漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

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長らくお待たせしました。
今回は独自設定が出て来ます。


険しき試練 Ⅳ

 フリートの名乗りが周囲に響いた瞬間、空気が固まった。

 名乗りを上げられたなのはだけではなく、地上に居るグレアム、リーゼアリア、リーゼロッテは呆然とするしか無かった。

 しかし、徐々に名の意味を察して来たグレアム達は愕然とした表情でフリートを見つめる。

 

「……馬鹿な!?」

 

「……嘘!?」

 

「まさか!?」

 

 魔法と言う技術を知る者ならば、誰もが一度は聞く御伽噺の中に出て来る魔法文明の地の名前【アルハザード】。

 だが、在り得る筈が無いのだ。その世界は遥か昔に滅びたとされ、次元世界でも御伽噺として語られている世界なのだから。一部、その世界は実在していると考えて、【アルハザード】に向かおうとする者も居るが、実在を確認出来た者は居ない。何よりも【アルハザード】が存在していると言われる場所は、次元の狭間と言う特殊な場所。向かおうとするだけで多大な労力と犠牲を払わなければならない場所なのだ。

 しかし、二年前にその【アルハザード】に向かおうとしていた人物が居た。その人物の行ないこそが、フリートに外の世界に興味を抱かせる元凶になったのだ。

 

「……そう、あの人こそ、次元世界に御伽噺として語られる【アルハザード】の最後の生き残りで在り集大成」

 

 フリートの名乗りを肯定するかのように、リンディが口を開いた。

 グレアム達の視線がリンディに向き、【アルハザード】を詳しく知らない士郎達も少しでも情報を得ようとリンディに顔を向ける。

 

「……私達は知らなかったんです。二年前にフェイトさんの母親であるプレシア・テスタロッサが引き起こした次元災害。あの時私達はソレを食い止めていたと思ってしまった。でも、違った。私達が次元災害を感知していたように、プレシアが向かおうとしていた世界である【アルハザード】もまた感知していたんです」

 

 影響が低かったとは言え、次元災害である。

 現場にいたリンディ達が感知していたのだから、プレシアが向かおうとしていた世界である【アルハザード】も感知出来ていない訳が無かった。

 そして【アルハザード】に落下して来たプレシアをフリートは見つけ、即座にどう言う経緯で【アルハザード】の存在を知ったのか調べた。残念ながら虚数空間を超えると言う無茶をした影響で、プレシア・テスタロッサは既に亡くなっていたが、彼女が所持していたデバイスは無事だった。

 そのデバイス内部のデータから【アルハザード】の技術が、外側の世界に残っている事が判明し、フリートは抹消する為に動き出していたのだ。

 幸か不幸かは分からないが、ブラックと出会って直接フリートが【アルハザード】から外に出る事は昨日までは無かった。

 

(もしもブラックがフリートさんの前に現れなかったら、絶対に自分自身で外に出ていたでしょうね。そうなっていたら)

 

 考えるだけで眩暈を覚えそうにリンディは成った。

 確実に【闇の書】事件に介入して来て、好き勝手に研究を行ない、ウッカリでとんでもない事を引き起こしていたとしか思えない。

 そのぐらい事をやってしまうのがフリートなのだ。最悪の場合、管理局が総出でフリートを捕らえようとして、逆に返り討ちに在って管理局そのものが消滅していた可能性が在るのだ。

 ブラックと言う強力な協力者が現れた事で影に潜んだが、潜在的な脅威ではフリートの方がブラックよりも上なのである。

 

「……まさか、リインフォース君の修復データの出所は?」

 

「えぇ、あの人です」

 

 グレアムはリンディが告げた事実に息を呑むしか無かった。

 だが、そうだとすれば納得出来る部分も在った。【夜天の魔導書】である【闇の書】は長い時を存在していただけに、どうやっても積み重なっていたバグを管理局の技術では修復出来なかったのだ。

 最大の問題点だった【闇の書】の中心だったルインフォースが【闇の書】から離れた事で、世界崩壊の危機はなくなったが、重要な部分を失ってしまったリインフォースは何れ消滅してしまう運命だった。管理局が何をやってもその運命を変える事が出来ない筈だった。

 だが、ブラックが持っていた修復プログラムがリインフォースの運命をあっさりと変えた。

 修復プログラムが入っていたデータディスク。その出処は結局判明出来ず、何よりもどうやって改変前の【夜天の魔導書】に戻せるような修復プログラムが造れたのかと管理局ではずっと分からなかった。

 その答えが今、グレアム達の前に現れた。

 【アルハザード】と言う最早御伽噺でしかない世界が関わっていたのだ。

 

「……ア、アルハザードって」

 

 フリートの名を聞いたなのはもまた、信じられないと言う気持ちを抱いた。

 なのは自身も【アルハザード】の存在は知っている。何せ親友の母親がその地を目指して引き起こした事件こそが、なのはが魔法に関わる事になった事件なのだから。

 その事件の時に親友であるフェイトの母親であるプレシア・テスタロッサは、【アルハザード】は実在していると言っていた。だが、その事件に関わった誰もが、【アルハザード】の存在は御伽噺だと断じた。

 存在している筈が無い地である【アルハザード】。

 なのははそう聞かされていた。しかし、今、目の前に御伽噺だと断じられた世界の名を冠するフリートが居る。

 

「言っておきますが、嘘や冗談じゃないですよ。まぁ、証拠を出せと言われても困りますが……貴女ならリンディさんが言っていたコレで信じて貰えますかね」

 

「えっ?」

 

 フリートが告げた事の意味が分からずなのはは首を傾げる。

 そのなのはに見えるようにフリートの周囲に小さな九つの転移魔法陣が発生した。

 一体何が転移して来るのかとなのはは魔法陣を見つめ、転移して来た物を目にした瞬間、目を見開く。

 フリートの周囲に転移して来た物は、九つのそれぞれローマ数字でナンバーが刻印された宝石。その宝石をなのはは良く知っている。

 

「……う、うそ……ジュ、ジュエル……シード」

 

「そう呼ばれているようですね。二年半前に私の世界に落ちて来た物です。確か、残りは管理局が回収して保管されているって、リンディさんが言ってましたよ」

 

 フリートが転移させた九つの宝石。

 ソレは二年半前にプレシア・テスタロッサと共に虚数空間に消えた筈の九つのジュエルシードだった。

 虚数空間に消えた筈のジュエルシードが存在している。ソレが意味する事に気がついたなのはは、思わず試練の事も忘れて質問する。

 

「あ、あの! そのジュエルシードと一緒に黒い髪の女の人が居ませんでしたか!? カプセルに入った金髪の女の子と一緒に居た筈なんですけど!?」

 

「……同じ質問はリンディさんにも二年前にされましたね。確かにいましたよ」

 

「だったら!?」

 

 もしかしたら親友の母親も生きているのかと思い、なのはは口を開こうとする。

 だが、なのはの口から声が出る前に、フリートが口を開く。

 

「ストップです。それ以上聞きたければ、試練を乗り越えてからにして下さい」

 

 言われてなのはは試練の最中だった事を思い出す。

 次々と出て来る驚愕の情報に焦ってしまったが、試練を乗り越えなければレイジングハートを失ってしまうのだ。

 

「貴女の質問には、試練の結果がどちらでも終わった後に答えますから安心して下さい」

 

「……分かりました」

 

 なのははエレメンタルを構え直し、フリートはジュエルシードを再び転移させ、機能不全を起こしているエクセリオンを構える。

 その動きになのはは違和感を覚えた。機能不全を起こしているエクセリオンをフリートは使おうとしている。

 てっきり新たなデバイスを取り出すものだと思っていたが、フリートはそんな様子を見せない。

 

(何か変な気がする。何だろう? 新しいデバイスを出すと思ったの……えっ?)

 

 考え込んでいたなのはは気がついた。

 フリートが機能不全を起こしている筈のエクセリオンを持ちながら、空を飛んでいるばかりか、小物とは言えジュエルシードを九つ転移(・・)させたと言う事実に。

 ソレが何を意味するのかと察する前に、フリートが口を開く。

 

「さぁ、第二の試練。『折れない』を始めましょう」

 

 直後、なのははフリートから距離を取る為に後方に下がった。

 ソレはこの場に留まるのは不味いと言う経験からの判断だった。その判断がなのはを救った。

 なのはが下がったと同時にミッド式でもベルカ式でもない、六芒星型の魔法陣が発生し、なのはが居た場所に白い魔力刃が幾重にも通り過ぎた。

 

「あ、あぶな……」

 

《マスター!》

 

「えっ?」

 

 レイジングハートからの警告に、なのはが背後を振り向くと、何時の間にかフリートがいた。

 

「フッ!!」

 

Protection(プロテクション)!》

 

 突き出されて来たエクセリオンをエレメンタルは独自の判断でプロテクションを張った。

 少しでもなのはを護る為の判断。だが、次の瞬間、エレメンタルが張ったプロテクションにエクセリオンが触れると同時に、強固な筈のプロテクションはまるで紙のようにエクセリオンに貫かれ、なのはの腹部に突き刺さる。

 

「カハッ!」

 

軽い(・・)ですね」

 

 フリートは呟きながら息を吐き出しているなのはを、エクセリオンを使って勢いよく吹き飛ばす。

 吹き飛ばされたなのはは腹部から走る激痛に顔を歪めながらも、何とかを態勢を立て直してエレメンタルをフリートに向かって構える。

 

「アクセルシューターー! シュート!!」

 

《Accel Shooter》

 

 放たれた十二発のアクセルシューターは高速でフリートに迫る。

 しかし、フリートは慌てた様子も見せずに、右手の先に再び六芒星型の魔法陣を発生させる。

 

「……介入」

 

 小さな声でフリートが呟くと同時に、十二発のアクセルシューターがピタリと空中で止まる。

 

「何で!?」

 

 起きた現象に思わずなのはは叫んだ。

 自らが放ったアクセルシューターが、急に操作出来なくなったのだ。

 発動を妨げるでもなく、防がれるでもない。アクセルシューターの制御が突然出来なくなったのだ。

 そのような事態に陥った事が無いなのはは混乱する。

 

「疑問に思いませんか?」

 

「えっ?」

 

「だから、どうして数え切れないほどの世界が存在しているのに、魔法が関わっている世界で【アルハザード】の名前だけが残っているのかって?」

 

 【アルハザード】。その世界の名は魔法技術が伝わっている世界に御伽噺と言う形で名を残している。

 だが、その時点で可笑しいと言えた。【アルハザード】以外にも魔法技術を扱っている世界は数多く存在しているのだ。なのに、それらの世界は滅んだ後も名を残せずにいるのに、実在しているのかどうかさえも疑わしかった【アルハザード】の名だけは残っている。

 数え切れないほど世界が存在しているにも関わらずに。

 

「その答えをコレから見せます。何故『折れ』なければ試練が合格なのかをね。術式改変」

 

 フリートが発生させている魔法陣が一際輝いた瞬間、桜色に輝いていたアクセルシューターの色が、白色(・・)へと変化した。

 

「改変完了。アクセルホーミング」

 

 動きが止まっていた白色に変化したアクセルシューターは、突然再び動き出し、なのはに向かって行く。

 

「クッ!」

 

 魔力光が変化した時点で何かが起きると分かっていたなのはは、即座にアクセルフィンを動かして迫って来るアクセルシューターを避けようとする。

 だが、まるで自らが意思を持っているのかのようにアクセルシューター、いや、アクセルホーミングはなのはを追い縋って行く。

 

「一体何が起きているの!?」

 

《……恐らくは、マスターが放った魔法に介入して、魔法自体を改変。新たな魔法の発動の媒体にしたのでしょう》

 

 エレメンタルに告げられながら、なのはは次々と襲い掛かって来るアクセルホーミングをディバインシューターで迎撃しようとする。

 しかし、幾ら操ってもアクセルホーミングはディバインシューターを回避して、なのはに迫って来る。

 迎撃が無理だと判断したなのはは回避に専念する。

 

「そんな事出来るの!?」

 

「ソレがアルハザードの魔法ですよ」

 

「ッ!?」

 

 すぐ横合いから聞こえて来た声に、なのはが振り向くと、フリートが何でもないようにすぐ傍にいた。

 

「アルハザードの魔法は、貴女達が使っているミッド式やベルカ式と違って魔力を使う(・・)んじゃないですよ。魔力を掌握して支配する(・・・・・・・・・・・)事がアルハザードの魔法です。つまり」

 

 パチンとフリートが指を鳴らした瞬間、なのはの両足に発生していたアクセルフィンが消失した。

 

「キャアァァァァァァァァーーーーーーー!!!!」

 

《Axel Fin!!》

 

 アクセルフィンを失って悲鳴を上げて落下するなのはに、エレメンタルは新たなアクセルフィンを発動させた。

 再びなのはは宙に浮かぶが、周囲を旋回していたアクセルホーミングはその隙を見逃さず、次々となのはに直撃して行く。

 

「ガハッ!?」

 

「そして魔力を掌握するという事は、何も自分の魔力だけではない。大気中に漂っている魔力素さえも、リンカーコア(・・・・・・)を再現した術式を組み込めば全て掌握する事さえ可能なんです。つまり、私の前では魔力を掌握されていない魔法は無意味です」

 

 フリートが言い終えると共に、新たに両足に発生させたなのはのアクセルフィンの魔力光が桜色から白色に変化した。

 その事実に苦痛に苦しむなのはと、アクセルフィンの制御を担っていたエレメンタルは恐怖を抱いた。問答無用でアクセルフィンの制御権をフリートはエレメンタルから奪ったのだ。しかし、制御を奪った当人であるフリートはまるで空気を吸うかのようなレベルで行なったのである。

 最早実力差どころの騒ぎではない。魔法を使って何をする事さえも、フリートの前では赦されないのだ。

 アクセルフィンの制御を奪われたなのはは、逆さまにされてフリートの目の前に移動される。

 

「……あっ」

 

「【アルハザード】の名が、今も次元世界に残っている理由。ソレは……恐怖から始まったんですよ。何処の世界よりも魔導技術が発展してしまった【アルハザード】。その世界の魔導師が戦場に立つだけで、相手は何も出来なくなってしまう」

 

 魔力を使うではなく、魔力を掌握して支配する領域に達した【アルハザード】の魔導技術。

 長い年月蓄えてありとあらゆる魔法を扱えるようになったルインの領域さえも、【アルハザード】からすれば初歩に漸く足が入ったレベルでしかないのだ。

 神代の魔法を扱えるフリートにとって、現代の魔導師は蟻と象レベルの差では済まないほどの差が存在しているのだ。

 

「リンディさんが言っていたでしょう? 現代の技術に合わせでもしない限り、私が造る物は全てロストロギアになってしまうって。そして貴女が今握っている【レイジングハート・エレメンタル】は、私の持つ技術を全て結集させて造り上げた最高傑作です。つまり、ソレを完全に扱えるという事は、【アルハザード】の魔導技術を学ぶと言う事です」

 

「ッ!?」

 

 言われてなのはは逆さまになりながらも、思わず右手に握っているエレメンタルを凝視してしまう。

 問題なく使用していたが、今なのはが使っているエレメンタルは正真正銘のロストロギア。その存在を管理局が知れば、何が何でも回収しようとするだろう。

 【アルハザード】と言う神代時代の代物ならば、尚更に回収する。何せ今だ機能制限を受けているので発揮出来ていないが、本来の機能が全て解放されたエレメンタルは、管理局が欲しがる機能が多数組み込まれているのだ。

 どんな手を使っても欲しがるような機能が。

 

「【アルハザード】の存在を完全に次元世界から抹消し、御伽噺に過ぎない存在にする。ソレが私の目的です。貴女に【アルハザード】の魔導技術を教える事はその目的に反します。そして、貴女が【アルハザード】の魔導技術を扱い切れるとも思えません」

 

「そ、それは……」

 

 出来るなどとなのはは言う事が出来なかった。

 ほんの僅かに味わっただけでも、【アルハザード】の魔導技術が想像を絶する領域にあるとなのはは理解出来ていた。

 軽はずみに出来るなどと口に出来る領域に在る技術ではない。扱う事が出来れば、世界を左右する域に【アルハザード】は至ったのだ。

 

「……試練を終わりにしましょう」

 

 宣言すると共にフリートは右手を掲げ、上空にアルハザード式の魔法陣を展開した。

 上空に展開された魔法陣は周囲の魔力を集束させて行く。ソレはなのはの最大の魔法である【スターライトブレイカー】と同じ現象。だが、規模が段違いだった。

 【スターライトブレイカー】を遥かに上回る規模で集束し、集束率も桁が違う。なのはが同じことをしても、制御し切れずに暴発させて自滅するしかない領域に至っても、尚集束は終わらない。

 

「制御は返します。抗うのか、逃げるのか、それとも違う結果を出すのか。好きにしなさい」

 

 フリートが指を鳴らすと共に、制御を奪われていたアクセルフィンの魔力光が元の桜色に戻った。

 制御が戻ったアクセルフィンを使って態勢を直したなのははエレメンタルを構える。

 

(……逃げたら駄目。此処で逃げたら、私はもう戦えない!)

 

 漠然としながらも、なのはは逃げたら自分は此処までだと悟っていた。

 様々な要因のおかげで何とか立ち上がる事が出来たが、一度味わった死の恐怖と言う感情をなのはは忘れてはいない。

 その恐怖を乗り越える為にも、なのはには逃げると言う選択肢を出せなかった。かと言って、今からでは発動しようとしている魔法に対して砲撃では間に合わない。

 となれば防ぐしかないとなのははプロテクションを全力で張るしかないが、フリートが発動させようとしている魔法の前では紙切れ同然でしかない。

 

「抗いますか。ならば、見せて見なさい!! 集束完了! さっきのお返しです! スターライトブレイカーーー!!!」

 

 上空に発生した魔法陣が一際輝いた瞬間、なのはの目の前に白い壁が広がった。

 白い壁の正体は、言うまでもなくフリートが放ったスターライトブレイカー。余りの集束率と溜め込んだ魔力に寄って、最早人間が放てる砲撃のレベルを超越してしまったのだ。

 決して人間一人に放って良い領域の魔法では無い。管理局の艦艇さえも直撃を受ければ撃沈出来るレベルの大砲撃魔法だった。

 

(それでも諦めたくない! 此処で私は立ち止まりたくない!!)

 

『……ケッ! こんなに絶望的な状況でも諦めねぇとは、恐れ入ったぜ』

 

「えっ!?」

 

 突然エレメンタルから男性の声が響いた。

 その声は、レイジングハートの電子音声でも、以前なのはの前に【ディーアーク】が出現した声とは違う別の声だった。

 

『良いか? 俺様の力を使えば一度だけなら耐えられるからよ! ちゃんとあの女に目に物見せてやれよ! 高町なのは!!』

 

《ッ!? 機能制限限定十パーセント解放を確認! カートリッジシステム使用可能になりました! 及びエレメントシステムも新たに【土】属性使用可能です!》

 

「レイジングハート!!」

 

《アースエレメント! セットアップ!!》

 

 なのはの呼びかけに即座にエレメンタルは応じ、なのはのバリアジャケットの白い部分が茶色に染まった。

 同時になのはは今張っているプロテクションの性能が引き上がった事を感じ、更にバリアジャケットの強度も変わった事を感じた。

 【土】のエレメントシステムで性能が向上する魔法は、防御魔法ばかりではなくバリアジャケットも含まれていた。

 

「レイジングハート! カートリッジロード!!」

 

《Load Cartridge!》

 

 エレメンタルのカートリッジ部分から一発の薬莢が飛び出した。

 同時になのはに膨大な魔力が襲い掛かった。エクセリオン時に使用していたカートリッジなど比較にもならないほどの膨大な魔力。

 その膨大な魔力は術者である筈のなのはに襲い掛かって来る。

 

「クゥッ!!」

 

 制御し切れない魔力はなのはを蝕んでいくが、苦痛を堪えてなのはは魔力制御に神経を募らせる。

 一瞬でも気を緩めれば、制御し切れない魔力に寄ってなのはの全身はボロボロになってしまう。全身を襲う痛みは酷く、なのはの制御を乱そうとしている。

 しかし、【土】のエレメントシステムに寄って性能が向上したバリアジャケットに寄って本来よりも苦痛が少なくなっているおかげで何とか堪えられていた。

 

(クウッ! ……せ、制御出来ない!? コレが新しいレイジングハートのカートリッジシステム!?)

 

 折角の膨大な魔力も、制御し切れない魔力はなのはの体を傷つける以外に効果が出ず、バリアジャケットが次々と破損して行く。

 このままではフリートが放ったスターライトブレイカーに呑み込まれるだけではなく、制御し切れない膨大な魔力に寄って自滅してしまうとなのはが感じる中、フッと脳裏にフリートの言葉が浮かんだ。

 

『魔力を使う(・・)んじゃないですよ。魔力を掌握して支配する(・・・・・・・・・・・)事がアルハザードの魔法です』

 

(そうだ!! 使うんじゃないだ!)

 

 思い出したフリートの言葉を実践しようとした瞬間、遂にスターライトブレイカーがなのはに届き、空に光が瞬いた。

 地上に居たブラック達を除いた全員が余りの光の強さに目を閉じてしまう。そして光の影響が治まったと同時に、地上に出来た巨大なクレーターの中心になのはが激突して倒れ伏してしまう。

 そのなのはの前にフリートは降り立ちながら、一瞬前の出来事を思い出す。

 

(……【土】のエレメントシステムを使えば、確かに今の高町なのはでも一度だけはエレメンタルに搭載したカートリッジシステムに耐えられます。ですが、あの状況で覚醒したばかりか、一瞬だけでも掌握にまで手を届かせたのは驚きです)

 

 スターライトブレイカーがなのはに直撃する直前、荒れ狂っていた膨大な魔力をなのはは一瞬だけ掌握した。

 その掌握した魔力を用い、スターライトブレイカーACSを発動させる時に発生させる魔力の突撃槍を造り上げたなのはは、スターライトブレイカーに向かって突き出したのだ。

 ソレに寄ってスターライトブレイカーの中心に穴が出来た。無論、壁としか表現出来ないフリートのスターライトブレイカーの中心で耐えるという事は、例え数秒でも地獄の苦行では済まない。だが、なのはは一瞬でも制御を誤れば自滅する状況の中、制御し切り、フリートのスターライトブレイカーが治まるまで耐え切った。

 無論、なのはも無事では無い。エレメンタルを握っていたなのはの両腕の骨は罅だらけ、バリアジャケットは破損だらけで、破損した部分から見える肌からは血が流れて真っ赤に染まっていた。

 唯一エレメンタルだけは破損も見えず、その輝きも失われていない。アレほどまでの大砲撃の中心に在って、尚破損しなかったエレメンタルはロストロギアとしか評せないだろう。

 最早、意識も無いとしか言えない筈のなのはに、フリートが声を掛ける。

 

「……コレが貴女が学ぼうとしているモノです。さて、聞きますよ。学ぶ気は在りますか? 高町なのは」

 

 その声になのはは答えられずに、地に伏したままだった。

 もう耐え切れないと桃子と美由希は走り出そうとする。だが、その前になのはがピクッと動く。

 全身がボロボロになりながらも、なのはは立ち上がろうと、エレメンタルを立てかけようとする。

 だが、両腕から激痛が走り、エレメンタルを取り落としてしまう。

 

「……あっ……クゥッ!」

 

 苦痛に苦しみながらも、なのははエレメンタルを握ろうとする。

 ソレはなのはが折れていないと言う証拠だった。フリートは諦めたように溜め息を吐くと、なのはの前に移動してエレメンタルを拾い上げる。

 

「……仕方ないですね」

 

 拾い上げたエレメンタルを操作すると共に、エレメンタルは待機状態の赤い宝玉になった。

 ソレをそのままフリートはなのはに向かって差し出す。

 

「試練は合格です。コレを貴女に渡しましょう」

 

「……あ……り……が……と……」

 

「はいはい、お礼なんて良いですよ。さて、治療するとしますか。マリンエンジェモン!!」

 

「ピプ!」

 

 フリートに呼ばれたマリンエンジェモンは、桃子の肩から飛び立ち、瞬時にフリートとなのはの前に移動した。

 

「応急処置をお願いします。それから本格的に治療をしますよ!」

 

「ポプ! パピーーーー!!!」

 

 マリンエンジェモンは頷くと共に、口からハート型の光が飛び出し、なのはの全身を包んだ。

 光に包まれたなのはは苦痛が和らぐのを感じ、ゆっくりと眠りについてしまう。ソレを確認したフリートは魔法で結界を張ると共に、白衣の中から治療道具を取り出すと、本格的な治療を開始し出した。

 ガブモンと士郎達はその傍に寄り、治療されているなのはの様子を心配そうに見つめる。

 

「……ご家族の皆さんにはすいませんでした。お詫びになるとは思えませんが……高町なのはの縮んでいた寿命(・・・・・・・)の方も治療させて貰います」

 

「ッ!? 出来るんですか!?」

 

「可能です。但しこの事はなのはさんには内密にお願いします。寿命が戻るなんて分かったら、今後多用する可能性が在りますからね」

 

「分かりました。どうか宜しくお願いします」

 

 士郎がそう告げると、フリートはなのはの治療に集中し出した。

 少し離れた場所でその様子を眺めていたグレアムは、ゆっくりとリンディに顔を向ける。

 

「……彼女は本当に【アルハザード】なのだね?」

 

「えぇ……ソレでどうします? 管理局に報告しますか?」

 

「……いや……私は既に管理局に所属する人間ではない……【七大魔王】と言う強大な敵の存在が迫る中、これ以上の混乱は必要ない」

 

「賢明な判断です」

 

 グレアムの言葉に内心でリンディは安堵した。

 確かにグレアム達は管理局との繋がりに必要な存在だが、もしも【アルハザード】の存在を知らせようとするならばグレアムを殺さなければならなかった。

 何とかなのはは認められたが、フリートの目的そのものが変わった訳ではない。もしも【アルハザード】の存在を知らせようとするならば、その瞬間、最悪の存在が敵に回ってしまう。

 故に最悪の場合はグレアム達を殺さなければならなかったが、その必要は無い事に安堵した。

 

(……掌握して支配するか……なるほど)

 

 ブラックは先ほどのフリートの戦い方を思い出す。

 今までブラックは自身の力を使って戦って来た。だが、フリートの戦い方を見て新たな可能性が見えた。

 

(……ガイアフォースを発動させる為に集束させる為の負の力……アレをもしも違う形で利用出来るようになれば)

 

 今後の自身の戦い方に関して、ブラックは考え込むのだった。

 

 

 

 

 

 そのデジモンは死した筈だった。

 傲慢な神に乗っ取られた友の肉体と共に、友の魂と共に友の息子のパートナーデジモンの一撃に寄って死した筈だった。

 その死に不満は無い。何故ならばデジモンにとってその死は望んだ死だったから。後を託せる後継者に友の息子とそのパートナーデジモンは育ってくれた。故にデジモンにとって死ぬ事に不満は無かった。

 だが、消えゆく意識の中でデジモンは神の声を聞いた。

 

『倉田明弘が生きています。彼の者は再び【デジタルワールド】に悲劇を呼ぶ可能性を秘めし者。貴方を彼の者が居る世界に送ります。何か望みが在るのならば応えましょう』

 

 そう聞かれたデジモンは、自身の望みを告げた。

 

『遠く離れた世界に行くのならば、行くのは俺だけで良い。だから、俺の友を……■をあいつらの下に返してやってくれ』

 

『良いでしょう。その願いを叶えましょう』

 

 その声が響いた瞬間、デジモンは自身の半身が失われた喪失感を感じた。

 だが、デジモンは喪失感と同時に満足感を覚えて居た。本当にやるべき事を終えた満足感を感じながら、デジモンは失われた半身に別れの言葉を告げる。

 

『さらばだ……■』

 

 そしてデジモンは神の手によって遠く離れた地に飛ばされた。

 【デジタルワールド】に災厄を引き起こすかも知れない倉田明弘を追って。

 

 

 

 

 

 とある管理世界の森林地帯。

 その場所にはとある組織が支援している違法研究所が隠されていた。その研究所で行なわれていたのは古代ベルカ技術の結晶の一つである【融合騎】。現代での名称は【ユニゾンデバイス】。現代では作製の技術は失われ、古代ベルカの時代でも【融合事故】が警戒されて生産された数も少なかった。

 しかし、偶然にも古代ベルカ時代の遺跡から一騎のユニゾンデバイスが発見されて研究所に運び込まれた。本来ならば【ロストロギア】に分類される可能性がある【ユニゾンデバイス】ならば発見され次第に管理局に報告される筈なのだが、【ユニゾンデバイス】と言う貴重な“実験素材”を管理局にみすみす渡す筈も無く、発見された【ユニゾンデバイス】は研究所に即座に運ばれて非道な実験の日々を送っていた。

 白い部屋の中に置かれている拘束台に繋がれ、非道な実験によって心と体が削られていく日々をすごし続ける。ずっとそんな日々が続くのだと捕らえられていた【融合騎】は考えていた。だが、その考えは偶然にもその研究所に訪れた“学ランを羽織った獣人”の襲撃によって打ち砕かれた。

 呆然と自らが拘束されていた台座を破壊し、研究所内にいた職員と研究者達を気絶させて縛り上げている獣人の後姿を『融合騎』が眺めていると、獣人は【融合騎】に振り向く。

 

「聞くが、お前は此処の通信機器か或いは移動手段を扱えるか?」

 

「……えっ?」

 

「通信機器か移動手段が使えるのかと聞いているんだ? あいにくと俺はこちら側の機器の扱い方など知らんのでな……こいつ等の事を警察組織に通報も出来んのだ」

 

「そ、そう言うことか……み、見てみないと分かんねぇけど、な、何とか連絡ぐらいは取れると思う」

 

「ならば、頼む。こいつ等と一緒に今しばらくいるのは不愉快だろうが、連絡さえ取れればすぐに警察組織が来るだろうから我慢してくれ……それではな」

 

「って!?何処に行くんだよ!?」

 

 外に出ようとしている獣人に融合騎は叫んだ。

 それに対してゆっくり獣人は振り返って、融合騎の疑問に答える。

 

「俺はある男を追っている身だ。ソイツが何処に居るか分からんが、ソイツを必ず見つけなければならん……この研究所を襲ったのも奴に繋がる何かしらが手に入ると思っての行動だったが、外れだったようだ」

 

 獣人はそう告げると、もう話す事は無いというように部屋の出入り口から外へ出ようとする。

 その背を融合騎は混乱したように見つめた。助けてくれたことには感謝している。だが、融合騎自体も警察組織に行きたくないと言う気持ちがあった。

 目覚めてから即座に自由が奪われて、非道な実験を受け続けていた融合騎には【精神的外傷(トラウマ)】が出来ていた。組織と言う存在をおぼろげながら理解し、自身というモノがどんな存在なのか理解している融合騎にとっては幾ら警察組織でも信用も信頼も出来なかった。

 ゆえに無我夢中に獣人を追いかけて、その背に向かって融合騎は叫ぶ。

 

「待ってくれよ!! あ、あたしも一緒に行かせてくれ!! アンタ、あんまり『魔法』の事を知らないんだろう!? あたしが一緒にいれば助かることもあるからさ!」

 

「……悪いが俺と共にいれば命の保障は出来ん。せっかく助かった命を無駄にするな」

 

「……い、嫌なんだよ……もう……どんな相手だって……組織にだって、自由を奪われるのは嫌だ! 頼むよ!! 事情はよく分からないけど……足手まといにだけにはならないからさぁ!! 一緒に行かせてくれ!!」

 

「……」

 

「そ、それに! アンタ知らないのか!? この世界が本当は無人世界に指定されている世界だって!!」

 

「……何だと? 無人世界に指定されている?」

 

「あぁ、そうだ……こ、こいつらは隠れて違法を行なっている奴らなんだよ」

 

 捕まった当初は何とか抜け出そうと考えていた融合機は、自分の知り得る限りの情報を獣人に説明した。

 この世界次元世界と呼ばれる場所では無人世界に指定されている世界で在り、ソレを違法研究者達と組織は悪用した事。その他にも自身の知り得る限りの情報を融合機は獣人に説明した。

 

「……聞くが? 他の世界から漂流した者を、保護して回る組織は在るのか?」

 

「…多分ある。こいつらが言っていたけれど……管理局って組織にアタシの事がバレたらヤバいって言っていたから」

 

「そうか……ならば、奴は既にこの世界から離れているかも知れんな」

 

 獣人がこの世界に来てから数年以上経過しているが、目的の人物の影も形も発見出来なかった。

 何処かで死んでいる可能性も在ったが、別世界への移動手段が在るとすれば、既に別世界に渡った可能性も考えられる。

 

「……まさか、此方側に自由に別世界に渡る手段が在ったとは……どうやら俺は此方側の世界について学ばなければならんようだな」

 

「それじゃ!?」

 

「……安全は保障出来んが共に来る気が在るのならば付いて来い」

 

「あぁ! よろしくな!」

 

 獣人の言葉に融合騎は喜びの声を上げて、獣人の肩に乗る。

 自らの肩に乗った融合機を横目で眺めながら、獣人はゆっくりと通信機器があると思われる部屋を目指しだす。

 

「……共に行くのならば互いの名を知っておくべきか……お前の名は?」

 

「……ごめん…あたし…自分がどういう存在なのかは知っているんだけど…名前だけは思い出せないんだ…ただ二つ名みたいな名がある。【烈火の剣精】って名だ」

 

「【烈火の剣精】か? …確かに呼び名とは言えんな…お前の呼び名はおいおい考えるとして…俺の名を教えておこう。俺の名はバンチョー。【バンチョーレオモン】だ」

 

バンチョーレオモン、世代/究極体、属性/ワクチン種、種族/獣人型、必殺技/フラッシュバンチョーパンチ、獅子羅王斬(ししらおうざん)、バーンバンチョーパンチ

自分の信じる『正義』に忠実な獣人型デジモン、デジタルワールドで五体しか確認されていない『バンチョー』の称号をもつデジモンの一人。自分の信じる『正義』が主で在る為に、『正義』を阻む者が居れば、ロイヤルナイツは愚か、三大天使さえも敵に回す。幾多もの死闘を一緒に越えてきた自慢の短刀『男魂』と、敵の物理攻撃を89.9%無効化する『GAKU(ガク)-RAN(ラン)』を武器に戦うぞ。必殺技は、極限まで高めた気合いを拳一点に乗せて相手に向かって放つ【フラッシュバンチョーパンチ】と、自慢の短刀【男魂】から放たれる燃え上がるほど熱い剣技-【獅子羅王斬(ししらおうざん)】に、燃え上がるほどの熱い魂が込められたパンチで攻撃する【バーンバンチョーパンチ】だ。

 

 獣人-【バンチョーレオモン】-は、肩に乗る融合騎【烈火の剣精】-【真紅の髪に身長三十センチぐらいの少女】-に自身の名を告げながら通信機器がある部屋へと向かう。

 この数時間後、匿名の通報を受けた管理局員が違法研究所に踏み込むが、既に其処にはバンチョーレオモンと烈火の剣精の姿は無かったのだった。




今回でなのはの試練は終わりです。
漸く次回からはブラックが動き出します。
マリンエンジェモンのその後は次回で、そしてあの人物が出ます!

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