緋弾のアリア 転生者はハートネット   作:狭霧 蓮

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17弾 激突、ハヤトVSリュパン四世

アドシアードが始まった今日、 拳銃射撃競技代表(ガンシューティング)の予選が行われたりしてそこそこと言うか結構忙しかった。

オレはもちろん予選通過で、ベスト8で成績を競い合う時のインターバルの時にケータイが鳴った。

緊急メールとあり、そこにはとある一報がメールに書き記されていた。

 

『ケースD7 対象生徒 星伽白雪』

 

この字面を見た時に、ジャンヌが行動を起こしたと推理した。 出し抜かれた感はない。

犯行予告として律儀に「関わるな」、と親書を出して来たところを見るに今日行動を起こすのは決定事項だったのかもしれない。 オレはこのことに首を突っ込むかどうかを推し量る。

ジャンヌの親書を無碍にしてキンジの助太刀に行くのか、それともこのまま関わらず無視するのかを。

いや、無視はできないか。 オレは武偵だ。

そう考えたら行動は早い。 競技の審判に辞退の旨を伝えると相手が二の次を、口を開く前にコートから閃光手榴弾(スタングレネード)を引き出して審判の手に置きながらピンを抜いた。

 

「な、何を!?」

「グレネードだ!」

 

オレはわざと大声でそう言う。 強襲科(アサルト)の生徒は嫌という程、その言葉に敏感に反応する。

そりゃそうだ。 自分たちがよく使う武器の危険性を知らずにどう戦うと言うのか。

瞬間に拳銃射撃競技の会場は閃光に包まれた。 その閃光に紛れて俺は会場を抜け出した。

 

競技会場から電柱を伝い、街に出た時キンジを見つけた。

あちこちを見て走り回っていたのか肩で息をするほどに、息が上がっていた。

まぁ、頼れる奴がいないせいでってこともないか。

アテもなく、走り回るのは得策じゃない。 と、オレはキンジが電話に出てオロオロとその場で落ち着きなくしているのを見て冷静さを欠いているのを見抜いた。

どうするかと思っていたら、 ヒュッ とオレの近くを銃弾が疾り抜けてキンジの近くにあった街灯のランプを撃ち抜いた。

振り返り式力で視力を強化して目を凝らすと、狙撃科(スナイプ)の棟から不思議な色合いの、新緑色に近い髪色のショートカットの同い年くらいの女の子がこちらを狙っていた。 あっちはスコープ越し、オレは遠視の中で目と目が合った。

そして、弾の飛んで来た軌道を見たキンジとも目が合い、オレは電柱から飛び降りて電話を終えた彼と合流した。

 

「ハヤト! お前、競技はどうしたんだ?」

「つまらなかったから辞退して来た。 優勝しても嬉しくないしな、あんなレベルの低いのに出たら出来レースが霞むかわいそうな結果になるだろうし。 それに、ケースD7の案件だ。 無視できまい」

「そ、そうか」

「で、今からどこに向かうんだ?」

「手伝ってくれるのか?」

「一応な。 お前だけを行かすのは正直嫌な予感がする」

 

オレはキンジにどこに向かうかを聞き、共に武偵高第9排水溝へ向かった。 向かう道中で、オレはキンジにグローブを渡し嵌めさせた。

 

「あとキンジ。 これも持っていけ」

 

並走しながらオレはルーン護符を3枚、キンジに渡した。

 

「これは?」

「そのグローブは炎熱のルーンを刻んでおいた。 ちょっと程度の魔術じゃ凍りつくことはないだろう。 で、そっちの護符は解呪の効果を持つ護符。 相手の魔術を一方的に破壊できる解毒の作用もあるから持って行け」

「なんでこんなのを俺に?」

「対策は練っておいたほうがいい。 魔剣(デュランダル)はオレ程度ではないが、超能力(ステルス)だからな」

「……お前はどこまで知ってるんだ?」

「さぁな。 それは魔剣を逮捕した時にでも教えてやるよ……ん?」

 

オレの外套からにゅっと何かが出て来た。 これは……

 

「そうか、そうか。 久々に親友に会いたいのか、お前は」

「何、1人で言ってんだよ?」

「キンジ、こいつを連れて行ってやってくれ」

 

オレは黒鞘に収められた剣を、《聖宝剣 オートクレール》をキンジに託す。

 

「ナイフだけだと頼りにならんだろう? オートクレールもデュランダルに会いたがっている(・・・・・・・・)からな」

「……わかったよ。 借りてくぞ」

 

キンジはベルトに黒鞘を刺して固定して走る。

そして、第9排水溝に着いた時、オレは彼の気配を感じた。

 

「すまん、キンジ。 少々用事ができた」

「え、どう言う」

「あとでそっちを追いかける。 時間が惜しいなら先に行け」

「わかった! またあとで」

 

キンジを先に行かせてオレは振り返る。 そこには男が1人。 青いコートに黒のカッターシャツ、灰色のスラックス姿に映えるショートカットの金髪の男。 リュパン四世がいた。

 

「魔剣ちゃんの親書を無碍にしたのか、君は?」

「そうだな。 目の前で事件が起きているのを無視できるほどオレは図太くないからな。 まぁ、建造物侵入の罪で現行犯逮捕させてもらうぞ、リュパン四世」

「やれやれ、ドロボーをして銭形幸一(とっつぁん)に追っかけられていた親父様が聞いたらどんな顔するだろうな。 リュパンが盗み以外で職種は違えど、探偵に追いかけられる羽目になるなんて」

 

青いコートの裏から、リュパン四世は脇のホルスターから ワルサーP38 を抜いて構えた。 対してオレは外套の内側、繋がる絶界から 装飾銃(ハーディス) を抜く。

 

「知るかよ、そんなこと」

 

オレの返事、交錯する射線。 刹那、発砲音が辺りに響いた。

 

 

互いに向けて飛来する弾丸、9mm弾(ルガー)をハヤトは射線を上から被せるようにして、叩き落としながら放たれたマグナム弾は相手を狙う。 が、今の開幕一発はお互いに避けられる前提で撃ち出した。

 

「銃弾撃ちができて当たり前というのも華がない」

「何が言いたい?」

「銃で語り合うのは無駄ってことさ。 これはどうかな?」

 

そう言うとリュパンは青いコートを脱ぎ傍に放り投げると銃をホルスターにしまい、ホルスターベルトを外してそれをコートの上にポフッと投げ置いた。

ハヤトが眉をひそめると。 リュパンは右腕、シャツの袖をまくるとそこにはルーン文字の刺青が彫られていた。

手首の付け根から肘までにかけて発光したルーンが浮かび上がり、輝いていた。

 

「近代ルーン魔術か?」

「話が早いね。 卿のそれは古代ルーン、原初のルーン(オルタナティブ)だよねー。 羨ましいよ」

「夢の中で朱槍振り回して追いかけてくる、死ねない女に追いかけ回されたら身についた技能だよ。 夢も中で何度死にかけたことか」

「……」

 

リュパンはギョッとして目を見開いていた。 その追いかけ回している相手がわかったと言う納得した視線にハヤトは思わず抗議する。

 

「何だその哀れむような瞳は!?」

「スカサハに追いかけられたのか?」

「……まぁな」

 

誇れるようなことではないことを知っているハヤトはもはや諦めたかのように銃を構えなおした。

 

「続きと行こうか。 まだなんかあるんだろう?」

 

ハヤトは取り出したルーン護符を燃焼させて術式を構築。氷の剣を作り出してそれを投擲した。 対してリュパンは右手を突き出すように構え、呪文を唱えた。

 

「此れなるは見えざる毒牙 我が手に宿れ 手向けの刃(ステルス・ダガー)

 

見えざる刃を生成したリュパンはそれを用いて氷の剣を迎撃した。 しかし、弾けた氷は辺りに散らばると、地面を凍りつかせた。

絶界より装飾剣(クライスト)を抜くハヤトにリュパンは問いかけるようと、その意味を知ろうと考える。

 

「何のつもりだい、ハートネット卿?」

「簡単なことさ、こっちのやり易いようにさせてもらったまでさ!」

「ッ!」

 

距離を詰めたハヤトが突き出した装飾剣(クライスト)、それをリュパンは抜いたナイフで応戦した。急所を避けて剣を突き出すハヤトの剣捌きは神速と言われるほどのもの。しかし、リュパンは焦らず、フェイントを交えて繰り出されるハヤトの剣戟をそらして、弾き、避け、ていた。

しかし、なぜ、地面を凍らせたのか。 それは簡単な理由だった。

 

「シッ!」

「ハッ――ってうわ!?」

 

足場を悪くされたリュパンはナイフを受け止めたが、氷結した場所に足を置いてしまい、踏ん張りきれず後ろにひっくり返りかける。

しかしハヤトは凍った地面の上を滑るように摺り足で滑るように移動してさらに距離を詰めていた。

 

「ええい、やってくれるな!」

 

やられっぱなしは趣味じゃないと言わんばかりにリュパンは風のルーンを用いて旋風を起こしてハヤトを後退させた。

 

「やはり、風のルーンだったか」

「目星はついてたんだな……ならば」

 

リュパンは腰を落として右手を貫手に、腕を引き、脇を締めて左手は前に突き出すように構えた。 その右手は風を纏い、少しづつ形を成して行く。

 

「唸れ風、砕け嵐、旋れ颯 屠れ、喰い千切れ、撒き散らせ 黒鉄を引き裂く槍を成せ…!」

 

突撃槍のような、はたまたは一角獣の棚のようにねじれたその槍。

 

「受けきれるかな? 怒り穿つ一角獣(トルネードユニコーン)!! 」

 

右手を突き出して術式を解放したリュパンの腕から放たれるはユニコーンの突撃そのものだった。 それは幻影召喚と呼ばれる自らのイメージを形にして放出する魔術の一種。

ハヤトはというと、魔力の塊たるこの槍を装飾剣(クライスト)で受けるのは愚と判断したのか、剣を絶界にしまい、左手の銃を構えた。

瞬間的に電圧を上昇させて、装飾銃(ハーディス)は帯電する。

近付いてくる槍に照準を合わせたハヤトは引き金を引き、撃鉄を解放する。 撃針が雷管(プライマー)を穿ち、火花が咲く。

火花は敷き詰められた火薬を一瞬で燃焼させてガスを発生させる。 薬莢の中でガス圧が高まり、膨張。 弾頭がその圧力で押し出されてライフリングに食い込み、ガスに押されて突き進む。

バレルを通る時に、魔術的な雷が弾頭を覆い、それには魔力が籠められる。 そして、擬似的に起こされたローレンツ力に押し出させるようにして弾頭は超加速した。

 

「迸れ、苛烈なる電撃……ブチ抜け、『擬・超電磁砲(レールガン)』!」

 

ビッシャアァァァァンッッッッ!!

 

閃光と紫電、耳を裂くような鋭い轟音が響き、放たれた魔弾は魔力の突撃槍と衝突する。

しかし、その威力は互角だったのか、衝突した瞬間に閃光とともに爆音が辺りに響いた。

 

「なはは、やるねえ」

「解せないな」

「ん? 何がさ、ハートネット卿?」

「何故、罠を使わない? 罠を使えばもっと立ち回れるだろう?」

 

ハヤトは疑問を口にした。 何故本気で戦わない? と。

魔術は付け焼き刃、練度はハヤトの方が上だと彼は判断した。 そもそもの近代ルーン魔術は発達してまだ間もないのがこの世界での常識。 最新の魔術は必然的に新たに生まれた魔術故に、練度の高い使い手はいない。

 

「なーに、無粋だからさ。 俺はあくまでも君の足止めであって、何よりこのフィールドでは罠という罠を作れないだろう? あくまでも楽しむために闘ってるに過ぎないのさ」

「確かに、お前からは殺気を感じない……そうか、だからオレは違和感を覚えていたのか」

「それに、ブラドを倒すっていうような面白い人を殺したくないしね」

「……」

 

黙るハヤト、その時。 ズズン… と、少しばかり学園島が揺れた。

 

「ン? ――そらそろ俺はお暇しようかな……ってわけでもう1つだけ付き合ってくれないか?」

「まて、誰が逃すと言った。 いろいろ取り調べを受けてもらわないとこっちの面子が立たん」

「やだよ。 めんどくさいから逃げるに決まってるじゃないか」

 

そう言うとリュパンがカッターシャツの左腕をまくるとそこにもルーンが刻まれていた。

 

「いやぁ、さっきの超電磁砲(レールガン)だっけ? 面白い物を使うんだなぁ。 てなわけで俺もお礼ってわけじゃないけど、未完成の魔術を披露するよ」

 

リュパンは先とは違い、右手の掌を天に掲げるように左手はそれに添えるように。

ハヤトは魔術を撃たれる前に逮捕しようと動こうとした時、違和感を覚えて足元を見た。

 

「いやー、すまないね。 君がそこに行くように仕向けて置いて正解だったよ。 無粋とわかっていても、保険はかけておくべきだろう?」

 

ハヤトの足元にはコンクリートブロックにベッタリとついた大量のアロンアルファ含有とりもちに靴を取られて動けなくなっていたのだ。

視線、逃げる場所、行動パターンを読んだリュパン四世に一杯喰らわされたハヤトは己の失点を認めて、彼の技を迎え撃つ事にした。

 

「チッ、わかったよ。 だが、俺も1つだけ見せてやる」

 

相手のやろうとしている魔術の規模を察するに、普段の自分では受け切れないと判断したハヤトは封じ布をほどき S&W M29 を絶界から取り出す。 そして、封じ布ハヤトの髪が紅く染まり、真紅となる。 バチバチと迸る赤雷、ごうごうと燃える炎のように紅く輝く真紅の髪。

式力の熱により、とりもちはたちまち蒸発して行く。

 

「我、紅蓮なる者。災禍を災禍を持つて祓う者!祖は災禍討つ紅蓮姫(カラミティ・モード)!」

「それが君の真の姿なのか?」

「そうさ、燃費悪過ぎて使い物にならない[真の姿(笑)]さ」

 

言いながらハヤトは マグナムのシリンダーを抜くと、絶界から撃鉄が6つ並べられたシリンダーと同型の撃針が6つついた物を絶界から呼び出してハヤトは構えた。

構えながらに、マグナム弾にありったけの魔力を注ぎ込み、魔導暴発ギリギリのラインでその供給を止めた。

 

「なるほどな。 じゃあ手早く終わらせようか!」

 

リュパンはそう言うと、詠唱を始めた。

 

「祖は天穿つ颶風の牙、祖は天貫く剛雷の爪、されど祖はそれらを束ね、調律せし者…」

 

右手には風の塊が、左手には明滅する雷が。 収縮を繰り返し、少しずつ膨張をして行く。

 

「祖は天穿ち貫く天克の角、祖の角を研磨し生み出された其れは…神の槍!」

 

颶と雷は混ざり合い、お互いを喰い合おうと、滅ぼそうとしているかのように閃光と稲妻を迸らせる。

 

「我が御名の下に顕現せよ……幻影召喚! 総て穿ち貫く神羅の槍(グングニール)ッ!!」

 

それはありとあらゆる事象を貫きかねない槍。 魔術を極め、魔術神の高みに登った主神の携えし槍と同じ名を持つ幻影召喚。 禁忌の一撃だった。

 

「これを打ち砕いてみろよ、ハートネット卿ぉぉォォォ!!」

「んなもん、贋作なんて真正面から叩き潰すまでだぁぁぁ!」

 

ハヤトが駆け出し、リュパンが槍を放つのは同じタイミングだった。

ハヤトは真壁のルーンでグングニールを一時的に受け止めるが、耐久力の問題で3秒も持たないだろう。そして、ハヤトは迅速にことを終わらせる事にした。 M29 のシリンダーを魔力コーティングして、槍の穂先に激突させる。

そして、その衝撃をカラミティ・モードのゴリ押しで捩じ伏せる。 ここまでで1.5秒。

 

「ゼロ距離射程閃術ッ! 六魂星撃(フル・インパクト)ォォォッ!!」

 

ハヤトは6つの弾丸の、雷管を同時に6つの撃針で打ち付ける。これは天道家に伝わる奥義の1つ、ゼロ距離射程閃術 六魂星撃(フル・インパクト)と言う。

同時に、至近距離で放たれた弾丸の内部の魔力が先に放たれて穂先を崩壊させる。

続いて魔力コーティングされたマグナム弾が術式を砕き、その運動エネルギーが破壊して行く。

最後に至近距離での発砲によって発生する高圧ガスによって残りの術式が吹き散らされた。

弾丸は風雷に削られて消滅したので流れ弾はなかった。

 

「ふぅ……」

「さすがだな。 本当に真正面から叩き潰されるなんて考えてなかったよ」

「へっ、オレを誰だと思ってやがる」

 

ハヤトはそう言うと髪を括り直しながらリュパンの隣を抜けて行く。

 

「逃げるなら今のうちだぜ? リュパン四世」

「ハハハっ、そうさせてもらおうか。 君とやりあえたのはいい経験になりそうだよ」

 

ハヤトの背中を見ながらリュパンは呟いた。

 

「試合に負けて、勝負にも負けた……俺の完全敗北、か」

 

そのリュパン四世のつぶやきは風に流れて消えた。

 

 

やれやれ、リュパンとのやり合いで少し魔力を消費しすぎたか。 オレはキンジたちとの合流を急ぐ事にした。

通信科機器のルームで剣戟の音がしたオレは無線でけが人が出るであろうことをリサに連絡を取り、キンジたちとの合流を急いだ。

 

(続く)




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