Sword Art Online ”Camellia” 作:りこぴん
次話を投稿する頃には読み終わってると思うので、口調の違和感などあったら次の話までに直しておこうと思います。
喫茶店ウィルズシープ。
リズ一押しのチーズケーキがあると連れてこられたそこで、三人は昼食を取っていた。
オススメらしいケーキを食べてみれば成程、控え目な甘味と溶けるような口溶けがなんとも素晴らしい。仄かな酸味はレモンであろうか、飽きさせないアクセントとなっている。
「じゃあキャロルはずっとひとつの階層に?」
「そうみたいね。寒いしモンスターは強いしで、私は一度しか行ったことないけど......ほら、少しは会話に参加しなさい!」
黙々とケーキを食べているキャロルに痺れを切らせたのか、リズが肩を叩く。
「......失礼しました。何の話でしょうか?」
「なんで私があんたの身の上話をしてるのよ」
リズは呆れたような複雑そうな表情を浮かべつつも、先程までの会話の内容を簡潔に説明した。
「ありがとうございます。そうですね......四十六層が解放されるまでは比較的前線の方にいましたよ?アスナの名前を聞いたのもその時ですね。今思えば、一度も見たことがないのは運が悪かったんでしょうね。ボス攻略に行ったことはほぼありませんでしたが、最前線に行ったことは何度かありましたので。四十六層が解放されてからは彼処とリンダース以外に行ったことはほぼ全くと言っていいほどないですね」
とは言っても半年程度であるが。
だが、まだ2年程度しか経っていないこの世界において半年というのはそれなりに長い期間だろう。
そう話し終えると、アスナが何故か此方を尊敬の眼差しで見ていることに気付いた。
「四十六層と言えば最前線のプレイヤーでも苦戦する雪原に覆われているフィールド......そんな所で狩りして生活しているなんて、凄いです!私も一度、彼処のレアエネミーのドロップが欲しくて行ったんだけど、視界は悪いし足は取られるしで、結局見つけることすら出来なくて」
加えてそのような理由から彼処に好んで行く者などおらず、商人等への流通も殆どない。そうアスナが伝えると、リズは不思議そうな表情をした。
「キャロは四十六層で倒したモンスターのドロップとかでお金を稼いでいるのよね?じゃあ、少しくらい流通があっても良さそうな気がするけど......誰かが利益を独占しているとか?」
「そういえば確かに......」
自分で取ってきたものならともかく、他人が命を掛けて手に入れて来ているものを独占して販売しているのはあまり心象が良くない。その他人が知り合いともなれば尚更である。
「違いますよ」
出会ったばかりだというのにこちらのことを想ってくれる彼女は、きっと誠実な性格なのだろう。
だからこそ、勘違いをさせたままにするのは良くない。
「流通しない原因は私ですね。四十六層には商人というか、プレイヤーも居ないので手に入れたものは全部NPCに売り払ってしまっていますから」
そう伝えると、アスナは思わずといった様子で椅子から立ち上がっていた。
「ぜ、全部!?ただでさえNPCへの売却価格は安いのに......四十六層のドロップアイテムなら、数倍の値段で商人に売れますよ!」
慌てたような怒っているような口調でまくし立てると、テラスから見える商人を指差す。
恐らく彼女の何かを刺激してしまったのだろう、先程まで感じていた尊敬や遠慮の眼差しは綺麗さっぱり無くなっていた。
そしてふと何かを考えついたのか、恐る恐るといった様子で切り出す。
「もしかしてレアエネミーの希少ドロップ......"スノウパンサーの刃爪"も......?」
「ん......そうですね、それなら昨日売却した覚えがあります」
その言葉に、アスナは脱力したように椅子に座り込んだ。
「私が数日掛けて、見つけられすらしなかったモンスターのアイテムが、NPCに売却......」
「アスナ、気にしない方が......キャロは大分変なところがあるから......」
放心したように呟くアスナの姿を、リズが慰める。
変なところ、とは酷くないだろうか。
しかし話の流れからするに、悪いのはキャロルだろう。
なんと言おうか考えていると、アスナは再起動したように身体を起こすとキャロルにぐいっと近づいた。
謎の迫力に、思わず身を引く。
「キャロル!」
「は、はい?」
「今度キャロルの家に行くから、その時まで素材を売却しないで取っておいてください!商人を紹介しますから!」
「わかりました、ですがほんの数日でインベントリはいっぱいで」
「え......一体どれだけ狩りしてるんですか?」
朝、いつも同じ時間に目覚め同じ日課をこなす。
その後外出する用事が無ければのんびりと狩り、日没が近くなり辺りが暗くなってくるころに帰宅する。
とはいえ吹雪の多い四十六層では昼夜の感覚も分かりにくく、いつの間にか日が落ちていることなどざらであるが。
「最前線のプレイヤーでもそんなに狩りをしている人はいませんよ......」
「それほど本腰を入れているわけでもないですし。それに、他にやることもありませんからね」
アスナの視線に何とも言えないむず痒さを感じ、言葉を重ねる。
「じゃあ、明後日訪ねます!フレンド登録してもいいですか?」
「ええ、構わないのですが......お忙しいのでは?」
大きいギルドの副団長ともなれば、やるべきことも多いだろう。
しかしアスナはそれを強い口調で否定した。
「大丈夫です、絶対に行きます!」
「わかりました。では明後日ということで」
アスナは嬉しそうに何かメッセージを打ち込み始めた。
恐らく、予定の都合をつけようとしているのだろう。
そんな時、キャロルはリズが悪戯を思いついた時と同じ表情をしているのに気付いた。
「二人っきりでデートなんて、随分と仲がよろしいことで」
「えっ!?」
焦った様子で立ち上がったアスナの様子に、してやったりといった表情のリズ。
そしてこちらへとちらりと向けられる視線。
なるほど。
いいだろう、"キャロル"が決してコミュニケーション能力の低い引きこもりではないことを証明して見せよう。
「そうですね。憧れの閃光のアスナ様とデートとは緊張してしまいます。ですが必ず時を忘れるような楽しさを約束しましょう」
こういう歯が浮くような台詞は何度も言われたことがあるが、まさか自分が言う日が来るとは思わなかった。
ダメ押しとばかりにアスナの片手を取ると、手の甲に軽く口付ける。
母国では時々されることもある挨拶程度の行為だが、日本ではそういった習慣が無いのは知っている。
しかしリズに唆された冗談のつもりだったのだが、アスナの顔は可哀想な位真っ赤になり硬直してしまった。
リズは頬を微かに染めながらも、呆れの色を滲ませる。
「キャロ、やりすぎ。普段は話さないくせに、こんな時ばっかり」
「リズがやれって言ったんでしょう?」
友人の発言に若干の理不尽さを感じつつも、未だに固まったままのアスナの姿を見ると申し訳なさが湧いてくる。
「アスナ、申し訳ありません。調子に乗りました。あの、アスナ?」
一向に動き出さないアスナを心配して肩に触れると、びくんと身体を震わせこちらを見る。
どうやら気づいてくれたようだ。
再度謝る為に口を開こうとすると、アスナはあちこちに視線を泳がせやがてキャロルの目を見て、止まった。
一瞬の時が流れる。
「ふ、不束者ですがよろしくお願いします!」
そう言って何を思ったのか顔を近づけてくるアスナ。
気のせいか目が座っている。いや、絶対に気のせいではない。
「ちょっ、アスナ?落ち着いて!!」
麗らかな昼下がりに、リズの大声が響き渡った。
普段表情のあまり変わらない人が見せる笑顔って魅力的ですよね。
まぁお目にかかったことは残念ながらありませんが・・・。
ネトゲのNPCの売却の安さはこんなものじゃないです。私がやっていたネトゲではアイテムによっては余裕で数万倍の価格差がありました。
誤字脱字、感想などいつでもお待ちしています。