鉛色から空色へ   作:雨が嫌い

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まず謝っておきます。すみません。

原作では──
ひかりが研修生として東京武偵高に

キンジたちがカジノ警備で武偵高を離れる(7月24日)

ひかり、あかりを襲撃(同日夕方?)

キンジたち帰還(7月25日?)

ひかり研修終了

アリアVS鯱──という流れなのです。

だけど、この話ではひかりが研修生として東京武偵高に来るのがキンジたち帰還後になっています。
つまり、「第26斬」はひかりがあかりを下着で誘惑(?)して別れた後です。
というわけで微妙に原作と時期が変わっていることを了承ください。

理由も後ほど。


Love or Sister

私の初恋。

それは今年の春に訪れた。

決して白馬の王子様のような出会いではなかった。むしろ出会い方としては良くない方だと思う。

初対面からお互い死にかけているなんて、他の人が聞けば一体何があった、と声を大にして言うこと間違いなしだ。

でも、そんな状態から生まれた奇妙な連帯感。

そして、そんな状態だからこそ感じたあの人の優しさ。

治ってからも何度か会ううちに感じた。

 

──私はこの人が好きなのだと。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

時は夏休み。

多くの学生が一年でもっとも活発に、あるいは自堕落になる時期。

お姉ちゃんと違い、一般の中学に通っている私は特にそれが顕著に……

 

「お姉ちゃん! 今日も登校日でしょ!? 早く起きて!」

──なっていませんでした。

いつも通り、少し御寝坊さんな姉を起こしに行く日常。

まあ、お姉ちゃんのそんなところも可愛いんだけどね。

「んー。あと五分…」

寝苦しそうに、でも起きるのはもっと辛いのか、お姉ちゃんは駄々をこねる。

「もー! そんな事言っていつも五分で起きないでしょ」

そうして、布団を取り上げる。

「むぅー。ののかのケチー」

「はいはい。朝食の準備もうすぐできるから、顔洗って来てね」

夏であるだけに効果は薄い時もあるのだけど、今日はしっかり起きてくれました。

 

「クーラーほしいなー」

朝食の席での開口一番のお姉ちゃんの台詞。

「確かに熱いよね。最近は特に」

確かに連日の猛暑を扇風機だけで乗り切るのはキツイものがあります。

「でも…」

「……お金、無いよね……」

「…うん」

そうなのです。

私の家はとても裕福とは言えません。

お姉ちゃんの武偵としての報酬と少ない奨学金でやりくりしている現状なのです。

「あ、でも、あたしDランクになったから、きっと今までよりいい仕事ができるよ。そしらそのお金でクーラーを買おうねー」

お姉ちゃんがにっこりと、まるでひまわりのような笑顔でそう言いました。

なんだかんだで家計を支えてくれている姉を私は尊敬しているし、何より大好きです。

だから、たとえ貧乏だとしても毎日は幸せです。

 

今日はすぐ起きてくれたこともあって少々時間に余裕があります。

だから、私は最近の学校でのお姉ちゃんとその周り(・・・・)の様子を聞くことにしました。

「そ、そういえば、お姉ちゃん」

「何? ののか」

「ソ…お姉ちゃんのお友達は元気…?」

「うん。志乃ちゃんもライカも元気だよ?」

「えっと…ソラさんとかも?」

「ソラ君? そういえば最近こっちに戻ってきたんだっけ」

戻ってきた?

それは一体どういう意味だろう?

「ソラ君。クエストか何かで夏休みが始まる少し前からいなかったんだー」

どうやら最近会えないのは何も運が悪いわけではなかったようです。

あの春の事件から、退院祝いとしてケーキを持ってきてくれたり、買い物の行き帰りの道で何度か出会ったりしていたのですけれど。

喫茶店でお茶をおごってもらったこともありました。

学生のうちから、長期の仕事があるなんてやっぱり武偵は大変みたいです。

「ソラ君、また明るくなってたなー」

実はお姉ちゃんから、去年からお姉ちゃんにソラさんのことは聞いていました。

クラスメートでの男友達として。

その時はとてもクールな人と聞いていたので、初めて会った時は少し驚いたものです。

いえ、悪い意味では無くて、思っていたより親しみやすくていい人だと思いました。

「そうなんだ。何かあったのかな?」

「んー。どうだろ。今度アリア先輩に聞いてみようかな?」

アリアさんというのはお姉ちゃんの姉のような存在の人です。

そして、お姉ちゃんが一番尊敬している人でもあります。

では、どうしてここでアリアさんの名前が出るかというと、アリア先輩のお友達にレキさんという方がいて、その人はソラさんの姉のような存在でソラさんの大体のことはこの人が知っているそうなのです。

 

「あ、お姉ちゃんそろそろ…」

「ホントだ。じゃあ、ののか行ってくるねー」

「行ってらっしゃい、お姉ちゃん」

「ののかも外に出る時は、チカン、クルマ、スリには気をつけるのだぞ!!」

「はいはい」

ガチャン

ソラさんも今頃学校に行ってるのかなぁ。

 

 

 

 

『初恋』と言いましたけれども、実はソラさんに本当に恋しているのかはわかりません。

頼りになる、仲良くしたい、とは思っています。

でも、それが恋なのか、それとも親愛なのかはまだ判断が付かないのです。

 

 

ピロリン♪

 

From:お姉ちゃん

Sub :ひかちゃん♡

Text:名古屋からの研修生でなんと、ひかちゃんが来たよ(*_*;( )

   ののかにも会いたがってたよー

 

え? ひかちゃんが?

無事だったんだ…よかった。

えっと、『私も会いたいなぁ』っと。

ピロリン♪

だけど、その日にひかちゃんに会うことはできませんでした。

 

 

──次の日、夜ご飯の買い出しの帰り道。

ギラギラした太陽もようやく沈み始めるころでした。

「あ、やっぱり。ヤッホー、ののかちゃん。久しぶりー」

この声は、もしかして。

「お久しぶりです、ソラさん」

今朝がたお姉ちゃんと話したばかりなのにもう会えるなんて……

ひかちゃんの事といい、最近の私はとても幸運みたいです。

「もしかして、夕飯の買い出し? こんな所まで来てるんだ?」

「はい、ここから少し行ったところで安売りしていたんです」

「へー、ののかちゃんってしっかりしてるね。いいお嫁さんになれそう」

「そ、そうですか? あ、ありがとうございます」

お嫁さん…

チラッとソラさんを見やる。

男の人なのに綺麗な黒髪に琥珀色の瞳。

顔は美人と言えるほど整っています。でも女顔ってわけでも無くて、男らしさもありカッコイイです。

例えるなら、そう、『お人形』みたいでしょうか?

あはは…それこそ男の人に付ける形容じゃないですね…

「持つよ、荷物」

「え、でも、悪いです…」

「ほらほら、中学生が遠慮しない」

「あぅ…」

こういう所も優しくて男らしいと思います。

「あ、そういえば、今度おいしいお菓子見つけたから今度もっていってあげるね」

でも、何だかちょっと甘やかされている感じもします。

お姉ちゃんに聞いてみたところ、少し前から二人の時はお姉ちゃんに対してもそんな感じらしいです。

私たちが小さいから妹みたいな感じに思ってくれているのかな?

それは、うれしいような、悔しいような……

「ソラさんにご兄弟はいないんですか?」

「え? どうしたのさ、いきなり」

「あ、あのちょっと気になって……」

聞いてはいけないことだったらどうしよう…

「いないよ」

普段と変わらない声で返してくれました。

特に思う所は無かったみたいです。

……よかった。

「兄弟といえば、あかりの従姉妹がこっちに来たみたいだよ? 確か……ひ…ひ、ひか…ひか!」

ひかりです。ソラさん。

確かにお姉ちゃんもひかちゃんって呼びますけど……

「はい、お姉ちゃんにメールで教えてもらいました」

「ののかちゃんは会いに行かなくていいの?」

「私も会いたいです。ただ、昨日知ったばかりなので」

「そっか。ま、数日はこっちにいるだろうし、そこら辺はあかりも考えてるでしょ」

ソラさんは本当に優しい。

でも、誰にでもというわけでもないのです。

それに、私はあくまでもお姉ちゃんの妹なのです。

「ソラさんは──」

BLUU♪

「ん? メールだ」

ソラさんが開いている方の手で携帯を見ます。

私は言いかけた言葉を引っ込めます。内心ほっとしている私は意気地なしなのでしょうか?

 

対するソラさんは画面を見て、苦虫を噛み潰したような顔になっていきました。

「……あのアホ、何で僕のアドレス知ってんだ……」

どうしたんだろう?

何か良くないことが書いてあったとか…?

「あー。気にしないで、ののかちゃん。ただの迷惑メールだから」

すみません。気になります。

それ嘘ですよね。

今だってほら、「着信拒否ってどうやるんだっけ?」とか呟いていますし。

 

…そういえば、今ソラさんと二人きりなんですよね。

ソラさんにお茶をごちそうしてもらえた時からだから、二か月ぶりくらいかな?

何だか、今更になってすごくドキドキしてきました。

「ん? こっちの道でよかったんだっけ?」

「は、はい。えと、近道なんです」

嘘です。

この裏道は不自然ではない程度の遠回りです。

少しでも長く、ソラさんと一緒にいたくて……

ゴメンお姉ちゃん。

夜ご飯ちょっと遅くなっちゃうかも。

お姉ちゃんもひかちゃんと久しぶりに会っているだろうし、いつもよりゆっくりしているはずだよね。

そう、今みたいに下着姿でひかちゃんと抱き合って……

 

バッ!

 

「? ? ?」

一瞬で目の前が真っ暗になりました。

「あれ…? 今お姉ちゃんがいたような…」

「ののかちゃん、それはきっと気のせいだ。白昼夢だ」

「え…でも…」

「あかりおねえちゃん、おっぱいちょうだいー」

「無いよ! あ、あのねソラ君、ののか、違うの、これは違うからね!」

「キャー!」

後ろからお姉ちゃんと、ひかちゃんらしき人の声が聞こえるのですけれど。

それに他の女の人の声も聞こえますし。

ソラさんもソラさんで「……いやいやいや、あり得ないだろ。人通り少ないって言っても街中で……」と、小声でボソボソと何を言っているのでしょう?

「…あ、あのー。ソラさん?」

背中に誰かの体温を感じます。それにソラさんの声もすぐ後ろから聞こえるような…

ま、まさか、今私ソラさんに後ろから抱き着かれている…?

「さ、最近の烏は人の声真似もできるみたいだね。そ、そうだ、ののかちゃん。今日は僕がディナーをごちそうするよ。うん、それがいいね。あかりも何だか今日は遅くなるみたいだし」

「え? 何でソラさんがそんなこと…?」

「さ、さっきのメールで来たんだよっ。今日は忙しいからののかちゃんをよろしくって。ゴメンね、すぐ言わなくて」

「え、あれ? でも…?」

…あのー。それだと、お姉ちゃんのこと着品拒否にしてることに…

「さあ、行こう。すぐ行こう! なんでも好きなもの言っていいよ? ほら、年長者が後輩にご飯おごるなんて普通のことだから!」

「は、はい。それではごちそうになります?」

何だか、勢いにのまれてつい、頷いてしまいました。

い、いつまでこの体勢でいるのでしょうか?

いえ、決して嫌なわけでは無いです。

むしろ、うれしい……ではなく、とても恥ずかしいです。

唯一の救いは、この体勢なら真っ赤になっているはずの顔を見られないこと…ですね。

視界が元に戻った頃、ほっとしたような、残念なような気持ちになりました。

やっぱり周りにお姉ちゃんはいませんでした。

ただ、遠くの方から「違うのー!」という声が聞こえたような……

 

やっぱり、ソラさんといるとポカポカしたようなとても温かい気持ちになります。

お姉ちゃんといる時はまた違う楽しい時間。

優しくされると嬉しさで胸がいっぱいになってしまうのです。

 

 

「ののかちゃん。あかりのこと…どんなお姉ちゃんでも受け入れてあげるんだよ?」

……ただ、今日は何だかいつもとはまた違った優しさをソラさんから感じました。

 

 

 

─「Love or Sister」end.─

 




──その後、あかり。

「………」

From:ソラ君
Sub :夕飯関係
Text:先ほどはお楽しみの所をすいません。
    ののかちゃんには何とか誤魔化しておきました。
    流れで夕飯を御馳走することになったので、あかりはあかりでなんとかしてください。
    多分、ののかちゃんからもメールが来るでしょう。

    P.S─あかりはips細胞というものを御存知ですか?


「お楽しみって何!?」


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