◯sideキンジ(三人称視点)
「“ほう、貴様。 面白いものを持っているな”」
「私の声を真似しないで!」
「まて、白雪! 挑発に乗るな!」
キンジはあくまでも冷静にその冴え渡った頭で考える。
現在、白雪の格好をした魔剣の手には《聖宝剣 オートクレール》が握られている。 先刻に、通常状態の時足元を凍らされて銃剣を投げられた時、とっさの判断で
オートクレールはどういう理屈かはわからないが火を纏い、魔剣の投げた銃剣を真正面から切り裂いて真っ二つに唐竹割。 その奥にいたであろう魔剣に襲いかかったが
弾かれたのだ。
「フッ。 そうカッカするな、星伽白雪。 やはり動きにくい格好はするものではないな」
言いながら魔剣は変装を解く。 出て来たのは照明を浴びて銀光に光る軽鎧にすらりと長い体躯に三つ編みを結い上げた銀髪に切れ長の目。 その双眸は青く、光を浴びたサファイアのように輝いていた。
「どのみちお前は確保するのに変わりはない。 そしてホームズ。 私をここまで追い詰めた報酬として貴様の母親に濡れ衣を着せた憎き相手の顔を冥土の土産にしかと見ておけ」
「それがアンタの素顔ってわけ?」
「自分で言うのもおかしな気がするが、そうなるな。 聖剣デュランダルの今世の担い手にして《青炎の魔女》。 ジャンヌ・ダルク30世とは私のことだ」
「ジャンヌ・ダルク!? 子孫がいるはずがないわ! 彼女は火刑で…」
アリアはその名前を聞き驚いた。 無理もない、正式な歴史では彼女は、ジャンヌ・ダルクはヴィエ・マルシェ広場にて火刑となり、処刑されていたのだから。
「火刑で亡くなったのは、この日本で言うところの影武者だよ、ホームズ。 私は、いや私たちはその名前を、ジャンヌ・ダルクを守り、今まで生きてきた。 光の中に我らはなく。 闇より出でる者として、策士として生きてきたのだからな。 そして私たちを殺そうとした火を憎み、この力を手に入れた」
ジャンヌはオートクレールに魔力を込める。 オートクレールの刀身からはゆらり、ゆらりと青白い炎が湧き上がる。
「うそ!? その剣に収められていたのは火の魔力だよ!? どうやってそれを!?」
白雪は驚き戸惑う。 オートクレールの持つ魔力はハヤトの焔である。 それを儀式もなしに凍結させたのだ。
「さぁ私に歯向かうか、星伽白雪? 歯向かうならば、そこにいる武偵二人を殺し、お前を攫う。 逆にお前が身を呈して私にはついてくるならば、そこの武偵は見逃してやるが?」
あくまでも、余裕の姿勢を崩さないジャンヌ。 己が苦手とする火の魔術…鬼道術を操る白雪と正面から戦ったとしても勝てる自信があるからだ。
「…ほんとにキンちゃんとアリアを見逃してくれるの?」
「白雪! 相手の甘言に騙されるな! あいつは俺たちを見逃すつもりもない!」
「はぁ、とんだ言われようだな私も。 遠山キンジ。 私はこう見えても義理深い性格でな。 約束は守るさ、このジャンヌ・ダルクの名前に誓ってもいい。」
「だからと言って、護衛対象をやすやすと引き渡すこともできないのよ!」
勇みながらアリアは小太刀二刀を抜くと白雪の前に出て構える。 先ほど、ガバメント二丁を氷付けにされたため、使用できないのだ。
そして、彼女に呼応するようにキンジもバタフライナイフを開き、M93Rをヒップホルスターから抜いた。
「武偵は決して諦めるな。 どんな強敵が相手でも俺とアリアは諦めない!」
「そうよ、ママの冤罪を晴らすために逃すわけにはいかないわ!」
「やれやれ、その自信はどこからくるんだ…奴ならともかく、唯の武偵では私に勝てないぞ」
「――なら、勝てるようにお膳立てをすればいいのか?」
その場にいないはずの、第三者の声がそこに響く。
コツン、コツンと静寂に足音が響く。 それを追うようにパタパタと小走りに走る足音も聞こえてきていた。
「待ってください、ご主人様ぁ! リサは疲れたのです!」
「悪いがリサ、もう少し働いてくれ」
「アサルトの生徒の喧嘩仲裁とか、教務課の無茶振りに付き合わされたこっちのことも考えてくださいよぉぉぉ!」
「だぁぁ! あとでキチンと報酬は払うから! 頼むって!」
「じゃあ、今晩は寝かせませんからね!」
してやったりな笑顔を見せるメイドライクな武偵高の改造制服を身につけるリサがそこにいて、その前にはあの男が、天道ハヤトがそこにいた。
「遅いわよ、ハヤト!」
「悪いな、アリア。 重役出勤ではないだけマシだと思え。 で、ジャンヌ。 降参は?」
「ふっ、いきなり出てきて降参を要求するか、ハヤト。 無論するわけがないだろう? 私の目的が達成されない限り降参はあり得んぞ? それにな…」
「うん? なんだ?」
「お前が余計なことをしなければ、私はもっと早くに行動できていたのだからな!? なんだあの見た目でわからない陰険極まる雷のルーンは!? 痺れて死ぬかと思ったのだぞ!? それに加えて偏光フィルムをベランダの引き戸に良くも貼ってくれたな! 中が見えなくて集音スコープに噛り付いて遠山キンジ、ホームズの動向を探るハメになるし、ホームズがその残念な頭「残念な頭ってなによ!?」うるさい、今喋ってるのはわたしだ! …で考えた要塞化の邪魔をしてくれたおかげで入念な前調査が泡になって消えたのだよ! わかるか、潜入して二週間かけた計画が一瞬でパーなんだぞ!? わかっているのか!? 経費だって決まった資金しかないのに、潤沢な資金を絶界にしまい込んでるお前見たく伊・Uは裕福ではないのだからな!?」
「お、おう。 色々苦労したんだな」
「だ・か・ら……――それがお前のせいだと言っているだろぉぉぉがぁぁぁ!?」
ジャンヌの魂の叫びを聞いたキンジたちは思わず彼女に同情の視線を送る。 それを聞き流してハヤトはルーン呪式を組み上げながら魔法陣を展開すると対象にキンジ、アリアを選択した。 そして彼女らに魔力を与える。
「ちょっと地表でどんぱちやったから、お前らで頑張ってくれ。 まぁ、自動防御の焔をつけとくから、お前らを守ることはできる。 あとはお前らの好きにやれ」
「な、丸投げか!?」
「重役出勤とあんまり変わらないわよ!?」
「いや、魔力回復を図るから、頃合い見てスイッチ…交代するさ」
「人任せとは。 フフフッ…私も舐められたものだな!」
「お前がリュパン四世を雇わなけりゃこうはならなかったよ」
言うとハヤトはコートの裏から香草を取り出してキセルに詰め込み、火をつけて一服しだした。
「魔香草…マナの循環を良くしてくれる魔法の草だな。 あとは…この手に還れ、オートクレール!」
「む? …な」
ジャンヌの手の内にあったオートクレールは光となり弾けると、その光はハヤトの手に収まる。 すると光は収束して元の剣になった。
「ほぉ…腕を上げたな、ジャンヌ。 俺の焔をまるまる凍らせてるじゃねえか…」
オートクレールを手に取りハヤトはそれを眺める。 そして彼が焔のルーンで刀身にこびり付いた霜を解氷させると、再びオートクレールに焔が灯る。
「G19の焔を凍結させるとなると…20は軽く超えてきてるな?」
「なるほど、やはりお前の焔を凍てつくすにはまだまだ研磨が必要か…私もまだまだと言うことか」
「て言うか、ルーン使ったなお前。 しかもこれ…古代ルーンじゃねえか?」
「フフフ…ああ、そうだとも。 スカイ島のかの者に教えを請うたのだ。 では行くぞ、まずは目の前の障害2名を排除する!」
ジャンヌはその背に背負っていた壮麗な両手剣を手に取ると、キンジとアリアに戦いを挑んだのであった。
続きは書きだめ放出までおまちください
今回は導入で、次が戦闘になりますのでご容赦ください。