IS/SLASH!   作:ダレトコ

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第三十九話~学園のトリックスター~

 

 「自由だー!」

 

 「……頭沸いた?」

 

 ひでぇ。お前と違って久しぶりに娑婆の空気を吸いにいけるんだから、ちょっとハイになるくらい目を瞑って欲しいものだ。

 

 「あんた出れない出れない言ってた割には出てたじゃない。箒の時なんてほぼ毎日」

 

 「病院通いはノーカンだろ流石に……あれなんか変な発信機みたいなのつけられるせいで寄り道出来ないんだからな」

 

 「ふーん、大変なのねー」

 

 「この野郎、人事だと思って……」

 

 「だって人事だもーん」

 

 そんなこんなで外出の許可が出てから三日。待望の休みの日、俺は早速朝から出かけることにした。今はテスト前だというのに、なんか暇~とか言いながら部屋に遊びに来た鈴を丁度いいやと誘い、山田先生に声を掛けてから校門に向かっているところだ。

 ちなみに平日なので俺も鈴も私服だ。詳しい内容? 省かせて頂く。俺は自分の衣服について自慢げに話せるほどコーディネートには自信がないし、鈴の私服にしても俺にとっては別段見目新しいものではない。

 

 「にしても護衛、ね。なんかものものしくて嫌ね」

 

 「今日だけの辛抱だよ。さて、校門で待ち合わせって言ってたけど……それっぽい人いないぞ」

 

 正直最初はこんなに早く出るつもりはなかった。ただ向こうにも都合があるだろうし、山田先生とは最初出発する時間について打ち合わせをしておこうと思ったのだ。

 だが実際話を聞いてみたら、向こうはいつでも行けると言ってきてくれてるらしいということだったので、それだったら却って待たせるの悪いのですぐにでも、ということでお願いしたのだが……

 

 「……困ったな。まぁ急ぎじゃないから待つのはいいけど、ここで待ってるって話じゃなかったか?」

 

 「まーちょっとした用事かなんかならすぐ戻ってくるわよ……でも声掛けてすぐ行けるとは思わなかったわね。護衛の人って国家代表クラスの人じゃなかったの?」

 

 「IS学園関係者なんじゃないか? ここの職員寮で暮らしてるなら都合もつきやすいだろ」

 

 「在り得ない話じゃないけど……この業界って競技人口こそそこそこ増えてきたけど、『国家代表クラス』なんて呼ばれるところまで大成するのってほんの一握りなのよ。だからどこの国も少しでも『適性』の初期値が高い人間を何とか一人でも多く発掘しようって躍起になってるの。だから、逆に……その『一握り』の座を掴んだような人が、結局は後進の教育のための機関でしかないIS学園なんかに興味持つとは思えないのよね。普通一度チャンスを掴んだなら、後のことなんて考える前にもっと『先』を見てみたいと思うもんじゃない?」

 

 「確かに……そもそも世代自体が『交代』するほど歴史のある競技ってわけでもないしな」

 

 「どんな奴なのかしら。いくら物珍しいからって、貴重な自分の時間を削ってこんな最後まで何もないのがわかりきってる仕事を引き受けるなんて……」

 

 ムムム、と難しい顔をして何やら考え込む鈴。そして一度顔を上げて俺を見ると、今度はもっと険しい表情をして唸り出した。

 

 「……やっぱ、関心ない訳ないわよね。IS操縦者なら女なのは確実、それに相当の……」

 

 「鈴? お前何一人で唸ってんだ?」

 

 「……なんでもない。ねぇ一夏。やっぱ、このまま行っちゃわない? いつでも行けるなんて言っておいていない方が悪いんだしさ」

 

 「いきなり何言い出すんだよ。んな訳にはいかないだろ、最悪また外出出来なくなったらお前責任取れんのか」

 

 「むー」

 

 なんか知らんが急に駄々をこねだす鈴。そりゃあ俺だって碌に面識ない人連れまわしながら休日なんて過ごしたくないが、約束は約束だ。

 

 そういう訳で、なんとかごねる鈴をなだめすかしながら護衛の人の到着を待っていたところ、

 

 「ヘーイお二人さん! これから二人で私服でデート? いいわねー迸る夏色青春スメルにおねーさんトキメキを隠せないわ」

 

 なんか変な人が校門の影からヌッと姿を現した。

 休みだってのにIS学園の制服を着ていて、リボンの色から一個上級生なのがわかる。だが顔立ちは、間違いなく美人なのだが今や非の打ち所のない大和美人に化けた箒と比べると若干あどけなさが残る感じで、年上には失礼かもしれないが、鈴同様形容するなら『可愛い』といった感じの人だった。透き通るように薄い色彩のショートカットの青髪と、ニコニコマークを髣髴とさせる明るい笑顔がチャーミングだ。

 

 ……尤も、登場時のいかにもオッサンのような台詞廻しがそれらのプラスイメージを全てブチ壊したが。

 

 「……ねぇ一夏。知り合い?」

 

 「いや、知らない人。多分春先とか暑い日に偶に出没する類のアレだ。あれ実は視線で空気感染する病気らしいから目を合わせるな」

 

 鈴が顔を寄せてヒソヒソと話しかけてくる。

 それに合わせて俺はこいつは関わってはいけない類の人だと判断。鈴の肩を掴んで平静を装い、何も見なかったことにしてIS学園の敷地内に戻ろうとする。が

 

 「す、ストォォォプ! フリーズプリーズフリーズウェイトォ! 待って待ってぇ! スルーはやめて切ないぃぃ! 構ってよぅ、おねーさん実は寂しいと死んじゃう生き物なのよぅ!」

 

 いつの間にかしっかりと俺の腰を両腕でホールド、ズルズルと引きずられながらくっついて来る。

 ……さっき出てきた時といい全く気配を読めなかった、これで意外とやり手なのかもしれない。

 って、これは!……くっ、先程見た時はそこまで意識しなかったが、箒には今一歩劣るとはいえこの人もかなりの規模の凶器の持ち主だ。振り切ろうとすると絶妙な弾力で押し返してくるものが背中に……!

 

 「一夏から離れろこの子泣きババア!」

 

 「ひえっ!」

 

 砕けそうになる俺の腰に取り付いた妖怪に気がついた鈴が容赦なく攻撃を加える。

 が、妖怪は悲鳴をあげながらも鈴の鉄拳を宙返りでかわし、

 

 「10.0!」

 

 両手を広げた綺麗なポーズで、俺達と向き合うように着地した。

 ……あれだけ派手に跳んでスカートが捲くれもせず中身も一切見えなかったのは、何か不思議な補正か何かが働いているとしか思えない。

 

 「もう……レディをババア呼ばわりした挙句いきなり殴りかかるなんて、常識が足りてないわよ?」

 

 「初対面の人間にいきなり後ろから抱きついてくるような女が常識語らないでくれる?」

 

 まるで困った子を諭すような表情で人差し指をチッチッと振る妖怪と、鼻息も荒くそれを喧嘩腰に睨み付ける鈴。

 ……困ったな、待ち合わせをしてるってのに、変なのに絡まれてしまった。

 

 「う~んと……君が織斑一夏君、だよね。待ってたよん。今日は私が君を守るゆえ、大船に乗った気でいたまえ。あんまり気は遣ってくれなくてもいいけど、私はさびしんぼゆえ、偶には構ってくれることを要求する」

 

 鈴との言い合いの応酬はしばらく続いたが、すぐに興味を失ったらしくいきなり俺に話を振ってくる妖怪。それにしても口調の安定しない人だな、なんか長い間話してるとこっちまで何処かイカれてきそうだ。

 って、ん?

 

 「ええっと、それって……」

 

 「? あれ、聞いてないかな? っていうか、私のこと知らない?」

 

 問いかけに、鈴と二人揃って首を縦に振る。

 途端に、何処か微妙そうな表情をする妖怪。

 

 「……う~ん。まぁまだ一年生の掌握には本格的に乗り出してないから仕方ないか。二人とも、入学式って出てた?」

 

 「千冬姉に騒ぎになるから出るなって言われて……」

 

 「あたし編入だし」

 

 「アウチ。それじゃ実質初対面みたいなもんね。こりゃ失礼」

 

 妖怪はいかにも参った参ったといった感じに、何処からともなく取り出した扇子で頭をポンポンと叩くと、

 

 「自己紹介するね。私の名前は更識楯無……このIS学園の生徒会長。そして今日君の護衛を担当する、IS操縦者だよ」

 

 ようやく、自分の名前を名乗った。

 楯無……変わった名前だ、それになんかやたら肩書きが多いな、ええと……

 

 「生徒、会長……?」

 

 「今日の、護衛……?」

 

 目の前のようか……更識先輩が自ら名乗った彼女の肩書きを、俺は鈴と顔を見合わせて反芻したあと、

 

 「えええええええぇぇぇ?!」

 

 「嘘おおぉぉぉぉぉぉぉ?!」

 

 二人揃って絶叫した。

 

 「あらら」

 

 更識先輩はそんな俺たちの様子を悪戯っぽく舌を出して満足げに眺めながら、手にした扇子を開いてヒラヒラさせた。

 扇子の面には、『ドッキリ成功』と見事な達筆で書かれていた。

 

 

 

 

 「納得いかない」

 

 無事に護衛……らしき人とも合流してお互いに自己紹介も済まし、いざ出発しようかという話になった時のこと。

 鈴が、先程の駄々の続きをやり出した。

 

 「お前いい加減にしろよ」

 

 「だって! 国家代表クラスって聞いてたのに、なんなのよ! こいつ、明らかにここの生徒じゃない!」

 

 「めっ! こんなんでも一応先輩なんだからこいつなんて言うんじゃありません!」

 

 「……何気に君の方が酷くないかな?!」

 

 そんなやり取りが続いているせいで一向に出発できない。確かに急ぎではないが、事前に連絡して会おうと約束してる奴等はいる。出来ればさっさと行きたいのだが……

 俺がどうしたもんかとごねる鈴を前に考えていると、更識先輩がすっと俺の前に出て鈴と向き合った。

 

 「う~ん…要するに、私の護衛としての実力に疑問があるってことだよね」

 

 「そうよ。そんじょそこらのチンピラ程度ならあたし達二人いればまず遅れはとらないもの、護衛っていうくらいならせめてあたし達以上だって証拠を見せて貰わないと……」

 

 「そっか。じゃあ君の認識を一つ訂正してあげる。私は『国家代表クラス』じゃないよ。れっきとした『国家代表』」

 

 「……え?」

 

 更識先輩の言葉で固まる鈴を余所に、彼女は胸のポケットから何か小さなものを取り出し鈴に向かって放り投げた。

 

 「!」

 

 とっさにキャッチした鈴が、手にしたものを見て表情がこわばる。

 

 一体なんだと覗き込んでみると、それは一対の機械の翼があしらわれた銀のバッジだった。中央には上から白、青、赤の三本のラインで表された国旗のマークが彫り込まれている。これは、確か……

 

 「国際IS委員会から授与される、国家代表であることを証明する勲章だったような……」

 

 「…………」

 

 鈴の顔が蒼白になる。確かに自分より実力が上であることを示すのに、これ以上の証拠はそうない。しかし……

 

 「これって……ロシアの国旗だよな?」

 

 楯無って確かに変わった名前だが、それでも日本の名前ではあると思う。

 ISの国家代表の審査基準については詳しくないが、日本人で余所の国の国家代表になんてなれるもんなんだろうか?

 

 「……ま、ちょっと昔色々あってね」

 

 俺の怪訝そうな顔に気がついたのか、呆然とする鈴からバッジを受け取りながら苦笑する更識先輩。これなら、もう鈴も文句はないだろう。そう思ったのだが……

 

 「だ、だけど! 実際強いかどうかなんて、これだけじゃわかんないわ!」

 

 「おいおい……」

 

 予想に反し、未だに食い下がろうとする鈴。こいつはこの人の一体何が気に食わないのだろう。

 

 「うん、一理あるわね。これはISの操縦技術が国に認められたってことの証明にしかならないし……けど、ならどうするの?」

 

 「決まってるでしょ……あたしに倒されるようじゃ、護衛は務まらないわ!」

 

 一瞬だった。

 気づけば鈴は更識先輩に大きく踏み込み、そのまま顎に掌底を打ち込もうとして――――

 

 まるで見えない何かに蹴躓いたかのように、空中で一回転して豪快にすっ転んだ。

 

 「鈴!」

 

 あまりに派手な落ち方をしたので心配になったが、とうの本人すら何が起こったのかわからないといった様子で倒れこみながら目を白黒させている。

 

 「今のは……」

 

 更識先輩は、右手の扇子を手放していない。左手だけを使い一瞬で鈴を投げ飛ばし、おまけに痛みを感じさせないよう加減する余裕すらあった。

 

 ――――自分ではなく相手の力を利用して受け流す、限りなく理想的な『合気』の投げ。

 

 正直予想以上だ。技術と速さだけなら、千冬姉の域にすでに片足を突っ込んでいるレベルかもしれない。

 

 「……わかってもらえたかね?」

 

 倒れた鈴を覗き込みながら、更識先輩はまたすっと扇子を開いた。

 いつの間にか書かれている文字は『危機一髪』に変わっている、どういう仕掛けなんだあれ。というか冷静に対処したようで結構焦ってたんだな、鈴も鈴で腕を上げてる。

 

 当の鈴は倒れたまま自分の手を見て、今度はヒラヒラと自分を扇いでいる更識先輩を見つめると、フゥ、と深く息をついて起き上がった。

 

 「しょーがない。ここまで完璧に投げられちゃ、流石に負けを認めるしかないわね……全くもう、古巣じゃ武術の師匠以外に投げられたことなんてなかったってのに。IS学園には箒といい、どうしてこうもステゴロでもヤバイ奴がゴロゴロしてんのよ……自信なくしそう」

 

 「にゃはは、落ち込まない落ち込まない。鈴ちゃんはまだまだ強くなれるよ。君の拳には、根底にしっかりとした『芯』があるのがわかるもの」

 

 そう言いながら、鈴が立ち上がるのに手を貸そうと手を差し出す更識先輩。鈴は少し迷ったようだ が、やがてその手を取った。

 

 「気安く鈴ちゃんなんて呼ばないで。付き合わせるも今日だけだからね」

 

 「はーい」

 

 棘のある鈴の態度にもめげず、手を上げながら明るい返事を返す更識先輩。

 一時はどうなることかと思ったが、これで漸く出発出来そうだ。

 

 「……と、殊勝なところを見せて油断したところを隙あり! トゥヘアー!」

 

 「ぎにゃぁぁぁぁ! あ、あにすんのよーーーーー!」

 

 「あーん、ちっちゃっくてかーわーいい。ねーにゃあって言って、にゃあ、って」

 

 「ブッ殺されたいのかアンタはッー! ぐっ、何これ、外れない……! ちょっと、離れなさいよ生徒会長!」

 

 「いやーんたっちゃんって呼んでー」

 

 「な、なにこの酔っ払いある意味箒よりもタチが悪いッ! い、一夏、助けて!」

 

 ……だからいい加減出発させてくださいお願いしますホントに。

 

 

 

 

 すったもんだの末、俺たちは漸くIS学園を離れ、本土に唯一繋がるモノレールに乗り込んだ。

 

 「……それにしても意味わかんない。何で今の時点で国家代表なんてやってる奴が、しれっとここの生徒なんてやってるのよ、おかしいわよ」

 

 「うふふ、ここでしか出来ないこともあるってこと……織斑先生とは、卒業までに出来たら一度は手合わせ願いたいんだけどな。何とかならないかしら」

 

 「そんななんとかしてよって目で俺を見られても知らないですよ。千冬姉が決めることです」

 

 「ぶー。一夏君のいけずー」

 

 散々弄り回された鈴は既にぐったりしており、更識先輩も相変わらず変なテンションで、俺はもう最初から幸先が物凄く不安になった。

 そしてその不安は、早くも的中することになる。

 

 「…………」

 

 その不安要因は、今目的の駅に着いた俺たちを、駅のホームで放心したような表情で迎えた、もう既に見た目から頭の悪さが滲み出ているこの男だ。

 

 「……なんで数馬がここにいるの?」

 

 「わ、悪い俺が迎えに頼んだ、ちょっと荷物があるから荷物持ちにって……」

 

 「勘弁してよ……」

 

 鈴が頭を抱える。確かにハイテンション組がこれ以上増えるのは精神衛生上良くない、俺も人選ミスったと後悔に駆られる。

 しかし当の本人達は、片割れは俺たちの姿を見とめてこそいるがどういうわけか一言も発せず、もう一方も何処か様子を見るように扇子で口元を隠しながら沈黙を守っている。尤も扇子に『ニヤニヤ』と書いてある時点でこの人が今の状況を楽しんでいるのは確定的に明らかだ。

 

 「お、おい一夏、鈴」

 

 数馬が漸く口を開く。しかし俺等の名前を呼んだものの、その目は明らかに俺等を見ていない。俺たちの後ろに隠れるように様子を見ている人に完全に固定されている。

 

 「あの、俺史上でもベスト5には入る空前の美少女はお前達の知り合いか?」

 

 「ああ、そうだよ」

 

 出来ることなら他人の振りを貫きたかった。

 

 「あんたそれ過去に私が知ってるだけで少なくとも10回は言ってるわよ」

 

 そして鈴が数馬の発言に冷静に突っ込む。

 ……お前そういうところがいけないんだぞ、野生動物に餌を与えるな。

 

 「過去は振り返らない。今という時間を大切にする、そういう男でありたい」

 

 ほら、いつもの頭の悪そうなノリが戻ってきちまったじゃねーか、まぁどの道時間の問題だったっぽいけど。

 

 「はじめまして、御手洗数馬です。友人がお世話になってます、ええっと……」

 

 「更識楯無。たっちゃんでいいよ!」

 

 「こ、好感触ッ!」

 

 先輩が俺たちの知り合いとわかった途端、俺たちをもう不要とばかりに押しのけると自己紹介を始める数馬。そしてあの人当たりの良さそうな笑顔とフレンドリーな返事を返されてガッツポーズを取る。

 

 ……こいつ変わってないなー。和むところではないが、思わず少し安心してしまう。

 

 「今日はこいつらと一緒に? いやぁラッキーだ、いい場所知ってるんですよ。どうです、この後すぐ食事にでも……」

 

 「あはは、お誘いありがと。でも残念、今日の私は一夏君のモノなの。ごめんなさいね、数馬君」

 

 「なん……だと?」

 

 そんなことを考えているうちに、なにやら急に踵を返して戻ってきた数馬に胸倉を掴まれる。

 

 「テメェ一夏どういうことだゴラァ!!」

 

 「はぁ?!」

 

 別にお前に喧嘩売るような真似はした覚えないぞ?

 

 「ちょっと数馬! 周りの人が見てるでしょ、恥ずかしいからやめてよ!」

 

 「黙れ鈴。今日今俺はこの野郎が驚異的な胸囲を誇る先輩に何をしたのか聞きだして、教育委員会に今日いつ提訴してやろうかということしか頭にないんだ。なんの脅威にもならないモノしか持たないお前の話など聞く耳持たない。ああくそ、ムカついてきた。聞き出すよりもぶん殴るのが先だァ!必殺驚異天動地パンチ!」

 

 こいつ俺には制服の上から見ただけじゃわからなかったあの人の武器を、見ただけで見破ったのか凄いな。そうしてなんでいきなりキレだしたのかは知らないが、怒りのあまり明らかに日本語までおかしくなり始めた数馬は俺に向かって拳を振り上げ、

 

 「バストォッ?!」

 

 逆に俺と鈴に殴り飛ばされ、謎の断末魔を残して駅のホームの手すりの向こう側に消えた。

 

 「遅いわ数馬……あたし達はあんたみたいに殴る前から『ぶん殴る』『ぶん殴る』って大口叩いて結局何も出来ない三下とは訳が違うんだからね。『ぶん殴る』と心の中で思ったならッ! その時スデに行動は終わっているのよッ!……ああもうムカつく、あの野郎最後まで人前で胸囲胸囲連呼しやがって」

 

 「『ぶん殴ったッ!』なら使ってもいいんだなわかるぜ……静かになったし行きましょう先輩。まずは家でいいですよね」

 

 「あら、いきなりお家に誘うなんて大胆ね……と、冗談は置いておいて。数馬君は大丈夫なの? ここ結構高いわよ?」

 

 良かったな数馬心配してくれてるぞ。脈があるかどうかは別として。

 つーかあいつが急におかしくなったの絶対貴女が変なこと言ったからでしょう、聞こえなかったけど。

 

 「俺の知り合いは無駄に頑丈なのが多いんで大丈夫ですきっと。まぁ一応俺が回収してきますんで、鈴と先行しててください。俺んちわかるよな鈴?」

 

 「あんたのおつかいで何度か行ってるっての、そうじゃなくても流石に一年かそこらで五年近く住んだ場所の地理は忘れないわよ。けど……早く追いついてよね?」

 

 そう言いながら、機嫌良さそうに鼻歌を歌っている更識先輩を不安そうに見る鈴。

 確かに今後に及んで二人っきりなんかにしたら、今度こそ鈴に止めがはいるかもしれない。急ごう。

 

 「ん~一夏君一人にしちゃったら私ついて来た意味ないんだけどな~……ま、いっか。私の『目』は、二つだけじゃないし」

 

 更識先輩は少しだけ渋ったが、すぐになにやら視線を泳がせながら呟くと鈴と一緒に出口の方に向かって行った。

 

 「?」

 

 その様子が少し気になりはしたが、すぐに思い直して俺は数馬を拾うために走り出した。

 

 ……全く、今日は思っていた以上に、濃い一日になりそうだ。

 

 




 

 ジョジョアニメ面白いですね。このクオリティで自分が好きな個人的に好きな第五部までやって欲しいです、プロシュート兄貴は最高の兄貴だと思います。
 ……っと、話が逸れました。たっちゃん先輩登場です。取り合えず息抜きも兼ねてる回ですので、顔見せ程度でレイディもお休みになります。今回の話では少ししか触れませんが、彼女も構想の段階で一夏並に背後関係の設定を弄っているキャラだったりします。妹さんの登場はもうしばしお待ちください。

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