Sword Art Online ”Camellia”   作:りこぴん

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お久しぶりです。一年ほどの期間が空いてしまい申し訳ございません。
忙しかったのと、断片的なストーリーを上手く繋げられず時間ばかり過ぎてしまいました。
身の回りが落ち着きましたので投稿させていただきました。時間はかかってしまいますが、完結に向けてきちんと更新していきたいと思います。
拙い作品ですが、楽しんで読んで頂ければ幸いです。


無茶と誓い

目の前で砕けたポリゴンが、朝日に照らされ消えてゆく。

今の感覚を忘れないうちにと、キャロルは手帳を取り出しペンを手に取った。

 

「右足を狙った場合回避する可能性が20%程度、飛び上がってカウンター攻撃の確率が80%近い......ここは一歩下がって切り上げるのが良さそうですね」

 

この階層に来てから1週間程が経つが、ただの平原であるこの階層はモンスターの攻撃パターンが多く、解析もうまく行っていないのが現状だ。

出てくる数が多いモンスターはまだしも、レアモンスターや特定の条件でしか出てこないモンスターの中にはまだ出会えてすらいない種もいた。

これでは完成は夢のまた夢といった所だ。

 

「せめてもう少し攻略ペースが遅ければ、なんて他の人に聴かれたら怒られてしまいますね」

 

時間を確認すればもう朝といってもいい時間だった。

今日は特に予定も無い為、一旦帰って身支度をし直した方が良さそうだ。ここの所の強行軍が祟ったのか流石に身体にもだるさが残っていた。

キャロルはマップを確認すると、迷宮区出口へと向かった。

 

帰りに軽食を購入し、先程までの戦闘を思い出しながら転移門をくぐる。

狼型のモンスターは先制を取れるか取れないかで安定感が大きく変わってしまう。

後手にまわった場合先ずは攻撃を上向きに弾き、機動力を一度封じてからスキルを使うのが良い。

その後考えられる攻撃パターンは......とそこで猛烈な冬風に身体を叩かれ、考えが途切れる。

顔を上げれば街中にも関わらず視界がほぼ無いほどの吹雪。こんな天気は久々だった。

 

「急ぎましょうか」

 

はやくも寒気を感じ始めた身体に、キャロルは帰路を急ぎ始めた。

 

奥まった立地を選んだこともあって、家の近くにくる頃には風の勢いも多少収まっていた。

かわりに肩に積もる雪を払い、雪にすっぽり包まれてしまっているだろう家の方に目を凝らす。

茶色を基調とした家の外壁には、幸いなことに一角を除いて余り雪は積もっていないようだった。

 

「......え?」

 

違う、あれは雪じゃない。

近付くにつれて明らかになった輪郭と、白の中に走る真っ赤な意匠にキャロルは走り出していた。

 

「アスナ!」

「キャロル、お帰りなさい」

 

見間違いではなく、家の近くにはアスナが立っていた。

笑顔を浮かべるアスナの肩に触れれば、いつから居たのか完全に冷えきってしまっている。

 

「何処かに行っていたんですか?」

「迷宮区の方に。寒い思いをさせて申し訳ありません、今開けます」

 

鍵を開け冷え切った部屋の暖炉に薪をくべると、アスナにはソファーを勧める。

火事になる心配もないのに暖炉の火を消していった過去の自分に文句を言いたい気分だった。

 

「今温かい飲み物を淹れます、少し待っていて下さい」

「キャロル、待って」

 

キッチンに向かおうとしたキャロルは、アスナに手を捕まれて立ち止まった。

同じく冷たい手に温かいものを持ってきたいのだが、アスナの力がまるで離さないといった様に強く動くことが出来ない。

 

「先に話を聞いてもらえますか?」

「......わかりました」

 

このままでいるよりはと、アスナをソファーに促し自身も座る。

アスナは手を握ったまま、肩が触れ合うほどの距離感で隣りに座った。

 

どうも様子がおかしい気がした。

アスナはニコニコと、満面の笑顔なのだがさっきから何故か背筋が寒くなってくる。

 

「あの、アスナ?」

「......キャロル。昨日私に勉強を教えてくれた後どこに行ってたんですか?」

 

どきりとした。

昨日はアスナと食事をした後、そのまま今まで迷宮区にこもっていたのだ。

夜の迷宮区はモンスターも見にくくなり、一人での攻略は推奨されていなかった。

それに加えて、アスナは知らないだろうが迷宮区から帰ってきたのも今が初めてだ。

 

「すみません、少しだけ迷宮区に行っていました。少し気になる事がありまして」

「では......今日今までとそして一昨日、その前の前の日は、何処に行っていましたか?」

 

全て迷宮区で、それも昼夜問わず篭っていました。とは流石に言えない。

誤魔化そうとしてふと、気付いた。

アスナの言葉には二昨日が含まれていない。

その日は前日までの無理が祟り、一日家で過ごした唯一の日だ。

ただの偶然にしては少し出来すぎている。キャロルの脳内で警報が鳴っていた。

答えられないでいるキャロルにアスナはインベントリから1枚の紙を取り出すと、キャロルへと手渡す。

 

「これは?随分な数の素材ですね」

 

意図もわからず渡された紙に目を通していると、下の方に大量の素材が別枠で書かれているのが目に付いた。

書かれているのは今日どころかここの所ずっと見ている素材達。

こんなに素材が取れるほど戦ったのなら是非一度話を聞きたいと、キャロルはぼんやり思う。

と、紙の一番右下の判子を見つけたキャロルは背筋が凍りつく思いをした。

エギルの店の判子が押されている。

見返せば大量の素材達はわざわざ、同名の素材とも分けられ赤文字で書かれている。

まるで何か、伝えたい意図があるかのように。

 

勢い良くアスナの方を向けば、アスナは先程から机の上に散乱している紙束に目を向けていた。

ここの所の解析のために使い、そのまま放置していた紙束達。

 

「あ、あの、アスナ」

「はい、何ですかキャロル?」

 

I’m messed up(もう終わりだ).

振り向いたアスナの表情に、キャロルは内心で呟いた。

 

 

 

 

「アスナ、あの、本当に申し訳ありません。心配をかけさせてしまって」

 

アスナの顔を直視できないキャロルは、現体勢でできる一番深いお辞儀をしたまま下を向いていた。

心配させて当然のことを、加えて意図的に隠れてやっていた。アスナからすれば裏切りに等しい行為かもしれない。

それを考えれば、顔をあげることなど出来るはずがなかった。

顔を上げられないまま動かないキャロルの姿に、アスナは小さく息を吐くと表情を緩めた。

 

「顔を上げてください」

 

恐る恐るといった様子で顔を上げたキャロルをアスナは柔らかく抱きしめた。

 

「本当ですよ。本当に、心配したんですから」

「......はい」

 

縮こまったキャロルの声は、普段からは想像もできないほど弱々しかった。

 

「キャロル。貴方にとって私は、まだ学校に通い始めたばかりの子供かもしれない。でも......子供にだって、大切な人を心配する気持ちはあるんです。大切な人が傷ついていたら......辛く、なるんです」

「アスナ......」

「キャロルが私達の為に頑張ってくれているのは勿論分かっています。でも、だからこそ私にも一緒に戦わせて、苦労させて欲しかった。そんなことを思うのは......強欲、でしょうか」

「......いいえ」

 

キャロルはアスナを優しく抱きしめ返した。

 

「私が間違っていました。心配をかけさせたくないと言い訳して、アスナ自身の気持ちを勝手に決めつけていました。それに......子供なのは私の方です」

 

キャロルは一瞬躊躇いを見せるが、やがて口を開く。

 

「私はこれを完成させて貴方に見せたら、きっとまた凄いと思ってくれるなんてそんな事を思っていたんです」

「え?」

「勿論、狩場のマニュアルを作ることで皆様が安全に戦えるようになる、という考えもあります。でも、気持ち的には前者が大部分でした」

 

キャロルの思わぬ告白にアスナの顔はあっという間に朱に染まる。

それを悟られ無いよう、アスナはキャロルの肩に頬をつけた。

 

キャロルは本当にずるい。

先程までの感情も、考えていた事も全てキャロルの言葉に吹き飛ばされてしまった。

上擦りそうになる声を必死に抑え、アスナは言葉を紡ぐ。

 

「キャロルの事はこれ以上にないくらい凄いし尊敬できる人だと思ってます。それはこれまでもこれからも変わりません。なんといったって、私の唯一の師匠ですから」

「ありがとう......ございます」

 

アスナは名残惜しさを感じつつもキャロルの抱擁から抜け出す。

そしてそのままキャロルの手を両手で包み込んだ。

 

「一つだけ、約束して欲しいことがあります」

 

アスナのまっすぐな視線に、キャロルは居住まいを正す。

 

「何でしょうか?」

「無理をしないで、なんて私には言えません。ですから無理をする時は私に、私じゃ頼りにならないのならキリトくんやエギルさんでもいい、一言教えて下さい」

「......必ず」

 

アスナの両手から温かな体温が伝わってくる。

二度とアスナを裏切ることのないようにと、キャロルは固く胸に誓いを立てた。




リクエストを頂きましたので現時点でのキャロルのプロフィールを簡単に紹介します。
せっかくなのでSAOのゲーム内プロフィールを参考にしてみました。

Player name / キャロル
Event name / Carol
Age     / 16(ゲーム開始時)
Hair style / 腰に届かない程度の長髪(イメージはGGO時のキリトか黒雪姫)
Hair color / 深めの赤
Eye color  / 濃青
Skin color / 白
Height   / 164cm(キリトと同程度)

大学を飛び級で卒業した後、世界旅行に出掛ける。その際ソードアートオンラインに興味を持ち、体験していたところ事件が起こり囚われの身となる。
知人に対しては表情豊かな方だが、黙って立っていると冷たい印象を受けやすい。その影響もあって初対面では実際の年齢より上に見られることが多い。メインキャラで顔の雰囲気が一番近いのはシノン。(つり目気味)
公私で自らを使い分けている節が有り、公の場での付き合いはこなせるがプライベートでの人付き合いは苦手。その為友人は少ない。
現在はアスナに勉強などを教えており、人付き合いの苦手さは多少改善された。

あくまで作者のイメージするキャロルですので、参考程度でお願いします。
誤字脱字のご報告や感想等お待ちしています。

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