~~~~~~side「セシリア」
「HAHAHA! ようやく追いついたぞデュノアの娘! さあ、お前の力を見せてみろ!」
「……ダッリィ。帰りてぇ。処刑人なんて各々自由行動でいいでしょうに、なんでウチはメリケンゴリラとツーマンセルやってんだ。そういうんは調教師の仕事だっつの」
「――――フォルテッ!」
「ヒイッ!? ゴリめんなさいぃっ!」
洋上、CBFレース空域において起点となる中央チェックポイント近く。
シャルロットさんと一緒に待機していると、2、3分もしないうちに『処刑人』がやってきた。
ハイパーセンサー越しに見える彼女達の搭乗者名は、それぞれ『ダリル・ケイシー』に『フォルテ・サファイア』……因縁の相手だ。その筈だったのだが……
――――なんと言いますか……思っていたのと全然違う方達ですの……
目視できる場所に現れて早々コントのようなやりとりをしている二人をみて、わたくしはおもわず呆気にとられた。
サラ先輩からお話を伺ったときに抱いた印象と、全く雰囲気の違う二人組だった。どちらも金髪の碧眼で、体格は筋肉質で大柄な少女と小柄でスレンダーな少女と対照的。腰の辺りまで伸ばした髪は、大柄の少女の方は雑に後ろで縛っただけ、小柄の少女は三つ編みにして垂らしており、二人の性格を表しているようだった。
どちらも搭乗しているのはアメリカの第三世代機『ファング・クエイク』。ただしアメリカは専用機としてISが個人に支給された場合、機体にその搭乗者用の専用名称をつける慣習があるようで、登録されている機体名はそれぞれ違う。それにそれぞれ別のコンセプトで機体をチューンナップしているようで、同じ機体でも二人のISの見た目は全く違った。大柄の少女の機体は完全な前衛特化機、小柄の少女の機体は後方支援特化機のように見える。
「む? デュノアの娘だけではないな。お前は……おお! セシリア・オルコットか! 幸運だな! 是非力を試してみたかった相手の一人だ!」
「あのバケモンみてぇな赤いブレード使いは他の人が向かっちまいましたし、本命はお空の彼方ッスからねぇ。ま、落ちてくるまでの暇つぶしにゃいいんじゃねッスか?」
「メインディッシュの前の前菜といったところか! HAHAHA!」
大柄な少女……ダリル先輩は体だけではなく声も大きい。オープンチャンネルで喋られると頭の中まで響いて、つい耳を塞いでしまいたくなる。
けれどだからこそ、聞き逃すことはなかった。わたくしたちを前菜扱いとは、随分と自分に自信がおありのようだ。小柄な少女、フォルテ先輩の方も、明らかにこちらを見る目に侮りがある。
「セシリア。行ける?」
シャルロットさんがこちらをちらりと流し目でみつつ、プライベートチャンネルで尋ねてくる。
わたくしはそれにコクリと頷きだけで返すと、スターライトを構え直した。
「あん? ……へぇ。もうコソコソ逃げ回るのはやめたんスか、フランスの。そんならこっちも仕事が早く済んで助かるんスけど」
「まあね。流石に先輩相手に二対一は厳しいよ」
「二対二でも結果は変わらないと思うッスけどね」
「さあ、それはどうだろう?」
シャルロットさんがわたくしよりも一歩前に出て相手と話し始める。
彼女が前で、わたくしが後ろ。処刑人の二人がやってくる間の短い時間で既に決めてあったことだ。相手の前衛を引き受けてくれる方がいるのなら、それだけわたくしが選べる手は増える。
「ではゆくぞ! 正義の一撃を受けろ!」
「ちょまっ! センパイまだ前口上終わってないんスけど!?」
「っ!」
が、流石にそう上手くはいかせてくれないようだ。ダリル先輩の方がいきなりわたくしのほうに向かってくる。
スラスターの噴射とパワーアシストが下支えする強靱な脚力で海面を蹴っての、鈴さんの移動法を思わせる突進は想定以上に速い。わたくしは早速迎撃しようとスターライトを向け――――
「――――やだなぁ、そんな簡単に目移りしちゃってさ。さっきまでみたいに僕と遊ぼうよ、お姉さん?」
「むっ!」
その前にシャルロットさんが手に持った武器を即座にブレードに切り替えダリル先輩を受け止めた。わたくしはスターライトを向けるだけで精一杯だったのに、ダリル先輩が動き出してから換装して迎撃を間に合わせるとは。相変わらず彼女はいつ武装を変えたのか分からなくなるくらい換装が速い。
「HAHAHA! お誘いは嬉しいが、そんな細腕と華奢なブレードで私の『サベージパンサー』の爪をどこまで受け止められるかな!」
「うっ……これは確かに拙いな、甲龍並のパワーだ。でも――――」
受け止めたはいいものの、流石にISの世代差とパワーアシストの地力の差のためか、明らかに力負けして押され始めるシャルロットさん。
慌ててフォローに回ろうとするも、その前にシャルロットさんは手にしたブレードから手を離していた。
回転しながら弾き飛ばされていくブレード。ダリル先輩はそのままファング・クエイクの拳でシャルロットさんの顔を捉えようとして――――
「力比べにまともに付き合わなければ問題ないよね」
「……ぬおっ!?」
無手はずだったシャルロットさんの左手から手品のように飛び出した、ショットカノンに拳を突きつけていた。
シャルロットさんは即座に発砲。散弾の雨と衝撃がダリル先輩のISを容赦なく叩き、ダリル先輩が後方に吹き飛ばされる。
それを見届けて、シャルロットさんは片手でフォアエンドを持ったまま銃を縦に振るような動作でアクションをスライドさせ、ジャコッという排莢音を響かせながら、単発式のショットカノンのリロードを即座に終わらせる。飛んでいったブレードもさりげなく海に落ちる前にもう片方の手を向け空中で量子格納していた。
……いつか見た、一夏さんのブレード捌きの応用のような動きだ。彼女は一時期一夏さんと近接戦闘の訓練をしていたようだが、あれだけでちゃっかり技を盗んでいる。知ってはいたが器用な人だ。
「あーったく、また手玉に取られてんじゃねッスかパイセン!
「っ、させませんわ!」
「ひゃうっ!?」
見かねたフォルテ先輩が援護に回ろうとするのを、スラーライトの発射で止める。
シャルロットさんは強い。それにダリル先輩とは相性が良さそうに見える。なら、後方支援役を抑えるのはわたくしの役割だ。
「貴女の位置はすでにわたくしの間合いですわ。そう易々と撃てると思わないでくださいまし?」
「へっ……ウチの『マーダーホーネット』に撃合いを挑むなんざ、いい度胸してんじゃねッスか、お嬢」
シャルロットさんとダリル先輩が睨み合うなか、その後方でわたくしとフォルテ先輩が互いに得物を構えて向き合う。
――――処刑人達との戦いの火蓋が今、切って落とされた。この先輩方がわたくしが裁くべき愚物かどうか、この戦いで見極めてみせる。
~~~~~~side「シャルロット」
さて……ここまでは予定通りだ。セシリアはどうもフォルテ先輩の相手にかかりきりになって援護は望めなさそうだけど、一対一の状況を作れただけで御の字、それ以上は望みようもない。
セシリアが思ったよりも早く見つかったのは幸運だった。武装を解析してみた結果、どうもフォルテ先輩のISは僕とは相性が良くないみたいだ。押しつけるようになっちゃうけど、セシリアなら僕より戦えるはずだ。
まあ、残ったダリル先輩なら僕でなんとかなるかっていうと……難しいところだ。従来通りのラファールじゃまず無理だろう。今のままなら五分五分でいけると思うけど、ダリル先輩はまだ様子見で本格的に戦闘態勢にすらなっていない。
練習はしてきたけど……いよいよ、
「ふぅ……私としては我が国の最新第三世代機と戦った者達とまず戦ってみたかったのだが、お前もどうして中々やるではないか! デュノアの娘!」
「それはどうも。後、僕にはシャルロットって名前があるんだ。別に嫌なわけじゃないけど、そのデュノアの娘っていうの、そろそろやめてくれないかな?」
「おお! それはすまなかった! では続きだ! もっと私を滾らせてくれ! シャルロット!」
「うわっと!」
うるさいなあの人……じゃなくて。流石は最上級生の代表候補生、息をするように瞬時加速を使ってくる。とっさに盾を展開して鉤爪のような形状をしたEブレードを装備した拳を凌いでいくが、推力を無駄なく乗せた強烈な連撃に数手も持たずに盾がひしゃげてスクラップになっていく。
……これ、ただの瞬時加速じゃないな。基本直進しかできないっていわれているあれにしては動きが多角的過ぎるけど、速度だけなら瞬時加速のそれだ。なんにせよ、相手の間合いじゃ勝ち目がないな。
「お返しだよ!」
「そう何度も同じ手は食えないな!」
いい加減盾が限界を迎える寸前のところでパージ。盾の裏に隠したシャンタージュでFMJ弾をバラ撒く。
が、ダリル先輩は後退こそしたが、今度は黒い稲妻ような軌跡だけを残し一発たりとも掠りすらせず完璧に回避してみせた。
参ったな。流石に体の大きさの問題とかもあるから、それだけで完全に避けられるってわけじゃないだろうけど……多分、実弾じゃ弾より速く動けるぞ、あの人。さっきは上手くいったけど、ショットカノンも本当に不意打ちかつ至近距離じゃなきゃもう当たんないだろうな。
「先ほどから思っていたが、貧弱な武器を使う! ISは単体のパワーアシストのみで迫撃砲を超える火力を出せるパワードスーツだ! ならば余計な武装など必要なし! 武器はこの身一つでよい!」
「それは流石に極端すぎないかな? こういう火器兵器だって、ISのコア本体と連動することで効果が段違いに上がるんだよ?」
ISは拡張領域内まで含め、搭載武装の全てを強化する。既存の科学技術では実質運用まであと十年単位は必要と言われた兵器や兵裝が、ISに限って運用できているのはそういった下支えがあるからだ。今では強力なシールドの方が先に挙がりがちだが、既存兵器では束になってもISに勝てないと言われる理由の一つでもある。
ISそのものの基本性能がそういった効果すら微妙なもの扱いされるくらいには高いことは否定しないが、ラファールの搭載武装一つ一つに愛着のある僕としては、完全否定までされるのはちょっと納得できない。
「ならば証明しようではないか! コアから与えられるリソースを、全て機体性能のみにつぎ込んだISの究極型の強さを! 浅はかな小細工で細分化してしまった木の枝の如き力では、止められぬものと知るがいい!」
「っ!」
ダリル先輩が突然海面に両手をついて足を立てたまま四つん這いになる。
いきなり何をと思ったが、瞬間浅葱色のノイズがサベージパンサーの黒い装甲を覆い構造を組み替えていき……数秒も経たぬうちに、まるで最初から『そういう』生き物だったかのように。頭の部分が完全に豹の頭部のような装甲とバイザーに覆われたのもあり、元が人型だったと思えないほど違和感のないフォルムの、実物よりも一回り大きな機械仕掛けの『黒豹』が『組み上がった』。
……まさか、これが。
『アニムス』。アメリカの第三世代機ファング・クエイクに取り入れられている第三世代兵裝。ISに人間以外の生物の戦闘時の思考回路を完全にプログラミング化したものをインストールし、搭乗者のイメージインターフェイス発動時の思考と並列処理を行わせることで、イメージインターフェイス兵裝使用時の搭乗者の負担を軽減しつつ、人間にはない発想や思考での戦闘行動を実現させるシステムか。
なんとなくそういうものだと情報だけは得ていたが、まさかISのフレームそのものまで変質させるようなものだとまでは知らなかった。しかし、となると。ダリル先輩の機体が保有している、生物のプログラムは本当に名前通り……
「――――サベージパンサーアニムス、『
その一言を最後に、ダリル先輩がその場から忽然と消える。いや、ハイパーセンサーがあって尚、見失った……!?
「がっ……!」
直後、サベージパンサーの背中部分に展開したウィングスラスターから漏れる浅葱色の光を一瞬だけ視界に捉えたと思ったら、横から凄まじい衝撃を受け海上を水切りする石みたいに吹っ飛ばされる。
なんとか受け身をとって立て直そうとしたが、その前に肩にガシリと三本の爪状のEブレードが突き刺さる。そのまま海上に引き倒され、黒豹化したサベージパンサーのギラリと浅葱色に光るEブレードの牙が僕の喉笛を食い千切らんと迫る。
「こ、の……!」
本能的な恐怖を感じながらとっさに肩に突き込まれた前脚を掴んで至近距離からシャンタージュの掃射を浴びせようとするが、呆気なく振り切られまたダリル先輩が姿を消し、
「あぐぅっ……!」
直後背後から全身をバネのようにしながら全体重と推力を乗せて放たれた凄まじい威力の体当たりを受け、自分の背中が嫌な音を立てるのを聞きながらまた吹き飛ばされた。
……今のは絶対防御を発動させてしまった。それでいて尚全身の骨がガタガタになるような、鋭く激しい痛みが全身を襲う。あれをあと何回か受けたら、仮にISは無事でも僕の方が再起不能にされてしまうかもしれない。
どうする!? この状況で、殆ど姿すら捉えられない速度で動く敵に対応するための武器……!
「――――終わりだ」
先程までのダリル先輩からは到底想像できないような冷たい声が響き、とっさに空に上がった僕を追って黒い獣が空を超音速で駆け上がってくる。
牙が迫る。この最早間に合わないと思える状況で、僕はなんとか自身に対する答えをギリギリ引っ張り出した。
――――探すんじゃない、『作れ』!
「――――ソルティレージュサーキット、起動」
「遅い」
「ぐっ……!」
とっさに突き出した腕に牙が食い込む。腕部の装甲を砕きながら腕まで通れとばかりの咬合力で噛み砕こうとしてくる圧迫感から生まれる痛みに思わず顔をしかめながら、ボロボロのラファールに活を入れる。展開は『間に合っている』、IS自体に対するダメージはそこまででもない……!
……遅くなんかないさ。僕の
――――
「ぐおっ……!」
サベージパンサーが噛み砕こうとしたラファールの装甲が、突然『爆発』した。
全身装甲であっても繊細なセンサー部分が集結する頭部に熱風と装甲の破片をぶつけられてはたまらなかったのか、ダリル先輩は反射的に後ろに飛びすさるも、流石にゼロ距離で爆発されては間に合わなかったのか、サベージパンサーは顎部分の装甲を一部失いちょっと間抜けな顔になった。
その間に、僕は先程噛みつかれる『前に』量子格納したラファール本来の腕部装甲を呼び戻しサッと装着し直した。
「装甲そのものを高速切替で呼び出してあの瞬間装着したのか……! 器用な上に用心深いな、シャルロット。まさか装甲の予備まで拡張領域に入れているとは」
「んー……いや、さっきのは今思いついて『作った』んだよ。僕のISの、第三世代兵裝でね」
「何……!」
そう、これこそが僕の新生ラファール・リヴァイブ・カスタムに搭載された第三世代兵裝『
改造武装は一度拡張領域内から出した後再度しまうことで改造状態が自動でリセットされるため、改造失敗で取り返しがつかなくなることはないが、この仕様上改造成功で気に入った武装があってもその状態を持ち越せず、その都度改造しなくてはならない。また失敗すれば再収納しなければならないため、いかに高速切替があっても隙を晒してしまうことになる。
最初はこの自由度が高すぎる能力故に、パッと作り出す武装のイメージがすぐに出来なかったり、それを解決した後もイメージ通りの武装が作れなかったりしたりした。これを今日の今日までお蔵入りにしていたのは、特に秘密兵器とかそんな思いがあったわけじゃなくて、元がある武装を適当に改造して失敗し隙を晒す可能性がつきまとう、使いこなせていないとリスクも相応にある能力だったからだ。
でも、僕はどういう訳か、あの学園祭の量子空間での出来事を経て以降、いつの間にか誂え向きの『
名付けて『
とても地味な力だが、武装一つ見るだけで相手ISの戦闘傾向や設計コンセプトが大方分かる情報アドバンテージ獲得力は、特に初見の相手には非常に効果が高い。フォルテ先輩との戦闘を避けたのも、この単一仕様能力で彼女の機体を見て相性が悪いと判断できたからだ。
そして……なによりもこの単一仕様能力は、ラファールの第三世代兵裝と組み合わせることでその真価を発揮できる。
……流石に、アニムスは無理か。設計は見えても僕に理解できない。でも――――
頭の中で設計図を広げる。想定するのはダリル先輩の今の姿になる『前』の動き。解析するのはサベージパンサーのスラスター。作るのは飛行時の重心のブレを補正するスタビライザー。要は補助輪のようなものだが、僕が『アレ』をやるにはなきゃダメそうだ。
完成と同時に即座に展開。スラスターに接続して瞬時加速を発動させる。
ダリル先輩は対応することは出来たはずだ。サベージパンサーアニムスは通常機動からして瞬時加速並の速力があるし、アニムスの並列処理演算によって獣の反応速度を手に入れている。いかに瞬時加速とはいえ、僕のそれでは届かなかったろう。『普通なら』。
でも、ダリル先輩はあくまで獣ではなく人間だ。獣なら反応できたそれも、『自分の技を盗まれた』という事実からくる人間故の驚きによって、反応が僅かに遅れた。動けなかった。
「――――やっぱり付け焼き刃じゃ3連噴射が限界、か。
「し……シャルロット・デュノア! 貴様っ!!」
左右のスラスターを交互に作動させる独特の瞬時加速の連射によって稲妻の如くダリル先輩のすぐ横につける。速度をまったく殺さないまま、その無防備な土手っ腹に
「ごっ、がああああぁぁぁぁぁっ!?」
獣のような絶叫が響く。流石に無茶な改造が過ぎたのかシュープリスは一発発射しただけでバンカーが飛び出しバラバラになって量子格納され、僕も反動でダメージを受けながら海中を滑り大幅な後退を余儀なくされるも、効果は絶大。
サベージパンサーアニムスは、そのしなやかな高速機動に特化した機体故に、全身装甲といえ防御はあまり想定した装甲ではなかった。絶対防御がなければ間違いなく装甲ごと搭乗者を貫通して突き刺さっていたであろう程の改造シュープリスの一撃はサベージパンサーの腹部装甲を粉々に破断させ、腹部から浸透したダメージは各脚部装甲にまで及びパワーアシスト効果を大幅に低減させた。最早サベージパンサーに先程までの速さはない。獣の足は折れたのだ。
「がっ、ぐうっ……ま、だ、だ……! 正義は負けない! 挫けない……!!」
「なっ……!」
パイルバンカーの衝撃は装甲を浸透して搭乗者にも届く。自分でやっておいてなんだが、絶対防御があって尚とんでもなく痛かったはずだ。実際僕が初めてシュープリスを試した試合での相手は、特に今回みたいなソルティレージュ・ガチェットによる改造を施していないにも拘わらず、搭乗者への貫通ダメージのショックで気絶していた。開口一番お父さんをバカにしてきた嫌な人だったから、正直ちょっとスッとしたけど。
それでもダリル先輩は苦しそうな声を吐きながらも、尚ラファールよりも明らかに速い速度で迫ってくる。でも……!
「見えてるよ……!」
捉えられるなら迎撃はできる。六連装リボルビングライフル『セッティエムソン』をコールして撃つ。
「そんなもの……!」
遅くはなっていてもまだダリル先輩は実弾よりは速い。けどそれならそれで――――やりようは、ある。
「――――当たらないと思う?」
「ぐっ……!? な、何故っ!?」
ダリル先輩がギリギリのところで避けたはずの弾は、何故かどこからともなく『戻ってくる』。完全に想定外の事態ににダリル先輩は対応できず、装甲が剥がれた場所に被弾し、たまらず飛び退った。
ダリル先輩はまた絶対防御を発動させられた事実と、絶対防御が発動しても生身の部分に実弾を当てられたことで生じた痛みに呻きながら、この時やっとハイパーセンサーで周囲の状況を確認したのか、すぐに僕の手管を見破って叫んだ。
「……跳弾か!」
「当たり」
さっきダリル先輩にシュープリスを当てた時、こうなった時の保険として、後退しながら周囲に、改造し装甲を強化した自律浮遊型のチャフデコイ『ランスタン』の搭載分を全部バラ撒いておいたのだ。改造によってECM効果は落ちているが、敢えて撃っても一発や二発じゃ壊れないくらいに頑丈にした。このセッティエムソンには特殊な形状の弾頭に改造したFMJ弾を装填しているのもあり、ランスタンを撃てば弾の方が『跳ねる』。生身じゃ当然跳弾で狙って攻撃なんてできないけど、ISの超感覚ならなんとなくどういう風に撃てばどう跳ねるかが計算できる。
もう今僕たちの回りにはそこら中に、銀色に輝きECMを拡散する羽根のようなユニットを回転させながら宙に舞うランスタンがある。これなら適当に撃ったって跳ね返る。
「ダリル先輩。さっき、人は獣に勝てないって言ったよね。まぁ、確かに丸腰の人間じゃどうやったって獣には勝てないだろうけど」
「シャル、ロット……!!」
「……でも、武器の発明によって人と獣の関係は変わったんだ。今だって、
「は……ハハハハハハ! よく吼えた! ならば、私を狩ってみるがいい!!」
キラキラと光るランスタンが漂う中、最早隠れる場所もない、手負いの獣を撃つ。
――――決着がつくまで、そこまで時間はかからなかった。
本作における設定変更点
・フォルテをアメリカの代表補生に変更
・アメリカの第三世代機を一律原作でのイーリスの専用機『ファング・クエイク』へ変更。ただし、搭乗者ごとに専用の登録名を持つ
よってイーリさんの専用機もちゃんと別の登録名を持ちます。作中に登場するのはまだちょっと先になってしまいますが。ダリル先輩のヘルハウンドは登録名はそのままにしたかったんですが、犬型は他の人のと被っちゃうので敢えなく変更となりました。
またシャルロットのラファールの搭載武装も仏語で統一したかったのもあり、思い切って変更してしまいました。元ネタは第三世代兵裝含め個人的に好きなゲームから引っ張ってきてます。主に香水。