IS/SLASH!   作:ダレトコ

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第七十四話~金色の凶兆~

 

 

~~~~~~side「???」

 

 

 「くそ……クソッ!!」

 

 計画は完璧だった筈だ。しかし何処かで何かが、ほんの少しだけ掛け違った。そこから全てが崩れていくのは、あっという間だった。

 仲間や協力者とは気がつけば一人も連絡が取れなくなり、様子を見に行くと、つい先程まで確かにそこにいた形跡があるのに、一人残らず『消えて』いた。その事実に異様に嫌な予感がした私は今、姿すら見えない何者かから、ただひたすら逃げている。

 

 「随分と思い切ったことをやったね」

 

 「……!」

 

 が、路地裏を抜けようとしたその瞬間、そんな女の声がすぐ横から聞こえて、私は思わず足を止めた。

 彼女、は……

 

 「切り札だったゴールデンドーンは『スクルド』の突然の引退と同時に行方知れず、さらには残ったデータを元にして新しく立ち上げた『BT兵器』の構想も誰とも知れない輩に成果を先取りされていつ他に漏れるかわからない……焦ったあなた達は自分の国の特殊部隊が『暗黒時代』に日本の警察に作った大きな『貸し』を利用して、誰にも咎められることなく日本にいる男性操縦者……若しくは織斑千冬と、交渉するための材料を手に入れようとした……で、合ってるよね? ええと、誰だっけ……ま、いっか。誰かさん?」

 

 「篠ノ之……束……!」

 

 街灯の薄い明かりに照らされぼんやりと浮かび上がる、建物に背中を預けて腕を組んでいる女性の姿。それが誰かわかった途端、私は彼女の名前を呟きながら後ずさる。

 何故、各国が血眼になって探している彼女が、今こんな所に現れる……?

 

 「へぇ、私の名前を知ってるんだ。でもごめんね、私はあなたのことを知らないや。調べては来ててんだけど、生憎興味ないことはすぐ忘れちゃう性質なんだよねー。まぁそもそも、あなたが何処の誰かなんて、私にはほんっとどうでもいいことなんだけどさ」

 

 一方、肝心の彼女はそんなことを言いながら、フラフラと覚束ない足取りで私の前に進み出る。

 そのあまりに緊張感のない様子に思わず拍子抜けしそうになるが、なんとか緊張感を取り戻す。このタイミングでこんな人物が顔をだしたこと、今の事態と無関係とは思えない。

 それに仮に偶然だったとして、今自分から関わるにはあまりに危険すぎる相手だ。そう判断した私は後ずさったまま、機会を見て踵を返しもと来た道を引き返そうと考えて、

 

 「でも~」

 

 相変わらず、緊張感のない間延びした声。しかしそ中に思わず背筋に悪寒が走るほど、何か危険なものを感じた私は、とっさにその場から飛び退いた。それと同時に、今まで私が立っていた舗装された道路が音もないまま大きく抉れた。

 ……その抉れた箇所には、何も無い中空から突如姿を現した、グロテスクな黒い繊維で構成された腕が無数に突き刺さっている。

 

 「――――かといって、興味ないからって『また』私の家族に手を出そうとしたお馬鹿さんを放っておくワケにもいかないんだよね。ほら、どうせ上手くいくわけないっていつまでもこっちがほったらかしといたら、つけあがるでしょあなた達……はぁ。本当、『面倒くさい』なぁ」

 

 「……!」

 

 明確に攻撃された。そう悟った私は、反射的に拳銃を引き抜きそれを行った相手に対して突きつけた。

 しかしその肝心の相手は、それでもまるで私に対して警戒している様子がない。果ては心底眠そうに目じりに涙を浮かべて大あくびをしている有様だ。流石にこの態度には、私も腹が立ってきた。

 それに、逆にこれはチャンスかもしれないと思い始める。得体の知れない何らかのものを行使しているとはいえ、彼女本人は何かしら武装しているようには見えない。そんな状態で向こうがあそこまで油断しているなら、取り合えず武器のある私にも勝ち目はあるかもしれない、と。そしてもし、ここで彼女を確保出来るようであれば、今までの失敗が全てチャラになるくらいの大手柄に……!

 

 「ふーん……やる気があるんなら、試してみる?」

 

 「何……?」

 

 考え始めた私に、彼女はそう良く意味のわからない一言を投げかけると、こともあろうか、

 

 ――――!

 

 指を鳴らして、先程私を攻撃するのに使った黒い腕を『収納』した。これで彼女は、銃を突きつけられた状態で完全に無手になる。そして、私が彼女に向けている銃に指を向けて、

 

 「いいよ。最近動かない仕事(デスクワーク)が多くて、ちょっとなまったかなー、って思ってたトコだし……あれ、『ソレ』で私と戦うんじゃないの?」

 

 日常会話の延長のような、とても軽い調子で、そう言った。

 

 「……! 馬鹿にするな……!」

 

 殺すのは不味い……だが、この距離なら狙いを誤ることもない。私にここまで舐めた態度を取ったことを、直ぐに後悔させてやる。

 そんなことを考えながら、私は引き金を――――引いた。

 

 

 

 

 何かがおかしい。そう思った時には全てが遅かった。

 引き金を引き絞ろうとしたが、指が反応しない……違う。もう私の指どころが、腕も、狙うべき相手さえ、目の前から消えて……!

 

 「あ……ぎ――――!」

 

 私の今まで腕があったところから噴水のように血が噴出したのに気がつくのと同時に、激痛が全身を襲い、私は悲鳴をあげてアスファルトの上をのた打ち回る。

 

 「あーあー……拳銃なんて持ち出しといて、たかが『居合』に勝てないなんて情けなさ過ぎるんじゃないかな? 今のは篠ノ之流における『技』の域にすら達してない一撃だよ?」

 

 そして、今まで目の前にいた筈の相手は。どういうことか今までいた方向から逆方向から現れ、いつの間にか握られていた、東洋特有の曲刀を、鞘に落としているところだった。

 一体何が起こったのか。そんなことを考えることすら、激痛のせいで今の私には出来ない。

 

 「私をただの頭でっかちのインテリさんだと思ったかな? 残念でした~これでも一応由緒正しい武家の生まれだったりするんだよね~。子供の時から、一度『見た』技なら大体使えるんだよ。ま、お陰で修練がつまんなくて怠けてばっかで、随分昔にお父さんには武門から追い出されちゃったけどね。まぁ、どっちみち向こうも私が継ぐつもりがないのはわかって――――」

 

 「う……あ……」

 

 考えることはおろか、そのまま歩み寄ってくる彼女が何を言っているのかさえ次第にわからなくなっていく。けれど同時に次第に痛みも引いていく、ああ、これで少しは楽に、なるか。

 

 「……ちゃん。……って、……なの?」

 

 『失血性の……ック症……てる。……いつ、このままだと…ぬぜ』

 

 「あー……もう」

 

 そうして動けなくなった私を冷たい目で見下ろしながら、彼女はそこに誰もいない筈なのに誰かと二、三言言葉を交わし、最後に至極不機嫌そうに髪を掻き毟ると、

 

 「それじゃあ悪いけど、『後始末』お願いくーちゃん。まぁ最初からそのつもりだったし、『ジャバウォック』使っていいや」

 

 『あいあいさー』

 

 「……じゃあね。喜びなよ、あなたにこれから『永遠』をあげる……まぁ代償としてあなたの『生涯』を貰うけどね」

 

 理解しがたい言葉だけを私に残してさっさと背を向けてこの場から去っていく。

 ……? なんだ? 最後のあの言葉だけ、やけにクリアに聞こえて……?

 

 「……?!」

 

 その時感じた違和感で、私は漸く今自分が置かれている状況に気がついた。私が倒れている地面に、いつの間にか私を中心に黒い水溜りのようなノイズが広がり、そこから先程の黒い手が無数に伸びて、私をその中に『取り込もう』としている。

 最後の力を振り絞って逃れようとするも、既にその時には体の半分が飲み込まれていた……いや、違う。これは私が取り込まれてるんじゃ、なくて……

 

 ――――なに、これ……わた、わたしの、からだ、とけ……

 

 

~~~~~~side「???」

 

 

 『ヒャッハーまた新素材ゲットー! なー今度はなに作ろうかマム。今回新しく入った数的には合体するヤツとかいいんじゃねーかと思うんだ。ほら五体合体で人型になったりするヤツあるじゃん? シロとか見たら大喜びするぞ絶対』

 

 「…………」

 

 あー参ったなーマム暗いなー掴みも失敗したなーマジ辛いわー泣きそうだわー。くそー言いつけ通り『後始末』もとっとと片付けて元気づけてやろうとしたのにこの反応はねーんじゃないか。

 そもそもオレに言わせりゃ今更後悔すんなら、今回ハニーにちょっかい掛けようとした連中の粛清なんて最初からやんなきゃ良かったのにと思うけど。こっちは一つも手を汚さずに、向こうを一方的に破滅させる類の情報操作をかけることくらいオレには訳ないし。

 まーその辺はきっとマムの複雑なサブリミナルブラックオトメ心的なものが何かしら暴走したんだろう。他に特に居場所も無い身としては、今更この人のやる事為すことに一々口を出す気も無い。だから、

 

 『無視すんなよー。合体の話は兎も角、そろそろ補充しねーといけねーのはマジなんだぞ。手持ちがもうあんまないんだから』

 

 そのことには触れずに同じ話題でひたすらせっつく。マムはそれでもしばらくは憂鬱そうに無視を続けたが、やがてなんとか乗ってきてくれた。

 

 「……うっさいな。作りたいならそっちで勝手に作ればいいじゃん。もうずっと私の作業近くで見てきたんだし、くーちゃんだったらもうそれくらいのことは一人で出来るでしょ」

 

 『だってそれやったらやったでマム、作った後で文句言うじゃんか』

 

 「そりゃあくーちゃんが作ったものなら点数はつけるよ、当然。ってゆーか、そもそも折角用意してもくーちゃんが次々パキパキ壊すからいけないんでしょ、『私』自身じゃもう作るのもホントはヤなんだからね。相応の結果を出してくれるならまだモチベーションも維持できるけどさ」

 

 『あのーオレが悪戯でたたっ壊してるみたいな言い方すんのやめて欲しーんですけど。いちおーちゃんと仕事はしてるのよ、ネズミがオレの分体位じゃちっと苦戦するレベルになってきてるってだけで。大体前のサラッピンのゴーレム潰してくれたクモ女はまだしも、あの『黒いヤツ』はヤベーよ。あの福音騒ぎん時、いくら別途で作業中だったとはいえオレでも全身確認できねーくらいのスピードで秒殺されたんは流石に自信なくしたわ』

 

 「『アイツ』か……確か『あの時』ちーちゃん襲ったヤツが使ってたのだっけ。くーちゃん、あの私達の索敵をすり抜けたアレの手品の『タネ』ってなんだと思う?」

 

 が、結果オレとしてはあまり有難くない話題に繋がってしまった。まぁ……このまま暗い顔されるよりはマシか。でもこれ言ったら怒るかなぁ、やっぱ。それとも……

 

 『『世界乖離(ワールドパージ)』でしょ。アイツ等『鍵』持ってるんだろ、出来たって不思議はねーよ。それにそれなら、最近オレ等がめっきり連中を見つけられなくなった理由もわかるし。文字通り『裏』に潜ったんだろうさ、そいつをやられちまったら、いくらISそのものの『親』とはいえ簡単には干渉できなくなるしね』

 

 「……あり得ない! だって、ネズミさん達には『土壌』がない。素材だって……」

 

 『……たったさっきまでいくつも『喰って』おいて今更『それ』を言うの? 根本的な理屈さえわかってりゃ、どっちもやろうと思えば簡単に調達できるのはマムが一番良くわかってるでしょ? 『手段すら選ばなければ』、さ』

 

 「……っ!」

 

 あー……もう、やっぱそんな顔すんのね。これは別にマムのせいじゃないでしょうに。ホント、こっちとしても気が重くなることは出来れば遠慮したいけど、でもこいつはマム自身の為にも言っておいたほうがいいな。

 

 『マム、もうことISにおいて『自分にしか知らないこと』が残ってるなんて思わない方がいいぜ。オレだって認めたくはないけど、向こうにゃ間違いなくマムと殆ど同等のイカれた『頭』を持ってるヤツがいんのはもう間違いねーんだ。さっきの話にしたって、あくまで『表』に出てないだけで情報としては入って来てんだぜ。知ってんだろ? 今でも先進国のメディアはよほどのことが無い限り近づこうともしねー、前にマムのもの使って好き放題やってた連中がねぐらにしてた辺りでおかしな『噂』が最近いくつもあがってる――――これが全部マジなら多分これ、昔マムがやろうとしたことそのまま『なぞる』つもりなんじゃないの? 油断すんなよマム、こっから下手を打てば、『楽園構想』の続きを始めるどころか――――』

 

 ――――『計画』の『骨子』そのものを、ネズミに横からかっ攫われることになりかねないよ。

 

 しかしマムはオレが全部言い終わる前に、伝達手段である携帯のスピーカーを落としてしまい。

 一番言いたかったその最後の言葉は、結局告げることは出来なかった。

 

 

~~~~~~side「???」

 

 

 旅支度で忙しい私の元に突如飛び込んできたその連絡は、普段滅多なことではこちらにそれを入れてこない人からのものだった。

 

 『……何か弁明はあるかスコール?』

 

 それもどういうわけか、彼女にしては珍しく開口一番酷く声を荒げて怒りを露にしていた……それこそこうして電話という形でなければ、間違いなく再び生きたままフリーズドライされかねないくらいには。

 

 「何の話かまず先に言って貰えないと、それすらしようがないと思うのだけれどね」

 

 『『エム』と『シー』のことだ。先程出会い頭に互いにISまで持ち出し派手に殺し合いをしでかしてどちらも少なからず傷を負った。お陰で日本に確保出来ている貴重なアジトの一つが消滅、完成間近だった『黒のネメシス』と『破壊工房』は一から調整し直しになった。少なくとも今度の『作戦』では使えない』

 

 あちゃあ……『それ』のことか。そりゃあ、パスカルがここまで怒る訳だ。私も正直、失敗したと思ってる。まさか、あの子達の溝が『あそこ』まで根が深いものだとは思ってなかったのだ。

 

 『……君にはあの二人を会わせることがないように常に気を配れと口を尖らせて何度も言っておいたと私は記憶しているが? 何故『ミッシング・ネームズ』を一箇所に集結させるような真似をした? 彼女達は確かに凄まじいまでの素養を持った原石ではあるが、原石は『原石』だ。精神的に未熟だったり、問題を抱えている者達ばかりなのは、君も知っていた筈だろう』

 

 「流石に忘れてはいないわよ。だから『緩衝材』を予め呼んでおいてそこに集めるつもりだったんだけど……ティーちゃんはどうしたの? あの二人もあの子の前じゃ少しは大人しくなるのに」

 

 『あの二人がアジトに到着した時ティーは既にそこにいなかった……どうやらあの二人がこちらに来ると聞いて、前の仕事先で教えて貰った料理を振舞おうとしたらしくてな。ことが全て終わってしまった後で、近所のスーパーマーケットの売り場で購入すべき豆腐の種類を忘れて悩んでいたところをオータムが保護したとのことだ』

 

 ……そういえばそんなことを前に得意げに話していたっけ、でも流石にその展開は読めなかったわねー。苦労をかけるわ、オータム。

 

 「あー……オータム、怒ってなかった?」

 

 『私が最後に会ったときには今にも脳溢血で倒れそうな顔をしていたな……私が気にすることではないが、君はもう少し部下の健康管理に気を使うべきだ』

 

 パスカルはパスカルで、心底呆れた様子で私が遠慮がちにした質問に対して答えながらそんな忠告をしてくる。あまり彼女にはいい感情を持たれていない自覚はあるが、それでもこういうことを言ってくる辺り本当真面目だ。

 だがこのまま電話口でお説教されそうな雰囲気だったので、彼女には悪いがさっさと話を本題に戻すことにする。

 

 「そうする……と、そうそうあの二人のことよね。それで、何で連絡してきたの? 貴女のことだから、どうせ失敗に対する責任云々がどうこう言いたい訳じゃないでしょ?」

 

 『その通りだ。だが君も、今の話を聞いて私が言いたいことはもう凡そ理解出来ていると思うが?』

 

 ちっ……やっぱり、凄く食えない。ワーミィくらいならまだからかいがいもあるのだけれど。

 

 「はいはい。『不足人員の確保はこちらでしろ』って言いたいんでしょ」

 

 私としても考えてはいるのだ、当てこそいくらでもあるが、仕掛ける場所が場所なだけに中途半端な人選は出来ない。かといっていくら私があまり表面的に動けない以上オータム一人に任せるのは流石に危険が大きい、ティーちゃんにしても実戦経験がないというあまりに大きい不安要素を抱えている。彼女はいざという時の切り札でもあるし、重要度の低い今度の作戦で本格的に使うのは出来る限り避けたい。

 だからこそ、逆に経験については申し分ないあの二人を使いたかったのだけれど……まぁ、使えなくなったカードのことを今更考えても仕方ない。他に今ある手札の中から上がりに使えそうなものを少しだけ考え、

 

 「……!」

 

 すぐに、『いい案』を思いついた。

 

 「『貴女を雇う』っていうのはなし?」

 

 『なに……?』

 

 「貴女、今回の作戦じゃ手が空いてる筈よね? どうせだったら、こっちで私達に協力して貰う訳にはいかないかしら」

 

 『……何故君がそれを知っているのかは知らないが、それは私の一存では決められない。まずはウェザーに話を通せ』

 

 「ああ、そういえば、話してなかったけどね」

 

 ほぼ予想通りの返事が返ってきたことに、私は内心ほくそ笑む。

 ……ああ、やっぱりあの時役には立つかと思って『この話』をウェザーに打診しておいたのは正解だった。

 

 「その報告って、実は貴女からよりも先にウェザーから貰ってたのよ。だからその時に言質取っちゃったの、『亡国機業で使えそうな人間なら、誰を使ってもいい』ってね」

 

 『……それを証明できるか?』

 

 「なんだったらその時の会話の内容録音したものを聞かせましょうか? 貴女の耳なら偽物かどうかは判断できるでしょう?」

 

 『……白々しい女だ。まさか最初からそのつもりだったのではないだろうな』

 

 「まさか。私だって先のことはわからないし、どうせ使うんだったらもっと『使いやすい』相手を選びたいわ。ただ、今回はちょっと人選妥協できないのよ――――何せ、どうことを動かしても最終的には織斑千冬に吹っ掛けなくちゃいけないしね」

 

 『…………』

 

 パスカルもここになって私の思惑に気がつき始めたようで、会話を続けるごとに不機嫌になっていったが、それでも最後には少し考え込むような沈黙の後、

 

 『……いいだろう。『協力』が欲しいということであれば手は貸してやる。だが君の指示には従わない、私は私のやり方でやらせて貰う。それが最低限の条件だ、飲めないならこの話はなかったことになる』

 

 乗ってくる。これも予想通りだ、ウェザーが承認した仕事であれば、それが何であれ彼女は成功させる為に尽力する。『元』の仕事柄か何かは知らないが、彼女のこの性質は実に利用しやすい。それに彼女とチフユには、ちょっとした因縁があるみたいだし……この機会に、その一端を覗いておくのは悪いことじゃないだろう。

 ……しかし、こうなってくると今度はちょっと戦力過剰気味かしら。まぁ、ここはあの福音との戦いを乗り越えて見せた若い子達に期待させて貰うとしましょうか。

 

 「結構。じゃあ、当日は宜しくお願いね、パスカル。次は『IS学園』で会いましょう」

 

 『……ふん、精々調子に乗りすぎて織斑千冬に正体を気取られないことだな、スコール。未だ未完成の実験機しか持たない今の君ではそうなった瞬間終わる。尤も、君の『スクルド』としての全盛期だった頃の機体を取り戻せるならまた話は変わってくるが』

 

 「あら、心配してくれるの? ……まぁ、私も今のままじゃ正直厳しいのはわかってるし、当分は大人しくしてるわ。後、何度も言ってるけど『あの子』を手元に戻す気はないわよ。一応、あの子とはお互いの為に別れたんだからね」

 

 『それを聞いて安心したよ……君の言う『大人しく』の意味は私が知っているものとは些か異なるようだし、不安が全部解消された訳ではないが。では例の機体は、結局遺棄したということか』

 

 「まさか。あれだけお世話になったあの子に、そんな恩知らずな真似ができる訳ないでしょう? ……『預けた』のよ、私が今、一番信用してる子にね」

 

 

~~~~~~side「蘭」

 

 

 「ねぇ蘭! こっち来て一緒に見ようよ、『モンド・グロッソ』の再放送!」

 

 「……私はいいよー、もう何度も見たし」

 

 「もー、何があったのか知らないけど、朝からテンション低いよ? いいから来た来た!」

 

 「わ、ちょ……もう」

 

 あの嵐のような出来事があった日の翌日……登校日っていうのは、そういう時に限ってやってくる。

 正直なところ、初めて休んじゃおうかな、と思うくらいに気分が落ちていたけれど、それでもやっぱり無理にでも出てくることにした。それも今私がこんな気分なのは結局戻ってこないあの馬鹿お兄のせいだし、そのお兄がいつもやっているような理由でサボるのは嫌だっていう、後から冷静になって考えればなんか馬鹿みたいな動機によるものだけれども。

 実際そんなだったので、久しぶりに再会してやたら元気なクラスメイト達の相手をするのは少しだけ億劫だった。だから最初はさっさと先生の話だけ聞いて帰ってしまうつもりだったが、ことはそう上手くいかず、結局席を立とうとしたところで友達に捕まってしまう。

 

 ――――今更、モンド・グロッソのことなんて、なぁ……

 

 どうやら、一年前のモンド・グロッソの、『戦女神』の試合の総集編みたいのをお昼からやっているみたいだ。クラスメイト達は、皆それにお熱で、一つのスマートフォンを数人で覗き込みながら黄色い声をあげている。

 まぁ、かくいう私も一年前生で放送された時は熱中したのを覚えているけど……あのモンド・グロッソは、最後の千冬さんの不戦敗や一夏さんが大怪我したこともあって最終的に私の中ではあまり印象が良くなかったのだ。

 

 『おっと、またしてもいきなり出ました! 『金糸の契約(エンゲージ・ストリングス)』です……! モンド・グロッソ開幕以降、この破滅の契約から逃れた選手は一人もいません! 地元ドイツのアベル、この危機をどう乗り切るのか……?!』

 

 だからあまり気の乗らないまま友達に連れられて、私は興奮した様子の実況者の声が一緒に流れてくる映像を覗き込んでいるクラスメイト達の中に混じったのだが、

 

 「――――!」

 

 映像を見た途端に、そんな気持ちも何処かにすっ飛んで、思わず噛り付いたのは、

 

 ――――その、画面の中で飛び回る黒いISに纏わりついた、金色の光の糸に、見覚えがあったからだ。

 黒いISの搭乗者の女性は必死な顔で、その金色の光を放っている対する金色のISを攻撃するも、金色のISを纏った女性は常に妖艶な笑みを浮かべながら、ありとあらゆる黒いISの猛攻をひらりひらりとかわしていく。そして、次の瞬間。

 

 ――――!

 

 まるで何かの遊びのように、金色のISを駆る女性が人差し指を黒いISに向け、銃を撃つような動作を一回。それだけで、気がついたときには勝負がついていた。映像が切り替わったときには、バラバラに断裂した黒い装甲を撒き散らしながら落ちていく黒いISが映り、試合終了を知らせるブザーが鳴り響いていた。

 

 『き……決まりましたー!! またしてもミーティア選手、無傷です! 圧倒的! 誰も逃れられない……! イギリスのミーティアと『ゴールデンドーン』、これはまたとんでもない選手とISが現れました!』

 

 相変わらずとても興奮した様子の実況者の声を聞きながら、思い出す。

 そうだ。昨日の夜見た、あの金色の光条、は。

 ……一年前の、モンド・グロッソ。そこでイギリスの国家代表として初めて登場し、戦った試合は前回優勝者であるブリュンヒルデ(千冬さん)同様全て自らは無傷かつ一撃で、そして必ず相手のISを全て『バラバラ』にして勝利を収めてきた第二の優勝候補。そして最後には千冬さんの突然の棄権により決勝を戦わずして『二人目の戦女神(スクルド)』の名声を手にした、選手が搭乗していたISが放っていたものでは、なかったか。

 

 ――――これってどういうこと、なんだろう……?

 

 あの場にいた人達は、ほぼ皆知っている人だと言っていた、一夏さんは、大丈夫だと、言ったけれど。

 なんでかはわからないけど、無性に嫌な予感がする……一夏さんがISを動かしてしまったという事実。それは私や、もしかしたらあの人が思っている以上に、何か大きくて危ないことに、あの人を関わらせてしまっているのではないだろうか。

 

 「……蘭? どうしたの?」

 

 そうして映像を見つめたまま思案に沈む私を、友達が心配そうに覗き込んできて、私は一度ここで彼女を不安にさせないように無理矢理笑ってなんでもない、と答えたけれど。

 ……この時覚えた漠然とした『不安』は、すぐには消えてくれそうになかった。

 

 






 めでたい初夢がなんぞ得体の知れない裸族に襲われる夢だったダレトコです。もう何回言ってるかわかりませんが今度こそ私はもう本格的にダメかもしれません。おもち食べたい。
 テンポいい展開目指してますとか言っておいて今回も間章的な話です。本当はカットするつもりでしたがもったいないお化けがでました。次回から本当にいよいよ更識姉妹編に入っていく感じになると思います。この二人は変更した設定の都合上、本格的に主軸に入り始めると結構重い話になりそうです。ぶっちゃけ私的には、二章は実質半分は更識姉妹のお話になりそうな気がしてます。

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