りに響き渡った。
「ご購入有り難うございます」
「こちらこそありがとう」
オークションはこの指輪で最後であり、辺りはだんだんと人が居なくなってきていた。
先程と同じようにして交換の手続きを済ます。
所持コルはもはや今まで一度も持ったことのない大金へと昇華していた。
「しかしまさかキリト、お前が買うとはな。まぁ、らしいっちゃらしいか」
「キリトくんなら戦闘回復もあげてるし、装備できるもんね」
しかしそれより、目の前の彼とアスナ達が知り合いだという事の方が驚いた。
黒い髪に黒い服。
年は同じか、幼いくらいだろう。
しかしキャロルより少し身長も高く、外見だけ見ればむしろ彼のほうが年上に見えそうである。
キリッとした強い意志の感じられる瞳がとても印象的だ。
「キャロル、紹介します。こちらキリトくん。昔からボス攻略とかの時によく一緒に戦ってます。キリトくん、こちらキャロル。とっても強くて頭の良い、私の友達で先生みたいな人」
言ってから照れたように頬を触るアスナ。
そんな風に思ってくれていたなんてと嬉しく思うが、少し照れくさい。
彼はそんなアスナをちらりと見た後、こちらに身体を向けた。
「キリト、ソロだ。呼び捨てで呼んでくれて構わない」
「キャロルです。こちらこそよろしくお願いします」
差し出された手を握り返し、挨拶を交わす。
と、彼が不思議そうな様子で此方を見ているのが感じられた。
思わず首を傾げると、彼はハッとした様に頭を下げる。
「悪い。アスナがそこまで言うから少し驚いて......それに、今まで会ったことも無かったし」
「構いませんよ。それに、とても嬉しいですがそんな先生というほどの事ではありません」
勉強を教えているだけだし、強さならアスナの方が上だろう。
そう伝えたが、アスナは首を横に振った。
「私じゃキャロルには勝てないんです。想像ですけど、自信はありますよ」
キャロル個人としてはアスナには勝てないだろうと想像していたのだが、彼女の想像は真逆らしい。
そんなことはない、と告げるが返ってきたのは苦笑交じりの返事だった。
と、話を聞いていたキリトがこちらに振り向く。
その顔は興味に彩られており、何だか嫌な予感がした。
「そんなに強いなら、是非一回手合わせして欲しいな」
何となく言われることの想像はついていた。
立ち振る舞いから彼は相当の自信と、それを裏付ける強さがあるようだったから。
それに間違いじゃなければ、少しだがまるで大学にいた時に感じていたような負の視線を感じる。しかし彼には申し訳ないが、素直に受ける必要など何処にもない。
「申し訳ありませんが遠慮させて頂きます。所詮最前線には居られない程度の実力、相手になんてなれませんよ」
柔らかく、しかし明確な拒絶を言葉に含め告げる。
キリトは顎に手を当て、考え込むようなそぶりを見せた。
「そうなると、教え子のアスナはそれ以下の実力だと言う事になると思うんだけど?」
「ちょっと、キリトくん!!」
「.......ふむ」
ほんのちょっとした挑発のつもりだったのだろう、アスナの咎める様な声にしまったという表情で口を噤む。
流しても問題ない。しかしキャロルは胸の中に引っかかりがあるのを感じていた。
このまま冗談として流すのは何か、面白くない。
「やはりお受けします」
「きゃ、キャロル!?」
アスナが慌てた様子で、キリトを押し退けキャロルに近付く。
「あの、キャロル......こんなだけどキリトくんはすごく強いんです。それにさっきのはきっとキャロルを挑発する為で......」
「ええ、分かってます。ただ......何でしょうね。聞き流すには何か納得出来なくて」
一旦振り返り、原因を考えてみる。
これまで罵倒や挑発など、数え切れないくらいに受けて来た。
今更自分について何を言われようが一切感情を動かさないことが出来るほど何も感じないと断言出来る。
ならば何故か?答えはすぐ近くで、キャロルのことを心配そうにみていた。
「成程。どうやら私はアスナを馬鹿にされたことが気に入らないようです」
「え?」
惚けたような声を上げるアスナを他所に、納得したように頷く。
自分以外の誰かが、僅かとはいえど自分のせいで馬鹿にされる。
いや違う。それがアスナだから特に気に入らなかったのだ。
「それで、条件はどうしましょうか?」
「本当にいいのか?」
「構いません。もしかして、冗談で挑発したのですか?」
もしそうならキャロルは勘違いの笑いものだ。
しかしキリトは首を振った。
「ルールは初撃決着モードで。場所は......出来ればここは遠慮したいんだけど」
「それについては同感です」
その場はオークションは終わったといえども広場の中心であり、先ほどまでの賑わいのせいでまだ人通りは多い。
それに目立つ面子だ。
事実、先程からいくつもの視線がこちらに向けられているのを感じる。
「どこかいい場所はありませんかアスナ......アスナ?」
返事のないアスナを不思議に思い、肩に触れる。
彼女は此方が驚くくらい体をびくりと震わせ、慌てた様子で振り返った。
「は、はい!なんでしょうか!?」
「戦う場所に良い所がないか聞きたかったのですが......大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です!グランザムを使えないか団長に聞いてみますので少々お待ちください!」
二人の視線から逃れるようにしてアスナがメッセージを作り始める。
数分後に届いたメッセージには、血盟騎士団本部のスタジアムを使うといい、との返事が書かれていた。
「では行きましょう。正直今日は人の視線を受けすぎて眩暈を起こしそうです」
「だ、大丈夫ですか?」
「何とか。ですが私には接客業は向いてませんね。図書館の司書などが良さそうです」
そんな会話を交わしながら、三人はグランザムへの転移門へと消えた。
グランザムは血盟騎士団本部を中心としたまるで要塞のような街だった。
まるで侵入者を拒むような本部の門を潜り、奥へと進んでゆく。
誰もいないと踏んでいたスタジアムは、予想に反し血盟騎士団の団員で賑わっていた。
「誰もいないんじゃなかったのか?」
「交換条件で見学させて欲しいって言われたの」
誰が、と言う前に後ろから声が掛かる。
「やぁ、キリトくん。アスナくん」
「団長!」
アスナがまるで軍隊の如く整った礼を返す。
恐らく彼が血盟騎士団のリーダーでありかの有名なユニークスキル"神聖剣"の持ち主なのだろう。確か名前はヒースクリフと言ったか。
「そして君がキャロルくんか。どうか顔を上げてほしい」
キャロルは軽めながらも下げていた頭をあげる。
するとヒースクリフの顔が驚きの表情に染まった。
「君は......!」
どうやらついに自分の正体を知る人間に遭遇してしまったらしい。
しかし彼はすぐに表情を戻すと、三人をそれぞれ見て微かに頷いた。
「では期待しているよ」
そうとだけ言って彼も観客席へと向かう。
アスナは首をかしげるも何も言わなかった。
「では、始めましょうか」
「ああ」
キリト、キャロルはお互いの配置に着くために歩き出した。
何となくキリトくんの雰囲気が挑戦的ですが、その理由はもう少しで判明すると思います。
すすめ方を少し模索中です。
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