IS/SLASH!   作:ダレトコ

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第二十四話~レインチェック~

鈴とセシリアが、第三アリーナで騒ぎを起こしている。

 

昨日のこともありイマイチ精神状態が安定しないシャルルを仮病を使わせて休ませ、寮の部屋で今後の事を話し合っていたところ、突然部屋に飛び込んできた箒にそのように告げられ、俺は第三アリーナに急いだ。

 

……ちなみにその際ノックもなしに部屋に乱入してきた箒に見られたことに関しては黙秘させてもらう。いやだって、甘えていいといった手前他にどうしようもなかったんだよ。それに仮病なんて使わせたのも俺だし、箸をまだ上手く使えないのも知ってたわけで。

大体、女の子にあんな上目遣いで、

 

『食べさせて?』

 

なんて言われて放置プレイをかます男のほうが生物として間違っているのだ、そうに違いない。

……その後箒と気まずくなり、先程も言うことだけ伝えて先に飛び出していってしまったのは言うまでもない。

いや、これって俺が悪いのか? 元はと言えばノックもせずにドアを開けた箒がだな……。

 

なんて、鈴とセシリアだしそんな非常識なことはやらかしていないだろうと、あまり心配しないまま俺はセルフ言い訳をしつつ、やはり気になるからと、無理を押してついて来たシャルルと一緒に、第三アリーナに向かった。

 

……まさか、事にラウラが関わっていることなど、知る由もなしに。

だからアリーナの入り口まで来たとき、観客席から聞こえてくる悲鳴を聞いて、俺は認識を改めて全力で駆け出し、

 

観客席から、壁に叩きつけられ意識を失っているセシリアと、今も体の至る所から血を流しながらラウラに甚振られている鈴の姿を認めた途端、頭の血管が何本か豪快に引き千切れる音を聞いた。

 

そっから先のことは、こと今に至るまでよく覚えていない。

取りあえず確かなのは、エネルギーに直接干渉できる効果を持つ『零落白夜』を投げつけてアリーナの遮蔽シールドをブチ破ったことと、今こうして鈴を甚振っていたラウラの顔面を蹴り飛ばしたことくらいだ。

 

「鈴! 大丈夫……じゃないよな。少し待ってろ、こいつ血祭りに上げたらすぐ保健室連れてってやる」

 

「ちょ、アンタ落ち着き……!」

 

鈴の言葉を最後まで聞かず、俺はその場から飛び退いた。

同時に三本のワイヤーブレードがのたうちまわりながら俺が立っていた場所に突き刺さる。

 

「織斑、一夏っ!……貴様、やってくれたな! だが漸くその気になったか。なら、この場で引導を渡してくれる!」

 

ラウラが手で顔を押さえながら起き上がり、殺意の篭った視線をこちらに向けてくる。

本来なら首が引き千切れるくらいのダメージは間違いなく入った、絶対防御は発動している筈だ。

だが、ISを活動停止に追い込むにはまだ足りないらしい。俺からすれば丁度いい、あれで終わられでもしたら腹の虫が収まらなかったところだ。

 

『『シュヴァルツェア・レーゲン』。ドイツの第三世代機です。未だ試作段階ですが、量産化に成功すれば現行の第三世代機の中では最強と目される機体になります。専用兵装『AIC』はPICの応用で一定範囲内の対象の慣性質量を消滅させ、空間に縛り付けることで一切の行動を封じる強力な武装です。正面からの近接戦闘は可能な限り避け、一撃離脱を心がけてください』

 

白煉から敵ISの情報を貰う。

……こいつはまた、近接戦闘しか取り柄のない白式とはとことん相性の悪そうな奴だ。かといってそれで引き下がる気はないし、向こうも逃がす気はないだろう。それにどの道、遅かれ早かれ戦うことにはなったんだ。万が一勝てないにしても、情報が手に入れば次に繋がる……よし、大分落ち着いてきた。大抵、こういう状況で感情のまま突っ走ると碌なことにならないからな。最低限の理性は戦う上で必要だ。

 

「そういえば、白煉。そんな便利なもんがあるなら、どうしてあいつはさっきの『零落白夜』の投擲をそれで防がなかったんだ?」

 

『いいところに気がつきましたね、マスター。止めなかったのではなく止められなかったのです。『零落白夜』は、通常のEブレードと違い敵性IS内での高圧エネルギー拡散効率を高めるため、刀身部分は実体を持ちません。すなわちこれは質量そのものが存在しないということで、慣性質量を消去する『AIC』では干渉できないのです。更に言えば、『AIC』は不可視のエネルギーの力場を発生させて相手を捕らえるものです。仮に実体があったとしても、同じエネルギーの力場であるシールドを切り裂ける『零落白夜』の前では無力です』

 

俺こいつに褒められるの初めてなような気がするな。それになんか不思議とテンションも高い気がする。うん、いつも飛べないだの装備ないだの文句ばっか言ってないでたまには褒めてやろう。今はそんなことしてる場合じゃないけど。

 

「じゃあ、『零落白夜』はあいつに対する本当の意味で切り札になり得るのか」

 

『そう言いたいのは山々なんですが……先程使用しましたので残使用可能回数は一回になります。AICを防ぐためだけに安易に使用することのないようお願いします』

 

前言撤回、くそーホントピーキーにも程があるわ! とっておきなのはわかるがせめて三回くらい使えるようにならんのかよ。さらに、せめてゲームのMPみたいな単純にそれ専用の使用制限ってだけならいいのだが、『零落白夜』の使用はそのまま『白式』のHPともいえる戦闘可能時間をガリガリ削る。むしろそれ故の使用制限というのが非常に性質が悪い。だから今の状況も、俺が先手をうって、ISのSEを消費の中でも非常に大きなウェイトを占めるという相手の絶対防御を発動させたにも拘らず、こちらは零落白夜の使用コストだけでSE条件だけでみればほぼイーブンなのだ。

 

「なんて、今に始まったことでもないことをぼやいてても仕方ないか。さっきは攻撃が通った、動きを止められるけど多分それが絶対って訳じゃない。そんだけわかればあとは試すだけだ」

 

『敵機、ワイヤーブレードを展開。時間差でそれぞれ1時、6時、9時の方向よりブレードが飛来します。予測パターンを表示致しますので避けてください』

 

「ああ!」

 

いちいち嫌なところからきやがるな、流石軍属だけあって隙がない。

だが、くるところが事前にわかっていればなんてことはない。それこそ速さで比べればセシリアのレーザーとは比べ物にするのもおこがましいくらいだ。波のように押し寄せてくるワイヤーを掻い潜りながら、俺は堅実にラウラに迫っていく。

 

「……とはいえ、このワイヤーは厄介だな。白煉、切り落とすわけにはいかないのか?」

 

『狙うならもう少し接敵するか距離を空けるべきです。ここからだと逆に絡めとられる確率が70%を超えます』

 

そうとなりゃ、選ぶほうは決まってる。この機体で距離をとったところでいいことなんかない。

 

「攻めるぞ白煉。いけるか?」

 

『了解。先程も言いましたが正面からの接敵は危険です。本機のスラスターの特性を活かし可能な限り背後か側面に回り込みます。集中してください』

 

「OK!」

 

返事を返すと同時にスラスターに火が入り、体が急激に前に押し出される。

道を塞ぐように落ちてくるブレードを雪片で弾き飛ばし、一気にラウラの目の前まで移動する。

 

「馬鹿め! 置物にしてくれる!」

 

「!」

 

ラウラがこちら手を突き出したのが見えたかと思うと、急に視界が反転。

自らの足に引きずられるように、俺はあらぬ方向に投げ出される。

 

「びゃ、白煉! テメーいきなり何しやがる!」

 

『……範囲がわからないというのは思いの外厄介です。マスター、一度『AIC』に捕捉されてみる勇気はありますか?』

 

「はぁ? だって掴まったら動けなくなるんだろ、それじゃ駄目じゃねーか」

 

『あの武装に関するデータが不足しています。一度どのようなものか経験すれば対抗プログラムを組めるかもしれません……零落白夜だけでは、あの機体に対抗するのに心許ないのは、私も把握しています。もう一押し、武器になるものが欲しいのです』

 

「……わかった。ま、駄目で元々か。別に、今勝たなくちゃいけないわけじゃない……頼んだぜ、相棒」

 

『……感謝します』

 

納得したわけじゃない。正直感情は今すぐにでもあいつを叩きのめして落とし前をつけさせろと胸の中で荒れ狂っている。けれど、それに任せて突っ走ったところで実際にそれができないのなら、勝てるときに勝つことを優先する。

 

さて、それじゃどうやって上手く掴まるかね、と白煉と相談しようとしたところで、接敵を知らせるアラートが点灯。

見れば、ラウラが信じられないような凄まじいスピードでもうすぐそこまで迫ってきていた。

 

正直度肝を抜かれなかったかといえば嘘になるが、既にいろいろ覚悟を決めていたのが奏を功した。

雪片を振り抜いて正面から迎え撃つ。

そんな俺をラウラは嘲るような冷笑を浮かべながら、勝利を確信したように右腕を突き出し俺を捉え……

 

そうになった直前で、『瞬時加速』を使用していたラウラを凌駕する程の、亜音速かと見紛うばかりの猛スピードで飛んできた何かがラウラに直撃。高速で直線移動をしていた筈のラウラはさながら激流に流されていく小石のようにあっという間に俺の視界から消え、数秒後に破砕音がアリーナに鳴り響いた。

 

俺も先程の覚悟も何処へやら、目の前で起きたあまりにも恐ろしい光景に内心ちびりそうになりながら、ギギギと首を回して『なにか』が飛んできた方向を見た。

 

「……手元が狂ったか。愚弟を狙ったつもりだったのだが」

 

するとそこには自分の手を眺めてしきりに首を傾げる鬼が一匹。

つーかこの姉普通に自分の弟をSATUGAIする気だったと今しれっと宣言したぞ。

 

ラウラの方を見やれば、装甲の至る所からプスプスと漫画のような煙を上げる『シュヴァルツェア・レーゲン』の傍らに、打鉄の格闘戦用のブレードが一本。どうやらあれを生身で投擲して瞬時加速中のISにブチ当て、一撃で戦闘不能にしたらしい。もはや人間離れしてるってレベルじゃねーぞ。

 

「まぁ、いい。貴様等、この場は収めてもらうぞ。自主訓練は大いに結構、だがアリーナのシールドが破壊されるような事態になっては教師としては流石に認可出来ん。先日の襲撃事件の件もある、あまり、やんちゃをして先生方を困らせるな」

 

「きょ、教官がそう仰るのであれば……」

 

千冬姉の姿を認めたラウラがよろよろと起き上がり、ビシッと敬礼する。

存外にタフだな、こいつも向こうで散々千冬姉にしごかれたクチか。そう思えば少しは好感が、持て……ない。

 

「なんだ織斑、貴様負けていたくせに納得がいかないといった顔だな。だが、私が来た以上は許さん。今回の遺恨は、今度のタッグトーナメントでお互い存分に晴らすことだ……さあ、今後トーナメント終了まで一切の私闘を禁じる。散!」

 

千冬姉の一喝で、ラウラやアリーナの観客席で見ていた生徒たちが一斉に去っていく。

 

「織斑、負傷者を保健室に……デュノアも手伝え。私闘は禁じると言った、さっさと武装を解くんだ」

 

千冬姉の注意で、俺は漸くシャルルがラファール・リヴァイブを展開し、アリーナの試合区画に降りてきていることに気がついた。シャルルは千冬姉に言われて漸く武装を解いたが、それまで去っていくラウラに手に持っている二丁のアサルトライフルを向けていた。その目には普段のこいつからは想像も出来ないような、友達を傷つけられたことからくる怒りの色が明確に宿っていた。

 

「……ごめん一夏、援護出来なくて。あの状況で僕が加勢しても邪魔になるだけだと思ったんだ」

 

「……いや、いいよ。お前の判断は正しい。俺も頭に血が上ってたし、連携なんて取れなかったと思う。箒は何処にいる?」

 

「観客席。箒には、専用機がないから……彼女、自分も行くって聞かなかったけど、生身じゃ流石に危ないから残らせたんだ。説得にあれほど時間が掛からなければ、もっと早く助けに行けたんだけど……」

 

シャルルの視線を追うと、その先に見覚えのあるポニーテールの幼馴染の姿があった。

やはりかなり険しい目で、アリーナのピット出入り口にISを展開したまま去っていくラウラを睨み付けている。

俺はそんな箒に保健室に二人を運ぶと目で合図。他の奴なら無理だが、俺達ならこれで伝わる。

 

「じゃあ、シャルル、悪いけどセシリアを頼む。見た感じ鈴のほうが重傷だ、早く連れてってやりたい」

 

「わかった。先に行ってて、直ぐに追いつくよ」

 

俺はISの生命活動維持機能の発動の代償で気を失った鈴を抱き上げると、シャルルにセシリアを頼んで走り出す。一瞬迷ったが、やはりISは解除した。速すぎると却って傷に響くかもしれない。

 

「あの、ヤロォ……」

 

痣だらけの鈴の顔を見て、改めてラウラへの怒りが腹の中で再燃する。

 

「せいぜい、トーナメントを楽しみにしとけ。お前が誰を怒らせたのか、今度こそきっちり体に教えてやるよ」

 

千冬姉に頼まれた時は、そこまで乗り気ではなかったが。

こいつはどうやら、本腰入れて取り組む必要がありそうだ。

 

 

 

 

幸い、軽い脳震盪を起こしていただけのセシリアは保健室に担ぎ込まれて直ぐ目を醒ました。

しかし目を醒まして鈴の状態を知るなり、

 

「全て私の責任ですわ!」

 

なんて言ってポロポロ泣きだし、宥めるのに苦労した。

……なんか最近、俺こんな役回りばっかな気がするぜ。いや、別に不満があるわけじゃないけどさ。

 

で、保険医の先生と一緒に、命に別状はなく後遺症になるような怪我もないから、鈴も回復して目を醒ますのは時間の問題ということを何度も説明し、何とか落ち着かせた頃にはもうすっかり夕方だった。

 

「も、申し訳ありませんでした、取り乱してしまって……」

 

「仕方ないよ。友達がこんなことになったんだもの」

 

「うむ。セシリアが気に病むことはない」

 

今は、喋り疲れた俺は一度お茶を片手に一息つき、一組の主力メンバーにセシリアの相手を任せている。

……改めてこうして外側から眺めてみると、何とも色んな意味でレベルの高い軍団だ。一組は俺の与り知らないところで、結構な魔窟になっていたんだな。

 

そんなことを考えていたところで、不意に保健室のドアが開いて何人かの生徒がぞろぞろと入ってくる。二人の見舞いの娘達かなと思ったが、一組や二組で見たことのない娘達も何人かいる。リボンの色から一年であることは確かだが、一体何しに来たんだろう。

 

が、その疑問は直ぐに氷解する。

 

その娘達は俺と箒、シャルルを取り囲むと、一斉に手にした、何処かで見たような藁半紙を差し出してきたからだ。

 

「織斑君!」

 

「デュノア君!」

 

「篠ノ之さん!」

 

同時に名前が呼ばれ、正直誰が誰を呼んで誰と組みたいのか俺にはわからなかったが、まぁそんなことはどうでもいい。答えは既に決まっているからだ。

 

「悪い、俺はシャルルと組む。トーナメントのパートナーだったら他を当たってくれ」

 

「そういうことなんだ、ごめんね」

 

今日二人で話し合って決めたことだ。シャルルは要領がいい。そう簡単に正体がバレることはないだろうが、それでも特定の誰かと深く付き合うことになれば人間同士だ、何かの拍子に間違いが起こらないとも限らない。

シャルルには申し訳ないが、そのリスクを考慮しての判断だった。それに実力的にも申し分ないし、こちらの利害とも一致する。

 

「えっと、そっか」

 

「ま、男の子同士なら大丈夫かな」

 

「それはそれで、絵になるし……」

 

最後の奴腐って死ね。

……っといけない口に出るところだった。学園生活はまだ先がある、こんなくだらない失言一つで今まで積み上げてきたものを台無しにするわけにはいかない。

 

「で、でもそれだったら……!」

 

「篠ノ之さん!」

 

……ぬかった、俺としたことがこの流れを想定してなかった。

どうしたもんかと頭をフル回転させるが、それよりも先に箒が口を開いた。

 

「後にしてくれ。今の私は虫の居所が悪い」

 

とても静かな声だった。しかしその響きには、柳韻さんや千冬姉が持つ、特有の有無を言わさぬ迫力があり、その雰囲気に呑まれた同級生達は一斉に震え上がる。

 

「え、あ、その」

 

「そ、そうだよね! こんなところに押しかけてきてまで、する話じゃなかったよね……」

 

「ごめんなさい……」

 

そして一人一人、気まずそうに保健室を出て行く。

最後の一人が出て行ったところで、なんで俺に任せなかったんだと聞こうとして、

 

「一夏」

 

逆に箒に声をかけられた。

 

「私は……間違ったことを言ったか?」

 

「いや……お前が何も言わなければ多分俺が同じような事を言ったよ。空気読めねー連中だなとは思ったし」

 

「そうか、なら、いい」

 

箒は俺の答えを聞いて満足そうな笑みを浮かべたが、それも束の間。

真面目な顔をして俺に向き直る。

 

「一夏。鈴の仇は、私が」

 

「駄目だ」

 

箒が何を言おうとしているのかが直ぐにわかった俺は、最後まで言わせず箒の言葉を遮る。

 

「……何故だ?」

 

「それは俺の役目だ。千冬姉からも頼まれてる、他の誰にも譲る気はない」

 

しばらく無言のまま睨み合う。が、俺の意思が嘘偽りのないものだと悟ったのか、箒はとうとう折れた。

 

「……仕方がない。そういうところだけは、相変わらずなのだから始末に負えん……」

 

俺から目を逸らすと、溜息を吐きながらそんなことを言う箒。

 

「悪かったな」

 

「いいや、責めているわけではないが……言った以上は果たして見せろ。無様を晒したら、千冬さんと二人で説教してやるからな」

 

うへぇ、そいつはキツイ。絶対に負けられない理由を増やされちまったな。

ま、それくらい追い込まれた方が却ってやる気は出るけどな、これも俺のそういうとこをわかった上での激励だろう。本当に、有難い。

 

と、箒の言葉を噛み締めていると、箒は俺達に背を向け、保健室のドアに向かって歩き出した。

 

「もう行くのか?」

 

「セシリアは大丈夫そうだ。鈴も目覚めるまで時間が掛かるのであれば、その時間を使って何か軽いものでも作ってきてやろうかと思ってな。こいつのことだ、どうせ目が醒めたら開口一番腹が減ったと喚き散らすだろうからな」

 

「そりゃいいや。お前の腕なら無駄に味に煩い鈴も満足するだろ。頼んだぜ」

 

「ああ」

 

そしてドアを開け、保健室から一歩踏み出したところで、箒は不意に立ち止まる。

 

「どうした?」

 

怪訝に思い、保健室から顔だけ出して箒を伺う。

 

「……あの、転校生」

 

「……ラウラのことか?」

 

「ああ……あいつは、私の友達を傷つけた。許すことはできんが……どうにも今の奴は私にとっても他人事ではない気がするんだ、どうしてこんなことを思うのか、私自身わからないのだが……」

 

他人事な気がしない?

いや、そんなことはないと思うが。共通点といったら、どっちも千冬姉に憧れてるってことくらいか。それにしたって、箒とラウラじゃ憧れ方のベクトルが違う気がする。

 

「とにかく、奴を負かせてやれ。そうすることであいつを救えるのは、お前しかいない気がするのだ……いや、おかしなことを言っているな、私は。忘れてくれ」

 

本当に、そんなよくわからないことを言って、今度こそ去っていく箒。俺はしばらくそれを呆然と見送りながら、箒の残した言葉の意味を考えながら保健室に戻った。

 

「どうしたの、一夏? 難しい顔してるよ?」

 

「箒さんに、何か言われましたの?」

 

代表候補生二人が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。

先程箒に言われたことの意図が未だわからなかった俺は、二人に打ち明けて意見を聞こうと思ったが、ギリギリのところで口を噤んだ。

 

……態々部屋の外に出てから俺にだけ言ったということは、他人には聞かれたくない話だったんだろう。それにあいつにしては珍しく、自分自身の言葉に自信がないようだった。

いくら昔馴染みっていったって、俺はあいつになれるわけじゃないし、それはこの二人だって同じだ。結局、最後は自分なりに言葉の意味を解釈するしかない。それだったら、いざラウラと対峙する、そのときに答えを出したって遅くはない筈だ。

 

だから俺は、一つだけ。

それだけは、間違いなくあいつの意思に適っているだろうことを、一緒に戦うパートナーに宣言する。

 

「勝とう、シャルル」

 

「……うん、頑張ろう、一夏」

 

「わたくしからもお願いします。本当は、わたくし自身で雪辱を晴らしたいのですけれども……」

 

俺達の決意表明を見ながら、無念そうに唇を噛みながらそんなことを言うセシリア。

ああ、セシリアは前の事件でのペナルティがあるからな。仕方がない。

 

「任せとけ。なんなら全校生徒の前で土下座させて謝罪のオプションまでつけてやるさ」

 

「流石にそれは可哀想じゃないかなぁ……」

 

俺の強気な発言に、苦笑しながらそんな温いことをぬかすシャルル。

……よく考えてみれば、これはこいつにとってもいい機会かもしれない。この際だから特訓漬けにして先のことなんて考えられなくなるくらい忙しくしてやろう。

……何、中間考査? ……大丈夫、俺はもう無我の境地に達したさ……。決して「無我」と書いて「諦め」と読む類のものではないぞ、念のため。

 

と、いかん雑念がはいった。と、兎に角、俺はこんな感じで決意も新たに、ラウラと決着をつけるその日が来るのを待つことにしたのだったとさ、まる。

 

 




初期構想ではタッグマッチは一夏&箒のブレードコンビにする予定だったんですが、シャルルとラウラを組ませる自然な流れがどうしても想像出来なかったので涙を飲んで原作通りに。ただ原作と違いタッグマッチなんて名ばかりの一夏VSラウラ、箒VSシャルルのガチンコサシウマ勝負にするつもりでいます。


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