改定していくよ、2巻からね!
13弾 来るヤンデレ、ハヤトの憂鬱
「セアッ!」
「はい!」
青白い火花を咲かせる白銀と漆黒、二振りの刀剣……今まで何度切り結んだのだろうか。
相手の鋭い平突きと切り結び、鍔迫り合いに持ち込みながらオレはふとそう考えた。
鍔迫り合いを弾き距離を取るのは巫女装束にたすき掛け、額がねで切り揃えた前髪を留めた黒髪ロングを勇猛に震わせ、鬼の形相で俺の背後のアリアを睨むのは星伽白雪さんで、キンジの幼馴染である。
なぜこうなったのだろうか。
唯一星伽さんを止めれるであろうキンジはベランダの防弾物置に逃げ込んだため、対抗策も練れやしないぞ。
「どいて天道君!アリアを殺せない!」
「落ち着いて星伽さん!武偵法9条忘れたの⁉︎」
怒りに我を忘れている星伽さんに正論は通じないっぽいな……って
「えええい!」
「うおっ⁉︎」
式力切れで動きが鈍くなったオレをバガンッ、と星伽さんがオレの鳩尾に中空両脚ドロップキックを叩き込んできたのでそのまま後方にすっ飛ばされて ガッシャーンッ! とベランダの引き戸のガラスに背中から突っ込んでしまったので派手にガラスの破片が散らばる。
オレは背中を強打してしまい、集中が途切れて肉体強化の焔が散ってしまった。
もう今日はほとんど式力、魔力を使えない。
ハイジャックで使った魔力がまだ快復してないからな。
それに、こんなことくらいで紅蓮姫は使いたくない。
「すまん、アリア。 あとはお前がなんとかしてくれ」
「なんとかって何よって―――み''ゃ⁉︎」
「天誅ゥゥゥ!」
アリアのセリフを遮るように、星伽さんの刀がアリアの脳天めがけて振り下ろされたのを珍妙な新種の猫のような声をあげながらバチィィィッ!と、両手で挟んで止めるアリア……真剣白刃取りか!
この前やって見せた片手では無理だったか。 やっぱりいや、オレにも無理だな。
星伽さんはおそらく、オレとは違うタイプの
剣を交えてわかったのだが、彼女は式力による身体強化の日本で言うところの鬼道術を使っているっぽい。
オレの異能である「颶焔の器」の力で、「焔―強化」と同じような原理で体内に焔系の式力を流し込んで身体を強化する術の一種だ。
「もう、泣いて跪いても許さないんだからぁぁ!」
「それは私のセリフゥゥゥ! 天誅ぅぅぅ! 目の前から消えなさい、泥棒猫ぉぉぉ!」
とうとうキレたアリアが二刀を抜き、目からハイライトの消えた星伽さんと斬り合いを始めたのを尻目にオレは
二、三服しながら破壊され変わり果てていくリビングを眺めることにした……キンジ出てきたらどんな反応するだろうな……これ。
「ご主人様……お怪我はありませんか?」
ベランダを伝いに歩いてきたのはリサだった。
この部屋のベランダは繋がっているから他の部屋にも行き来できるからな……
「心配ない。式力切れでちと体は怠いけどな」
「それは良かったのです!」
リサはゴロゴロと喉をならす猫のようにオレに擦り寄ってきた。 か、可愛いな相変わらず。
戦争映画さながらな音を無視するように、現実逃避してオレはリサと世間話をする事にした。
「エステーラのリーフシュガーパイは美味かったぞ……今度一緒に行くか」
「はい!是非お願いいたします!」
クラブ・エステーラは台場にある女性向けのカフェなのだが、オレの行きつけの店である。
そこで売っている桜の葉をイメージしたであろうリーフシュガーパイは看板メニューで幾つかのバリエーションがあるらしい。
それに店主のセンスがいいのかケーキも見た目よし味もよしな芸術的な完成度の高い物が多い。
コーヒーも紅茶も良いものを使っているから気が付いたらオープンテラスの席にて女子に混じりオレが午後のひと時を堪能している画がちらほらと見られると武偵女子たちの間で話題にもなっている。
リサから聞いたのだがどうやらファンクラブが発足したらしい、どうもオレを対象とする「私たちの貴公子、ハヤト様ファンクラブ」だとかなんとか。 まぁ、オレたちの障害になるようならば排除するがな。
「リサのファンクラブもできたらしいんです!」
「そうなのか。 まぁリサの可愛さをわかるヤツらの気持ちもわかるな」
それからしばらく談笑していると、戦争映画のような音が止む。
「終わったのか?」
その声に応えるようにして、防弾物置の戸が開き、中からキンジが出てきた。
「多分な、はぁ」
キンジはため息ひとつと遠い目をするのはほぼ同じタイミングだった……部屋のあちこちには斬撃と弾痕が残り、散乱している破片は元はキンジの集めていた家具だったものだろう。
南無三。 付喪神がいたら弔おう、いやいなかったけどさ。
「お掃除のしがいがあります!」
この状況で目を輝かすのはリサだけだろう……掃除好きだからなぁ……エプロンドレスのポケットから仕込み箒を引っ張り出して準備万端、気合い十分だな。
え?リサのエプロンドレスはドラ◯もんの四次元ポケットかだと?
んなわけないだろ……単に、ポケットの中がオレの絶界につながっているのだ。
「な、なんて……しぶと、い……どろ、ぼう……ね、こ」
「あんたこそ、さっさと……く、くだばり、なさい……よ……はふぅ」
刀を杖代わりにしてなんとか立っている星伽さんと尻餅をつき上半身が倒れるのを腕で支えるアリア。
西洋と東洋の美少女がホコリと汗にまみれて力尽きているその姿は色々と台無しだな、うん。
「で、決着はついたのか?みたところ引き分けっぽいんだが」
キンジがそう切り出す。まぁ、第三者のオレは無言を貫くことにする。
「―――キンちゃん様っ!」
キンジに向き直りよろよろとその場に正座する星伽さん……今気がついたのかよ。
黒曜石のような瞳を潤ませながら両手で顔をおおう白雪さんは顔を伏せながらわけのわからないことを言い出した。
「しっ、死んでお詫びします!キンちゃん様が私を捨てるんならアリアを殺して、わ、私も今ここで切腹して、お詫びします!介錯はキンちゃん様が、お願いします!」
「なぁ、キンジ。 今は何時代だ? トチ狂っておれは江戸時代にいるのか?」
「バカなこと言ってんじゃねぇよハヤト!? 現実逃避はもういいから!」
キンジのツッコミ、なかなかキレが上がってきたな。 にしても、いったいなに時代錯誤な事を言ってんだ、星伽さんは。
つかキンちゃん様て、接尾辞がふたつなんだが?
キンジは頭に手を置いてしばし逡巡まぁ妙案なんざないのだろう。
「あ、あのなぁ白雪。 捨てるとか切腹とか一体なにいってんだよ?」
「だってだって、ハムスターもカゴの中にオスとメスを入れておくと、自然に増えちゃうんです!」
「意味わからん上に飛躍しすぎだ!」
「いや、言いたいことはわからんでもないが」
「ちょっと黙っててくれ、ハヤト!?」
苛立った声を出すキンジ。 まぁこの惨状ではわからんでもないが。
と、突然顔を上げた星伽さんは立ち上がるとキンジの制服の襟をつかみ揺らす。
「あ、あ、アリアはキンちゃんのこと遊びのつもりだよ!絶対そうだよ!」
「ぐえっぐええ襟首をつかむな!」
「はい、星伽さんストップ」
さすがにキンジが哀れに思えてきたので助け船を出すことにした。
二人の間に割って入り、星伽さんの目をまっすぐに見る。
「キンジのことが好きなら君はどうするべきかわかるのじゃないかな?」
オレは目にタキオン粒子を流し込み、妖しく紅く瞳を発光させる。
催眠術の起動に目を発光させているのだが、ホントに残りの式力を振り絞る。
「今はただ、キンジに謝罪して、この場を離れる事が、大事、なんだよ?じゃないと、キンジに、嫌われるヨ?」
オレは句読点増し増しの片言で星伽さんの意識に言葉を刷り込んでいく。 相手は超偵だが、オレの催眠術はシャーロック直伝の強力なものだ。
相手のコンプレックスを隙と見てそこに言葉を滑り込ませて、式力を通わせながら少しずつ言葉を刻み込んでいく。
それに、オレはルーン魔術が派生系であるガンドを使える。催眠術とガンドのダブルパンチで強力な暗示を与えることが可能なのだ。
「サァ、キンジに、謝ろう。 さぁ、明日も頑張ろう。 君は生徒会長、なんだろう?」
「はい、キンちゃん様、ゴメンナサイ。 あした、また、くるから、ね」
星伽さんの瞳からはハイライトが消えている……暗示効きやすい性格だったか……虚ろな目がコワイぞ!?
「し、白雪!?どうしたんだよ⁉︎」
「っておい、キンジよせ!」
そのまま返せばよかったものを、お人好しのキンジは星伽さんの肩をつかんで揺する。
「早く帰って。 ……? あれ? あれれ?」
星伽さんの瞳に生き生きとした光が戻ってしまった……暗示が解けたのだろう。
「はぁ……もういい、あとはお前らで話し合え」
オレはそこからだんまりを決め込んで自室にリサと一緒に逃げ込むことにした。
暗示が解けたのはおそらく、キンジに対する強い想いが星伽さんの暗示を解いたのだろう……愛されてるじゃねえか、キンジも。
さすがオルハリコンの刀身は伊達じゃないな。
まぁ何時も振っているから少しでもかけたら感覚でわかるのだがな。
しかし、あの日本刀……かなりの業物とみた。クライストとマトモに斬り合って折れない、斬れなかったしな。
自室のベッドで眠り、朝になったら全てが夢だったというオチに期待は……できないよな。
そんなことを考えながらオレとリサはともに眠るのだった。
(続く)