真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第97縁:海賊と海賊と海賊?

「檜山達の誘導を続けろ。隔壁を下ろすタイミングを間違えるなよ!」

 

 コマチは行き着く暇もなく指示を続ける。

 

「ワープ用の動力は確保出来てるか?」

 

「問題ありません。」

 

 何とか一路達が当面の危機を脱したのはよい。

未だ艦全体の危機は去ってはいないが、人質がいるいないとでは話が違う。

 

「全く、自分達から条件を出しておいて反故にするとは、何処のギルドだ。」

 

 海賊だからといって、別にその全てが野放図の無法者ではない。

海賊とは本来、宇宙開拓者の流れを組む、定住しない流浪の民の総称だった。

今現在、自分達の定住する惑星(正確には樹だが)を手に入れた樹雷だとて、その流れの末裔だ。

ギルドは寄る辺のない流浪の民が持つ国、家族のようなものだ。

人が集まり、集団的社会性を持てば、最低限のルール、不文律が大なり小なり出来るもの。

所謂、流儀というヤツだ。

そして、この海賊達の流儀はコマチのそれに反する。

大体、当座の活動資金が手に入れば、白兵戦までして船員の命を賭ける必要はないし、銃弾・燃料もタダじゃない。

その辺りの台所事情は、会社・企業の比じゃなくシビアだ。

しかし、それ以上にコマチを苛立たせていたのは・・・。

 

「自分から動けんのが、こんなに歯痒いとは・・・。」

 

 NBの配線を利用した回線から送られて来る一路達の映像を、ただ見ているだけという苦痛。

実際は見ているだけでなく、支持も並行して行っているのだが、それでも自分がその場に行けない鬱憤が溜まる。

自分の副官なぞ、そそくさと一路の後を追って行ってしまったというのに。

 

(もう二度と輸送船の艦長業などやるものか!)

 

 ただでさえ、一路が乗艦するからと渋々引き受けただけなのに。

まぁ、静竜がやるよりかは大分マシだが。

その一路のピンチにいないとは本末転倒。

一路が左京を突き飛ばし、レーザーの火線と交わった時は、思わず声を上げそうになった。

一人の生徒にそこまで肩入れするのはどうかと思うが、自分も母親とやらになったからだろうか。

一瞬、一路を傷モノにしてしまっては、彼の"母親に申し訳が立たない"とまで思ってしまった。

彼も母の腹の中で、十月十日愛情を込めて、そしてその母が腹を痛めて産んだと思うと尚更だった。

だからこそ、余計に余計に腹が立つ。

 

「さしあたって、次はどう手を打つか。」

 

 気分的には、白兵戦でもなんでもして憂さを・・・いや、自分達に相対した事を後悔させてやりたくはあるが・・・。

 

「レーダーに機影!」

 

「何?識別は?」

 

 味方にしては速過ぎる。

たとえNBの一路監視用回線を使ってもだ。

では・・・敵の増援か・・・。

 

「マズいな。」

 

 更に八方塞がりになってしまう。

 

「識別不明!高速で当艦に接近!」

 

 識別不明機。

この時点で楽観的な思考は捨てるべきだ。

コマチは敵と認識する。

 

「映像出ます?!こ、これは?!」

 

 レーダー係の上ずった声と態度は、その映像と共に全てのブリッジクルーに伝播してゆく。

艦と一区切り言っていいものか巨大な船。

なだらかなラインが双頭の頭のように分かれた双胴艦。

船から一条の光が閃く。

数秒遅れの爆発。

その衝撃に、それが夢でない事を誰もが思った瞬間、はたとコマチが現実に返る。

 

「損害は!」

 

 今の一撃で自分達が生きているなんて信じられない。

あの船は自分達の艦など、一瞬で消し炭どころか塵に還せる。

 

「ありません!損害もゼロです!」

 

 信じられない。

いや、信じていないという様に。

 

「船尾に張り付いていた海賊艦に被弾、炎上しています!」

 

 真空の宇宙で炎上している炎が見えるという事は、艦内の酸素が燃焼しているという事だ。

つまり、艦の内部まで到達する程、ダメージが深い。

 

「巻き込まれないように細心の注意をしろ。」

 

 と、言ったところでどうにもならない。

あの一撃は樹雷の船を除けば、銀河最強クラスの宇宙船規模だ。

生殺与奪は確実に握られた。

 

「通達させていただきます。海賊艦はGP艦を即座に解放して下さい。そしてGP艦以外の船から奪った積み荷の全てをこちらに。でなければ、次は艦を真っ二つにさせていただきます。」

 

 映像に映し出させる人影。

可憐な少女にも

見える少女は死の宣告を丁寧に、そして冷たく言い放つ。

 

「りょ・・・魎呼・・・。」

 

 誰かが呟く。

熱に浮かされたように。

それは船乗りの誰もが知る伝説。

子供の寝物語にも聞かされる怪談のような。

 

『言う事を聞かないと、鬼女に食べられちゃうぞ。』

 

 躾の一環にそう脅された者もいるだろう。

 

「伝説の海賊・・・。」

 

 誰かがそう口にした。

 

「GP艦は、生命維持以外の機関を全て停止して下さい。」

 

「これが・・・。」

 

「この圧倒感が・・・。」

 

「伝説の海賊、りょ・・・。」

 

 誰もが絶望の空気に呑まれる中で・・・。

 

「オマエは誰だッ!」

 

 その場にいる全員、口を開きかけたコマチですらも遮って声が反響する。

そこには息を弾ませ、今まで見せた事のない憤怒の形相の一路が立っていた。

彼の周りにいるエマリーも、プーも、照輝も、いつにない一路の様子に驚きの表情を隠せない。

ただ一人、左京だけは違った。

何故なら彼は一度だけ、一路のこの姿を見ている。

それは、肩の関節を外してまで自分に掴みかかろうとした、あの時の一路の姿。

 

 


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