IS/SLASH!   作:ダレトコ

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第八十話~イメージインターフェイス~

 

 

~~~~~~side「ヒカルノ」

 

 

 「……さぁ、ワン坊は行ったよ。さっさと出てきな、悪戯好きな子猫ちゃん?」

 

 ワン坊が施設から出て行ったのを見計らい、部屋の外に向かって声を投げかける。すると程なくして、招かれざるお客がスッと部屋に滑るように潜り込んできた。

 

 「……気配は消してたし、監視カメラの死角はもうまるっと覚えた筈なんですけど」

 

 「舐めんな、ここはアタシの庭だぞ……いやでも、あのワン坊に最初から最後までさっぱり気がつかれなかったってだけで実際大したモンだよ。アタシじゃアイツ相手にかくれんぼしたところであっという間に見つかっちまう」

 

 「私ももし一回でも気配辿られたりしたら多分アウトでしたけどね……でも結局、肝心の所長さんには見つかっちゃうし。こんなんなら最初っから隠れたりしなきゃ良かったなぁ、骨折り損」

 

 「何開き直ってんだ、いい加減ちったあ遠慮ってモンを覚えろこの悪戯猫。一般にゃあ公開してないここに毎度毎度勝手に不法侵入してきやがって、本来ならとっくに公僕に突き出してるトコだよ」

 

 「心配しなくても立ち入り禁止区画には入ってませんって。ここでやってる研究になんて、大して興味はないですし……後、所長さん。例によって、私のオデコに落書きしようとするのやめてくれませんか? しかも油性で」

 

 「いやだってこのデコ見ると書きたくなるんだよ、つい……チッ、ケチめ。で? 今日も『見に』きただけ?」

 

 「はい。今日も勝手にお邪魔してすみませんでした。もう、私もお暇します……一応、彼に『全部』話さなかったことだけは、感謝しときます」

 

 「情報の捨拾選択をしたのは別にお前のためじゃない、礼は不要だよ。大体、いずれ全部バレちまうことだ。あいつがIS学園にいる以上はな」

 

 「……それならそれで、構いません。あくまで私の『感情』の問題ですから」

 

 そして、言いたいことだけ言ってさっさと帰っていこうとする……出来れば視界にすら入れたくない部類の奴なのでいつもだったら好きにさせてるトコだが、今日はちょっとそんな気分じゃなかったので、アタシはその背中に言葉を投げた。

 

 「アンタ、自分がこの上なく中途半端なことしてるって、わかってるか?」

 

 「…………」

 

 「『元に戻る』つもりがないなら、そもそもなんで帰ってきた? ……あの子の前に、今更姿を現した? アンタは気を遣ってるつもりかもしれないがね、それでその度に傷ついてんのは誰だと思ってる?」

 

 「……私は『更識』を失くしたくなかった。帰ってきた理由なんて、それ以外にありません」

 

 「なら、もうここには顔出すな。あの子はもう『更識』じゃない……お家再興で忙しいアンタが一々気にかけてやる必要なんざ欠片もない相手の筈だよ。そうだろ、更識楯無?」

 

 「そうでもないです、あの子が『ああなった』事に関しては私に責任がありますから。でも、所長さんがそう言うなら今日で最後にします。けどその前に一応、私が来ちゃいけない理由を聞いてもいいですか?」

 

 「大したことじゃない、アタシの私情だ……アンタを見てるとイライラする」

 

 デコ助の問いかけに、あくまで正直かつ簡潔に答える。デコ助はそいつを聞いて、あの薄気味悪い満面の笑顔を浮かべ、

 

 「ああ……それは、気が合いますね。私も実はアナタを見てると正直気がささくれ立つんですよ、篝火ヒカルノさん。でも、あの子はアナタを信頼してるみたいだし、もうここに来ない以上、不本意ですが私としてはこう言うしかありません。私の大事な『親戚』、布仏簪を、これからも宜しくお願いします」

 

 今度こそ、踵を返して去っていく。

 ……あーあ、やっぱよしゃよかった、結局いつもに増して胸糞悪い思いをしただけだ。少なくとももうアタシの言葉じゃ、何を言ってもあのデコ助には届かない。ここは一つ、やっぱ若い奴になんとか頑張って貰うしかないね、我ながら無茶振りだと思うけど。

 しかしだからといって、元はアタシが言い出したこととはいえ、このままここからみすみす逃がすのもそれはそれで腹立たしい。どうせ最後なら、少しからかってやるかね。

 

 「……なぁデコ助。そういやアンタ、どうしてアタシが防犯カメラに映らないアンタを来る度見つけ出してるのか、ずっと知りたがってたよなぁ?」

 

 「…………」

 

 振り返りはしないものの、デコ助の歩みが止まる。やはり興味はあるのだろう。自分の目論見通りにいったことに笑みを深くしながら、アタシはその背中に引き続き言葉をかける。

 

 「折角だし、もう来ないってんなら特別にタネ明かししてやるよ。この研究所が『何を』研究してるトコかは、アンタも知ってるだろ? ……そう、現行ISで少しずつ試験運用が始まってる、『例のもの(ナノマシン)』の調整したヤツを研究所内一体の大気中に散布してあるのさ。あんな旧世代の監視カメラだけが、ここの防犯用の設備だと本気で思ってたのか? おめでたいねぇ」

 

 「…………」

 

 あ、肩が少しはねたけど、なんとか持ち直した。

 ……ふむ。『なんかこの人、また目開けたまま寝言言ってるよ……でも今まで見つかり続けてたのも事実だし、もしかしたら万分の一くらいの確率でホントなのかな~?』って反応だな、多分。よし、もう一押し。

 

 「おまけにこいつがアタシ直々に調整した特別製なんだなこれが。よって、監視機能の他にももれなくステキオプションが搭載されてる。さて、そいつは一体なーんでしょう?」

 

 「……どうせ、碌でもない機能なんでしょ?」

 

 「ブッブー、『ロクデモナイキノウ』なんてモンはついてませんー。正解はねー、不審な侵入者を武装解除するために対象が纏ってるモン全てを『和泉』応用した物質操作で全部剥ぎ取る機能でしたー。どうだ凄いだろー、今もしここに重火器で武装したテロリストが大挙して乗り込んで来たとしても、アタシが指パッチンするだけであっという間に纏めてスッポンポンにできちゃうんだー」

 

 「……!」

 

 今度こそデコ助がビクンと反応する。おし、かかった。いやもちウソだけど、精々騙されて間抜けな反応を晒すがいいさ……!

 

 「ハッハー、今更気がついても遅いぞ迂闊水色! いやー一回使ってみたかったんだが中々機会がなくてなー。協力に感謝――――」

 

 が、期待していた反応(そいつ)は正直アタシの想像の斜め上を行っていた。こっちが言い終わる前に気がつけばデコ助はアタシの視界から消え、次の瞬間には天地が反転していたのである。

 ……ジャーマン、だと? おのれこやつ、激流に身を任せ同化するタイプの使い手だと思っていたが、その実意外と剛の者であった、ぐふぅ。

 

 

~~~~~~side「一夏」

 

 

 簪の件は、当初俺が想定していた以上に難航した。

 何せ、糸口がまるでなかった。一組や二組では、まだ休み中なのもあって人数がまばらなのもあり、簪って名前は知らないけど俺が知らない専用機持ちの一年ってことなら、四組でクラス代表をやってる人じゃないの、という証言くらいしか、彼女に関する有力な情報は得ることは出来なかった。よって仕方なく、俺は死地に踏み込むような覚悟で四組に足を運んでみたのだが、

 

 「……知らない」

 

 「…………」

 

 意を決して話しかけてみても、クラスの娘から返ってくるのは冷たい反応か無視のどちらか。間が悪かったのか簪本人も見つけることが出来ず、結局すごすごそのまま引き下がるしかなかった……どうやら、聞いてた噂はある程度本当だったらしい。一組がどれだけ俺にとって奇跡のようなクラスだったのか、改めて実感できた瞬間だった。

 

 そして所長が言ってた、どうやらこの学校にいるらしいこの件の協力者とやらとも、未だにコンタクトが取れていない。流石に向こうから来てくれるんじゃなかろうかと思っていたが甘かったようだ。所長に改めて誰か聞こうとも考えたが、あの倉持技研に行った日以降どういう訳か電話が不通になってしまっている。だからこの確認のことも含めて、もう一度倉持技研に行くのが現状では一番いい方法なのは理解出来ているんだが、戻ってきてからというもの俺も色々用件があってなんだかんだでIS学園に拘束されてしまい。

 

 「織斑君でツイスターゲームっていうのは?」

 

 「『で』?! ……なんかその俺をツイストして遊ぶ的なネーミングやめてくんない? ダメ」

 

 「じゃあ篠ノ之さんと」

 

 「あ、箒は『と』なんだ……俺はいいけど多分死人出るよ」

 

 「う~ん……それじゃ、やっぱお――――」

 

 「だからさぁーなんで俺か箒いるの前提なの? 全員で参加しようぜ皆の学園祭だろ?!」

 

 ……それからややあって、今日に至る。

 

 

 

 

 IS学園学園祭。

 未だ休みが明けていないとはいえ、その準備は着々と始まっていた。クラスによっては、もう既に学園に帰ってきてる人員でクラスの出し物を準備を始めてるクラスもある。

 例えば、一年なら二組。鈴の統率能力は相変わらず大したもので、もう出し物を決めて必要なものをある程度揃えつつあるようだ。何をやるのかは鈴は教えてくれなかった、どうやらクラス別に集客数で得点をつけることもあり、一組の俺は現状こと学園祭関連に関しては商売敵として認識されているらしい。最近は二組への立ち入りも制限されるようになった。少し切ないが、同時に勝負事好きでやると決めたら徹底的にやるあいつらしいとも思う。

 

 まぁそういう訳で、俺に限らず鈴が一組そのものに、

 

 『まーあんた達に恨みはないけど、隣のクラスだったのが不幸だったと思うことね。それにあたしとしてはあいつ(千冬)の担当クラスってだけで気に入らない理由としては十分だし……悪いけど、潰させて貰うから。一組』

 

 そんな喧嘩上等な台詞で吹っ掛けてきたのもあって、流石にマイペースな連中だらけの一組も敵愾心に火がついたらしい。早速今いる面子で出し物をある程度決めておこうという話が持ち上がったのだが。

 

 「もー、織斑君反対ばっかし! 話進まないじゃん!」

 

 「そうだよー! そもそも織斑君と篠ノ之さんがいるのは一組最大の強みなんだし、それを活かさない手はないでしょ!」

 

 「…………」

 

 「あー……うん、ごめん。わかったから満面の爆発五秒前織斑先生スマイルでこっち見ないで。ちょっとふざけたのは謝るから」

 

 ……そこで、話は冒頭に戻る。ああ、所詮一組は一組だったということさ。持ち上がる案はどれも申請通す気のないような不真面目なものばっかで、生真面目なセシリアはこの一組の自由な連中を纏めきることが出来ず、結局あまり前面に出たくなかった俺が意見調整役を務めることになったのだが、それでも難航しているのが現状だ。他の俺の味方であるラウラは護衛の仕事を終えて一度報告の為に本国に戻ってしまい今はおらず、箒は一向に進展しないこのクラス会議に疲れ果て、セシリアと共にマグロ状態になってしまって役に立たない。孤独な戦いだ。

 

 「けどさー、二人がいるの活かしたことやったほうがいいんじゃないかなーってのは割とマジだよ。二組の出し物凄そうだし、ありきたりのじゃホントに食われちゃいそう」

 

 「……うーん」

 

 正直、そうじゃなくても出遅れてる以上今から二組に対抗するには何かしら策を講じる必要があるというのは俺も思う。けど、その凛々しいビジュアルや、寡黙ではあるもののクールで男らしい性格が周知され始め一年の間で根強い人気のある箒は兎も角、四組の極寒の地を経験してきた身としては、いくら世界初の男性IS搭乗者、学園でただ一人の男という肩書きがあるにしろ、山車に担ぎ上げられるには、俺はこのIS学園では正直力不足なような気がしている……けどまぁどっち道。

 

 「そりゃ、俺も一組である以上は協力はするけどさ……『俺等だけ』押し出した出し物ってのはダメだろ、さっきも言ったけど何のための学祭だよ。二組との勝負に負けたくないのはわかるけど、全員が楽しめないと意味ないだろ」

 

 「大丈夫! 私達は楽しい!!」

 

 ……もうやだこのクラス訳わかんない。畜生千冬姉、いくら面倒くさいからって生徒の自主性を重んじるとかそれっぽい理由つけて早々にエスケープしやがって。今度寮長室行く機会あったら冷蔵庫ん中のビール纏めてフルシェイクしてやるから覚えてろ。

 

 と、俺も最後は半ばそんな現実逃避に走りつつ、結局その日もも一向に話が進まないまま、果てしなく無駄な時間を過ごした。俺も具体的に案がある訳でもないし、情けない話だがもう学祭については何処かで新しい風が吹いてくれるのを願うしかないのかもしれない。二学期を前にして、俺の悩みは解決するどころか増えていく一方だった。

 

 

 

 

 そして、そのせいか否かはわからないけれども。

 

 「特打ィ!」

 

 「うげっ!」

 

 『雪蜘蛛』の制御に意識を移した一瞬を突いた『龍咆』が、構えた雪片を弾き飛ばす。同時に自身を滞空させていたPICのネットも唐突に消え、俺は空中で大きくバランスを崩して、

 

 ――――!

 

 立て直す前に『龍殻』によるパワーアシスト付きの強烈な鉄拳を貰う。同時に白式のSEが底を突いたことを知らせるブザーが、アリーナに鳴り響いた。

 

 ――――つーことで今まで結構余裕勝ち出来ていた鈴相手に、久々に黒星がついた。第二形態移行は白式を強化したかと思いきや、新しい機能の制御に気を配る時間が増え、戦闘そのものに一極集中するのが難しくなった影響か、却って戦闘自体の難易度は格段に上昇した感じがある。ただ、半端ではあるものの空戦に対応出来るぶんセシリアに対してはたまーに勝てるようになってきてるので弱くなってる訳ではない……と思うのだが。如何せん、このイメージインターフェイスとかいうモンが兎に角曲者なのだ。ラウラのAICじゃないが、少しでも『それ』に向ける意識が途切れるとあっという間に効力を失ってしまう。

 

 「なんて言うか、鈴の妨害のタイミングが的確過ぎる気がするんだ。なんでこう、こっちがイメージインターフェイス使おうって思ったタイミングに合わせて毎度毎度撃ってこれんの? しかも何故かそういうのに限ってガツガツ当たるし」

 

 「ん~……セシリアにも良く聞かれるんだけど、特にそういうの意識してやってる訳じゃないのよね。カンってヤツ?」

 

 「いや、聞き返されてもわかんねぇよ……」

 

 そこで、先程俺を負かしたばかりで機嫌良く鼻歌歌ってる鈴に、確かイメージインターフェイス兵装であるこいつの甲龍の『龍咆』の使用感を、明らかに俺よりは上手く使いこなせているのもあって参考程度に聞こうと思い尋ねたが、どうやら鈴は殆ど感覚でそれを使ってるらしく、あまり役に立ちそうな話は聞くことが出来なかった。

 

 『イメージインターフェイスの制御技術は、搭乗者自身の才覚やISと搭乗者との相性が露骨に出る分野です。彼女の場合、元々のそういった素養が他者のそれより恵まれているのでしょう。『龍咆』自体の制御に、複雑なイメージが必要ないのも大きいかもしれませんが』

 

 とは、白煉の弁。結局のところ才能が絡んでくる世界の話で、持たざる者は努力でその差を埋めるしかないらしい。しかしその努力の方向性すら掴めていない現状ではやはり具体的にどうしたらいいかが思いつかずに、兎に角動き方だけでも覚えるため鈴が去っていった後のアリーナで許可された時間ギリギリまで動いてみようかと思い、白式を纏ったまま動き出そうとしたところで、

 

 「ほうほう、自主練かね? 最近の一年生は熱心なようで」

 

 「!」

 

 ふと、背後からそんな声が掛かって、俺はハイパーセンサーがあるのも忘れて反射的に後ろを振り返った。

 ……そこにはいつの間にか、IS学園の制服を着て『感心感心』と書かれた扇子で口元を隠した更識先輩が立っていた。

 

 

 

 

 「っ……! ちょ、ISも展開せずに演習場に出てこないでくださいよ! 危ないじゃないですか!!」

 

 とっさに出たのはそんな言葉だった。競技用とはいえ、ISは非武装、非戦闘用状態でも、装甲車の装甲くらいであれば紙屑のようにへし折ってしまうくらいの力はある。こちらに傷つけようとする意図がなくても、生身の人間が近づくのはかなり緊張する。

 

 「あは、大丈夫だって。一応、『展開』はしてるから」

 

 「?」

 

 言葉を発すると同時に少し後ろに飛びのいてしまった俺を相変わらず楽しそうに見ながら返事をする更識先輩の言葉を受けて、ハイパーセンサーを確認する。

 ……すると確かに、更識先輩の周囲にはIS特有のEシールドが発生していることが確認できた。しかし何度見返しても装甲らしきものは全く見当たらず、更識先輩は外見上はどう見ても生身だ。強いて言うなら、神秘的な水色の幾何学模様のようなものが定期的に表面を走るように浮かび上がる黒い手袋が、制服から覗く両腕を覆っているのが前にここの校門で会った時と異なるくらいだった。

 

 「……部分展開? それにしても……」

 

 「私のISはちょっと特別っていうか、他と違うの。言いたいことはなんとなくわかるけど、問題はないよ。確かに部分展開ではあるけど、このままでも君くらいの相手だったら出来る自信もあるし。ちょっと試してみる?」

 

 「……言ってくれますね」

 

 相変わらず怪訝そうに見てくる俺に対して、更識先輩は本当に大丈夫だと手を振りながらアピールする。

 ……それにしても他の相手だったら千冬姉みたいな例外でもない限り、流石に俺でもカチンとくるような舐められっぷりだ。ただこの人の場合、発言の一つ一つが何処まで本気かわからないところが結構あるので、一々取り合うのも面倒だという感情が先にくる。なので、

 

 「でも、遠慮しときます。今はちょっと、他に取り組みたいことがありますんで」

 

 「もしかして、さっきの鈴ちゃんとの試合関連?」

 

 やんわりと断りを入れようとしたところで、今度は図星を思い切り突かれた。

 

 「……見てたんですか?」

 

 「うん。見たところまー鈴ちゃんのあの相手のイメージを掻き乱すやり方の上手さもあるけど、それ以上に君がイメージインターフェイスの運用に慣れてない感じだったね。あの空中でピョンピョン跳ねるヤツって、最近習得したの? 変わったPICの制御方法だけど」

 

 「はい。習得っていうか、ISの方が追加してしてくれた機能なんですけど」

 

 「そっか。んー……ぶっちゃけ、どんな『イメージ』を浮かべながら使ってるかって、説明出来る?」

 

 「感覚的なものでいいなら」

 

 「おっけおっけ」

 

 そして反論する間もなく今度は質問攻めにされる。それに釈然としないものを感じながらも答えていくと、やがて更識先輩は何か考え込むように口に手を当てて一度沈黙した後、

 

 「なんだったら、私がちょっとだけ教えてあげようか? 君が今手こずってる、イメージインターフェイス制御のコツ」

 

 「……え?」

 

 またしても唐突に、そんな提案をした。

 

 

 

 

 「――――液晶画面って、元は凄い小さい四角形の液晶パネルの集合体がそれぞれ発光することで、線や面、色を作って像として結んでる、っていうのは知ってるよね。そして……例えば、同じテレビの画面っていう限られたスペース内において、そのパネル一つ一つが私達が知ってるものよりとっても大きかったとする。すると、最終的に映る『像』はどんな風になるかな?」

 

 「えーと……要するにその線や面を作る一つ一つのパーツが大きくなる訳だから、カクカクになって何が映ってるかわかり辛くなるんじゃないですか?」

 

 「そ……映したい像はあるけど、像を映すための『ハードウェア』が貧弱だと映したいものははっきり映せない。けどIS自体は、個体によって癖みたいなものはあるけど皆等しく搭乗者のイメージを形に出来るだけの力を備えてるから、この場合『ハード』は搭乗者の『頭』そのものを指す表現になるね」

 

 言葉を続けながら、更識先輩は黒い手袋に覆われた手の、右手の人差し指をおもむろにピッと立てた。

 するとどこからともなく、まるで無重力空間に放り込まれたようなたえず形を変える水の塊が、無数に彼女の周りにふよふよと浮かび始めた。

 

 「けど、その人の頭にしたって、頭の中で脳みそが突然変異起こしてるような例外を除けば、大体はスペック的に人によって大差があるってことはないし、簡単に作り変えられるものでもない。だから基本的には人によって使えるハード……所謂像を落とす『画面』が違うっていうことはなくて、スタート地点は皆同じなワケ……一部例外はあるけれどね」

 

 「でも、実際……」

 

 「……うん。けれど実際、運用する段になると大きく個人差が出る事実はあるね。それが所謂、『ソフトウェア』の差ってヤツ。イメージインターフェイスを使う上で、絶対に避けては通れないところで……今から私が君に教えることのキモでもある」

 

 更識先輩の指が動く。それだけで、浮かんでいる水塊が各自意思を持っているかのように動き形を変えていき、最後には無数の薄いパネル状に分裂して、そのまま例えに出てきた液晶を形作るように、面を作るように規則正しく整列する。

 そして更識先輩が指を鳴らすと、その『面』を形作る一部のパネルが、まるで本物の液晶画面のようにパッと色を変え、水で作られたその画面に、ぼんやりと何かを映し出した。

 

 「でも……その前に、液晶で例を出したことだし『コレ』で簡単なテストをしようか。今のままじゃ、ここに何が映ってるのかわからないよね? さて一夏君、君がこれをはっきり『見たい』として、それを実現させるためにはどういった方法を思いつくかな?」

 

 「…………」

 

 言われて、考える。

 ……といっても、普通に今までの話の流れから考えるなら、答えは既に出てはいるが。

 

 「そりゃ……パネルが大きすぎて像がはっきりしないってんなら、パネル一つ一つをもっと小さくすりゃいい……そういう話じゃなくて、ですか?」

 

 「ま、それも『答え』の一つ……っていうか、今までの話聞いてれば一番最初に思いつくやり方よね」

 

 俺の答えに更識先輩は首肯すると、もう一回指を鳴らした。

 すると目の前の水のパネルの一部が一瞬で弾けるように分散し、最早近づかないと視認出来ないくらいより小さな正方形のパネルになり、それによって面に表示されている『何か』の一部だけ、非常に鮮明に表示される……しかし、やはり一部がわかっただけでは、『全体』に何が描かれているかはまだわからない。

 

 「けど……そのやり方じゃ、ここまでが限界。これ以上全体を細分化させたかったら、『IS本体の制御に支障がでるくらい集中しなきゃならない』としたら?」

 

 「……!」

 

 「どうしても『力の制御』に意識を裂かないといけないぶん、イメージインターフェイス兵装の使用中っていうのは、どうしても脇が甘くなりがちになる……それが緻密なイメージを必要とするものなら尚更ね。かといって適当なイメージじゃ、見ての通り出力されるものがぼんやりとしてしまって十全な結果が出せなくなってしまう。この辺りの匙加減は、第三世代機を運用し出した搭乗者が大体一回は躓くところなのよね」

 

 更識先輩の指が宙を滑る。

 同時に今度は、今まで『面』を形成してた無数の正方形の水パネルが、一斉にバラバラに分散した。

 

 「……考えてみて。使おうとする度に、この状態から像を一々イメージしてパズルみたいに組み直すなんてやってられないでしょ? そもそもいざ『使おう』として意識を他のことに向けること自体、コンマ一秒の隙が命取りになるIS同士の戦闘じゃ愚の骨頂。出来たら『起動』のイメージだけで無意識の内に一から十まで組み上げてくれる流れを、頭の中で作れるようになるのが理想的ね」

 

 「そんな簡単そうに言いますけど、人の頭とコンピュータは違うもんですよ。少なくとも俺には、意識もせずに明細なイメージを頭の中で組み上げるなんて、のは……」

 

 「その辺は慣れの問題もあるけど……あまり難しく考える必要もないよ、それだと却って逆効果だし。日常的に過ごしてる中で、特に意識しないでついやっちゃうことってない? 授業中に考えごとしてる時に、指でペンを回してみたりとか。感覚的にはそれの延長みたいなものよ」

 

 「……うーん」

 

 「まぁ、こればっかりは皆感覚で覚えることだから、言葉だけで説明するのはちょっと難しいかな。実際に使いながら自分のISに合うのはどんなイメージか探してみるしかないね」

 

 更識先輩の話がいまいちピンとこず考えこむ俺を余所に、先輩は飽きてきたのか、先程分散させた水パネルをごちゃごちゃと動かして遊び始めた。

 ……改めて見てみると本当凄い。光の加減で七色に光る無数の水塊を指揮するように操っている光景はさながら魔法のようだ。これもイメージインターフェイスによるものなのだろうが、こんな遊びでさえ俺が扱っているそれとは根本的に『格』が違うことを思わせる。なにせ、これだけ複雑な動きを水塊にさせておきながら更識先輩は鼻歌交じりで、全然与力を残してるのを伺わせた。

 

 『……先日の『打鉄弐式』は、まだ解析の余地がありましたが。これは……『和泉』のような、PICの応用による物質操作ではありません。本当に単一の『水』という物質を、それとは違う方式で分子構造体単位で完全に掌握し操作しています。正直、彼女の言う人間のスペックで為し得る『業』とは思えません。しかし搭乗者に負荷が掛かってる様子もないということは、まさか……』

 

 「……白煉?」

 

 そしてこの目の前で展開される更識先輩の暇つぶしに、白煉もなにか思うところがあるのか、信じられないといった様子でブツブツと何か呟いているのをハイパーセンサー越しにキャッチし聞き取ろうとしたところで、先輩がこちらに向き直り、

 

 「んー、じゃあシンキングタイムが終わったところで、さっきのテストの続き。単純に『パネルの数を増やす』以外でこれを見れるようにするには、どんなやり方があるかな?」

 

 バラバラのパネルを、指の一振りであっという間に先程の何処かぼんやりした絵のようなものが表示されている『面』に戻して尋ねてくる。

 

 「どんな、つったって……」

 

 ……急に言われても、他に思いつかない。画面そのものの性能が悪くて、尚且つそれを改良するのは効率が悪い。とくれば、もう『画面』そのものをとっかえてしまうくらいしかないだろうが、話の内容的に『代え』を用意したところで似たようなものしか使えないことになるだろうし……

 

 「……そんな考え込むようなことかなぁ、さっきの一応ヒントのつもりだったんだけど。まぁ、変に液晶を例えに出しちゃったのがいけなかったか。断っておくと『これ』、普通のテレビとかモニターとは『違う』からね?」

 

 「!」

 

 「あ、わかったみたいね。そう……絵が見たいだけなら、それが『明らかに表示されてるところにだけ』重点的に、パネルを集中させてしまえばいいよね」

 

 したり顔の先輩の言葉と共に、再びパネルが形どる『面』の形が崩れた。それらは全て、先程のパネルの色づけされていた部分と同じピンク色になると、中空ではっきり線を形成、デフォルメされた可愛らしい猫の顔の絵を映し出した。これが、先程までぼんやりとしか見えなかった像の正体らしい。

 

 「そ……そんなのアリですか」

 

 「『アリ』よ。だって、これは一度作ってしまったら簡単には形を変えられない物質的な『ハード』じゃなくて、あくまで私達の頭の中、『想像の世界(ソフト)』のハナシだもの」

 

 思わぬ『解答』に思わず憮然として文句を言う俺を、更識先輩は楽しそうに見ながら次々と解答例を中空に表示させていく。

 ――――正方形のパネル『そのもの』の形を変えてしまう。平行に走るパネルの位置を微妙にずらしていき間に出来た隙間で『線』を作る。果ては下のぼんやりしている『像』の真上に指で同じ絵を上書きしたりと、『解』は次々に出てきては消えていく。

 

 「イメージインターフェイス兵装を扱う際、『イメージの鮮明さ』が大事になるのは勿論だけど、それ以上に必要になるのが『自由な発想』なの。なにせ『想像をカタチにする』のが、かの兵装の真骨頂だからね。いくら強固なイメージがあってその兵装が持つ能力を100%の力で運用できたとしても、それで用途が狭まってしまうようなら、はっきり言って既存の通常兵装を運用した方がずっと確実で効率もいい。ISには『拡張領域(バストスロット)』なんて便利なものもあることだしね」

 

 「…………」

 

 「……あは、ごめんごめん。君の場合、『後者』は例外だってわかってて言った。だけど他に選択肢がないからこそ、これは頭に入れといて欲しいの。君の白式の『雪蜘蛛』は、もう君の中で『空中で足場を作るためのもの』としてイメージが固まりつつあるみたいだから、尚更ね。『そっち』については、白式が他のISと違うのも知ってるけど、今の君のその運用法は他のISであれば通常兵装どころか標準装備のPICでもやろうと思えば出来てしまうこと。私の見立てじゃ、『雪蜘蛛』は多分、それ以外にももっと面白い使い方が出来ると思うの」

 

 「……と、言いますと?」

 

 「そうね……一応私の方でも二、三アイデアはあるし、私なりのやり方を見せて後から実践してもらうのもいいと思ったけど……それだと『これ』を使う上での最大の醍醐味を君から奪っちゃうことになるし、敢えて一回宿題にしておくね。『PICの糸』っていうものがあれば何が出来るか、っていうのを、次にここで会うまでに君なり考えておいて」

 

 「はぁ……」

 

 そこまで話すと、多分間抜けな顔をしながら話を聞いていた俺に、更識先輩は唐突に今日の授業はこれでお仕舞い、と言い放って一回パン、と手を叩いた。それだけで、先程まで空中を漂っていた水のパネル郡が跡形もなく飛び散り霧散する。

 ……なんか肝心なところで梯子を外された気もするが、話自体は参考になるものだった。なによりあの水パネルで、イメージインターフェイス使えばこういうことが出来るのか、っていうのが少しわかってきたのが大きい。だから、

 

 「えっと……ご指導ありがとうございます。言われた通り、ちょっと考えてみます」

 

 素直にお礼を言った。先輩はそれ聞いて満足そうに頷き、

 

 「宜しい。じゃ、私はここで失礼するね。自主練頑張ってね」

 

 去っていこうとする。が、振り返り際にIS学園の制服のポケットに忍ばせていたらしい、ペンのようなものが転がり落ちた。

 

 ――――その瞬間、根拠はなかったが、なんとなく出来るかもしれない、と思った。

 

 そう感じた瞬間、反射的に体が動いた。更識先輩に倣って、指で糸の『結び目』をイメージ。それを落ちていくペンに重ね合わせ、引き上げる。

 すると落ちていくペンが、一瞬だけ空中で静止した。だがどこかイメージに綻びがあったのか、すぐに糸が切れたようにまた落ちて、地面に落としてしまう。

 

 「ありゃ……やっぱ、すぐには上手くいかないか。でも……こんな感じですか?」

 

 結局ISを一回解除し、自分の手で、何か何処かで見たような気がするそれを拾って更識先輩に渡しながら、早速こんな感じでいいのかと確認を取る。

 

 「やるじゃん」

 

 更識先輩をそれを受けて、何処か楽しそうに笑った。

 

 

~~~~~~side「虚」

 

 

 「と……会長。例の、二学期以降の各部の予算編成についてですが……」

 

 「あー、うん大丈夫。各部配分でゴネてた件は折衝つけた。あと二日くらいすれば皆一斉に譲歩してくると思うから、よさげなところで各位落としといて。そういうの得意でしょ」

 

 「え……は、はい。それと、あと……」

 

 「文化祭の出し物の許可の打診がもうきてることでしょ? まだお休みも終わってないってのに、熱心なことよね……はい、既に打診のあるクラスから提出させた企画書。もう私の方で全部チェックして合否判断はしたけど、一応虚の方でも不備がないか確認してくれる?」

 

 「……はい」

 

 ……今代のIS学園生徒会長はとても優秀である。それこそ、たまに生徒会はこの人一人いればいいんじゃないかな、思ってしまうくらいには。なんだかんだで行事の多いこの学校、彼女がいないと私達は大変なことになるのだが、いたらいたで私達は机に座っているくらいしか仕事がなくなってしまう。だから実質現在の生徒会は彼女によるワンマン運営と揶揄されることもあるが、圧力ではなく実力でそれを行っている以上、誰も正面きって文句は言えていないのが現状である。

 実際、今日も私が彼女に対する報告を全部言い終わる前に、こんな問答を繰り返した結果あっという間に話が終わってしまった。休みの中集会に顔を出したのはいいけれど、あまりその意味がなかったことに私は思わず肩を落とした……おまけにあの子、来いって言ったのに来ないし。

 

 「えーと……なにかマズった?」

 

 「いいえ……ただ、次からはもう少し手を抜いてくれると助かります、当代。後進が育たないので」

 

 「あ、そっか。ごめん。生徒会としては大事な時期だから、ちょっとはりきりすぎちゃったかもね」

 

 当代は当代で、もう一仕事終わったー、とばかりに生徒会長席に座ってくつろぎ出した。もう生徒会室は、話し合いというよりもこの人の専用休憩室みたいになっている気がする。やることはやってる以上もうこの際それは構わないのだが、

 

 「……また変な飲料を箱買いしてきましたね? 当代。『炭酸ミルクコーヒー』って、なんですかこれは」

 

 「自費で買ってるんだから別にいいじゃん……それに前のに比べりゃ全然飲めるよこれ」

 

 「そりゃ、『梅鰹ドリンク』なんて何を血迷ったかわからないようなモノに比べりゃまだマシでしょうけど……なんで明らかに見るからに外れっぽいものをよりにもよって箱で……」

 

 「だからこそでしょ。『ウケない』ってわかってるからこそ、今出てる機会逃したら次はないかもしれないじゃない? 一度そんなことを思っちゃうとどうもね……」

 

 ……この悪癖だけは本当にどうにかして欲しい。彼女はそうして買ったものを大体そのまま生徒会室(ここ)に持ち込むため、大抵二時被害は側近である私が一番に被ることになるのだ。

 

 「ところで……妹ちゃんは、今日も欠席? そもそも学校にもいないみたいだけど。まー休み中だし文句は言わないけど」

 

 が、何とか苦言を呈しようとしても旗色が悪いと見るや、露骨に話題を変える当代……それも、一応元々頼まれていた以上私にも落ち度があって、適当にかわすには若干厳しい話題だ。だから今日も負けか、と内心溜息を吐きつつ、私はそれに乗った。

 

 「はい……どうも、倉持技研の方が今忙しいみたいで。せめて今日だけは顔出すようには言ってあったんですが……」

 

 「んー……あの子いないとどうにも『あっち』が進展なさそうで、困ってるんだけどなぁ……お仕事の都合なら仕方ないか。そうじゃなくても、あなた達には『あの子』の面倒見て貰ってることだしね」

 

 「いえ、それは……『布仏』として当然のことです。『更識』である当代が、気に病むことではありません」

 

 「あはは、ありがと」

 

 当代はお礼を言いながら嬉しそうに、しかし何処か寂しさを湛えた表情で笑う。

 ……あの時父と母の決断が間違っていたとは思えない。そうしなかったらきっと、『彼女』を守ることは出来なかっただろう。それがわかっていても、当代のこんな顔を見てしまうと、どうしようもない息苦しさのようなものを感じる。

 だって、結局そうしたことで。最早たった一人の彼女の肉親は、こんなに近くにいながらもう彼女の家族ではなくなってしまったのだから。

 

 「けど……虚がそう言ってくれるなら、たまには『更識』らしく命令しちゃおうかな。虚、妹ちゃんに言っておいて。『どんなに忙しくても、二学期の頭には絶対に顔を出すように』って」

 

 しかし当代は私の様子に気がついたのか、すぐに先程までの明るい調子に戻ると、少しふざけた調子の声でそんなことを言った。

 

 「はい、わかりました。『命令』ですね?」

 

 「うん、命令。だから聞かなかったら更識鉄の掟第四項の適応対象だってことも一緒に。その場合執行役が私になることも」

 

 「ふふ、了解です。それを聞けば、流石にあの子も慌ててやってきますよ」

 

 「……虚はそう言うけど、私あの子が慌てる姿とか正直想像出来ないんだけど」

 

 「まぁ確かに、『布仏』じゃない人があの子の表情から感情を読むのは難しいかもしれませんね」

 

 「ぬぅ……疎外感。うわーんハブにするなよぅ当主だぞぅ!」

 

 「駄々っ子のフリをするのを止めてください当代面倒くさいです」

 

 「わーホントに泣きそう」

 

 そんな言葉とは裏腹にカラカラと笑いながら、当代はまだ飲みかけのペットボトルを手に力を抜いて座っていたのも束の間、一度大きく伸びをした後スッと立ち上がる。どうやら息抜きはこれでお仕舞いらしい。

 

 「もう行かれるんですか?」

 

 「『大事な時期』なのよ、生徒会のこと以外の意味でも。ちょっとボンヤリしてらんない事情も出来たし、『あの計画』、予定よりちょっと早めることにしたの。だから、そのための種を蒔きにね」

 

 「計画……?」

 

 「あら。あなたには話してあったじゃない」

 

 心当たりがなく思わず聞き返してしまった私の声に、当代は出口に向かって歩き出そうとした足を止めて振り返ると、

 

 「現状群雄割拠の一年生の掌握……まずはそのために必要そうなキーパーソンの多い一組から手綱を握ってみようかな、ってとこ」

 

 ニヤリ、と。

 いつもの天真爛漫な雰囲気の中に、どこか嫌らしさを湛えた何とも言えない表情で、微笑んだ。

 

 






 色々未だにたてこんでまして、大分間が空いてしまいました。それもこれも増税ってヤツのせいなんだ……そして話自体も全く進んでいないという。待って頂いた方には大変申し訳ありません。現状ではちょっと次もいつあげられるかわからない状況ですが、できるだけ早くあげたいです。

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