リリカルナデボ   作:汚いぶらぼぅ

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外伝投稿です。

後半やっつけになってしまいました。

今回はナデボしません。
ナデボを期待していた方は申し訳ございません。

時系列はその4の大体半年くらい前。


リリカルナデボしない外伝

 

 

 ・・・恐怖を我がものとした。

 

 

 

 手に持ったグラスのワインをこぼさず相手の首を刈り取った。

 

 

 

 「呼吸法矯正マスク」をつけて日課を行った。

 

 

 

 一秒間に10回の呼吸ができるようになった。

 

 

 

 残りは10分間息を吸い続け、10分間息を吐き続ける修行のみ。

 

 

 

 自分の中に存在する何かが現出する感覚。

 

 

 

 もう少しでこの技法を自分のものとできるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 リリカルナデボしない外伝

 

 

 

 

 

 

 

「Carry Away(持ち去り)・・・ですか?」

 

 

 

 ミッドチルダ、時空管理局発祥の地、第1管理世界であり、首都ミッドチルダを担当する時空管理局地上本部の一室で彼女・・・ギンガ・ナカジマは自分の父でもある上司、ゲンヤ・ナカジマに聞き返した。

 

 

 

「あぁ・・・このミッドチルダで最近活動が活発化しているシリアルキラーのことだ。殺した相手の遺体の一部を持ち帰る殺人鬼で、未だに百を超える被害者の体の一部が見つかっていない。

 奴は20年ほど前からミッドチルダに潜伏していると言われていたが、尻尾を現さず、他の部署の奴がずっと追いかけてきていたらしいが、未だ手がかりも見つからなかったそうだ。」

 

 

 

 口に手を当てつつ苦虫を噛み殺したような表情で、ゲンヤ・ナカジマは自身の愛娘に説明する。

 

 

 

「そうですか・・・つまり前日死体で見つかった局員の方達がその担当だったのですか?」

 

 

 ギンガは話を聞いた上で、自分の考えを口にする。

 

 

 前日に起こった局員殺害事件のことをギンガは覚えていた。全員の死体が持ち去られ、残っていたのは体の一部だけという痛ましい事件だった。

 

 

「そうだ・・・俺は持ち去りを追っていたそいつから、昔から追っていた殺人鬼の尻尾をようやく捕まえることができたと聞いていた。チームを組み常に警戒してさらなる調査をするとのことだったが・・・本人も悔しかっただろう・・・。」

 

 

 その局員と仲が良かったのだろう、ゲンヤは悔しそう肩を震わせる。

 

 

「そこでだ・・・陸上警備隊によるシリアルキラー『Carry Away』合同捜査を行うことになった、陸士108部隊からもギンガ・・・お前に出向してもらうことになった、コイツが書類だ、よろしく頼む。」

 

 

「分かりました!ギンガ・ナカジマ二等陸士、任務承ります!」

 

 

 ゲンヤに任務を言い渡され、ギンガは今回の書類を受け取り、敬礼を返すと部屋を出て行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「妹を助けてください!お願いします!」

 

 

 ミッドチルダの街にそびえるビル街、そこの隅の方にひっそりと一際小さいビルが佇んでおり、そのビルにはミッドチルダ語で『探偵事務所』と書かれている。その一室の応接室で十代半ばの金髪金眼の少女が、対面の椅子に座っている・・・見た目からして三十代半ばだろう目の細いスーツ姿の男に頭を下げながら頼み込んでいた。

 

 

 「・・・私は探偵です。ですから貴方のお願いを聞いてあげたいのは山々なのですが、まずは貴方がどこのどちら様なのかわからないとお仕事にもならないのですよ。なので・・・一度落ち着いて自己紹介から行いましょう。」

 

 

 

 スーツ姿の男がただでさえ細い目をさらに細めながらそう言うと、少女は頬を赤らめ、慌てたような仕草で手を前にだし振り出す。少し時間が経つと落ち着いてきたのか息を整えながら口を開く。

 

 

 

「わ・・・私はイリーナ・クロスと言います。今日は行方不明になった妹を探して欲しくて・・・ここの探偵事務所にやってきました。」

 

 

 

 少女が自己紹介と今日の目的を話すと、スーツの男はよくできましたとつぶやき、細めていた目を元に戻しながら微笑み、少女にむかって話し出す。

 

 

 

「そうですか・・・それはとても大変なことですね。ですが管理局にはもう通報したのですか?ペットや物の捜索ではないのですよ。ただの胡散臭い探偵がおいそれと管理局のお株を奪うことはできないのですよ。・・・それに見合うだけの報酬がなければね。」

 

 

 

 スーツの男はいやらしく、よく言えば気持ち悪い、悪く言えば生理的に受け付けない表情で少女の顔を観察している。少女はその視線にさらされ、たじろいでしまう。しかしすぐにその目が黄金の輝きを放ち、気丈にスーツの男に答える。

 

 

 

「管理局に通報してからもう半年です。これ以上待っても妹が帰ってくる保証はありません!たったひとりの妹なんです!どんな事をしてでも帰ってきて欲しい!お金に糸目は付けません!払えなくても将来必ず払います!・・・何でもします!だからお願いします!」

 

 

 

 少女は視線をスーツの男から離さず捲し立てる。その黄金の瞳を爛々と輝かせている。スーツの男はその黄金の瞳を見て肩をすくめる。

 

 

 

「良いでしょう。その言葉が聞きたかった・・・という感じですかね。貴方のその黄金の瞳に免じてその依頼受けましょう・・・あぁお金はいりませんよ。黄金の輝きに魅せられたのですから。」

 

 

 

 その言葉に少女は目を輝かせ、満面の笑みを浮かべる。少女にとって妹はかけがえのない存在なのだろう。男は少女の反応を嬉しそうに観察しながらコーヒーに口を付ける。

 

 

 

「それではさっそく妹さんがいなくなった状況、何か手がかりがあるかどうかなどを詳しく教えていただきたい、コーヒーでも飲んでゆっくりお話しを聞きましょう。」

 

 

 

 スーツの男は最後まで少女を観察し続けた。最後まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ最近で起きた持ち去りに関する事件は判明しているだけで20件近くにもなる・・・か・・・判明していない事件を合わせるとどの程度になるのかしら。」

 

 

 

 ギンガが合同捜査に参加してもう2週間になる。前担当者が残していた資料から、ミッドチルダのビル街を根城にしている可能性が高いとのことだが、聞き込みや現場検証、死体の一部を解剖などの調査でも手がかりが見つからない。完全に行き詰まってしまっている。

 

 

 

「もうお昼どきだし、お昼ご飯でも食べながら資料を読み返しますか・・・それにしてもどうして他の陸士はお昼頃になると私の傍からいなくなるのかしら?はじめは食事にも誘ってくれたのに。」

 

 

 

 もしかして私避けられているのかしら、これって虐め?などと見当違いの事言を言いながら近くのレストランに入っていくギンガ・・・彼女は異常なまでの大食感である。

 

 

 

 ギンガの入ったレストランは3ヶ月前にできたばかりの新しいお店だ。普通のメニューもあるが、店長オススメのウミガメのスープが人気の少し変わった店である。

 

 

 

  ギンガは店に入るとメニューすべてを頼み、ウエイトレスを唖然とさせつつ、食事のくる間、この2週間何度も読み返した資料を簡単にまとめた物を、端末を立ち上げ確認する。

 

 

 

 殺人鬼Carry Away(持ち去り)は22年前から活動を開始した。

 

 

 手口は鋭利な刃物で体をバラバラにし、一部を持ち帰るという方法だが、現場には残った死体と血痕以外何の手がかりもなく、魔力残滓もない。

 

 

 最近は死体をまるごと持ち去っているようだ。明らかに致死量の血痕しか残っていないが、魔力残滓が微量に残っていたそうだ、殺人鬼は魔道士の可能性が高くなってきている。

 

 

 2~3ヶ月に一度の頻度でこの事件が起こっていたが、最近では1週間に一度の頻度で起こっているらしい。管理局が合同捜査を行ってからは起こっていない。

 

 

 ビル街を中心とした場所で犯行が行われており、殺人鬼はこのビル街を拠点としている可能性が高い。

 

 

 凶器は見つかっていない。

 

 

 犯行現場を見た目撃者はいない。

  

 

 遺体の一部は未だに見つかっていない。

 

 

 

 

 ギンガは捜査が行き詰まっていることに不甲斐なさを感じながら、資料まとめた物を映し出している端末を閉じる。

 

 

 

 現在、犯行がなりを潜めているが、いつまた犯行が行われてもおかしくはない。速やかに解決しなければと、ギンガは自分の中の正義感を燃え上がらせる。そしていつのまにか運ばれてきていた料理を口に運ぶ。・・・食欲には勝てなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 メニューをほとんど平らげ、最後にレストラン店長おすすめのウミガメのスープを口に運んでいるギンガは、近くで食事をしていたスーツの男が突然立ち上がり、店長を呼んでくださいとウエイトレスに頼み込んだことに気づき、食べるという行為を止めた。

 

 

ギンガは何かトラブルになったのかと考え、手に持っていたスプーンを置いて立ち上がり、スーツの男性とウエイトレスに話を聞きに行くことにした。

 

 

 

「・・・ですから店長を呼んでくださいと言っているのですよ。あぁ、ただのクレームですが、ウエイトレスの貴方に怒っているわけではありません。」

 

 

 

「・・・どうかなさいましたか?トラブルですか?」

 

 

 

 ギンガはウエイトレスに話しかけているスーツの男に声をかける。

すると男はギンガの方に振り向き、観察するような目を向ける。

 

 

 

「・・・あぁ管理局の方ですかこれはどうも、私はしがない探偵でしてね。すこしこの店の店長にクレームをつけようとしているところなのですよ。」

 

 

 

 スーツの男はギンガを観察するような目をやめ、気の良い表情になり、事情を説明する。

 

 

 自身の職業は探偵と言ったこの男に、ギンガは少々胡散臭いと思う。クレーム程度なら自分の出る幕はなかったかと思いながら一応聞いておく。

 

 

「クレームですか・・・失礼ながらどのようなクレームなのですか?料理の味も見た目も良かったと思いますが。」

 

 

 ギンガはクレームなら自分が割り込む必要はないと考えるが、料理が美味しく、店内も綺麗で、客に対する応対も良いこの店になんのクレームがあるか疑問に思い、聞いてみることにする。

 

 

 それに対してスーツの男は楽しそうに微笑みながらギンガの質問に答える。

 

 

「いえ・・・味も2流で店内もセンスがなく、接待もよろしくないのですが、その事についてのクレームではありません。」

 

 

「・・・では一体何が?」

 

 

 スーツの男の発言に馬鹿にされているように感じたが、とりあえずどういうことか聞き返す。すると、その疑問に対する回答がスーツの男の口から発せられる。

 

 

「スープに使われている材料に対してのクレームですよ。」

 

 

「え・・・ウミガメのスープですか?それは当然ウメガメでは・・・?」

 

 

 ギンガはスーツの男の発言を理解することができなかった。ウミガメのスープなのだからウミガメが材料に使われているのは当然ではないか。そうギンガは考える。

 

 

 スーツの男は先ほどより笑みを深めながら、楽しそうに面白そうに嬉しそうに興奮しているように・・・嫌悪しているように・・・

 

 

「このウミガメのスープは出来損ないです。なぜならウミガメではなく人間が材料になっているのですから。」

 

 

言った。

 

 

「・・・は?」

 

 

 

 ギンガはその台詞を聞き、思考が止まってしまった。

 

 

 

「明日にでも本当のウミガメのスープをご覧に入れましょう。・・・いやぁネタ台詞は言ってみると気持ちいいですね。一度使ってみたかったのですよ。」

 

 

 

 ギンガはその後のスーツの男の台詞を聞く余裕がなかった・・・。目の前の男のタチの悪い冗談だと考えた。

 

 

「・・・私をからかっているんですか?タチの悪い冗談はやめてください!」

 

 

 ギンガは目の前の男を非難する。いくらなんでもひどすぎる冗談だ。そう思うことにする。

その非難を聞き、スーツの男は困ったような顔をしながらため息をつく。

 

 

 

「嘘ではありません、明らかにウミガメのスープではありませんよ。全く、下手にウミガメのスープを飲んだ経験があるので気付いてしまいましたよ。」

 

 

 

ギンガはその言葉を聞いていまい、理解してしまう。自分が食べたものが人間の肉が入ったものであると。

 

 

 

「・・・うっ。」

 

 

 

 ギンガは口を抑えトイレに向かい、便器に食べたもの全て吐き出してしまう。

便器の排水管に吐瀉物が詰まる。

 

 

 

 井の中のものを全て吐き出し、ギンガはフラフラと先ほどの男の前にも出っていく。その顔は焦燥しきっている。

 

 

 

「おや?もうよろしいので?」

 

 

 

 戻ってきたギンガを、混乱しているウエイトレスの傍の椅子に座る男は、気楽に文庫本を読みながら出迎える。

 

 

 

「・・・えぇ・・・大丈夫です。続きを聞かせてください。」

 

 

 

 男はギンガの言葉を聞くと、文庫本を閉じて立ち上がる。

 

 

 

「えぇ良いでしょう。歩きながらでもよろしいですかね?」

 

 

 

ギンガはそれに頷く。

 

 

 

 男はそれを見ると、にやりと嗤いながらレストランの奥に向かって歩き出す。

 ギンガはフラフラしながら男についていく。

 

 

 

 

その場に残されたのは呆然と立ち尽くしたウエイトレスのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最近巷で有名なシリアルキラー『Carry Away』。ご存知ですかね?」

 

 

 

「・・・ええ・・・私は今その殺人鬼を追っています。・・・『Carry Away』があのスープに何か関係が?」

 

 

 

 ギンガは自分が追っていた殺人鬼の名前が出てきたので驚くが、もしかしたら『Carry Away』は、死体の一部を持ち帰り料理として出していたのではないかと考えた。

 

 

しかし男は首を横に振るう。

 

 

「いいえ。あのスープは『Carry Away』の犯行ではありません。彼・・・もしくは彼女を隠れ蓑にした別の殺人鬼でしょう。」

 

 

 

 男は調理場に入ると匂いを嗅ぐ仕草をする。

 

 

 そして珍妙な乱入者に仕事中の料理人達は、驚きで調理の手が止まる。

 男は適当な料理人に声をかける。

 

 

 

「もしもしそこの貴方。そうバイト臭い君です。ここの店長は今どこにいらっしゃるかわかりますかね?」

 

 

 

「は・・・はい。店長は地下の食料庫にいると思いますが・・・。」

 

 

 

 それを聞いた男は、あたりをぐるりと見回して地下への入口を発見する。

 そして地下への入口の扉を開きながら再び語り始める。

 

 

 

「本物の『Carry Away』は証拠を残しません。それは私がよく知っています。最近の犯行はおざなりすぎますね。」

 

 

 

「では今回の犯人は『Carry Away』でないと・・・そういうことですか?」

 

 

 

 男とギンガは地下への階段を下りていく。

 

 

 

「ええ・・このレストランに入ったのは匂いを感じたからですが・・・地下食料庫までそこそこの距離があるようですね。・・・ふむ、これは当たりですかね?血の臭いがします。」

 

 

 

 

 男はそう言うがギンガには血の臭いなど感じられない。

 コツコツと地下に二人分の足音が響く。

 

 

 

「『Carry Away』の事、詳しいんですか?」

 

 

 

ギンガは先ほどの会話で気になった事を尋ねる。男は一瞬だけ肩が震える。

 

 

 

「・・・ええ、私の両親が『Carry Away』の最初の被害者ですから。」

 

 

 

 ギンガは聞いてはいけないことを聞いてしまったかと男の様子を伺う。

 しかし男は前を歩いているので表情は伺えない。

 

 

 

「私がちょうど九歳の時でした。ちょうど22年前ですね。目の前で両親の首が飛んで血飛沫が舞ったのは今でも思い出せます。」

 

 

 

「・・・それは・・・ごめんなさい!そんなこと聞いてしまって。」

 

 

 

 ギンガは申し訳なさそうに頭を下げる。

 しかし男は笑いながら振り向く

 

 

 

「いえいえ・・・もう22年前のことです。悲しくありませんから大丈夫ですよ。謝る必要はないです。・・・おや?奥まで来ましたが扉が二つあるようですね?」

 

 

 

男の言うとおり扉は二つあるようだった。

 

 

 

「・・・では第一容疑者であるここの店長に逃げられないようにお互い別の扉に入りましょう。危険ですがいいですかね?」

 

 

 

 男の提案にギンガは頷く。ここで店長を逃がしたらまた被害が増えるかもしれない。多少の危険は犯してでも行くべきだ。

 

 

 

「ではそちらの部屋はお願いします。」

 

 

 

 そういって男はさっさと片方の部屋に入ってしまう。少し遅れてギンガももう片方の部屋に突入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その部屋は真っ赤だった。いや・・・少し錆びた茶色も混じっている。ギンガは理解してしまった。それら部屋を彩る塗料が全て血液であるということが。

 

 

 そして血で彩られた広い部屋には何かの肉が大量に吊るされ、真ん中の作業台で男が一人巨大な包丁を振り下ろし何かを小さく切り分けている。

 

 

 こいつが殺人鬼であると一目見てわかったギンガは、その何かの肉がなんの肉なのか理解する前にその光景から目をそらし、包丁を持った男に向かって構えながら叫ぶ。

 

 

 

「時空管理局員です!凶器を捨てて投降しなさい!逃げ場はありません!いま増援も呼びました!観念しなさい!」

 

 

 

 ギンガは投降を呼びかけながら念話で増援を呼ぶ。増援が来るには後数十分かかる。

 

 

 

 

「・・・ここは私以外立ち入り禁止ですよ管理局員さん。・・・よく見たら貴方、不味そうな体していますね。天然ものじゃない、養殖の匂いもする。」

 

 

 

 

 店長・・・いや殺人鬼がぐるりと首だけでギンガの方に振り向く。その目は濁りきっていた。

その目をみたギンガは奈落の底に引きずり込まれるような気がした。

 

               

 

「あああああああああああああ!」

 

 

 

 ギンガは叫びながら殺人鬼に突撃する。恐怖を振り払うように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅう!」

 

 

 

 ドゴッ!と壁にたたきつけられたギンガは思わずうめき声をあげる。

 

 

 

 ・・・強い!ギンガは目の前の殺人鬼の一撃を受けてそう感じた。

冷静ではなく技の切れの悪い今の自分ではまるで歯が立たない。巨大な包丁を手足のように扱う殺人鬼の技量は高い。

 

 

 

「・・・よく見たら原作キャラじゃないか。ふむ原作キャラを料理するのも私の能力、料理

をする程度の能力が強化され、また新たな境地に達せられるかもしれん。」

 

 

 

 そう言って嗤いながら殺人鬼はギンガに近づく。

 

 

 

「ひっ!」

 

 

 

 ギンガは本能的な恐怖から小さな悲鳴を上げてしまう。壁に叩き付けられた衝撃で体が思

うように動かないギンガは小さく身震いする。

 

 

 

「大丈夫だよ。例え養殖でも私がおいしく料理してあげよう。怖がることはない。ただ少し

我慢するだけだよ。」

 

 

 

 殺人鬼はギンガに向かって巨大な包丁を振り下ろす。

 ギンガはせまりくる包丁に対する恐怖で目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を閉じていたギンガは痛みも何も感じないことを疑問に思いゆっくりと目を開け、顔を

上げる。

 

 

  そこには巨大な包丁を受け止める片手で受け止めるスーツ姿の男がいた。

 

 

 

 

「いやぁ、少し野暮用で合流が遅れました。ギリギリでしたけど許してくださいね。」

 

 

 

 

 男は軽薄に笑う。それを見た殺人鬼は彼を見て一瞬顔をしかめる。しかしすぐに何か思いつ

いたような顔をして嗤う。

 

 

 

「・・・ひひ、お前俺の同類だなぁ。臭いでわかるぜぇ。」

 

 

 

「・・・確かに貴方も見た感じ転生者でしょうが・・・私を一緒にしないでいただきたいで

すね。私は貴方と違い善良な一般市民です。同郷の好で貴方をここで止めて差し上げましょ

う。」

 

 

 

 

 ギンガは二人の喋っている内容がすべて理解できなかったが、自分が助かったのだと安心

する。

 

 

 

「同じ転生者を料理したことはなかったなぁ!ちょうどいい。お前たち二人ともまとめて

料理してやる。」

 

 

 

 そういって殺人鬼は包丁を振りかぶる。

 

 

 

 ・・・男は呼吸を練り始める。それは特殊なエネルギーを生み出す呼吸法。太陽と同等の力。そ

の名も『波紋法』。男は転生者である。しかしこの技術は自身が血のにじむ努力で生前身

に着けたものである。

 

 

 

「それは遠慮させてもらいましょう。いきますよ。『山吹き色の波紋疾走』!」

 

 

 

 強い輝きとともに包丁と拳がぶつかり合う。ギンガはその輝きを見た途端、ギリギリで保っ

ていた意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ここは?」

 

 

 

 

 ギンガが目を覚ますと地下の通路だった。傍にはスーツの男が増援の管理局員数名と話を

しているようだった。

 

 

 

「・・・おや、ギンガさん目が覚めましたか?気分はどうですか?」

 

 

 

 男が気遣うように問いかけてくる。

 

 

 

「・・・殺人鬼はどうなったんですか?」

 

 

 

「申し訳ながら逃がしてしまいました。いやぁ地上に向かって大穴開けるとは予想外でし

たよ。」

 

 

 

「・・・わたしが気絶してしまったからですね・・・ごめんなさい・・・。」

 

 

 

 そういって男は笑うが、ギンガは自分が意識を失ってしまったせいで追いかけることがき

なかったのだと悟り、男に謝罪する。

 

 

 

 

「いえいえ仕方のないことですよ。あんな現場見てしまったのですからね。今から私は事

情聴取で管理局に向かわなければなりません。これでお別れでしょうが、じっくり休んでく

ださいね。」

 

 

 

 

 そういって先ほど話していた管理局員と共に去っていくスーツの男、ギンガはそれを見送

り他の局員に付き添われながら病院に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺人鬼が裏路地を駆ける。なりふり構わずドロドロになりながら走る。

 

 

 

「くそっ!せっかくのチャンスを棒に振ってしまった!あのスーツの男。波紋使いだった

のか。あの二つの食材を料理できていたら・・・いやまだチャンスはある。今は管理局から

逃げることが先決か。」

 

 

 

 そういいながら走る殺人鬼。

 

 

 

 

 

 

 突然殺人鬼の両腕が切り取られる。

 

 

 

「・・・え?」

 

 

 

 ぽかんとする殺人鬼は自分の首から上が飛び、宙を舞っていることに気付くが直ぐに意識

を失った。永遠に。

 

 

 

 

 その場に残ったのは首から上と両腕が無くなり、切断面から血を吹き出し続ける死体のみで

であった。切り取られた両腕と首から上はもう既にどこにもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 

 

 スーツの男は自分の事務所の一室で機嫌よく何かが入った箱三つを鑑賞していた。

 

 

 

「いやぁ事情聴取が長かったけど、三つもコレクションが増えて大変満足ですよ。」

 

 

 

 男は上機嫌に独り言をつぶやく。

 

 

 

 男の傍らには奇妙な人型が立っている。それは傍に立つ者『stand by me』。男のようなスタ

ンド使いにしか見えない存在である。

 

 

 

「いやぁ何時もながらCarry Away(持ち去り)は便利ですねぇ。スタンド使い以外には姿

が見えないし証拠も残さない。長距離まで操作可能。私のコレクションを集めるにはうって

つけです。」

 

 

 

 そうしゃべる男の鑑賞している箱の中身の一つは殺人鬼の男の両腕と頭。そして後二つの

黄金に輝く金色の眼球が2対。特殊な液体の中に保存されていた。

 

 

 

「いやぁ妹の両目が残っていてよかったですね。姉の眼球とセットでコレクションに加え

る事ができたのですから。クロス嬢も妹さんと再会できてうれしいでしょうね。」

 

 

 

 男がいる部屋には無数の箱がありその中には人間のパーツが入っている。

 

 

 

 その中には男の両親であろう顔が保存されている箱もある。

 

 

 

 この男はシリアルキラー、通称『Carry Away』(持ち去り)。人間のパーツをコレクションにする殺人鬼である。

 

 

 

 転生者である彼は、生前死ぬ直前にスタンドに目覚め、その特殊な能力により自力でこの世

界に転生したのだ。

 

 

 

 

「しかし・・・ギンガさんには私の食指が動きませんでしたね。・・・どことなく養殖臭い

からでしょうか?」

 

 

 

 男は目の前の保存されている殺人鬼が思った事と同じ事を思う。

 

 

 

 彼は結局同類だったのだろう。

 

 

 

 男は箱を眺めつつ機嫌よく日常を過ごすのであった。

 

 

 

 ミッドチルダは今日も平和である。

 




主人公:ナイさん 出番なし 原作知識なし。

ソウルフレンド:ギンガちゃん 養殖扱い・・・ひどい!

被害者:イリーナ・クロス 依頼を頼んだ後、スーツの男に目玉くりぬかれました。

被害者2:妹ちゃん 殺人鬼『料理人』に殺され頭以外は既に調理済み。スーツの男に眼球のみ回収されました。


殺人鬼『Carry Away』(持ち去り』:スーツの男。9歳の時に両親を殺害。そこから22年間ずっと殺人鬼をしている。神様転生ではない珍しい存在。スタンド使い兼波紋使い。スタンド能力は転生能力。つまり自力で転生できる。戦闘能力は陸戦最高クラス。
 事務所の隠し部屋にはコレクションがいっぱい。最近コレクションが入りきらないので増築しようかと考えている。原作知識なし。殺人鬼『料理人』とは結局同類である。
 スーツの男は静かに暮らしたい。


殺人鬼『料理人』:神様転生。能力は料理をする程度の能力。食人鬼というより人間を料理したいだけである。今ではコレクションの一つ。原作知識あり。


増援:管理局員の皆様 お疲れ様です。


グロくなーいビグロくなーい:リ・ガズィマーク2もいいよね。


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