~~~~~~side「セシリア」
「今日は何故またあのような?」
「授業の予定から逸れたお説教? それともあの話自体をした意図かしら?」
「……後者ですわ」
「あら……それがわからないコじゃないと思ってたんだけどね」
「ええ、理解はしているつもりですが……今になって、なんて」
かたや最早現女王陛下から見放され、王女の肩書きを失い自身の足で社会を渡り始めた女性。
かたや不慮の事故で党首を失い、没落した同然とまで後ろ指を指されるかつての名家の当主の小娘。
互いに今のような現状になって尚、再びこの人の側仕えのようなことをすることになるなんて思ってもみなかったけれど、エリザベスお姉さまはあの頃のままだった。相変わらず、自由気ままに行動してこちらは振り回されっぱなしだ。
それでいてちゃんとやることなすことで一つ一つ結果を出すので、誰もこの人のことを咎められないのも含めて。
この人がまたわたくしの元に戻ってきて以来、夏季休暇以来わたくしの頭を悩ませていた問題は悩んでいたのが馬鹿らしくなるくらい呆気なく終息していった。
あの、わたくしの報告書をこき下ろした担当官が更迭されたのを皮切りに、今までわたくしに強く当たっていた関係者が軒並み次から次へと担当から外され始め、今ではあんなにうるさかった親戚たちでさえ沈黙を守っている。
……滑稽なものだ。お姉さまが王室から追放されたばかりの頃はあんなに嬉々として彼女を悪し様に罵っていたというのに、彼女が自分で力をつけて返り咲いた途端にこれなのだから。尤も、完全に彼女の威を借りての解決になってしまったわたくしも彼らのことを笑うことはできない立場なのだけれど。
けれど『外』のことに一々気を遣わなくてよいようになったわたくしは、晴れて自分自身のことに集中できるようになった。お姉さまの補佐で多少その時間が削れることを加味しても、十分充実していると言えた。
だがそこで満足してしまっていては今までのわたくしと変わらない。そう、変わらないままではいけないのだ。
BT兵器運用面の実績については前に進んでいる実感はある。
かつては運用中は自身のISの制御に支障が出ていたビットも最早己の手足のように動く。稼働率の上昇の割合も悪くは無い。かつてのわたくしなら、十分に満足できているような状況であると言えた。
だが今わたくしは、かつてないほどISの運用においては最高の環境に身を置いている。
ISをただ関係者とコネをつくる道具程度にしか考えていない、人の足を引っ張ることしか考えていない同僚はいない。日々切磋琢磨している友人たちは、わたくしが調子に乗っている間に目覚しい早さで成長し、増長の結果はあっという間に現実に現れる。そうでなくても些事に時間をとられた分だけ、出遅れているのだ、これ以上取り残される訳にはいかない。
そう、頭では理解しているのだが……今のわたくしは、今の自分の成長に行き詰まりを感じていた。
調子は間違いなくかつてないくらいいい。が、それだけではまだ足りない。
例えば、ブルーティアーズの兵装の要であり実戦の際にはわたくしの手足となって空を舞うビット。これらは欧州で作られている似たようなイメージインターフェイス兵装の中でも破格の性能を持つことは理解しているが、今の環境、わたくしの友人たちの駆るISの前ではわたくしの采配ミス一つで容易く破壊されてしまう……ビット自身もISのそれほどではないにせよシールドを持ち、早々容易く撃破されるものではないはずにも拘らずに、だ。
自分の武器に不満を持つ間があれば自分を磨けばとも思わない訳ではなかったが、それにしても限界があった。
明確な答えは既にあのわたくしが担当官から責められることになった一連の出来事の発端になった事件のときに示されてはいた。けれど……BT兵器におけるレーザーの『偏光射撃』。それを行うための糸口を、わたくしは未だにその末端ですら掴めずにいた。光速で飛来するレーザーを、相手の虚を的確に突くタイミングで『曲げる』。ハイパーセンサーの力を借りて尚、光の速さというものをそもそも殆ど認識できない人間がどうすればそれを行えるのか、皆目検討もつかないのだ。考えれば考えるほど、あの狙撃で息をするように行われた所業は人の業とは思えなかった。
だが第二次形態移行による武装の追加によるものとはいえ一夏さんは最近目覚めたイメージインターフェイス兵装の力を目覚しい早さで使いこなしていっているし、鈴さんはそのようなことがないにも拘らず、自身の工夫とアイデアで新しい『龍咆』の使用法を確立させたりしている。
そして、今回学園を襲撃してきた『敵』は、そんな彼らの力を以ってして苦戦を強いられるような相手だった。わたくしは今回直接相対はしなかったが、もし次があった場合足手纏いになるようなことは絶対に避けたい。そのために、本国でも敵と戦えるよう調整をしてきたのだから。
そんな焦りの中、ここにきて、チャンスは巡ってきた。
エリザベス・ミーティア……二人目の戦女神にして、イギリスのBTトライアルの礎である専用機『ゴールデンドーン』の搭乗者。
BT兵器の光子干渉技術は偏にゴールデンドーンの単一仕様能力『金糸の契約』の再現を目指したものである以上、その元である能力の機体の搭乗者にアドバイスを貰えるのはわたくしにとってまさに千載一遇の機会と言えた。
……でも今彼女の元にその専用機がないであろうことは、わたくしは未だにお姉さまに聞けずにいる。どうしてもあの鉄道事故があった日のチェルシーとお姉さまを思い出すからだ。この二人の間で何があったのかは、なんとなくまだわたくしが踏み込んではいけないことのような気がしていた。
だから、そんなもどかしい想いを抱えながらも、わたくしはお姉さまの補佐を務めながら偏光射撃について幾度となく彼女に聞こうとした、が……今のところ、お姉さまの返事は芳しくない。というより、どう説明したらいいのか、珍しく頭のいい彼女自身も悩んでいるようだった。
「ホント、そんなに難しいことじゃないのよね。少なくとも、私にとっては。私にはISって、最初から『そういうものだった』ってだけ」
お姉さまは聞くたびにまずそんなことを言う。あの生徒会長といい、やはり『天才』というのは皆似たような感性を持っていて、わたくしのような凡人にはとても……
「う~ん……だから、違うのよ。才能とかもまぁ、多少はあるのかもしれないけど、一番大事なのは多分そこじゃないの。貴女の報告書、私も見たわ。貴女の他に、光子干渉によるものと思われる偏光射撃を行った搭乗者がいるってね」
「ええ。どこの者ともわからぬ者にこの分野であっさりと先を行かれるなど、我ながら恥ずべきことだと思ってはいるのですが……」
「こればっかりは個人の向き不向きもあるしね、どっちにしても正規のBTトライアル運用者で貴女以上の適性持ちなんて他にはいないんだから、焦る必要もないわ……私が言いたいのは、多分その搭乗者は貴女と『やり方』が違うだけだと思う、ってこと」
「それは、どういう……?」
「イメージインターフェイスを運用する上で大事なのってね、上手く言えないんだけど、『これはこういう理屈だから』ってのより、『自分はこうだから』っていうのが大きいのよ。科学的に、物理的になんて小難しい理屈はいっさい要らないの。だって今までのそういうの、全部ひっくり返してる存在でしょISって。貴女の場合、BTトライアルの礎に私の専用機の単一仕様能力があるってことを知ってるのが、逆に足枷になってしまってるんじゃないかって思うのよ」
「知っていることが、足枷になる……?」
「そういうこともあるってこと。もしそうなら、貴女がこうして私に『やり方』を聞きにくるのも逆効果だってことになるわね。例の搭乗者だって、能力の見てくれこそ私のそれと同じでも、アプローチの仕方は全然違うのかもしれない。大事なのは、貴女が自分で『やり方』をみつけることなのよ」
「…………」
お姉さまはきっと、本心で言ってくれているんだろう。それは、今までの付き合いからもわかる。
でも、困る。だってわたくしは、本当に糸口すら見えないから尋ねているのに。
「そんな顔しないでって、大丈夫よ。こういうのは理屈じゃなくてね……ある時に思い立ったみたいに、急に当たり前のように出来るものよ。なんとなくだけど……もう、貴女にはもうすぐその時が来るって、私にはわかるの」
わたくしのそんな想いと裏腹に、いつものように会話が締められる。
お姉さまのいう『いつか』とは、いつ訪れるのだろう。なんにせよ、一刻も早く訪れて欲しい。きっと、敵は待ってはくれない。
焦るな、なんて言われたって、そうそうできるわけがない。現にああして、わたくしがクラス代表を務めるクラスの人間に手を出されたのだから。
「っ……!」
「あっ……!」
……しかし、いくら内心に焦りを抱えているからといって。その気持ちを鍛錬にまで持ち込むべきではないと、内心はわかっていた。
だが、戦闘の中完全に無意識で、我に返ったときには……四方向からの青い光線は正確かつ無慈悲に標的の急所を射抜いていて。ブザー音と共に落ちていく標的の姿を、わたくしは呆然としながら眺めているだけだった。
「も、申し訳ございません! お加減は如何ですこと!?」
「絶対防御が発動しています、何処にも問題はございませんわ。それに、お謝りにならないでください。鍛錬とはいえ実戦形式でと言ったのは私です。セシリア様の失態等では断じてなく、単に私が貴女様の相手役として役不足だったというだけのことですから」
そうして呆けていたのも数刻。つい勢い余って完全に撃墜してしまった相手の元に降りて駆け寄ったが、特に怪我もなさそうで取り合えず安堵した。
柔らかそうなフワフワした金髪と穏やかなたれ目が特徴な彼女はサラ・ウェルキン先輩。CBFに向け、情報の秘匿のため普段の鍛錬相手である同学年の代表候補生達とすら試合が控えられる中、専らわたくしの鍛錬相手を務めてくれている、わたくしと同国出身の三年生の代表候補生だ。
同じ代表候補生で実働経験もわたくしとは比較にならないのもあり、本来であればわたくし等相手にならないほどの実力をお持ちのはずなのだが……彼女はどうやらわたくしと違いBTに対する適正が低かったらしく、専用機はわたくしのブルーティアーズよりも一世代前のメイルシュトロームを使用している。今のところわたくしが勝ち越しているのは、偏にその専用機の世代差による性能差によるものだろう。
それに彼女自身がわたくしに遠慮しているというのもあるかもしれない。
彼女の実家であるウェルキン家は爵位こそ高くないがオルコットとは古くから付き合いのある名家であり、彼女の両親はわたくしの両親が没した時、わたくしの家の財産を狙って群がってきた親戚たちから家を守るのに、力を貸してくれた恩ある人格者だった。
彼女自身もその例に漏れず、そうでなくても心が参っているなか甘い言葉でこちらを陥れようとする人たちの相手をせねばならず人間不信に陥りかけていたわたくしを、何度も励ましてくれた……尤も、当時はそんな彼女のことも信じられなくて冷たい態度をとってしまっていたけれど。
そんな態度を改めることができないまま、それからしばらくして彼女の家は彼女の兄との間で跡目争いが起こって、それに嫌気が差した彼女の方が家の利権を一切放棄して、IS搭乗者になるために家から出て行ったことを後になってチェルシーから聞かされたのが、わたくしもこの世界に飛び込んでいくことになった切欠の一つだったのだ。
そうして久々に再会したサラ先輩は、以前と全く変わらない態度でわたくしに接してくれている。
それは彼女の中ではわたくしは未だ『セシリアお嬢様』だってことで……少し不本意ではあるが、ここで意地になるのもそれこそ子供っぽいので今まで指摘してこなかったが……これが原因で本気で戦って頂けていないのなら、やはり一度言うべきなのだろうか……?
「それにしても、とても調子がよろしいようで。担当官の方も、あのBT兵器にこれほど高い適性を持った方は他にいらっしゃらないと胸を張っておりましたわ。私も同国のIS搭乗者として鼻が高いです」
わたくしがそう思い悩んでいるところにサラ先輩の明るい調子のそんな言葉に思うところがあって、思わず顔を顰めてしまう。
……新しい担当官はわたくしの影にお姉さまの姿を見て、わたくしの顔色を伺ってヘコヘコするだけの存在でしかなかった。そんな人の賛辞なんて受けたところで、どうして喜べるだろう。
こういう態度は、どうしてもお父様を思い出してしまうから好きではない。以前は世の中の風潮のこともあり殿方全般をそのような存在なのだと思っていた時期もあったが、よく考えてみれば昔から男女関係なくこういう手合いはいた。決してお姉さまのせいではないけれど、IS学園の中でさえ彼女の大事なお人形みたいな扱いを受けるのは嫌だった。
「他にいらっしゃらないもなにも……BTトライアルの正式な被験者はわたくしだけですもの。他にいないのは当然のことではありませんか?」
「……その、申し訳ございません。私は……」
だからつい、よりにもよってサラ先輩相手に彼女たちに対するのと同じような対応をしてしまい、途端に後悔が込み上げてくる。
……上辺だけの世辞だけを述べてくるような相手ならまだしも、明らかにこちらを気遣ってくれているサラ先輩相手に当り散らすような真似をするなんて、あまりにみっともなさ過ぎる。
「あ、いえ……こちらこそ、ごめんなさい。仰る通り、数値としての結果はそう悪くはありませんの。でも……」
「『次の段階』……BT兵器固有の光子干渉能力の発現、ですか?」
「っ……はい」
そんなにもわかりやすかっただろうか? 焦っている理由を言い当てられて思わず言葉を詰まらせたわたくしに、サラ先輩は少し先程のわたくしの態度が原因か少し迷うように視線を彷徨わせさながらもやがて口を開いた。
「……そこまで焦ることもないのでは? BTトライアルの最終目的は確かにそこにあるのかもしれませんけれど、セシリア様もご存知でしょうが、あれは元々現在世界で二人しかいない『戦女神』の名を冠することを許された、あのエリザベス様が単一仕様能力として開眼させたものです。普通の人間であればそうそうたどり着くことができない領域の力なのですよ?」
「……わかって、います」
そう、そんなことは誰よりも『わかっている』。だからこそ、あの福音戦での遠隔射撃を受けて、本来自分に与えられるはずの力なのにも拘わらず、一瞬こんなことは『ありえない』とさえ思ってしまって不覚をとったのだから。
でも……
「でも、その『力』と、近いうちに相対して……もしかしたら、戦わなくてはいけないかもしれないのです。その力をすぐに手に入れる、とまではいかなくとも、せめて……早く、何か掴んでおきたいの」
「……あの、臨海学校の際の報告書の『敵』、ですか?」
「……ええ」
サラ先輩はそう確認した後何かを言いたそうに口を開きかけて噤み、やがて搾り出すように言った。
「私としては、出来れば『今回のことも含めて』、この件でお嬢様にあまり無理をして欲しくなかったのですが……決心はお堅いようですね」
「もう、そうやっていつまでもわたくしを子供扱いしないで頂きたいわ。わたくし、これでもあのアメリカの第三世代軍用機と戦って一度は追い詰めましたのよ?」
「伺っておりますとも。絶対防御で大事には至らなかったとはいえ、負傷なさったと聞いてとても心配したのですよ?」
「そ、その折は……サラ先輩にはご報告が遅れてしまい、大変申し訳ございませんでした」
「お謝りにならないでください。謝って欲しかったわけではありません。ただ……本当に、危険なことは出来る限りお控えなさってくださいね? オルコットの当主様に何かがあれば大事ですので」
「……善処しますわ」
「その言葉を信じますからね……本当は、この件も切り出さずにただ棄権を薦めるだけにするつもりだったのですが……そのご様子では、話さないとセシリア様はご納得していただけそうにないですし」
「……何の話です?」
「今度のCBFの件です。セシリア様もご出場なさるのですよね?」
「え、ええ」
サラ先輩が急に真剣な顔つきになる。大事なことだと判断し、わたくしも彼女の質問に出来るだけ真面目な顔をして頷いた。
「それの件の大会の……『
『
レースそのものには一切関わらず、基本的に基本性能等で有利な専用機持ちを優先して狙い攻撃する、完全な妨害役で、例年ならIS学園教師の中の数名が選定されるものらしいが……
「今年は先輩方が担当しますの?」
「はい。今年は一年生だけの出走ですし、学園教師陣は揃って会場の警備に回りますので、異例の抜擢ですね」
「……それで? その二人が抜擢されたことに、何か問題がありますの?」
「……お嬢様は件の二人についてどこまで知っていますか?」
サラ先輩からの質問に、顎に手を当てて考える。
名前は知っている。在学中のUSAの代表候補生の名前に同じものがあった筈だ。
ただ直接会ったことはないし、先輩たちの情報収集については正直自分自身のスキルアップや知識の吸収にかまけて怠ってきたところはある。今のところは、知っていることといえばそのくらいだろう。
そのことをサラ先輩に伝えると、彼女は頷いて二人について話し始めた。
「ええ、仰るとおり二人はアメリカ合衆国の代表候補生で……このIS学園に入学する以前から、合衆国の正規空軍内でISの指導を受けています」
「……? それそのものは、これといって特別なことではございませんわよね?」
「はい。代表候補生はお嬢様を含め、自国の軍より入学前に指導を受けている生徒は多いですからね。問題なのは……この二人はそういう一時的な指南ではなく、正規に米国の空軍に所属している軍人からの叩き上げだということです」
「そのことに、何か問題が?」
「彼女たち自身がそういう指導を受けてきた故かもしれませんが、彼女たちの入学時より、彼女たちはそのあまりに過激な訓練法で有名になっていましてね。模擬戦の際にはほぼ必ずといっていいほど相手を負傷させてまして……今彼女たちがこの学園にいないのも、彼女たちが在学時に行った訓練で重傷者を出した故に、懲罰として僻地への遠征訓練を課されているからだと噂になっているほどです」
「確かに、それが事実だとすれば問題ですわね」
「はい……そうでなくとも、IS学園のCBFは専用機持ちが狙い撃ちにされます。そのような状況で、彼女たちの矛先がセシリア様に向くようなことがないか、私は心配なのです。仮にそうなれば、彼女たちはまず相手が再起不能になるまで決して手を緩めるようなことはしないでしょうから」
IS展開中は、強固なシールド、そして絶対防御によって搭乗者は守られる。
けれど、絶対に怪我をしないかといえば、それは否だ。現に一学期にラウラさんと一悶着あった際は、わたくしこそ一撃で意識を刈り取られ大事にはならなかったが、鈴さんはAICの慣性停止でISの戦闘状態を一時的に麻痺させられている間に手ひどく痛めつけられ大怪我を負った。
要は、当時のラウラさんのような者達なのだろう。IS学園に来る前のわたくしであれば、サラ先輩の今の話を聞いて少なからず竦んでしまったかもしれない。彼女の懸念もわからなくもない。
けれど。今となっては、学園内のならず者程度を相手に怯んでなどはいられない。わたくしや……皆がこれから立ち向かおうとしているのは、あの『亡国機業』なのだから。
「ご忠告は受け取りました。棄権しろ、という申し出は聞けませんが、出走時にはその二人には注意するように致しましょう」
「今回の趣旨はあくまでも『レース』です。『処刑人』には出走者の妨害が義務付けられていますが、出走者、特に撃破ボーナスの少ない専用機持ちがそれに付き合うことはありません。あの二人に狙われるようなことになりましたら、可能な限り戦闘は避けてください」
「妙に彼女たちを警戒していますのね?」
「……彼女たちの『やり方』は、私も知っています。彼女たちに目をつけられた後輩を庇って、代わりに彼女たちの言う『訓練』に付き合ったことがあるんです」
そう言って、サラ先輩は少し躊躇いながらもISスーツの肩の部分を少しだけ捲って肩を見せてきた。
そこにあるものを見て、わたくしは思わず息を呑んだ。彼女の綺麗な白い柔肌には、もう既に殆ど治癒しているものの、それでいて尚はっきりとわかるくらいくっきりと裂傷の痕が残されていたからだ。
「酷い……!」
「セシリア様には、このような醜い傷を負うようなことになって欲しくありません。どうか、CBF本番にはお気をつけなさってください。レースの結果など、私は気にしません。セシリア様がご無事なら、それでいいのです……」
そう言い残し、わたくしに傷のことを追求されるのを恐れるように、逃げるように立ち去っていくサラ先輩。
いや、追求なんてするまでもなく、この話の流れだと……あの傷は、話にあった二人につけられたものなのだろう。
……元より、個人の評価というよりも大衆向けの娯楽といった側面の強い今回の催しについては、無論全力は尽くすが無理をしてまで良い成績を残そうという気概まではなかった。本国からも福音戦で大破したストライクガンナーを補修し、引き続き貸与してくれている以外は、これといってCBFに向けての支援といったものはない。国も恐らくはCBFについてはわたくしと大して変わらない認識でいるのだろう……『三貴銃』のパッケージの補修くらい、ついでに間に合わせてくれてもいいじゃないかとは思ったけれど。
けれど……あんなものを見せられてしまった後では、その認識も少し変わった。
多分、これはサラ先輩が期待したのとは正反対の気持ちなんだろうけれど……米国の代表候補生だという先輩二人。
もし、未だに以って、わたくしが今までお世話になってきたサラ先輩に対する仕打ちに対する罪の意識すらないような愚物であるのなら……いかに実力者の先輩だとしても、負けるわけにはいかない。
今後公開する機会のなさそうな設定を投下します。
・IS適性
基本的にISとのシンクロ率や第三世代専用兵裝との適応率等から総合的に評価される、といわれるが……
適性が低いからといってISが起動できないわけではない。
S:事実上最高の適性率だがこのレベルの適応者は殆どいないため基本的には想定されない適性値。該当者は千冬を含め世界に5人もいない。頭おかしい。
A:Sが殆ど例外扱いなため公には最高とされる適性値。S程極端ではないがそれでも該当者は少なく、この適性率が出せるなら代表候補生の有力候補になれる。すばらしい。
B:標準より優秀。何か特化したスキルがあるのなら代表候補も十分視野に入る。よい。
C:標準。この適性値以上であることがIS学園入学の条件の一つでもある。ISの起動や操作に不自由が生じる程の齟齬もないため、搭乗者の努力やセンス次第だが明確にB以上に劣る程の差が出る訳ではない。いいね。
・各登場人物別適性率
一夏:測定不能
箒:S
セシリア:A
鈴:A
シャルロット:B
ラウラ:C
楯無:不明
簪:C
一夏は世界初のケース故に現行の測定法で適性値が計れていない。ただし今までの実働結果の統計からC~B辺りを想定されている。
楯無は機体の例に漏れず搭乗者の情報も国から封鎖されており不明。
ラウラと簪は初期適性値自体は標準なものの、本人のセンスと他の候補生より長い実働時間で他搭乗者と実力で並んでいる。