~~~~~~~~side「???」
「よし、ここね」
最後にもう一度地図を確認。
・・・よし、間違いない。最も、こんな馬鹿でかい敷地を間違えることなんてそうそうない。
『あいつ』はよくあたしのことを馬鹿にしてたけど、いくらあたしだってそこまで馬鹿じゃないんだから!
本当は、こんなに早く日本に戻ってくるつもりなんてなかった。
でもあいつがここに入学させられたと聞いて、いてもたってもいられなかったのだ。
「やっぱあんな女になんて任せておけないわ。あたしが、あいつを守らなきゃ」
状況によっては、あいつをあたしの国に連れ帰るつもりだった。
あいつはごねるかもしれないけど、絶対に不自由させないって言って納得させる。
このIS学園にしたって、そう簡単には生徒の一人、しかもあのブリュンヒルデの弟であり、今となっては世界でただ一人のIS操縦者であるあいつをあっさりつれて行かせはしまい。つまり、あたしの選択によってはここは敵地になる。
そう考えると、この学校の異常なまでの敷地の広さも相まって、まるで悪魔の城にでも踏み込むような錯覚を憶え、あたしは思わずごくりと息を飲み込んだ。
「でも、ここまで来て逃げ出すもんですか!」
そうじゃなければ、あんな状態だったあいつをこの国に残してまで、強くなろうとした意味がない。
けれど、生憎修行出来た期間は一年。それでもそいじょそこらの連中になら絶対負けない自信はあるけれど、結局最後まで一度も歯が立たなかったあの女に勝てるところまできたかと言われれば微妙だ。でも
「負けるもんか・・・!」
相手が戦女神だろうが悪鬼だろうが関係ない。
あいつを害する奴がいるのなら、あたしがまとめてやっつける。
「待ってなさい、一夏!」
悪魔の城めがけて走り出す。
今度こそ、大事な人を守るために。
~~~~~~~~side「一夏」
「谷本軍曹、状況はどうだ、オーバー」
「むむ、どうやら布仏軍曹も駄目そうであります織斑小尉、オーバー」
「え~、本音は切り札だったのになぁー」
「くぉら~夜竹軍曹~!上官の前では敬語だぁー!」
平和だなぁ。
こんないかにもゆるいやり取りに混ざりつつ、ふとそんなことを思う。
いや実は、やらせてるの俺なんですけどね。
「ごめんおりむ~、駄目だったよ~」
「いやのほほん軍曹、よくやってくれた。貴君の奮戦は決して無駄にはならないっ!」
「わ~い」
また一段とゆるい人が帰ってきたので労いの言葉をかける。
ん~、全身から癒しオーラを放っているこの娘でも駄目となると他に打開策が思いつかない。敵は思った以上に強大だ。
「んーでも流石にあそこまでガン無視されるとちょっと傷つくよね」
「立て板に水って多分ああいう状況を言うんだろうね」
「いや大変申し訳ない、ああ見えて根はいい奴なんだ。どうか見限らないでやって欲しい」
学園生活が始まって二週間。
箒は、未だクラスに馴染めずにいた。
そんな状況を、俺としてもただ指を咥えて眺めていたわけではない。
現に今もこうして、この一組で特に仲良くなった娘達に昼休みに声をかけ、なんとか仲良くなって貰えないかコンタクトを取ってもらったところである。
まぁ結果はご覧の有様であるが。
白煉にも助けを求めたが、
『箒様がそれでよろしいのであれば、私共の出る幕ではないのではないでしょうか』
とそっけない返事が返ってくるだけ。
最近になってわかったことだが、こいつは人間関係に関しては妙にドライだ。そもそも箒以外の人間に対しては自分の存在自体知られることを好ましく思っていないようで、こういった人のいる場所では決してスピーカーで話しかけてこない。
「篠ノ之さん?ちょっと宜しいですこと?」
「おお?」
俺達四人の作戦が難航しているのを見かねたのか、なんと外様から援軍がきた。
死角に移動して、固唾を飲んで経緯を見守ることにする。
「わたくし、恥ずかしながら未だ白兵戦の心得があまりありませんの。この間の模擬戦での篠ノ之さんの機動、拝見させて頂きましたが、素晴らしかったですわ。今度の放課後にでも、ぜひご教授頂けると・・・」
「残念だが私のIS操縦はIS技術とは別に学んだ剣術が礎になっている。武の心得がない者に教えたところで役に立つとは思えん」
「わたくし、代表候補生ですのよ?ISなしの運動能力も、それなりに自信はありますわ」
「・・・・・」
箒は何も言わず、ただ今予習のために書き込んでいるノートの一部を手で千切ると、指先でそれを弾いて宙に舞わせた。
「・・・え?」
それが箒の手元に落ちてくるのとほぼ同時。箒は手にした鉛筆を、なんでもないことのようにクルリと手元で一回転させる。
直後に机の上に落下したノートの切れ端は、真っ二つに切断されていた。
「・・・これが出来るか?少なくともこれくらいやれるようでなくては話にならん」
「・・・・・」
今度は絶句するのはセシリアの番だった。
それもそう、無茶ぶりもいいところだ。俺にだって多分五回に一回できればいい方、篠ノ之流を齧っていない人間には正直手品にしか見えないだろう。
「うわ、何あれ手品?」
「でもタネを仕組んだようには見えなかったけど」
「すごいね~」
・・・ああ、こういう正常な反応ってちょっと感動するなぁ。
今となっては俺も出来たらこっち側の人間でいたかったぜ。
そうこう俺たちが箒の離れ業について議論している間に、箒は席を立って何処かに行ってしまい、呆然と立ち尽くすセシリアがその場に残された。俺は盛り上がる三人を余所にセシリアに近づき、声をかける。
「・・・サンキューな、セシリア。気を遣ってもらって」
「そんなつもりありませんでしたのよ。実力のある方と友好を持っておくことは別に損にはなりませんし」
いや、こいつは箒とは一転して本当いい感じになったなぁ。
あの林のベンチで話した次の日に、こいつは皆の前で頭を下げた。
謝った後に席に戻るセシリアにしか見えないように親指を立てると、こいつは初めて俺に対して素直な笑顔を見せてくれた。
まぁその後は多少俺の方でもフォローは入れたが、そんなものは必要ないとばかりにセシリアはクラスに馴染んでいった。
今ではクラスの誰もがこいつをクラス代表として認めており、最近ではケーキの話でクラスメイトと盛り上がったりしている姿も見られるくらいだった。
「それにしても篠ノ之さん、凄い技でしたわね。クラスの噂であの織斑先生の同門と聞きましたが、本当ですの?」
「同門も何も、あいつは千冬姉が剣術を学んだ道場の跡取りだ。ちなみに俺も元門下生」
「成程・・・確かに三人ともIS戦闘は白兵戦がメインでブレードを使用しますものね。差し詰め、貴方達は現代のサムライといったところなんでしょうか」
「俺の場合は単に武装がそれしかないってだけなんだけどな」
そもそも刀を使うってだけで侍扱いするのは、古来日本特有の侍という概念に対する冒涜なような気もする。
「しかし、せっしーでも駄目かー。いったいどうして私たちじゃ駄目なんだろうね」
「何か、気を悪くすることでも言っちゃったのかな?」
俺がいなくなったのに気が付いて、例の三人娘がこちらに合流する。
にしてもせっしーか、流石に皆してフレンドリーに呼び過ぎだろう。一文字間違えればでっていうが鳴き声のスーパードラゴンになってしまいそうな呼び名だ。確かにあの公式謝罪の日にこれから遠慮なく名前で呼んで欲しいとは言ってたけどさ。
「そうですわね・・・何か、サムライ同士でなければ通じない波長のようなものがあるのかもしれませんわ」
まぁ当の本人が気にしてないならいいか。
っていうかだから侍じゃないって。そもそもお前侍を異星系のエイリアンかなにかと勘違いしてないか?
「あいつ結構複雑な事情の持ち主でさ、詳しくは言えないけどそのせいで昔から人付き合いが上手くないんだ。間違いなく谷本さんたちに問題があるわけじゃないから気にしないで」
雰囲気こそゆるゆるだが、あんな態度をとられても、自分たちに問題があるのかも、なんて言ってくれる娘たちだ。彼女たちににも見限られるようなことがあれば、流石にもう取り返しがつかない。だからすかさずフォローする。
全く、むしろ状況的にはこんな花の園に男一人なんて状態の俺の方が絶対にフォローを必要としている身のはずなのに、どうして俺の方が身内の火消に奔走しなければならないのか。
「うん、苦手ならしょうがないよ~。私だって、苦手なこといっぱいあるもん。また明日からちょっとずつ話しかけていって、ちょっとずつ慣れて言ってもらお?」
うう、いい子や。ゆるゆるオーラの間から垣間見えるその健気さに、男一夏、涙せずにはいられません。
「うん、本音の言う通りね。これで終わりってわけじゃないんだし、気長にやっていきましょ・・・と、まぁ篠ノ之さんの話は一旦置いといて」
話題さえあれば、一つの話題をあんまり長く引き摺らないのは女の子の話の特徴である気がする。
俺も最初の頃は、コロコロ変わる話題についていくのになんだかんだで苦労した記憶がある。
「代表戦、もうすぐね!期待してるわよせっしー!」
「そうそう、半年スイーツフリーパスのためにもね!」
うって変わって俄然盛り上がる谷本さんと夜竹さん。
ああそれ目当てなんだ、まぁ女の子らしいけどさ。
俺は・・・あんま魅力は感じないかなぁ。甘いもの嫌いという程徹底はしていないしむしろ好きだが、どちらかというと和菓子好きで生クリームとかは舐めただけで吐き気がする俺としてはIS学園の食堂スイーツのレパートリーは全く残念でならない。
「ええ、期待通りの結果を出して見せますわ。フリーパスを手に入れた暁には一組で食堂を貸切りますわよ!」
胸に手を当て得意げに宣言するセシリアに、おお~!と喝采を浴びせる三人娘。なんだこのテンションついていけん。
そういえば貴女も甘いの好きでしたねセシリアさん。
「でも実際敵なしじゃない?せっしー今のところ模擬戦じゃ無敗でしょ?」
「クラス代表戦って言ったって同学年相手だしね。専用機持ってるクラス代表も殆どいないみたいだし・・・」
「ふ~ん、ちなみに専用機持ちが代表のクラスってどれくらいあるの?」
「え~と、ここ以外だと四組と・・・って、ええ?!」
クラス代表の名前が書かれた名簿を覗き込もうとして、不意に飛び退く谷本さんと夜竹さん。
布仏さんことのほほんさんだけはいつも通り・・・まぁこの娘はちょっとズレてるからな。
普通は明らかにクラスで見覚えのない奴が、自然に会話の中に割り込んで来たら驚きもするだろう。
「え?何これあたしの名前書いてないじゃん!もう、いつ出たやつよ、これ」
そいつは一組の教室に何でもないことのよう不法侵入を果たすと、なんかクラス代表の名簿を見るなり唐突に特徴的なツインテールを揺らしながら憤慨し始めた。
・・・ん?待てよこいつ、どこかで
「ちょっと貴女!一組の方ではありませんわね、勝手に・・・」
「え~と、あんたが一組の代表?あの馬鹿負かして一組の代表になったって聞いてたけど、なんだ、あんま強くなさそうね」
「なっ・・・!」
そいつのあんまりといえばあんまりな台詞に絶句するセシリア。
しかし肝心の言った方はその一言でセシリアに対する興味を失ったようで、視線が俺に移る。な・・・こいつは。
「一夏!久しぶりね!」
「り、鈴!馬鹿な、お前は死んだ筈だっ・・・!」
「ふはははー甘いわ一夏、あれくらいでこのあたしを存在的に抹消することが出来るとでも、ってのっけから何を言わせるかー!誰が空気だーァァァ!!」
「いやお前自分で言ったんじゃぐぼぅ!」
顔面に鉄拳を喰らい座っていた椅子ごと吹き飛ぶ俺。
何とか空中で一回転して受け身を取ると、ガラス窓を突き破り外へランナウェイしかけた椅子を直前でキャッチする。
「あぶねーな!危うく俺の椅子が空気になるところだったじゃねーか!こいつはなーお前なんかよりも全然繊細な子なんだからな!」
「OK,あんたはあたしを怒らせたわ一夏。遺言はそれでいいのね?」
「・・・ごめんふざけ過ぎた。暫くぶりだな、鈴」
「全く、あんたって奴は。久しぶりに会う幼馴染に、まともな挨拶一つできないわけ?」
「まともな挨拶なんてする程久しぶりって訳でもないだろ、ところで鈴、一つ言っておくが中等部はここじゃおうふ」
今度は狙い済ましたかの様な完璧な軌道で左足の側面を蹴り飛ばされすっ転ぶ。
「だ・か・ら。なんで一々そういうボケをかますのよ!あたしはあんたと同じ学年だー!」
いやだってお前の反応が面白くてつい・・・うわ八の字はやめろタップタップレフリーはどこだ!
うんでもいい加減真面目にやろう。なんか一組の面々が明らかに距離をおいてさっきからこっちを見てるし。
「い、一夏さん、この方は?お知り合いのようですが?」
丁度いいタイミングでセシリアが助け舟を出してくれる。
よし、さっさと紹介を済ませてこいつを教室から追い出し・・・
「IS学園1年2組所属、凰鈴音。一応中国の代表候補生やってるわ。名前は・・・そうね、日本人には発音しづらいでしょうし、鈴って呼んでくれて構わないわ」
くそぅ先手を打たれた。
ってちょっと待て。
「代表候補生だと?そんな話聞いてないぞ。お前昨夜に何食ったとか遊びに行ったとかの他にメールに書くことがあるだろ」
床に倒された際についた埃を払いながら鈴に尋ねる。
こいつと最後に別れたのは一年前だが、それから後も定期的に連絡は取り続けていた。
IS操縦者はこの日本でさえ倍率万倍の狭き門、人口大国の中国なら言うに及ばずだ。それに加えて少なくとも一年前まで普通の一般人だったこいつが今となってはISの代表候補なんて、俺には何か悪い冗談のようにしか思えない。
「ん~ごめん、びっくりさせたくて。中国に帰ったのもそのためなんだ。あたし才能あったみたいでさ、ずっと前から声自体はかかってたの」
気まずそうに舌を出しながらそんなことを言う鈴。
ああ驚いたとも。俺の知らないところでそんなことが起こってたなんてな。中国に帰って何をするのかよく聞かなかった俺も俺か。
まぁ、こいつとの別れはこっちがその時期ゴタゴタしており、俺は精神的に完全に参ってしまっていたので、正直碌に挨拶もしないうちに気がついたらいなくなってしまったという感じだった。だからこそ、そのことを大変後悔した俺は、ことあるごとにこいつと連絡をとるようにしていたのだが。
「中国の代表候補生・・・?そんな人が、どうして一夏さんと面識がありますの?」
「ああ、こいつ国籍こそ中国だけど母親が日本人でさ、一時期日本で暮らしてたんだよ。で、そん時俺とは家が近くて通ってる小学校も同じだったていう、この国じゃよくある腐れ縁って奴だ」
「・・・まぁその通りなんだけどさ、他にもうちょっと言い方ないわけ?」
腐れ縁という言い方が気に入らないのか口を尖らせて文句を言う鈴。
といってもな。鈴と出会ったのは小学校の高学年になってからで別れたのも一年前、それにその頃こいつと一緒に絡んでいた連中とは今でも交友があるため、そいつらとひっくるめて鈴は俺の中では現在進行形で悪友というイメージが強い。
幼馴染となると、どうしてもこいつが越してくる以前に友好のあった箒の方が頭に浮かぶ。
「ふん、別に幼馴染なんて立場にこだわりがあるわけじゃないし別にいいわ。どう、わかったかしら?少なくともこの学校の生徒の中じゃあたしが一番こいつと馴染みがあるわけ。だから、これからこいつのことはあたしに任せて・・・」
「え、でも確か織斑君って篠ノ之さんとも幼馴染なんでしょ?馴染みっていうんなら必ずしも一番ってわけじゃないんじゃ・・・」
谷本さんの不用意な発言に、一気に場の空気が重くなる。いや、重くしているのは主に鈴か。
というか、こいついつの間にこんな気を放てるようにってヤバい!
異変に気がついて谷本さんの前に立ち塞がろうとするが既に遅い。
鈴は一回床を蹴っただけで滑るように移動すると、谷本さんの制服の胸倉を掴んでいた。
・・・明らかに素人の動きじゃない。さっきの足払いといいISだけじゃない、この一年で、何か性質の悪い小技を習いやがったな。
「シノノノ、って誰?あたし、初めて聞いたんだけど」
「え、ちょっと、なに怒って・・・」
真顔で迫ってくる鈴に、明らかに脅える谷本さん。
本当に巡りの悪い奴だな、話を聞きたい相手を脅えさせてどうする。完全に逆効果だ。
とにかく鈴の腕を掴んで谷本さんから手を離させる。
「ちょっと一夏!話はまだ・・・」
「まだじゃねーよアホ。お前には話してあったはずだぞ。もう忘れたのか」
「・・・ああ、『ホーキ』か。そっか、この学校にいるんだ・・・」
何か考え込むように暗い瞳になって俯く鈴。
一年前はこんな目をしたことなんて見たことがない。確かに喧嘩っ早いところはあったが、特に変なことも言っていないような相手の胸倉を問答無用で掴むような過激な奴でもなかったはずだ。
そのせいだろうか、一瞬だけ、この目の前にいる鈴がまるで姿形が同じだけの別人のように感じられたのは。
「なんだ?何かあったのか?」
俺が久しぶりに会う悪友の豹変振りに戸惑っていると、
先程まで席を外していた時の人が戻ってきた。どうやら、鈴が押しかけてきて少し騒ぎになったのを聞きつけたようだ。
怪訝そうな顔で教室に入ってきた箒と鈴の目が合う。
「・・・こいつは誰だ?一夏」
「あんたが『ホーキ』ね。話は一夏から聞いてるわ、嫌ってくらいにね」
「生憎と私はお前のことを知らない、だから今から一夏本人から話を聞くところだ。横から口を挟むな」
「っ!!」
箒のにべもない態度に殺気立つ鈴。
ったく、どのみち寮に戻ったら説教するつもりだったが、こいつは俺以外の人間とまともに話そうとする意思を少しは持ってくれんもんだろうか。
そんなことを腹の中でこぼしつつ、俺は箒に鈴のことを紹介した。
「・・・成程、私が引っ越して直ぐに出来た友人か・・・一時期は私がいなくなった後どうしているか心配だったが、どうやら杞憂だったようだな」
と、なにやら複雑そうな表情で頷く箒。
いや、心配してくれたのは嬉しいんだが、こいつに言われると無性に腹が立ってくるのはなんでだろうね。
「それで?聞いたところこいつは二組の生徒なのだろう?何故ここにいるんだ?」
「・・・一応、このクラスが今度のクラス代表戦の優勝候補って聞いたから、元々宣戦布告のつもりで来たんだけどね、ちょっと気が変わった。ホーキ、今度のクラス代表戦、あんたがあたしと戦いなさい!」
「何・・・?」
突然の鈴からの宣戦布告に、不思議そうに首をかしげる箒。
そして、当然その宣言に納得のいかないセシリアが声を張り上げる。
「お待ちなさい!クラス代表はこのわたくしでしてよ!」
「あ~そうだったわね。じゃあさ、譲ってよ、こいつに。あんたみたいないかにも箱入りお嬢様って感じの娘ボコボコにしたらあたしが悪い奴って感じになっちゃいそうで嫌だし」
「言わせておけば・・・!」
鈴の明らかにお前なんて眼中にない発言に、とうとう額に見覚えのある青筋を浮かべるセシリア。
ああ、折角最近いい調子だったからもう見ることもないだろうと思ってたのに・・・鈴のヤロォ。
そんな俺の心をちっとも汲んでくれない鈴は、セシリアにはもう用はないとばかりにまた箒に向き直った。
「逃げないわよね?一夏からは、そーいう奴だって聞いてるけど。ま、どーしても嫌だって言うんなら無理強いしないわよ、誰だって全校生徒の前で恥はかきたくないでしょうし」
「・・・大した自信だ、面白い。いいだろう」
箒は鈴の挑戦を口元に笑みを浮かべながら承諾すると、
「オルコット。悪いが、こいつだけは譲ってくれないか。尋常に真っ向勝負を挑まれた以上逃げれば篠ノ之の名を汚すことになる、それだけは出来ない」
恐らく初めて、このクラスで俺以外の人間に声をかけた。
「し、しかし・・・!」
箒に話しかけられたことに戸惑いながらもごねるセシリア。
それはそうだろう、いかに最近物腰が柔らかくなったとはいえ、こいつのプライドの高さが損なわれた訳じゃない。
ここまで馬鹿にされた以上、自分の手で鈴の鼻を明かしてやりたいと思っていることだろう。
それに、鈴が代表候補生である以上、恐らく専用機があるのもほぼ間違いない。
それに対して箒は一般の生徒枠で、当然専用機などない。クラス内でも一年生にしては格闘戦の実力が高い程度の認識しか持たれていない。
『事情』を知らなければ、勝ち目のない戦いと思われるのも無理からぬことだ。
「お前の名を汚すことのない戦いをすると誓う。お前にとってそれが大事なことであれば勝ちにもいこう」
明らかに乗り気でなさそうなセシリアに対して、さらにもう一押しする箒。
しかしなんとカッコ良い台詞回しか。まるで主人公のようだよ。
「・・・・・。」
そんな自信満々の箒を、セシリアは口に手を当てて暫く値踏みするように見つめた後、
「一つ貸し、ですわよ?」
と、一度だけ代表を代わることを承諾した。
どうやらプライドよりも実をとったようだ、怒っていても冷静な判断が出来るあたり、やはりこいつは一皮剥けたな。
実に頼もしい。
「話は決まったわね。一夏、見てなさい。あんたにとって本当に必要なのは誰か、この試合ではっきり・・・!」
「もう予鈴はなっているぞ、自分のクラスに戻れ」
突如、鈴の背後から振り下ろされる出勤簿。
もう一年の間では知らないものはいないくらい有名になっている恐怖の一撃。未だ回避できたものはいないという伝説を持つそれを、
鈴は千冬姉の腕を右手でかち上げ、なんなく止めてみせた。
「え」
「嘘でしょ・・・」
クラス中に衝撃が走る。
箒も表面上は驚いていないように見えるが、視線だけは鋭く鈴を注視している。
「凰か。見ないうちに腕を上げたな。だが、今は昔話をしている時間はない、早く行け」
しかし、当の千冬姉だけは涼しい顔。出勤簿を持った右手をあっさりを振り払うと、鈴に背を向け教壇に向かう。
そんな千冬姉を鈴は明らかに敵意を持った視線で睨み付けると、
「何よ!一丁前に教師面してんじゃないわよ、あんたなんて・・・」
その後に、なんて続けたのかは、俺にはよく聞き取れなかった。
鈴は、言い終わるや否やのタイミングで、恐ろしい剣幕でクラスから走り去ってしまったからだ。
だが、千冬姉には聞こえていたようだ。
根拠はない。けれど、今は何事もなかったように授業を始めた千冬姉が、あの一瞬だけ、どこか辛そうに表情が歪んだような気がしたのだ。
「全く・・・厄介ごとばかり増えるな。今度は鈴かよ」
思わずそう呟かずにはいられない。
悪友との再会は、思いがけない事とはいえ当然嬉しい。だが、再会して直ぐにあいつもなにか問題を抱えているらしき事が露呈した。
こちらも当然友達として、何もしないという訳にはいかないだろう。最後のあの言葉から、千冬姉も関わっているらしいということならなおさらだ。
「はぁ・・・」
箒のことといい、問題は山積みだ。俺はこれからのことを思い溜息をつき、
「織斑、私の授業はそんなにつまらないか?誠に遺憾だ」
千冬姉から有難い一撃を貰った。
・・・ホントあいつよくこれを防いだよな。
鈴ちゃん登場。鈴ちゃんの設定もちょっくらいじくってます。詳細は後程。
取り敢えずインターセプターさんと零落白夜さんは犠牲になったということで一つ。まぁ零落白夜さんは近い内に出す予定です、次の対戦カード箒VS鈴ですけど。