朝昼はいつも通りの授業を受けて今日は
江戸川先生に師事してもらい、バイクの講習をついでに終わらせたのだ。
「お前さん筋が良いな……車輌科でも十分にやっていける気がするがどうだ?」
「いえ、遠慮しておきます」
「そうか……少し残念だが仕方ない」
少し厳つい顔を残念そうに崩す江戸川先生には申し訳ないが、オレは強襲科の生徒だしな……
しかし、今日は風が強い……台風の影響だろうか?
……いや、それしかないか。
これで国際免許が有効になったからな……江戸川先生にお礼を言い、オレは車輌科を後にする。
ホームルームが終わった放課後、オレはリサと一緒にモノレールに乗って青海に向かう。
理由は注文していたバイクの受け取りだ。
ネットで見つけて電話でバイク店に詳細を聞いたところ、俺の条件に合う物だったので即決で購入を決意した物だ。
などと考えていると……店が見えてきたな。
「お待ちしてましたぁ〜!……ってその人メイドさん!?いや〜本物っているんですね、しっかもメチャクチャ可愛いし!メアド聞いても良いっすか?……あ、だめですか」
ノリの軽い店長がリサにメールアドレスを聞こうとしているが、無言の……リサの氷のような微笑に後ずさりすぐに諦めていた。
「えーっと……」
「あ、スンマセン。あんたが天道さんっスね?俺はこのバイク店で店長やってますスズキっス」
オレが頰をかきながら店長さんを見ると鈴木さんが自己紹介をしてくれた。
「このバイクですよね、あんたの頼んだヤツって」
「ええ、違いありません。」
そう言いながら見るのはスポーティーなボディを持つ黄緑色と黒で統一された車体を持つ川崎重工の作り出した2009年では最近のモデルである「Ninja 250」だ。
しかし、スポーティーな見た目とは裏腹にこのバイクが積んでいるエンジンは長距離向けの物なのだ。
が、お金を積んで
「でも、天道さんって本当に高校生なんっスかぁ〜?即金でバイク買うとかどんだけ?」
「いやまぁ……武偵ですから任務をこなすことで報酬を受け取ってるんですよ、僕は」
契約だのなんだのとやり取りを済ましてオレはバイクを引き取った。
「あざっしたー!」
ジェットヘルメットをかぶりバイクに乗車。
同じようにリサも半帽ヘルメットを被るとオレの後ろに乗車する。
手を振って送り出してくれる鈴木店長に会釈をしてオレは国道に向けてバイクを走らせるのだった。
◯
オレとリサがつかの間のツーリングを楽しんでいると、国道を走る若者が目に付いた。
黒い髪を風に揺らして疾走するそいつは……
「おーい、キンジ!」
「……ッ!ハヤトか!?」
「どちらに向かっておられるのですか、遠山様?」
なにやら相当焦っているような気がする……!
「すまない2人とも……今は話してる暇がな……」
「リサ、ここから寮に帰れそうか?」
「……はい、帰れます」
リサは半帽ヘルメットを脱ぐとキンジに渡している……ほんとにオレのことはなんでもわかる彼女に脱帽しつつ、オレはキンジに声をかける。
「……乗れよキンジ。 場所は羽田空港だよな?」
「……ハヤト?」
「良いから乗れ!時間がねぇんだろ?」
オレは少し強引だがヘルメットを被ったキンジを後ろに乗せ、リサに「帰りは遅くなりそうだ」と言い残してバイクを急発進させる。
バイクを走らせながらオレはキンジに思いついたことを話す。
「キンジ、おまえいつ
「やっぱり、知ってたか? ヒステリアモードについて」
「金一さんの弟なら持っててもおかしかねぇだろ?遺伝性の体質だっだな……ヒステリア・サヴァン・シンドローム。 金一さんはHSSって言ってたな」
「ならどういうモノかも知っているのか?」
「性的興奮……てのは語弊があるな。恋愛感情物質のβエンドルフィンが過剰に分泌されて大脳から脊椎の中枢神経系が劇的に亢進することにより、論理的思考、判断力、条件反射能力などが飛躍的に強化される……要約すると〈子孫を残すためにパワーアップする〉特異体質だろ?」
「……」
雰囲気でわかるが……自らの体質を知られてキンジはかなり焦っているな。
「安心しろ。オレがアリアにも誰にも話すことはねぇから……俺の名に誓っても良いぞ?」
「その言葉を信じておくよ……そろそろ着くか?」
「ああ、もう羽田空港だ」
道の標識には羽田空港とあったので……すぐに着くだろう。
今日、アリアは朝練の時に一旦イギリスに帰ると言っていた……そのチャーター便は午後7時に出発する。
そこでアリアは合う『武偵殺し』に……いや、
「キンジ、お前も『武偵殺し』が出ると踏んでアリアのところに行くんだよな?……その推理はどうなってる?多分俺と同じだろうと思うが……参考程度に聞かせてくれ」
「同じ推理かどうかはわからないが……武偵殺しはまず最初にバイクジャックを始めた。その次にカージャック……つぎにハヤトと兄さんを攫ったアンリベール号のシージャック」
長い推理に耳を傾けてオレは流れていく景色を尻目にバイクを走らせる。
「そして、ジャックの対象は一旦小さくなる……俺のチャリジャックにつぎに大きくなって武偵高のバスジャック……アリアが言っていた電波傍受の時にさっき言ったシージャック以外の4件はアリアも電波を傍受してたんだ。」
「つまり……4件は遠隔操作でシージャックは……」
「ああ、直接対決だったんだよ……シージャックは!」
キンジの推理とオレのは同じみたいだな。
「で、これから起こるであろうハイジャックで……アリアを狙って『武偵殺し』が現れると?」
「……そうだ。だからオレは台場からあの交差点まで走ったんだ……アリアを助けたかったから」
……良いことを聞いた気がするな。
「わかった……俺も行こう」
「……!」
「HSSがきれたお前は……になるかもしれないからな」
「なんて言った、今!小声で通常の俺は『お荷物』って言いやがったな!?」
「よく聞こえたな……」
羽田空港第2ターミナルに着き、オレはキンジに言った小言の弁解をしながらバイクを駐車してキンジを下して「悪かったと」謝罪した。
時刻は午後6:58……ちとヤバイな!
「走るぞ、キンジ!」
「当たり前だ!」
チェックインの受け付けに武偵徽章を突きつけて通り抜け、金属探知機のゲートもショートカット。
ボーディングブリッジを走り抜けて、オレとキンジは間も無く出発するANA600便・ボーイング737-350、ロンドン・ヒースロー空港行きに飛び込んだ。
飛び込んだ刹那に背後ではバタンッとハッチが閉ざされた。
もう降りれないぞ……この
「―――武偵だ!離陸を中止しろ!」
キンジが武偵徽章を近くにいた小柄なフライトアテンダントに突きつけて怒鳴る。
「お、お客様!?失礼ですがど、どういう―――」
目を丸くして言うアテンダントさんに同情しとくよ……一応な。
「説明している暇はない!とにかく、この飛行機を止めろ!」
アテンダントはビビリながらこくこくと頷いて二階へと走っていく。
オレは涼しい顔で隣のキンジは肩で息をしている……スタミナなさすぎだろうよ……
「間に合ったか……」
「いや、そうでもなかったようだぞ?」
「何を……!」
ぐらりと機体が揺れる……動いてるな……
「間に合わなかったな……まぁこれは仕方ない……管制塔からの要請でないと離陸中止はできなかったはずだ……」
「なんだと!?」
キンジの驚愕の声……
「オレを睨むな……今思い出しっちまったンだよ……このことは」
オレが肩をすくめるとキンジはとりあえず睨むのをやめてくれた。
「あ、あの……だ、ダメでしたぁ……」
「大丈夫ですよ。管制塔からの命令がなければ止められない……んですよね?」
「は、はい……」
「僕もそれを
オレは深々と頭を下げた……ビビらせてしまったのは謝っておかないと良い思いはできないからな。
「あ、あの……頭を上げてください!別にいいですから!」
アテンダントは丁寧なオレの応対に焦っている……この国ではお客様様は神様……だったな。
「さて、1つお願いしてもいいですか?」
「え、あ、はい……」
オレはアテンダントに1つお願いをする。
「後で、この飛行機に乗っている神崎アリア様のところへ案内していただけますか?」
◯
ベルト着用サインが消えてオレ達はあの小柄なアテンダントに案内してもらって……アリアのいる個室に案内してもらった。
「……キ、キンジ!?ハヤト!?なんであんたたちがここに!?」
「……さすがはリアル貴族だな。これチケット、片道で20万近くにするんだろ?」
ダブルベットを見ながら言うキンジにアリアはその八重歯気味の犬歯を少し剥いて
「―――断りもなく、いきなり部屋に押しかけてくるなんて失礼よッ!」
と少々怒りながらアリアは言うが……説得力が無いぞ。
「お前にそれを言えるのか?言う権利は無いだろ」
キンジの言うことは正しいので、アリアはうぐと言葉に詰まっていた。
「キンジも……ハヤトもなんでついて来たのよ」
「太陽はなんで昇る?月はなぜ輝く?」
「うるさい!答えないと風穴あけるわよ!」
スカートの裾に手をつくアリア……ちゃんと帯銃してるんだな。
「武偵憲章2条。依頼人との契約は絶対守れ」
「……?」
わけがわからないという顔をするアリア……それに構わずキンジは続ける。
「俺はこう約束した。
「なによ……何もできない、役立たずのくせに!」
まぁ、アリアの言い分ももっともだな……ここはオレがワンクッション置くか。
「アリア。キンジはお前のことを知らなさすぎたんだよ……でも、昨日こいつは知りすぎたんだ……かなえさんのこととお前が、これから立ち向かう敵についてを」
「だからなに!?やっぱりあたしは『
……オレを指差して言うアリア……それは最後の手段だよな?
「だからもう、『武偵殺し』だろうが誰だろうがこれからずっと1人で戦うって決めたのよ!……誰かさんががあたしと組んでくれるまでね!」
……罪悪感ががが……おい、そこ。棒読みじゃ無いぞ?
「……もうちょっと早く、そう言ってもらいたかったもんだな」
キンジは個室内の座席に腰を下ろし、わざとらしく眼下の街を見る。
「……ロンドンについたらすぐに引き返しなさい。エコノミーのチケットくらい、手切れ金がわりに買ってあげるから……あんたはもう他人!あたしに話しかけないこと!」
「元から他人だろ?」
おどけたようにキンジが言うとイラッとしたのかアリアは
「うるさい!喋るの禁止!」
と言い放つのだった。
「オレは喋ってもいいのか?」
困ったようにオレが言うと……
「好きにしなさい!」
あ、はい……とオレもキンジと同じく黙って備え付けの座席に座るのであった……多分キンジはもう毒を食らわば皿まで……と腹を決めてるようだしな。
◯
アリアがヤラれて後ろに下がっている間、なんで俺がこいつの足止めを。
赤色灯の光を反射して赤く光る銃弾がオレを捕らえようと飛来する。
「あははっ!逃げてばっかじゃ何もできないよ〜ハヤトん?」
漆黒の剣を振るい、飛来する弾丸を斬り、弾き、逸らす……理子の言う通り攻撃しなければ相手を倒すことはできない。
しかし……なぜかは不明だが理子を傷つけたくないと思う自分がいると言うのは建前だ。
自分でもわかっている……オレはコイツを認めているんだ。
自分を証明するまでにひたむきに努力してきたコイツを知っている……汗に泥に、時に赤い血に塗れ傷つき痛い思いをしてもなお、ただ貪欲に力を求めていた理子を……。
「やりにくいもんだな、理子……やっぱり、女を相手にすると弱くなるらしい……オレの弱点だな」
「なら理子をアリアのとこに行かせて?」
「それは無理な相談だ……せめてあいつが立ち上がるまでの時間は稼ぐよ」
肩をすくめてオレは理子に言う。
「煮え切らないなぁ〜ハヤトん」
ワルサーP99から放たれる
タキオン粒子を生成して目に流し込み、スーパースローで見える世界……弾丸に追いつきそうな勢いで理子は髪を蠢かしながら迫ってくる。
剣で弾丸を斬り、バックステップで距離をとるとオレのいた場所をナイフが通り過ぎていく。
そのまま理子は突っ込んできてナイフによる連撃に繋げるように至近距離からの銃撃をはさみ仕掛けてくる。
「くふっ!」
オレがコートを翻して左手に
「よくできました!」
オレは言いながら.44SP弾を
しかし、軽やかにステップを踏むように理子は銃撃の射線上から逃れた。
「くふっ。ハヤトんの真骨頂だったよね
「んーそうでもないぞ?まぁ……今は
この発言に理子の目が鋭く細められる。
「……まだ何か隠してるのか?」
見せるわけにもいかんな……
「なんのことだ?」
「あくまでもとぼけるのか……ならこの飛行機
「……!」
「この飛行機に乗るときぃ〜間違って貨物室に爆薬置いてきちゃったんだよねー」
「嘘をつくな嘘を。この飛行機が墜落したらお前も死ぬだろうが」
「理子は死にませんよ〜っだ」
あっかんべーと舌を出してくる理子……余裕のあるこの反応は……マジみたいだな。
もしダメだったとしたらの保険で爆弾を仕掛けたってわけかよ……!
「ハヤトんの本気も見てみたいしなー理子的には起爆したくないしぃ〜……どうする?ハヤト」
こいつに見せたら
「わかった、わかった。じゃあ見せてやるよ……!」
しゅるり……とオレは
オレのこの白布は封じ布……例えるならばリミッターとか足枷とか言う物だ。
オレの意識が覚醒している時、その素の状態だと魔力を抑えるのに苦労する……だからこそこの封印式の術式を刻んだルーンリボンで髪を纏めているのだ。
そしてこれを解くと何が起こるのか……それは……
「これを見せるのはお前が初めてだ……見たいなら見ろ……今の、オレの醜い姿をな……」
オレの朱金の長髪の毛先から付け根までが真紅に染まる。
……そして紅い、赤い、赫い光が……明滅しながら髪を通じて迸り始める……!
「我、紅蓮なる者……災禍を災禍を持つて祓う者……!祖は
オレの瞳が紅く光るが……存在するかどうかわからない高位情報式の「ヴァーミリオンの瞳」とは違う代物だ。
が、タキオン粒子が任意のタイミングで流し込まれるので動体視力の向上率はかなり上がっている。
この災禍討つ紅蓮姫ことカラミティ・モードは教授やブラドにも見せたことがないヒトの限界を超えるオレの切り札その1だ。
身体能力、条件反射、動体視力などオレ自身のスペックの限界値を
継続可能時間は5分しか保たない……それ以上使おうとすると身体と脳がオーバーワークしてしまい、脳の身体保護機能が働いて失神してしまうが今は手加減のために少し発動させたようなもの……全力の10%ほどの出力だ。
「な、なんだそれは……⁉︎」
理子も驚きを隠せないのかかなり焦っているな……彼我の戦力比を基本としている武偵ならこれは基本中の基本技能だからな……これが出来ない奴は早死にする。
「こいよ理子……お前のリクエストに答えたんだ」
「あははははっ!凄くいいよハヤトっ‼︎その眼……ゾクゾクくる……っ!」
戦闘に酔った
理子の
全てを置き去りにしてオレの視界はスローになっていく。
「
亜音速の拳銃弾を2発、漆黒の剣閃で同時に切り裂きながらその場で超高速回転したオレはほぼ同時に猫の爪痕のような
ヘゴッ!と足がめり込むほどの強さで床を蹴り、強化された瞬発力を活かして俊動……!
理子の左側に回り込みながら
「
「あうっ⁉︎」
黒爪の派生系である黒十字で髪に握られた、迫ってきたナイフを弾き追撃でへし折り、宙を舞いこっちに飛んできた刀身を
残り残弾は1発……オレは
「なぁ理子……もういいんじゃないのか?」
「何がだ……」
オレはブラドの言ったことを思い出しながら理子に問いかける。
「例え今日アリアを斃したとしても、ブラドの言うことは嘘なんだぞ?」
「……」
理子は答えない……わかっているのか……
「初代ルパンを超える……それの証明方法は別にもあるんじゃないのか?」
「あたしにできるはずがないだろう⁉︎
「ならヤツを……ブラドをオレが倒してやる」
オレは言い切ることにした……ブラドのやり方は元々気にくわない部分が多いからな。
「……な……ブラドを倒す⁉︎」
「お前を物だの欠陥品だの言うヤツは気にくわないからな……オレが、その強さを認めた理子を物扱いするのはオレに対する侮辱だ」
理子とは激しい戦闘を繰り広げたがそんなのは気にしていないと、あっけからんにオレは言う。
「理子。少なくとも、オレはお前を認めてるんだぞ?」
「な、何を⁉︎」
顔を一気に赤くする理子……アリアと同じような反応で、急速赤面癖持ってたのかよ理子も
「それに……お前じゃアリアとキンジには勝てないよ」
「……何?」
「オレの後押しはな、確実にあいつらの距離を縮めたはずだ……オレはあいつらの絆を信じて「お前が勝てない」と、そう思ってる」
我に帰ったのか赤くなっていた顔を元に戻して理子は鋭い視線をくれる。
オレは長髪を白布で乱雑に括りまとめる。
紅蓮姫が封印されてオレの身体は元のスペックに戻る。
言いながら思う……実際問題なのだが、オレは……自身が認めている相手には友好的になる。
キンジも男として認めているし、アリアも幼馴染で評価は甘くなるが、認めてる。
そして理子……こいつには好意を抱いている。
伊・Uでは接点がないとは言っていたが、あれはオレ自身を誤魔化していただけで……今、理子とやりあっているのは……本当は心が痛いのだ。
まぁ……とうのご本人が気がついてるのはどうか定かじゃないがな。
「いいよ、なら……アリアたちを殺して証明してやる‼︎」
そう言うと理子は髪の中から柄だけになって破損したナイフを投げてくるのをコートを翻して弾く。
そしてオレの足元にコロリと転がってきた金色の懐中時計……なんのつもり―――‼︎
「く……!」
理子が投げてきたのは懐中時計に模した
「あははっ引っかかった〜♪ハヤトんの目って猫見たく夜目が効くんだよね〜?知っててやる理子ってほんとわるいこでしょー?」
音がないところを見るに……改良版の閃光手榴弾か……!
まばゆい光がオレの視界を灼く……目がぁ、目がぁ!?
なんてどっかのバルス大佐みたいなこと言ってる場合じゃない……!
「盲目の猫に用はないのですよーだッ!
はしっとオレの足を理子が払い、たまらずオレは背中を強打しながらに派手にひっくり返る。
そして……一瞬の刹那にオレは
バシィッとオレの鳩尾めがけて落とされる理子の肘をなんとか受け止める。
「5分だ……行けよ理子……俺の負けだ」
「嘘つき……本気で相手してたらハヤトんの勝ちだったんでしょ?」
「言ってなかったがオレはお前のことが……いや、なんでもない……」
オレは出かけた言葉を呑みくだす。そして理子の肘を離し
静かなバーにゴトリと重々しい音がしてオレは両手を頭に乗せる。
降参の意思表示だ。
「くふっ……知ってますよ〜だ、ハヤトんの気持ち♪」
……しってたんかい。
「なんのことやら……まぁすまなかったな。お前を数字で呼んで。あと、最後に言わせろ……お前はだれがなんと言おうと「理子」だよ。」
理子にオレのできる最大の敬意を払う。
認めてくれてるヤツが一人でもいれば……こいつは変わるかもしれないだろう?
そんなオレの甘々な考えを読み取ったのか理子は止めを刺さない。
「ありがとね、ハヤトん……じゃ、ばいばいきーん♪」
とててと遠ざかっていく足音。一時的な盲目になった以上下手には動けない。
視力が回復するのをオレは座り込んで待つしかできなかった。
「あーあ……『また勝てなかった』『どうして勝てないんだ』『僕は』……わざと負けるのも、一苦労だよな……しゃーんなろー」
敗北の二文字を背負いながらオレはバーの壁に背中をあずけるのだった。
(続く)
はい、どうも!
フラグも建てておいてここまで!
ではこの辺で失礼します!