なんとかシャルル目当ての追っ手達を振り切り、俺達は遅刻することなく実技演習に間に合った。
シャルルは結局職員用の、この学校で唯一の男子トイレで着替えさせたが、その着替えの早さに度肝を抜かれた。
聞けば、最初からスーツを制服の下に着込んでいたらしい。それだったら最初から女子達が教室からいなくなる頃合いを見計らって教室で俺と一緒に着替えていけばあんな捕り物に巻き込まれずにすんだという事実に気がついた俺は思わず地面に手をついて己の判断の迂闊さを嘆き、シャルルはそんな俺の様子をみてただただオロオロしていた。
まぁ、終わったことを悔やんでも仕方が無い。今は授業に集中すべきだ。
そう思い空を見上げる。
『な、なんですって?!』
『嘘でしょ~?!』
オープンチャンネルから聞こえてくるのはセシリアの鈴の、半ば悲鳴に近い声。
今あの二人を相手取り一方的な戦いを見せているのは、他でもない、うちのクラスの副担任、おっとり眼鏡先生こと山田真耶教諭である。
二組との共同の、ISによる実戦演習。
その最初に千冬姉が指示したことは、ISの戦闘がどのようなものかをまず生徒全員に見せるため、戦闘の全容がわかりやすい空中戦が可能な一組と二組の代表候補生二人を名指しし、ネイビーカラーのISに身を包んだ山田先生と二対一で戦わせる事だった。
それこそ登場の仕方がISを上手く制御出来ず、ISを展開中だった俺の頭上に墜落してきたというあんまりなものだったため、代表候補生二人はしきりに首をかしげ、クラス全員も怪訝そうに千冬姉を見ていたが、
「何、問題ない。お前達二人では、山田先生には手も足も出まいよ」
との千冬姉の一言で千冬姉嫌いの鈴に火がつき、なんだかんだで負けず嫌いのセシリアもやる気になって今に至る。
横では千冬姉に指されたシャルルが、山田先生が搭乗しているISの説明をしていた。
ラファール・リヴァイブ。
シャルルの親父さんが社長を務めるデュノア社を代表するISで、第二世代における最後期の機体。
マニュアルによるPIC制御の簡易化が図られており、全体的に扱いやすいのと、拡張領域の広さと後付装備対応のバリエーションの多さから非常に拡張性が高いことで知られるフランスでは最も有名な量産機だ。非常に制御難易度の高い独自のPIC制御を高性能なAIの搭載によって補い、後付装備が一切付けられない『白式』とは、ある意味対極に位置する機体である。
優秀な機体であるのは間違いないが、結局は量産されている第二世代機。第三世代機を擁する代表候補生二人には、苦戦は必至と見られていたのだが……。
――――!
左腕に持った機関銃から常に弾幕をばら撒きながら二人を牽制し、一瞬の隙を見逃さず右手のアサルトライフルのピンポイント射撃で二人の急所を狙い着実に相手のSEを奪っていく山田先生。そこにはもはや、いつも教室でオドオドしている副担任の姿はなかった。
『くっ、ちょこまかと!』
『……捉えられない!』
恐るべきは四方向に翼のように突き出した翼状の背部ウィングスラスターとPICを駆使した一切無駄のない間合いの形成力と、その射撃能力の高さだ。遠めから見ればフラフラと飛んでいるようにしか見えない風に乗る蝶のような機動は、直線的なスピードでは間違いなく勝る専用機二機を完全にに翻弄していた。
それでも負けじと山田先生に追い縋ろうとする鈴は、その無茶な突撃が祟り牽制の弾幕に当たり過ぎてSEを削り取られ、鈴の撃墜に焦ったセシリアは迂闊にもビットを展開しようとし、自身の制動が疎かになったところにアサルトライフルによる狙撃を眉間に撃ち込まれ、絶対防御が発動しSEがゼロになって演習は終わった。
「これがIS学園の教職員の実力だ。外見や性格で彼女達を侮っていた者は改めて敬意を払うように」
一組と二組が擁する最強のIS乗りであるクラス代表がこうもあっさり落とされる様を見て呆然とする一同を余所に、そんなとどめの一言を言い放つ千冬姉。
……それを言いたいがためにあの二人をかませにしたのかよ、セシリアはともかく鈴は後が怖いぞ。
「各自、出来る範囲に応じて班を分ける。訓練機は限られている、一人当たり10分、交代で練習に臨め。専用機持ちは各班に分かれ演習の面倒を見ること。必要なら火器の使用をしないという条件で模擬戦も許可する。では、始めろ」
千冬姉の合図で一斉に散る生徒達。
そして、殆どが俺とシャルルの周りに集まる。っておい……
「班を分けると言わなかったか愚か者共。さっさと散らんとPICなしのIS起動状態でグラウンドを走らせるぞ」
千冬姉の一喝で渋々バラバラと班を作り出す一組と二組勢。それでも俺とシャルルの班には少し多めに人が残る。
と、メンバーを一通り確認したところで特徴的なポニーテールを集団の中から見つけた俺は思わず叫んだ。
「箒、退場。お前地上の機動は完璧だろうが!わざわざ俺のところに来るのは嫌味のつもりか、さっさと鈴かセシリアのとこ行って空中戦のイロハを叩き込んで貰って来い!」
俺の声を受けて、与えられた10分間を使って俺との模擬戦をしたかったらしい箒がすごすごと退散する。その煤けた背中に少し罪悪感を覚えるがこれもあいつのためだ、仕方ない。大体あいつのそういうところが前回の新聞のような勘違いをされる要因になっていることを少しは認識して欲しいものだ。
さて、残りのメンバーは、軒並みISの適性があまり高くない娘が集まっているようだ。
俺にとってはそのほうがいい、何せ機体の特性上俺は空を飛べない、箒にも言ったようにある程度地上での自立機動が出来る娘なら他の代表候補生のところにいったほうがいい。今でこそ白煉のサポートがあるからなんとか誤魔化しが利きそうだが、本来であれば俺がこの娘達に教えようというのがそもそもおこがましいにも程があるのだ。
……あーでもラウラんところは例外だな。なんか葬式みたいなムードになってる、ありゃあ結局最後までグダグダのまま終わりそうだ。
俺はラウラと同じ班になった娘達に心の中で合掌し、俺の班に宛がわれた『打鉄』を起動させる。
「じゃあ、始めよう。一人づつ『打鉄』に乗って歩いてみてくれ。そのまま戦えそうな人は、ちょっとだけ俺と手合わせしてもらう。それでいこう」
俺の呼びかけに班全員が頷く。
それを了解と受け取り、俺は訓練を始めることにした。
「聞いてよ、あたし織斑君に近接格闘の才能あるって言われちゃった、織斑君、篠ノ之さんに次ぐ三人目のブレード使いを目指しちゃおうかな」
「わ、私シャルル君に、さ、触って指導して貰った、後ろから、こう……」
「え~ずるーい! あーもう、うちもそっちが良かったー!」
そして試行錯誤の時間はあっという間に過ぎ、授業はグラウンドで解散となった。
訓練が終わり雑談しながら去っていく生徒達を見送りながら、俺は隣で真っ白になってげっそりしているシャルルを励ましていた。
「……よく、頑張ったな。転校初日からの千冬姉の無茶振りに良く耐えた」
「いや……こっちも色々勉強になったし、得るものはあったから別にいいんだけど……どうしてこの学校の女の子って、あんなに元気なのかなぁ」
あははは、と力ない笑顔を浮かべるシャルル。うう、痛ましくて見るに耐えない。
俺も最初の頃はこんな感じだったなぁ……。
「お~い一夏~! お疲れ!」
「たまには、こういった志向も悪くはありませんわね」
「…………」
鈴、セシリア、そして箒が合流する。箒は何故か暗い。
「……その様子じゃ、やっぱ駄目?」
「駄目よ、全然駄目。地上じゃあれだけの機動が出来るのに、どうして地上から20センチも離れないうちにあんな動きがポンコツロボットみたいになんのよ」
箒を指導した鈴の容赦ない一言に箒の体がビクンと揺れる。それ以上いけない鈴、既になんか壊れかけてるぞ。
「そっか、前の無人ISの襲撃のときにも飛ばなかったし、おかしいとは思ったんだよな。別に打鉄は飛行が出来ない機体って訳でもないのに」
箒のISの操縦技術は、あくまでもこいつが今まで培ってきた剣術の腕が礎になっている。
つまり俺と同じで、ISをあくまで体の延長として使用している。ISはロボットではなくパワードスーツだ、四肢は人の意思を汲み取ってダイレクトに稼動させることが出来るため、そのような運用方法でも、一定の強さを得ることは出来る。
ただその場合、ことが『ISには可能だが、人には決して出来ない動き』になると、途端に経験を操縦にフィードバックさせることが出来なくなり、傍目から見れば機動が一気に素人になったように映る。『飛行』はその最たる例だ、だからこそ箒はここまで苦戦しているのだろう……とは、この間のクラス代表戦で箒のデータを解析した白煉の見解だ。
……ちなみに俺の場合、『この人には出来ない動き』の経験不足に関してはある程度こいつがフォローしてくれることでなんとかなっているらしい、本当この調子では俺はいつか自らのISのAIに「さん」をつけて呼ばなくてはいけなくなる日が来るかもしれない、そのうち何とかしてイニシアチブを握らなくては。
「まぁむしろこいつの場合、実働経験と実力が明らかに噛み合ってないから、こんくらいの弱点があるくらいじゃないと反則なような気もするけど」
尤も似たような奴がもう一人居るけど、と俺の方を半眼で睨んでくる鈴。いやだって、動かせるもんは動かせるんだからしょうがないだろ。
「ラファールをお試しになったらいかがかしら?基本的に飛行が上手くいかないのはPICの制御に問題があるからですのよ、そちらに関しては『打鉄』に比べればあの機体の方が簡単とのことですわよ?」
「確かに、先程の山田先生の飛行技術は大したものだった……考えてみるとしよう」
セシリアの提案に何気なく答えた箒の言葉に、今度はセシリアと鈴が暗くなる番だった。
「む……すまん、そんなつもりで言った訳では」
「いいのよ箒。いつか絶っっっ対リベンジしてやるから」
「あそこまで一方的にやられたのは訓練生時代以来久しいですわ……当初この学校に持っていた印象を改めねばなりませんわね」
鈴とセシリアの表情を見て慌てる箒だが、二人の声は顔に対して明るい。
やっぱり代表候補生なんて大層なもんになるだけあって二人とも強い。
「それに、あの機動は練習すればあたしの『甲龍』でも出来そうだしね、一夏攻略の糸口になるかも……って、その子」
鈴が、ようやく俺の隣にいるシャルルに気がつく。
「あー、例の転校生か。ホント男の子なのね」
「シャルル・デュノアです。宜しく」
「宜しく。あたしは一応、中国の代表候補生で2組のクラス代表やらせて貰ってる凰鈴音よ。鈴でいいわ、あたしもシャルルって呼ぶから」
「ありがとう、鈴」
にっこり笑いあいながら握手する二人。やっぱ鈴は相手が女だろうが男だろうが関係ないな、人当たりが良くて直ぐに仲良くなる。
そういや中学の時は結構モテてた時期があったって弾が面白くなさそうに話してたことがあったな。
確かに黙ってりゃあ可愛いっちゃ可愛いんだけどな。
「一組の二人はもう知ってるよな。シャルルのことなんだが、本人たっての希望で名前で呼んで貰いたいそうだ」
「一夏……」
「わかりましたわ。シャルルさん、わたくしはブリテンの代表候補生で1組のクラス代表を務めるセシリア・オルコットですわ。何か困ったことがありましたらクラス代表、そして友人としていつでも相談にお乗りします」
「篠ノ之箒だ。そうだな……前の二人と違って特に肩書きはないが、剣を少し嗜んでいる。宜しく頼む」
二人の自己紹介に丁寧に対応した後、なにやら感激したような目でこちらを見つめるシャルル。
いや、そんな大したことはしていなんだが。そんな目で見られると照れる。
「な~に照れてんのよ。いくらちょっと可愛い顔してるからって、アンタこの学校にいて男になびく訳?」
と、そこですかさず鈴から茶々が入る。
くそ、こいつはこれだから。
「んな訳あるか! 大体、お前だってシャルルがちょっとイケメンだからってさっさと粉かけてたじゃねーか!」
「な、ばっ、馬っっ鹿じゃないの? あんなの挨拶しただけじゃない、それにあたしは……」
「……? なんだよ?」
「あ、あたしは……」
なにやら急に黙ってしまう鈴。なんだってんだよもう。
っていうかなんか鈴のすぐ後ろに立ってる箒の鼻息が荒くて怖い。
「はいはい、痴話喧嘩は後でしてくださいな。シャルルさんが困ってますわよ」
「むぅ?!」
「う、うっさい! そんなんじゃないわよ!」
そのまま少し気まずい雰囲気になりかけたところでセシリアのフォローが入り、何故か愕然としている箒。
そしてこれを機とばかりに俺からわざとらしく顔を背けてセシリアに食って掛かる鈴。
……と、いうかだな、セシリア。さっきのが痴話喧嘩に見えるようならお前は一度眼科か耳鼻科で診てもらったほうがいいぞ? 鈴だってあんな感じじゃないか。
「ほ、箒さん、ど、どうしましたの?何が気に障りましたの?」
「ちょっと箒! どうしちゃったのよ?!」
と、割と本気でセシリアの心配をしていると、セシリアと鈴の切羽詰った声で我に返る。
見れば何故か無言でセシリアの胸倉を掴む箒に怯える代表候補生が二人。ってなんだこの状況。
「な、仲がいいんだね?」
「いや……俺に聞かれてもな」
あんまりといえばあんまりな状況に安定のさわやかスマイルを引き攣らせ、それでも健気にも良い方向に受け取ろうとするシャルル。声が裏返って疑問形になっているけれども。
……ったく君達、もっと第一印象は大事にしなさい。また俺が火消しに回らないといけないじゃないか。
「まぁ見ての通り変な連中だが、全員腕は確かだ。ここで親交を深めたことだし、これからお互い切磋琢磨していくがいいさ少年」
「うん、そうするよ……えっと、一夏も付き合ってくれるよね?」
「おおう、これだけの面子を前に敢えて男を取るとは中々珍妙な奴だな……俺のISははっきり言って変態仕様だから、あいつら程参考にはならんと思うぞ」
白煉がバイブレーションで抗議してくるが無視だ。
俺は間違ったことを言ったつもりは無い。
「え~と、うん、ちょっと見たけど……でも、ああいったある意味突き抜けた仕様ってそれはそれで興味あるんだ」
ふ~ん、そんなもんなのか。だが決していいもんではないぞ。特に空を飛べないとか遠距離攻撃メインのIS相手だと戦闘というより罰ゲームに近いものがあるくらいだしな。
「ま、好みは人それぞれ、ってか……クラス同じだし、話す機会もあるだろ。あんなんで良ければいくらでも付き合うから気が向いたら声をかけてくれ」
「ありがとう……で、でさ、一夏。あれは止めなくていいのかなぁ」
ああもうまだやってるのかよあいつら。仲が良くてじゃれたいのはわかるけどシャルルは今日来たばっかなんだから弁えろよな。
とにかくセシリアの首根っこを掴んでがくがくしている箒と、セシリアからなんとか箒を引き剥がそうとしている鈴の間に立ち、箒の頭にチョップを入れる。
「うぐ」
気が動転していたのかなにかなのかあっさり入り、少し怯んだ隙に箒の首根っこを逆に押さえる。
「大丈夫かセシリア」
「た、助かりましたわ……」
「なんか手馴れてる感じね、アンタ。あたしがこんだけ引っ張っても駄目だったのに」
「手馴れたくはなかったけどな……こいつは普段クソ真面目すぎるせいかたまに突拍子もなく壊れることがあるんだ、おいしっかりしろ」
「……ハッ! す、すまん、セシリア。つい……」
何がつい……なのだろう。
聞いてみたいが何故か俺を責めるようなこの視線から察するに教えてくれなそうなので諦めることにする。
「よし、箒も何とかなったことだし……シャルルも加えてアリーナ借りて練習しない?」
「いいですわね、シャルルさんのISには興味がありますわ」
「早速だね……うん、いいよ」
と気づけば箒を諌める俺を余所に和気藹々と盛り上がる代表候補生達。箒の奇行はどうやら水に流してくれるようだ、なんと良い友人をもったことか。
……当初俺と同じ『男』という問題を抱えているシャルルが、上手くここに馴染めるかは正直心配だったが、この様子では逆に俺より早く馴染んでしまいそうだ。というか、女の子の中に混じっていても何の違和感もない。美形ってのは得だな。
「一夏は?」
「あー悪い、今日は出来たら座学に回したい。最初の中間考査も近いし俺はどっちかっていうと実技よりこっちの方がヤバい」
白煉がいる今、確かに入学当初に比べれば圧倒的に状況は改善されてきてはいるのだが、いくら教えるほうが優秀でも教えられる側が急に頭が良くなる訳でもない。今なら流石に赤は回避できると信じているが、一応奨学金を貰ってる身としてはやはり情けない点を取るわけにはいかないわけで。
「わ、私は……」
「あ、箒は強制的にこっちな。お前も決して余裕のある成績って訳じゃないんだし、付き合ってもらうぞ」
気配を消してそろそろと鈴達に合流しようとする箒を逃がさず引き続き襟を掴んで拘束する。
あまりこういうことをすると服に皺がつくので嫌なのだが、今回ばかりは仕方ない。
「ああ、筆記の方ね……確かに勉強始めたばっかならそっちのほうがヤバいってのはわかるかも、ま、頑張んなさいよー」
「筆記? ……ああ、ペーパーですの。入学試験と同レベルの問題と聞いていたのであまり意識してませんでしたわね」
「え? そうなんだ? ……良かった、それなら僕も入学手続きの時に受けたけど、あれくらいの問題なら来たばっかりでもなんとかなりそうだよ」
そして代表候補生達のこのコメントである。ホントもうやってられないっていうかね。編入してきたばっかりのシャルルまで余裕ってのはどうなんだ。俺はなんでも特別なケースということで入学試験の筆記は免除されたが、今まで勉強してきた内容から察するに、どうせそれもキチガイじみた文字と数式の羅列なんだろうということくらいは予想がつく。
「くっ、一夏貴様! 私との尋常な勝負は拒んでおいて、座学だけは強制的に付き合わせる気か!」
箒は箒でこっちの親心をさっぱり理解してくれないしさ!
くそ、もうどうにでもなれってんだ、と頭では思いつつも箒の襟から手を離さない自分の律儀さが恨めしい。
「じゃ、俺達はここで。練習頑張ってくれ」
セシリアから見てさしあげましょうか、と声が掛かるが丁重に断り、箒を引き摺りながら俺は寮に戻った。俺と箒が寮で同室という件は、流石に公にするのは不味いということであまり周囲には知られていない。別段隠すような疚しい事はないのだが、きっと近い内に部屋も変わるだろうしということで、自分から進んでバラすつもりはなかった。まあ、結局惰性でズルズル今日まで来てしまった訳だし、いつかはと思ってはいるんだが。
それにセシリアだけ引っ張れるなら問題ないが、流石に鈴一人にシャルルを任せて俺らはお勉強なんて虫のいい話はない。そうなると必然的に全員を呼ぶ羽目になる。いくら頭の良い奴が混じっているとはいえ、教師のような引率役が居ない条件下での大人数での勉強というものがいかに効率が悪いか、俺は中学生時代に嫌というほど思い知らされている。
「畜生、俺だって……俺だってなぁ……誰が好き好んで、あんな分厚い参考書で勉強なんて」
代表候補生達の目が届かないところまで来たのを確認、同時に誰を呪うでもない呪いの言葉を撒き散らす俺。
それに中てられたのか先程まで抵抗してしていた箒が見る見る大人しくなっていく。
「正直済まなかった、一夏。今では反省している」
「そんなついカッとなってやった的な中学生みたいなコメントはいい。寮と図書館、どっちがいい?」
「……寮にしよう。図書館では白煉がしゃべり辛い」
『私も強制参加なんですか……』
「たりめーだ。お前がいなくちゃどうにもならん」
「一夏共々世話をかける、すまんが頼む」
『……了解です。これもお役目の一つ、お手伝い致します。あとマスター開き直らないでください』
だって自分のISに意地張ったってどうしようもないだろ。
確かに威張れる立場ではないけどさ。
『そうですね、この機会に必要な知識をしっかりつけて頂きます。マスターの半端な知識で『白式』の仕様を判断されるのはこちらとしても不本意ですから』
ぐっ、くそ、いちいち刺さるぜ、言葉が。
「と、とにかく勉強だ、勉強。例え悪あがきでも少しでも上を目指すぞ、箒」
「うむ、その心意気や良しだ。この際こちらの成績で争ってみるのも一興かもしれないな」
「ふん、精々余裕ぶってろ。お前がここに入る前にどんだけ勉強したのかは知らんが、その程度のハンデは問題にならないぞ。俺の一夜漬け能力の高さをみせてやる」
「それはそんなに胸を張って言うようなことなのか……? まぁ、どの道入学と同時に勉強を始めたような奴に負ける気はないな」
お互いに睨み合い火花を散らす俺と箒。
よし、俄然やる気が出てきた。やっぱこいつに負けたくない。
こうしてお互いに士気を高めた俺達は、帰り道も先を争うように走って寮を目指した。
……ガキかよと思われるかもしれんが、昔からこんなことをずっと続けてきたんだ、どうか大目に見てやって欲しい。
……全力疾走したにも拘らず、結局俺が負けたということも。
セシリアを何処かで活躍させたいなぁと思い立ち、あれこれ考えているときに、
「純銀アンチマテリアル加工水銀弾頭弾殻。マーベルス科学薬筒NNA9。全長197cm、重量56kg。15mm炸裂鉄鋼弾『スターライト』。パーフェクトよ、チェルシー!」
何処から毒電波を受信したのかこんなことを言いながら『ビーム』ライフルを構えるセッシーが頭をよぎった私はもう本格的に駄目かもしれません。今回のシャルルとラウラの話はプラスアルファで一夏の過去に少しづつ光を当てていきますので、少し長くなるかもしれませんが、
お付き合い頂けたら幸いです。