IS/SLASH!   作:ダレトコ

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第百二十九話~絢爛祈刀~

 

 

 「おいおい……なんだこれ」

 

 ハイパーセンサーのレース状況表示が、次々と専用機持ちの脱落を知らせてくる。

 鈴とラウラがほぼ同タイミングで落ち、しばらくしてからセシリアも脱落した。今専用機持ちで残っているのは箒とシャルロットだけ。

 詳細はわからないが、簡易戦況ログを見る限り、鈴とラウラは開幕早々ぶつかりほぼダブルKOに近い形で退場。セシリアも処刑人と相討ちだったようだ。鈴とラウラは何してんだって感じだが、あのセシリアがもう落ちたあたり、やはり専用機持ちには楽なルールじゃないらしい。

 

 「白煉。今俺達はどのあたりだ?」

 

 『遠方の高得点チェックポイントは80%程網羅しました。このままゴール成立が叶えば、最終ポイント精算時の予測ポイントは……今後のレース状況次第ではありますが、全体10位以内が視野に入る値になります』

 

 「箒には?」

 

 『負けます』

 

 「……これだけ高得点チェックポイントを通っても駄目なのか」

 

 『落下による重力加速度を考慮しても、現状の白式の速度は一般枠ISに僅かに劣ります。チェックポイントと距離の判定による加算は大きいですが、最終タイムスコア算出ポイントが伸びません。現状、戦闘ボーナスポイントが0なのも、最終的には響きます』

 

 「あの例の切り札を使ってもか?」

 

 『今までの予測値ならそれで問題なかったのですが……たった今、紅椿が処刑人を撃破しました。ゴール成立で高得点の撃破ボーナスが加算されます。これを考慮すると、現在の白式の予測獲得ポイントでは厳しくなります』

 

 「いっ!?」

 

 白煉の告げた、未知の情報を聞いて眉を顰めたのと同時に、ハイパーセンサーに紅椿の処刑人撃破を知らせる、簡易戦況ログが増える。

 ……マジかよ。ログから箒が開幕大暴れしたのは知ってるが、ホントあいつ何やったんだ。いくらなんでも強すぎるだろ、呂布や項羽だってもうちょっと遠慮って言葉を知ってるぞ。

 

 「箒がこのまま、他の出走者か処刑人に倒されるのを期待するのは……この調子じゃ希望的観測だよな」

 

 『後5分程で、遠方チェックポイントは全て通過できます。その時点で、最終ポイント予測値を再演算予定です。箒様への対応法は、その結果を見てからの検討を推奨します』

 

 「最初心配してた、降下地点での処刑人の待ち伏せは大丈夫そうか?」

 

 『それを狙っていたと思われる動きをしていた処刑人を、ブルーティアーズとラファール・リヴァイブ・カスタムがそれぞれ撃破しました。数を減らした処刑人は他出走者への対応に追われ、結果的に現在こちらがノーマークになっています』

 

 「……セシリア達に救われたか」

 

 よく考えてみれば、セシリアとシャルも大健闘だな。シャルに至っては流石に無傷ではないだろうが、普通に勝ってることになる。

 なんかあいつらの功績のお零れを貰うみたいな形になってしまったが、これもまぁ何が起こるかわからないCBFならではといった事態か。

 しかし……ルールブックは一通り目を通したつもりだったが、処刑人撃破が高得点になるのは知らなかったな。あまり使いたい手ではなかったが、最悪ポイントが足りないときは、『帰り道』に零落白夜で通り魔を狙ってみるか。

 

 「なんにせよ、まだ地上は遠いか……先のことは、もうちょいここで頑張ってからだな」

 

 もうすでにハイパーセンサー越しなら、チェックポイントの場所が肉眼で正確に把握できる位の高さまでには落ちてきた。逆に言えば下からも既に捕捉出来る範囲に入ったということだが、まだ遠距離攻撃型のISを想定しても、有効射程圏内までは距離がある。

 少なくとも白煉が先程挙げた時間までは、他を気にせずチェックポイント通過を狙えるだろう。ここで少しでも稼いで箒との差を埋めるべく、俺はPICスリングを更に傾け、落ちていく速度を上げた。

 

 

 

 

 「――――演算結果は?」

 

 『……次チェックポイント通過と同時に『白鷹』の展開を開始。そこからセンターチェックポイント『キャノンボール』と上空を航行可能な複数のチェックポイントの通過で、箒様の獲得予想ポイントを上回ることが可能です』

 

 「よし!」

 

 『ただし……箒様はまだゴールされて『いません』。現行の紅椿の速度、残存高得点撃破対象の数、紅椿の消耗率を考慮すると可能性は低いですが、今後更に箒様が高得点対象を撃破した場合、白式のゴール成立後に再度追い越される可能性があります』

 

 「げ……」

 

 なくはないだろうが、あまり想定したくない可能性だな。ゴール後に逆転なんてされたらもうサヨナラだ、挽回しようがない。ただ速く走ってゴールすればいいわけじゃない、CBFルールの怖いところだ。

 っていうか、あいつまだゴールしてないのか。飛べない紅椿じゃ距離対比タイムスコアが落ちてく一方だろうに、何無駄にウロチョロしてんだろ。

 あの箒らしくない序盤の行動から、更識先輩から策を受けてはいるんだろうが……この無軌道さはあの食えない先輩のそれらしくあるようで、らしくない気もする。いつもの箒のそれじゃない、他人の意思が紛れ込むことで、意図が読めなくなっている。

 

 確実なのは舵をゴールではなく紅椿の方へ切り、紅椿を直接撃破すること、だが……この元々ISバトルよりもSE上限の多いルールにおいて尚、零落白夜並の速度でISを撃破できる攻撃手段が、少なくとも向こうにあるという事実が二の足を踏ませる。自分で使ってるぶんには使いづらさが目立つ武器だが、一撃必殺技ってのは、いざ相手に回すとなるとこんなおっかないのか。

 それに、ここから無理矢理降下地点を変えれば、通過できるチェックポイントも予定より少なくなり、SEの消耗も増す。回り道の結果、結局途中で箒の気が変わって、捕まえる前にゴールされてしまえば、この選択は完全に裏目に出てしまう。

 

 次のチェックポイントまで落ちていく僅かな猶予で考える。

 白煉が言う以上は、その方策で勝てる可能性は高いのだろう。だが既にいくつも想定外が起きている。最悪のケースも想定して動くべきだが――――

 

 「ま、なるようにしかなんない、か」

 

 と、やがてそう結論づけた。

 この勝負はあくまで俺が更識先輩に認められるか否かっていう、俺個人の見栄というか、男の意地みたいな部分が賭かったもので、絶対に譲れない何かを賭けているってわけじゃない。

 仮に負けたとしても、更識先輩には多少失望こそされるかもしれないが、全力を尽くした結果であるなら見限られたりはしないと思う。この勝負になった時の話に裏がないなら、どのような結果であれ俺が強くなれば、あの人にとってはそれでいいんだから。

 

 なら……方針は変わらない。俺は俺なりに。最善を選んで、勝ちにいくだけだ。それで届かないんなら、その時は仕方ない。

 それに――――

 

 「予定通り『白鷹』でいく。準備しといてくれ、白煉」

 

 『了解。チェックポイント通過30秒前に、白鷹展開シーケンスを開始します。定刻になりましたら、展開体勢をとってください、マスター』

 

 「わかった。時間になったら知らせてくれ」

 

 『はい……箒様の対応は宜しいのですか?』

 

 「ああ。今のままなら、余程のことがない限り勝てるんだろ?」

 

 『それは……計算上は、その通りですが』

 

 あいつ単体なら兎も角、今の箒には紅焔がついている。どういう状況かはお互いわかっている筈だ。

 この際、更識先輩のことは考えない。そうすれば、箒がどうするかなんて想像するまでもなくわかる。

 現状を良しとしないなら、あいつは絶対に正面からくる。俺から何かしてやる必要なんて『ない』。

 

 ――――宣言はしたぜ、箒。止められるもんなら止めてみろ。

 

 『目標チェックポイントを確認。白鷹、展開開始』

 

 白鷹は福音戦で一度だけ使った、超高速巡航ユニットだ。このユニットを装備時のみ、白式は一時的に飛行できる。

 ――――ただし、その速度は一瞬でマッハ10にも及ぶ。このCBFの広大なレース海域でさえ、最もゴールから離れた位置から飛んでも、渡りきるのに一分かからない。

 当然、こんな速度は普通のアリーナで使うには速すぎて制御できないし、展開に10秒ほどかかり、ほぼ使い捨てで一度使用すると自己修復に丸一日かかり、それまで再利用できない等の制約があるせいで、ISバトルじゃはっきり言って使い物にならない代物だった。

 だが、CBFルールの規定、レース範囲なら最高の切り札になり得る武装だ。一度飛び始めてしまえば、今の出走者中に追いつける奴はまずいない。

 

 スタートと同時に羅雪で遙か上空まで逃れ、そこから雪蜘蛛を利用し遠方の高得点チェックポイントを回収しながら落下、ある程度稼げたら白鷹で反転、最後まで誰にも邪魔されることなくゴールへ駆け込む。

 それが、CBF前から簪や白煉と相談して決めてあった『作戦』だ。最初は零落白夜の攻撃能力を活かした、戦闘ボーナス重視の作戦もあったのだが、専用機持ち特例ルールで、もしゴールできなければ戦闘点は全て消滅すること、零落白夜特有の燃費の悪さ等のリスクから没になった。

 

 まあこっちはこっちで、そう上手くはいかないだろうなと踏んでいたのだが……今のところは逆に少し不安になるくらい順調だ。

 この調子で、最後まで何事もなくいってくれればいいんだが……俺の経験上、中々そうもいきそうにないって思っちまうのも、仕方ないことだろう。

 

 『白鷹、全展開工程完了。いけます』

 

 「――――勝ちにいくぞ、白煉」

 

 返事は背部ロケットブースタの咆哮だった。

 レーダーですら十全に捉えられない速度で海を叩き割りながら、白式はゴールめがけて飛び出した。

 

 

 ~~~~~~side「シャルロット」

 

 

 「――――さっきぶりだね、箒。そんな調子でずっと走ってきたんなら、そろそろ疲れてるんじゃない? ここらへんで少し休んでいったら?」

 

 「……! シャルロット、か」

 

 フォルテ先輩と別れてから、真っ直ぐ箒のいる方を目指して飛んだ。幸い高得点者予想の表示に彼女は常にいたので、追うことは難しくなかった。最早レースも佳境に入り、他出走者の妨害もほぼなかったのも幸運だった。

 けど……ちょっと遅かったみたいだ。僕がこうして彼女のところにたどり着く前に、処刑人を撃破されてしまった。

 最初は時間稼ぎさえできればいいかな、って思ってたけど。この調子じゃ、もうひと頑張り必要になっちゃうな。

 

 「休んでいけ、という割には、随分と物騒なものを私に向けているようだが?」

 

 「あはは。そう言う君こそ、僕を見るなりブレード抜いたよね?」

 

 ああ、覚悟はしてたけど、やっぱり嫌だな。彼女のこの本能的に恐怖を覚える程の威圧感は、何度対峙しても慣れそうにない。

 

 それに……条件は一学期に彼女と戦った時とは似ているようで、違う。あの時の箒は本当の意味で『飛べなかった』が、今の箒は機体が『飛べないだけ』だ。

 こんな短い期間で何をしたのかはわからないが、あのスタート直後の動きを見る限り、彼女の三次元機動ノウハウはまるで別人レベルに研ぎ澄まされていた。けど……同時に何処か彼女自身が動いているというか、機体そのものが彼女の意思をくみ取り、自動で動いているような違和感があった。

 

 この違和感は、実は初めてのものじゃない。一夏の白式の、脚部スラスターの量子展開を、初めて見たときに感じたものと似た感覚だ。だからこそ、嫌で仕方なかったけれど、白式の情報でデュノアに最初に報告しようと思っていたことだった。当時はイメージインターフェイスを用いた第三世代兵裝故の動きだと思っていたけど……いざ自分でそれを扱うようになってわかった。やっぱり、あれは『別の』原理で動いている。

 僕のISの単一仕様能力をもってしても、その正体はわからなかったけど……何故かはわからないけど、このことを考えると一瞬あの時僕がデュノアに連絡を取るのを妨害してきた、謎の女の子の『声』が頭を過ぎる。あの二機は暮桜同様、ISの生みの親である、篠ノ之束博士が手ずからアーキテクトを務めた機体だという話だし、僕たちみたいな凡人には到底理解出来ないような機能が搭載されていてもおかしくない。

 

 とにかく……あの箒の専用機(紅椿)の力がなんであれ、重要なのはもう一学期の時と同じ感覚で戦えば、すぐさまレース直後に撃墜された出走者の娘達と同じ運命を辿ることになるってことだ。

 なにせ、ラファールの残存ISは最早一割を切っているし、機体自体もダリル先輩との戦いのダメージで、お世辞にも十全じゃない。今バトルカメラで僕を見ている人たちは、さぞかし僕が態々優勝候補にポイントを献上しにきた間抜けに見えていることだろう。だって、僕が観客でも絶対そう思う。

 

 ――――でもお生憎様。僕は勝算がないなら、最初からこんなことはしない主義だ。

 

 どちらともなく、お互いの手が動く。それが、僕達の戦いの合図だった。

 

 

 

 

 「シャルロット、お前……!」

 

 「ふふ……! 『一夏』の動きが相手はやりづらいかい?」

 

 箒相手に僕がとったのは近距離戦。一夏から盗んだ格闘戦のノウハウと、最低限の火器を用い、ブレードの攻撃範囲ギリギリで立ち回るやり方だ。

 一発でも貰ったら即終わりの今の状況、おまけに相手はあの箒と、最高難易度のシミュレーターが子供の遊びに見えてくるレベルの戦いだが、機動力はこちらが上なこと、何より今手の中にある『とっておき』のお陰で今のところこの距離の戦いでも決して劣っていない。

 

 今メインで使っているこの武器は、近接ブレード『ジュワユーズ』をソルティレージュ・ガチェットで改造、今箒が使用している近接ブレード『雨月』の機能をコピーし近づけたもの。

 とはいえ……所詮『近づけたもの』、あれに比べたら殆どの機能をオミットした劣化品だ。あの武装は紅椿本体の単一仕様能力と連動して初めてその真価を発揮するもののようだ。単一仕様能力は再現できない僕の力じゃそこはどうしようもない。

 けれど、その機能を解析して面白そうな機能を見つけたから、そこ『のみ』を特化して再現してみた。それが上手くいった。

 

 「おっと……!」

 

 「っ、また……!」

 

 箒の殆ど目で捉えられない斬撃を、ギリギリのところで受け止める度にお互いのブレードから金色の光が飛び散る。

 それを見て箒は苦い顔をし、結果として強く踏み込んでこれない。その隙に即座に火器に持ち直して反撃、向こうが引くの繰り返しで、押し切られずに今の間合いを維持し続けられている。

 

 紅椿は、あの雨月と定期的にSEをやりとりしなければ戦闘状態を維持できない。それは魔法の設計図の解析でわかった。

 SEを回復させている仕組みについてははっきり言って全然わからなかった。マイクロジェネレーターとか、部分部分僅かにわかる機構に関する単語は拾えたが、多分あれはわかったとしても僕には再現できないものだ。

 でもその僅かにわかるうちの、雨月にはSE循環の際、コアから直接SEを吸収する機能があるって部分が辛うじて読み解けた。これを、利用できないかと考えた。

 

 で……出来た『偽・雨月』は大成功。紅椿本体及びその武装のどこでもいいから『触れ』さえすれば、紅椿からSEを『奪う』ことが出来る魔剣と化した。流石に僕の腕では箒に直接打ち込むことは出来ていないが、両手に持って数手防御のために打ち合うだけでも、紅椿のSEをジワジワと削る。

 

 「させないよっ!」

 

 「くっ……!」

 

 更に大事なのがSEの循環を箒にやらせないこと。循環自体は雨月単体でもできるようだが、箒はどうもあの鞘状のオプションを使わなければ循環ができないようだ。

 このために生じる隙を、高速切替(ラピッドスイッチ)早撃ち(クイックドロウ)の合わせ技で確実に潰していく。今回もこの用途に特化したハンドガン『リゼ』をコール、箒の腕と雨月を撃ち、循環を妨害した。

 

 このやりとりで、次第に、けれど確実に箒を追い詰めていっている手応えはあった。

 多分、僕の見立てじゃ循環なしだと、今のままならもう紅椿は2分と持たない。事実、もう箒は最初は使えていた雨月からのEショットを、消耗が激しいのか今ではもう使ってこない。

 ラファールもそろそろ限界だけど……でもこの調子で根比べなら、ギリギリのところで僕が勝つ。もう、そのビジョンは見えていた。

 でもその辺りは、流石に箒もわかったようで……焦れ始めながらも、なにやら不思議そうな顔をした。

 

 「解せんな……仮に、お前がここで私を下したとしてもだ。今のお前の有様では、もうゴールまで戻る余力はあるまい。私を倒した分のポイントも無効になる。私には兎も角、お前はここで戦っていること自体が下策もいいところだ。なのに、何故こんな身を削るような真似をしてまで、私を阻む?」

 

 「はは、実際身を削ってくれてるのはラファールなんだけどね、まあ、そうだね……下策なのは否定しないよ」

 

 まあ、そこに行き着くよね……僕は立場こそ代表候補生だけど、お父さんには在学中は好きにしていいって言われてるし、僕自身もう開き直ってる。だから……この自由な時間は、全部(一夏)のために使うって決めたんだ。

 かつて迷惑と、心配をかけてしまったお詫びのためと……今、確かにここにあって皆を見てるようで、どこか遠くを見てる彼の心をほんのちょっとでも、僕の方に振り向かせたいから。

 

 「動機は、大体君や一夏と同じさ。僕もこれから、守られる側じゃなくて、守る側に立てる人間であることを示したい。レース成績なんてどうだっていいんだ。例え優勝できたって、今この場で君を倒すこと以上の成果には、ならないだろうからね」

 

 でもそれを直接言うのは流石に恥ずかしいから、イギリスにいるときに身につけた、新しい仮面で誤魔化した。

 箒は素直だから、僕のそんな言葉を受け取って、疑う様子もなく薄く微笑んだ。

 

 「よく言った。お前の兄はいい奴だったが、今お前のことも好きになったぞ、シャルロット。だが……この至らぬ私をそこまで評価して貰った以上は、お前にとってもっと相応しい壁であらねばなるまいな。潮時だ、『紅焔』。ここで最後の手札を切る」

 

 「……!」

 

 箒は自身のISの名前じゃない、誰かの名前を呼んだ後、手にした雨月をまた鞘に収納しようとする。

 即座にカウンターの如く手にしたリゼを撃つ、が……突如、先程まで箒が一度も使用しなかった、椿の花状のEシールドが箒の前に出現。銃弾の連射をあっさり受け止められてしまい、とうとう納刀を許してしまう。

 

 なん、だ……? SEが爆発的に上昇……雨月から!?

 

 「お前のその武器には焦ったぞ。折角、生徒会の先輩方に骨を折って頂き、こんな鞘まで作って貰ったというのに、雨月内に溜め込んだ虎の子のSEを奪われてはな。お陰で制御に気をとられて全く思うように戦えなかったが……幸い、まだ足りるようだ」

 

 紅椿の残存SEが、どんどん回復していく。上限なく上がっていくかに思えたそれは、流石に最大値までではなかったが、それでもISバトルにおけるSE上限値くらいの値で漸く止まる。

 

 「確かに、紅椿が動き続けるには、お前の見立て通り雨月との間で定期的にSEを循環させねばならなかった。だが、それは鞘がなくても出来た。これを使ったのは、循環の際余剰SEが大量に漏れ出してしまうからだ。発生する余剰分を逃がさず雨月にため込み、ある程度溜まったものを、機を見て全て紅椿のコアに注ぎ込めば――――」

 

 箒が僅かに鞘から雨月を抜く。微かに除く雨月の刀身からは眩い程の光が溢れだし、その光が染みこむように、箒の紅椿の朱色の装甲が、金色に輝き出した。

 

 「―――― 一度だけ。紅椿は単一仕様能力(ワンオフアビリティー)『絢爛舞踏』を僅かな時間、取り戻す。これが私の、『絢爛祈刀』だ」

 

 「箒……君は……その、力は……!」

 

 「お前の言うとおりだ。私も叶うなら、守られるより守る側の立場に立ちたい。お前の気持ちは、私にも理解出来る。だが――――」

 

 おかしい……! 箒はただ立ってるだけなのに、見た目はただ、装甲の色が変わったくらいなのに。今撃てば間違いなく届く距離なのに、なんで……どうして、こんなに。何をやっても届く気が、しないん――――

 

 「――――悪いが、譲れないな」

 

 


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