Sword Art Online ”Camellia”   作:りこぴん

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原作キャラの口調に違和感があったら教えてください。


再会、そして出会い

翌日、キャロルは久方ぶりに四十六層を出ていた。

彼処にいるとオンラインゲームであることを忘れてしまいそうになるが、一度四十六層を出ればそこには賑やかな活気が存在していた。

これから会いにいく友人も、リンダースという街に居を構え鍛治屋を経営していた。

彼女いわく、そこに店を買う為にかなり苦労をしたらしい。

一度破格の四十六層の物件を勧めたのだが、あんな辺境に店を構えて誰が訪ねてくるのよ、と呆れられてしまった。

正論ですが、いくらなんでも友人が住んでいるところを辺境呼ばわりは酷いのではないでしょうか。

率直な所は彼女のよいところだと思うが、時にはオブラートに包んで欲しい時もある。

そんなことを思いながら"リズベット武具店"と書かれた看板のある扉を潜る。

中では、友人が拭き掃除に精を出しているところだった。

チリンと扉についた鈴が鳴り、彼女は顔を上げる。

営業用スマイルという奴だろうか、浮かべられた笑顔はしかし客を見た瞬間に消え去った。

 

「いらっしゃいま――ってキャロ!ちゃんと顔見せなさいってこの前言ったのに、今までどこ行ってた訳?」

 

快活そうな瞳をキッと釣り上げ、店主であり自分の友人――リズベットはこちらを睨みつけた。

 

「リズは一ヶ月に一度くらいは顔を見せろといいましたよね?今日で丁度一ヶ月経つ処ですからセーフではないですか?」

 

そう言い返すと、リズは溜息とともに視線を下ろす。

何か変なことを言っただろうか?

 

「......あのね。別に一ヶ月に一度だけしか会いに来ちゃいけない訳じゃないんだから、もっと会いに来なさいよ。一緒にご飯食べたりとか......そういう用事でもいいじゃない。せっかく仲良くなれたんだから」

 

呆れた様に言いつつも、どこか照れた様子で言うリズ。

動作も相まって、その姿は非常に可愛らしい。

 

「それに、どうせいつも一人ぼっちでしょ?」

 

本当に、オブラートに包んで欲しい時もある。

 

「失礼ですね。会話くらいしていますよ、NPCと」

「あんた、それ本格的に......」

「さて、武器のメンテナンスをお願いできますか?」

 

可哀想なものを見るような表情になりかけたリズの言葉を遮る。何を言われるかなんて、考えなくてもわかる。

ボックスから武器をアイテム化すると、机の上へと置く。

 

スノウジェミニ。

刀身から柄に掛けて純白の意匠が施されており、一見すると装飾用のそれにも見えるその剣がキャロルの愛剣であった。

 

「相変わらず丁寧に使ってるのね」

「大切な剣ですからね」

 

ちょっとまってて、と言ってリズは奥へと引っ込んでいった。

手持ち無沙汰になったキャロルは、店内を見回り始める。

店主の気質が現れるのか、武器は丁寧に並べられホコリひとつない。

といっても、この世界でもホコリが溜まるのかは知らないが。

 

自らの髪の色に似た真紅の短剣をいじっていると、鈴の音色と共にドアが大きな音を立てて開いた。

 

「リズ、いるー?」

 

想像以上に大きな声に驚いてそちらを向くと、紅白の服に身を包み茶色の髪を下ろした少女がこちらを見たまま固まっていた。

 

 

 

彼女は目的地に向かい、リンダースの街を歩いていた。

すれ違う人々は私に気付くと、好奇の眼差しと共に声をあげる。

 

「血盟騎士団のアスナだ......」

 

その声が呼び水になり、更に注目を浴びてしまったことに内心愚痴を零す。

"血盟騎士団副団長"。

それが自分の肩書きであり、攻略組筆頭とも言えるそのギルドの副団長ともあれば、注目を浴びてしまうのも仕方ないことだとは思う。

若い女性のプレイヤーが比較的珍しいことも、注目を浴びる一端だろう。

しかし、いくら理由があるとはいえ大勢の視線を集めるのはあまり気持ちのよいことではない。

自然に足が早くなってしまうのは仕方ないことだろう。

 

「......流石にここまで来れば、人通りも少ないか」

 

目的地である友人の家は、街の外れのほうに構えられている。

集客が大変だと言っていたが、人の目の少ない外れに住んでいてくれて有難いと不謹慎ながらに感じてしまう。

リズベット武具店という看板を見て、笑みが零れる。

まだ準備中であるこの時間は、彼女と特別親しい者くらいしか訪れることはない。

だからこそ、ちょっとした悪戯心から先程までの暗い気持ちを吹き飛ばすように大きく声をあげ、扉を勢いよく開いた。

 

「リズ、いるー?」

 

しかし、中にいたのはリズではなく見覚えのない少女だった。

 

......まさか、この時間に客が居るとは思わなかった。

アスナは内心で頭を抱えた。

中で剣を触っていたらしい少女のこちらに向けられた顔は、紛れもなく驚きに染まっていた。

少女、そう少女である。

歳は自分と同じくらいか少し上くらいであろうか。気のせいか、何処かで見たことがあるように感じる。

しかしアインクラッドで出会ったことはないはずだ、このような少女一度出会ったら忘れるはずがない。

腰まで垂らされた椿の花のような真紅の髪に、誰もが美少女と答えるであろう精巧なドールのような顔立ち。透き通るような深い青の瞳は海のよう。

カスタムだろうけれど、髪も瞳もまるで本来のものであるようによく似合っている。

僅かに見える肌は白く、ビスクドールのようなキメの細かさが感じられた。

まるで物語から抜け出してきたような可憐な姿に、同じ女性だというのに思わず見惚れてしまった。

もしこれで無表情なら置物ではないかと疑ってしまいそうだが、その表情は無表情ではなく驚きに染まっていた。

その表情にさせてしまったのがアスナ自身だということに気づき、頬が赤くなっていくのを嫌でも感じてしまう。

 

「こんにちは。貴方も剣の修繕に?」

 

その時、少女がこちらに向けて言葉を投げかけた。先ほどの出来事からか、その口調は微かに緊張している。

しかしアスナにその事を感じ取れる余裕はなかった。

 

「......可愛い」

 

無意識のうちに漏れる言葉。

恐らく自分への気遣いであろうが、少女はこちらへと笑顔を向けてくれていた。

その笑顔が自分にのみ向けられているという事実にアスナは自らの感情が意味もなく高揚していくのを感じていた。

しかし。

 

「えっと......?」

 

少女の顔が困惑に彩られた瞬間、アスナは自分が何を言ったのかを全て理解した。

 

「ごごごごめんなさい!そ、そうそう!剣の修繕に来ました!」

 

幸い何を言ったかまではわからなかったようだ。

胸をなで下ろしつつもまくし立てるように言葉を続けると、辺りを見回す。

 

「リ、リズはどこかな。あは、あはは......」

「キャロ、終わったわよー。ってあれ?アスナ?」

 

この時ばかりはアスナも、見慣れたリズの姿が女神のように見えるのだった。

 

 

 

挙動不審な彼女にどう声を掛けるか悩んでいたら、丁度よくリズが戻って来てくれた。

と同時に判明した、目の前の彼女の名前には聞き覚えがあった。

 

「アスナ......というと"閃光"の?」

 

攻略組の、それも最前線のギルドにそのような名前の女性がいると聞いたことがある。

"女性"という歳には見えないが、情報には尾ひれがつくのが常である。

 

「へー。引きこもりのあんたでも、アスナの名前くらいは知ってるんだ?」

 

何やら失礼なことを言われた気がするが、この際それは置いておこう。

 

「失礼しました。女性と聞いていたのでてっきりもっと年上の方かと......まさかこんなに若く綺麗な方だとは思いませんでした」

 

女性の年齢を間違えるのは非常に失礼なことだ。

申し訳なく思いながら言葉を紡ぐと、彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

もしかしたら、こんな余計なこと黙っていた方がよかったかもしれない。

数式の答えならあっという間に求めてくれるこの頭だが、対人関係のこととなると全く役に立たない。

途方に暮れながら次に何と声を掛ければ良いか考えていると、彼女は勢いよく顔を上げた。

 

「いえ、気にしてません!むしろ覚えていてくれただけでも嬉しいです!......そ、それで......もし良かったら、名前を教えてくれませんか......?」

 

元気よく話しだした彼女であったが、後半に行くに連れ元気がなく、こちらの様子を伺うような声色にかわってゆく。

キャロルとしては全く問題ない、むしろ怒っていないことがわかった上に名乗るタイミングまで貰えて有難いくらいだ。

怖々、といった様子の彼女が少しでも安心できるようにと精一杯の笑顔を見せながら、自らの胸に手を当てる。

 

「キャロルと言います。どうぞ、呼び捨てでお呼びください」

 

そう伝えると、彼女は嬉しさと安心が入り混じったような表情になった。

 

「ありがとう!今更ですが私の名前はアスナです、どうぞ私もアスナと呼んでください」

 

年齢の上下は分からないが、ほかならぬ本人が呼び捨てでいいと言っているのだ。むしろそれ以外で呼ぶほうが失礼というものだろう。

 

「わかりました。よろしくお願いします、アスナ」

 

そう返事をすると、彼女は始めて笑顔を見せてくれた。

 

「......えーっと、そろそろ良い?」

 

その声に、キャロルは少なからず驚く。

 

「すみませんリズ、忘れていました」

「ごめんリズ。忘れてた......」

 

先程からずっと、空気を読んで黙っていてくれたらしい友人を謝罪の言葉と共に振り返る。アスナも同じような言葉を発している辺り、恐らく彼女も忘れていたのかもしれない。

 

「......まぁ、そんなことだろうと思っていたけどね。とりあえずアスナは剣を貸しなさい」

「う、うん。ごめんね?」

 

キャロル達の言葉に頬を引き攣らせたリズだったが、気を取り直したようにアスナから剣を受け取る。

 

「さっさと直すから、そうしたら三人でご飯でも食べに行きましょう」

「......!うん、そうしましょう!」

「了解しました」

 

二人の反応に満足したのか、リズは笑顔で頷くと剣を持ち鍛冶場へと引っ込んでいった。




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