IS/SLASH!   作:ダレトコ

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第百二十一話~風が吼える~

 

 

~~~~~~side「鈴」

 

 

 まったくもう。どいつもこいつも、のっけから派手にやってくれるじゃない。

 開幕と同時にハチャメチャしてくれた一夏と箒をハイパーセンサー越しに見届けながら、あたしは乗り遅れたことを悔やみながら高機動パッケージ『(フェン)』を起動させセシリアたちとは別方向に真っ直ぐ飛んだ。

 やらかしてやろうと思っていたのはあたしも同じだったってのに、これじゃ二番三番煎じもいいところだ。このレースが終わったらあいつらには絶対に文句を言ってやる。

 

 目の前には同じく高機動パッケージ『シュトルム』を装備し猛スピードで近場のチェックポイントを目指しているラウラの姿がある。あいつは見るからに一夏や箒のことなどどこ吹く風といった感じだ。身内以外に対してはポーカーフェイスの上手い奴なので内心は何か思うところはあるのかもしれないが。

 まあ、今ラウラの考えてることなんてどうでもいい。どっちみちすぐに余計なことなんて考えられなくなる。あたしがあいつと行き先が被ったのは偶然じゃない。敢えて狙った。

 

 「っ!」

 

 「チッ……!」

 

 相変わらず勘のいい奴だ。完全に死角から狙った龍咆をインパクト直前で躱された。

 ラウラはその龍咆を躱した体勢から無理なく急旋回を行い、あたしと空中で対峙する。

 

 「妨害禁止時間は過ぎているとはいえ、いきなり随分な挨拶だな凰。開幕早々落とされたいか?」

 

 「いきなり初対面の男の顔を張り倒そうとしたチビに挨拶のことでとやかく言われたくないわ。トロトロ飛んでるからちょっと背中を押してあげようと思っただけよ。レースに勝ちたいならあたしなんかに構ってないで急いだら?」

 

 「……いや。よく考えてみればいそいそと意味も無く空を飛び続けるより、目の前に立ち塞がる障害を正面から噛み砕いていくほうが私好みだ。尤も、壁と認識するには些か格が足りんようだが」

 

 「そ。ま、あんたがそう思うんなら勝手にすれば? でも、世界中の人間が見てる中で自分が格下だと思ってる奴に負けるのってどんな気持ちかしらね……!」

 

 「ほう、成程。いつかの意趣返しを果たそうというわけか。あの時のことは悪かったと思っているが……その負い目で敢えて私が今ここで負けると考えているのなら、甘いと言わざるをえんな。私の暴言が起因となったとはいえ、当時の貴様が教官を侮辱した事実は動かん。加えてあの場で私の発言を取り消せなかったのは、偏に貴様が弱かったからだ。それについては私の責任でないからな」

 

 「あー、もう。決めたわ。やっぱあんたは泣かすっ!!」

 

 「やってみろ」

 

 かつて、歯がまったく立たなかった相手に再度挑む。

 学園祭での弾のことがあってアレコレ考えてはみたが、結局はこれが最終的に思いついたあたしなりのけじめのつけかただった。

 

 なんとなくだが、確信があった。あの時弾が意識消失するきっかけになったのは、あの亡国機業が展開した量子空間じゃなく、あたしのIS(甲龍)なんだって。

 それを感じた瞬間、認めたくはないが、怖くなった。今まで当然のように自分の力だと信じていたものが、あたしの知らないうちにあたしの大事なものに牙を剥くかもしれないという事実が。

 あたしにこの甲龍が専用機として宛がわれた時、既に噂はあったのだ。まだISスーツが未完成で生身のままでISが扱われていた頃、この機体の搭乗者の内何人かが再起不能になったという不吉な話が。でも本国の代表候補勢の中では一番若くてポッと出のあたしに対する当てつけのようなものだと信じて取り合わなかったし、実際あの日までは何事もなく甲龍はあたしの思い通りに動いた。

 

 あたしがIS搭乗者になった経緯が経緯だっただけに、はっきり言ってあたしの中ではISに対する優先順位はあまり高くはない。それなのに今の立場になるまで死ぬほど努力したのは、偏に一夏のクソ姉貴への反発心からだ。父さんのことさえなければ、ヤバいヤマなら立場なんて投げ捨て尻を捲ってもなんら痛痒はないと思っていた……まあいざそうなったらあたしが今の立場になるまで色々手を貸してくれた数少ない本国の人たちには、ちょっと申し訳なさが立つんだろうけど。

 けど、今は状況が違う。一夏がISを動かしてしまった。ここに来てから今すぐにどうこうはないと思っていたが、最近また雲行きが怪しくなってきた。いざという時に今の立場と甲龍がなければ、一夏を守れないかもしれない。それはあたしは絶対に織斑千冬と違って一夏を見捨てないという自ら立てた誓いを破ることだ。断じて認められない。

 

 なら、いかに危険な力だろうがあたしに与えられたこの力を力尽くでも乗りこなしていくしかない。それしかないとわかっているのに弾のことを思い出すとどうしても怖くなって、誰かを間違っても巻き込みたくなくてあの学園祭の日からずっと一人で甲龍の力を使いこなすことに意識を傾けた。

 けど、あたしの役割からしてもいつまでもそうしているのは本国から職務放棄と見なされかねない。意識の切り替えの必要性を感じ、思いついたのが、このCBFの場でのかつての因縁の相手との決着だった。振り返ってみれば、あたしはIS学園にやってきてからというもの、絶対になんとかしなければならないという局面に限ってあまり役に立ててこなかった。なら、今度こそ。

 

 ――――ここ一番。絶対に負けられない場面で格上に打ち勝てば、グラつきつつある自信を少しは取り返せると思ったのだ。

 

 

 

 

 CBFが乱戦形式である以上当然他の出走者の横槍は予期していたが、この調子だと余計な心配らしかった。

 どうも一般枠の連中はさっきの箒の暴れっぷりを見て怖じ気づいてしまったらしい。レーダーであたしとラウラが同じ場所にいるのを見て、露骨に避けていく。

 ただ戦闘が進んであたし達が弱ってくれば漁夫の利狙いで介入してくる可能性はあるし、処刑人の存在もある。油断は禁物だ……まぁ専用機持ち同士で潰し合っている以上、後者は進んではやってはこないだろうが。

 

 「余所の心配をしている場合か凰? そんなザマでは貴様はまだ私の中で訓練兵評価のままだぞ?」

 

 「……うっさいわね! こっちは集中してんだからゴタゴタ抜かすな!」

 

 龍咆が『当たらない』。いや、『届きすらしない』。

 会ったばかりの頃はまだあたしのように対象に手を向けて集中する必要があったはずだが、今のラウラは身じろぎ一つしないままAICであたしの龍咆の尽くを停止させてくる。

 ……あたしも腕を上げた自信はあったが、あいつもあの頃より明らかに強くなっている。わかっちゃいたがそう簡単にはいかないか。

 

 「守ってばかりというのも暇なものだ。今度はこちらから行くぞ」

 

 「っ! 双天牙月!」

 

 こちらに向かって伸びてくるワイヤーブレードを双天牙月をコールし迎撃。

 ワイヤーではなくワイヤー先端のアンカーブレードを狙って投擲。双天牙月はワイヤーブレードと空中で正面からぶつかり、勢いを殺されたアンカーブレードが重力に引かれて落ちていく。

 あたしは反対側に弾かれ吹き飛ばされながらもこちらに戻ってきた双天牙月をキャッチし直し、ラウラに向けてどうよと笑ってみせる。

 

 「……ほう。多少はやるようになったか」

 

 「訓練兵は卒業かしら?」

 

 「それを決めるのはここからだな!」

 

 ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンが瞬時加速で一気にこちらに肉薄してくる。

 やはり高機動パッケージの補助もあって速い! こっちも瞬時加速で応じようとするも向こうの方か流石に経験が上で、タッチの差でAICに捕まってしまった。

 

 「ふん……つまらん。やはり訓練兵だな」

 

 動けなくなったあたしを鼻を鳴らしながら本当につまらなそうにそう言って一瞥だけすると、右腕にプラズマを纏わせあたしに向かって振り上げた。

 勝利を確信した表情。実際普通ならここからの逆転はない。万事休す、っといった体だが――――

 

 「そうくると思ったわよ、間抜けな隊長さん?」

 

 「ぐぬっ……!」

 

 シュヴァルツェア・レーゲンの左肩のレールカノンが突然爆裂したかの如く細切れになりながら弾け飛ぶ。

 流石に集中力が切れたら維持できなくなる点は克服できていなかったようで、同時にあたしは自由の身になったのを確認。スラスターを起動させて一度距離を取る……良かった。もしそこを改善されていたら、あれだけ啖呵を切っておいていきなり詰むところだった。

 

 ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンの専用兵裝AICは、一度捕捉した相手の行動を問答無用で停止させる、近接戦闘においては反則みたいな能力だ。決定打が格闘戦の甲龍であいつと戦うにあたっては、この能力に対する対策をまず講じなくては話にならない。

 この度あいつをターゲットに定めたからには、当然策はあった。それが、威力不足という弱点を抱える龍咆をあたしなりに磨き上げていった末にたどり着いたこの『龍咆・烈』だ。

 

 甲龍の龍咆は、甲龍が触れた箇所を起点に空間圧縮を行い砲身を一から作り出してから発射する。つまり、理論上は甲龍が触れている箇所ならどこからでも、例え口からでもヘソからでも足の裏からでも発射できる……あたしはまだ自分の集中法の関係で掌からしかできないけど。

 あたしは、この『触れた箇所』から発射できる条件をさらに広げられないかと考えた。目下威力不足は大して問題視していなかった。龍咆はあくまで牽制用って認識だったからだ。威力が足りなかろうが死角から龍咆を次々とぶつけられれば相手の集中力を乱す嫌がらせとしては最上のものになる。

 けど、これが中々上手くいかなかった。空間圧縮の砲身は甲龍から離れた途端に崩壊してしまう。龍咆は手から放つ分にはすべてイメージ通りに動くのに、手から離れた途端に構築があやふやになる。何度か試している内に、あの生徒会長戦で使った力が殆ど偶発的に発現した。

 

 ――――空気の断層、鎌鼬。風、風か……っ!!

 

 天啓が下りた、ってのは多分ああいう時のことを言うんだと思った。

 ISの能力による空間圧縮が上手くいかないなら、それに伴って巻き起こる物理現象に発動の補佐をさせればいい!

 そこから先も失敗の連続だったが、今まで失敗と違い確実に何かを積み上げていくような失敗であることが自分ではっきりわかるようになり。じっくり時間をかけて、複数の大気の断層に落ちていく空気の圧を利用し、甲龍が離れていても空間圧縮を力尽くで成立させる技を編み出した。

 この新しい龍咆はあたしが発射口とする空間に触れた後、数秒間の間そのまま鎌鼬を発生させながらその場に滞空した後、狙った方向に発射される。滞空時間は大体5秒間までならある程度自由に操作出来るが、発射方向と一緒に必ず初期形成時に指定する必要がある。つまり、時間差発射限定で任意発射はできないので、時限爆弾的なトラップのような運用になる。滞空時間が長くなるほど大気の断層が大量の空気()を圧縮しながら充填するため、口径と威力が上がる。

 こいつはその特性故にAICの対抗策となる。甲龍本体が行動不能に陥っても、一度設置された龍咆・烈は時間になれば発射される。AICが一度に停止できる対象は一つだけ。甲龍を止めるのに使用してしまえば、別の場所から時間差で飛んでくる龍咆・烈には少なくともAICでは対処できなくなるし、逆もまた然りだ。

 それに龍咆以上にいつどのタイミングでどこから飛んでくるかわからない不可視の砲撃に常に警戒しなくてはならない状況では、AICにつぎ込める集中力は自ずと低下するはずだ。AICはその反則的な能力と引き換えに、展開には第三世代ISの専用兵裝の中ではトップクラスの集中力を要するとされる。その状況に持っていければ、きっと制御に支障が出る。

 生徒会長戦ではまだ思いついたばかりで調整が間に合わず、あんな中途半端な形で披露することになってしまったが、今は違う。

 

 さっきのラウラには突っ込んで来る前に準備を始めていたおよそ3秒溜めた分の龍咆・烈をぶつけてやった。

 時間が足りないかと思ったが鎌鼬を伴い発射された暴風のような大気の弾丸は、シュヴァルツェア・レーゲンの武装を根元からもぎ取った。十分な威力だ。

 

 「あんたがなめ腐ってた訓練兵の一撃の味はどう、ラウラ? 今じゃ皆寄って集ってあんたが一年最強なんて言ってるけどね。あたし、今までそれを認めたことなんて一度たりともないから」

 

 「空間圧縮による空間の歪みを検知……そういうことか。やってくれる。ああ、認めるとも凰鈴音。貴様はIS搭乗者としては天才だ。正直にいって妬ましいほどに」

 

 「あんたが言ったってイヤミにしか聞こえないわっ!!」

 

 「本心なのだがな!!」

 

 イケる。少なくとも、『今』のあたしの力はこいつにも十分通用する!

 その確信を強めたあたしは、再びラウラと空中で激突した。

 

 

~~~~~~side「セシリア」

 

 

 「り、鈴さんとラウラさんがレースそっちのけで戦闘を開始? 何を考えてますの?」

 

 レースが進むにつれ一刻一刻と状況が動く中、ハイパーセンサー越しに新しく入ってきた情報に、また頭を抱えそうになる。

 なんというか、わたくしの知っているCBFと違う。いくら普通に出走しても勝つのが難しいからといって、皆さん好き勝手しすぎではないでしょうか……?

 

 「オルコットさん! 覚悟っ!」

 

 「っ……!」

 

 いや、今は皆さんのことより自分のことだ。

 箒さんは開幕の大暴れのせいで恐れられ、鈴さんとラウラさんは二人の激しい戦闘の巻き添えを懸念されて、あの三人は一般枠の出走者からのマークが外されつつあるようだ。

 一夏さんは最早どこかもわからぬ雲の上。こうなってしまうと……必然的に、残ったわたくしとシャルロットさんに彼女達のマークが集中することになってしまった。

 

 「うっ……は、速っ!」

 

 「まだよ! ここからなら……!」

 

 それでもストライクガンナーを装備したわたくしのブルーティアーズに追いつける者はそうはいないようだが、この変則的なCBF特有のルールを理解した上で、わたくしの航行ルートを予測し先回りして一撃だけでも当てようとしてくる者が現れだした。全員一年生とはいえ、最早二学期に入り皆スキルアップしている上に、ここ一ヶ月間のエリザベスお姉様の指導によって才能が開花した方々も皆エントリーしている。ブレードにしろ射撃にしろ、思っていた以上に気をつけていないと当ててくる。

 お陰で未だ致命傷に至るほどではないが、当初予測していたよりSEの消耗が激しい。もうあまり遠くのチェックポイントを狙うのはやめた方がいいかもしれない。

 

 「きゃ!」

 

 「うくっ……」

 

 またチェックポイント前でこちらの航行ルートに割り込んでくるような軌道で飛行してくる一般枠の出走者数人をレーダーで捕捉したので、視界に捉えた瞬間スターライトで撃ち抜く。

 彼女たちが脱落するほどのダメージにはならなかったが、こんなことでも得点にはなる。待ち伏せを仕掛けようとして逆に先制攻撃を受けた彼女たちが怯んでる隙に、その上を飛び抜けて次のチェックポイントを目指すことにした。

 

 予定通りにいっていないのは事実。けれどブルーティアーズの機体性能のお陰で、このままゴールできれば現状トップ争いに食い込めるくらいの位置にはいる。間違いなく処刑人には目をつけられただろう。例の合衆国の代表候補生の二人と対峙しておきたい気持ちはあるが、残存SEで強敵と連戦は厳しい。引くこともある程度考えなくてはならない頃合だが、さて……

 

 「あら……?」

 

 とにかく次のチェックポイントを通過してから答えを出そうと決断したところでレーダーを見て、接近してくる機体に気づく。出走者であることを示す赤い光点に、周囲を囲むように赤い線でマーカーがかけられているのは専用機持ちであることを示すものだ。光点が光っている方角から微かに戦闘音が聞こえてくるあたり遙か上空に一夏さんがいるというわけでもないようだ。となると……

 

 「あっ……やあ、セシリア。お互い人気者みたいで大変だね」

 

 考えを巡らせているうちに水平線の向こうからやってきたのは、やはりオレンジ色のラファールを纏ったシャルロットさんだった。ここにくるまでの経験からつい反射的にスターライトを構えてしまうが、シャルロットさんはわたくしに気づくとすぐに手にした実弾ライフルの銃口を上に向けた。

 それを戦意はないアピールと捉えたわたくしも同じようにスターライトを上に向け、軽口混じりのシャルロットさんの挨拶に応じる。

 

 「まったくですわ。一夏さん達が自由すぎるせいで、ちゃんとレースをしているわたくしたちが煽りを受けるのは本当どうかと思いますの」

 

 「あはは。まぁ、最初から最後まで何が起こるかわからないのもCBFの醍醐味さ。僕、選手として参加するのは初めてだから、なんだかんだで結構楽しめてるよ」

 

 ……一学期に本当に短い間だけ一緒に過ごした、シャルルさんの双子の妹だというシャルロットさん。

 本当に双子なのかと疑いたくなるくらい瓜二つの二人だったが、こうしてある程度付き合ってみると意外と性格はそうでもないことがわかるようになってきた。

 シャルルさんは男性としては線の細いその外見通り、穏やかでちょっと悪く言えばなよっとした雰囲気の女性的な男性という印象だったが、逆にシャルロットさんは女性でありながらどこか爽やかでスタイリッシュな物腰から、中性的な男性のような雰囲気を感じることがある。今わたくしに向けてくれている、にぱっとした笑顔もどことなく少年みがある。

 前にその所感を一度うっかり本人に伝えてしまった時、彼女は何故か異様に落ち込んでいたが……いや、確かに女性でありながら男性のようだなんて言われれば少なからず傷つくのは道理かもしれない。無論、彼女にはちゃんと謝った。

 

 「ところで、わたくしに何か御用ですの? レーダーの反応を見るに、互いのルートが偶然ぶつかったというわけではないのでしょう?」

 

 「お見通しか。うん、実は君を探してたんだ……お互い、一般枠の皆に狙われながら、なんとかここまで切り抜けてきたでしょ? お陰で、少なくとも僕はもう処刑人に目をつけられちゃったみたいでさ。逃げてきたんだ」

 

 そう言ってどこか照れたように銃を持っていない方の手で、頭を掻くような仕草をしながらエヘヘと笑うシャルロットさん。

 ……はい? それってつまり。ここまで処刑人をトレインしてきたということ、でしょうか……?

 

 「えっと……うん。途中で一般枠の高得点者の追い立てに移ったから逃げてこれたけど、それが終わったら……あと数分もすればここまでくると思う」

 

 「……シャルロットさん?」

 

 「あ、その、わざとじゃ……や、わざとだけど許して? ちょっとその件について君に提案したいことがあるから、せめて撃つのはその後にしてくれると助かるなぁ……?」

 

 はぁ……ここにも問題児が。一組はどうしてこういう方達ばかりなのだろうか?

 一瞬ISを展開していることも忘れて手で眉間を押さえつけようとして、なんとか気を取り直す。まだ数分の猶予があるということだし、銃口を降ろしかけたスターライトを再び上に向けるとシャルロットさんに話の続きを促した。

 

 「ありがとう。時間もそんなにたくさんあるわけじゃないし手短に言うよ……君には今から僕と一緒にこれからここで処刑人を一緒に迎え討つか、このまま僕に会わなかったことにしてこの場で解散するか、選んで欲しいんだ」

 

 「……処刑人と戦うつもりなんですの!?」

 

 「セシリア。今のレースの状況って、君も大体わかってるでしょ?」

 

 「え、ええ……このままでいくと、序盤で大量の撃破点を稼いだ箒さんがチェックポイント通過してゴールできればまず首位に立つでしょうね」

 

 「箒は国籍こそ日本だけど、今のところIS搭乗者としてはどこの国にも属してないフリーランス扱いだ。そういう人が優勝しちゃうのってさ……僕等の国のお偉いさん達からすると、あんまり面白くないんじゃないかな?」

 

 「……!」

 

 それ、は……そうかもしれない。

 わたくしたちが勝ってしまうのもそれはそれで良くはないのだろうが、それでも国家代表候補としての実力を示す機会にはなる。最近専用機を得たばかりで実働経験も殆どない専用機持ちというのが対外的な箒さんの評価だった以上、彼女は大穴もいいところな上に、背負っているものがない以上勝っても彼女個人と専用機がが優れていること位しか示せない。賭け事は基本胴元が勝つものとはいえ、『勝ちすぎる』のも不味い。

 

 「基本勝てる人がいないから知られてないけど、処刑人にも実は撃破点が設定されてるんだ。それも専用機持ちのそれと同じくらい高い。さらに言えば僕たち出走者よりもさらにSEの出力上限が低い……条件がそれでさえいつもは相手が先生だから難しいけど、今回は特例措置で、精々僕たちより一年か二年実働経験が長い程度の先輩が処刑人だ。チャンスはあると思わないかい?」

 

 「本気、ですのね」

 

 「ああ。処刑人を倒すことができれば、最終的に半減する撃破数や戦闘点だけで首位に立ってる箒を追い越すことが出来る。勝つのが僕たちならまぁ最悪の結果はとりあえず防げて、本国に貸しを作れる。悪くはないでしょ?」

 

 「……意外、ですわ」

 

 「? 何がだい?」

 

 「シャルロットさんは、あまりそういったことには関心がないと勝手に思っていましたわ」

 

 「ないよ?」

 

 「は?」

 

 じゃあ今までの話はなんだったのだといわんばかりのシャルロットさんの返答に、思わずポカンとして彼女を見つめる。

 そんなわたくしの表情に、シャルロットさんはああ、と今になって気がついたかのように頷いて、言った。

 

 「さっきのは君にどんなメリットがあるかを挙げただけだよ。僕の動機なんて、単純なものさ」

 

 「それは、一体何ですの?」

 

 「――――このまま負けるの、つまんないだろ?」

 

 わたくしの疑問にウィンクしながら、あっさりと何より明快な動機を口にするシャルロットさん。

 だから、そういうところが男の子っぽいんですわよ、と口から出かけた言葉をなんとか飲み込み。個人的には先のメリット等よりもよほど好感の持てる彼女の本音を聞いて。

 わたくしの心は、既に彼女に対する答えを決めていた。

 

 






 鈴とラウラの再戦はずっとやりたかったので、ここで入れることになりました。

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