真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第92縁:小石を投げりゃ、波紋くらい起こる。

 平和。

コラ、ピンフと読むな、ソコ。

まぁ、至って平和である。

相変わらずの喧騒はあるが、もはやそれは日常という名の一部なので気にはならない。

気にしたところで、どうにもならないし・・・と、彼は思う。

などというと、なんだか泣けてくるので、余り深くは考えない。

トホホと思うくらいだ。

その風が頬を撫で、若干の波紋を湖面に投げようとも、多勢は変わらない。

 

 さて、そんなここは何処かと聞かれたら、ズバリ、地球である。

欄干に座し、手にした釣竿から伸びた糸が水面に落ち、ひょこひょこと揺れる浮きを天地は眺めている。

 

「ねぇ、鷲羽ちゃん?」

 

 天地は同じように釣り糸を垂れているだろう鷲羽の顔を見ずに彼女に声をかける。

 

「何だい天地殿?」

 

 当の鷲羽は釣り糸こそ水面に垂らしてはいるが、その場に横になっていて、全く真剣味がない。

休日の無趣味なお父さんみたいである。

 

「ここに魚なんていないんじゃ・・・。」

 

 二人が釣りをしているのは、自宅のウッドデッキに面する小さな湖だ。

恐らく、世界で一番宇宙から物が落ちてくる湖だろう。

そんな毎日のように騒がしいこの場所では魚だろうが、人間だろうが、寄って来るはずもない。

 

「気分の問題さね。雰囲気と形さえあれば、釣りをしたって言えなくもないだろう?」

 

「はぁ、まぁ。」

 

「釣果は必要要件ではないのさ。」

 

 自分達が形式だけにしても、釣りを楽しんだと感じられれば、釣れようが釣れまいが重要でないと鷲羽は言うのだ。

彼女の言う事も一理あると天地も思う。

ただまぁ、この場合、釣れないと解りきっているのだが。

 

「確かに世の中、挑戦してみないと解らないって事もあるしなぁ。」

 

「だから、人生は面白いんデショ?」

 

 それもそうだと今度こそ頷きつつ。

 

「結果はどうあれ、楽しめるかそうじゃないかか・・・西南君も一路君もそう思えるような事があればいいんだけどなぁ・・・。」

 

 どちらも宇宙と、樹雷と・・・ひいては天地と関わってしまったが為に周囲を取り巻く環境を変えられてしまった者達だ。

 

「固定されてしまったベクトルは、突き進むのみで変更もきかないし、無理に歪めてもロクな事にはならいからね。ま、緩やかに曲げて向きを変えるくらいしかないんだよ。」

 

「曲げるというか、曲げられているというか・・・。」

 

 天地の脳裏に曲げた張本人の鬼姫の顔が浮かんだが、思い出さなかった事にした。

 

「ま、でもだ、樹雷の"建前上"の皇位継承権第一位とかァ?不老不死とかァ?そういう諸々の"オマケ"がくっついちゃぁいるけど、霧恋殿達がいるからジョブジョブ、ダイジョーブ。」

 

「オマケって・・・。」

 

 突っ込みを入れたい天地だが、そのどちらのオマケすらも自分が西南に付与したものであるが故に、強くは出られない。

だが、最近、1つだけ西南に関して思う事がある。

 

(それこそ、最大の不幸は"女難"だったりして・・・。)

 

 その辺りも人の事は言えないので、一切口には出さない、出せないが。

 

「そう考えると・・・。」

 

「ん?」

 

 おのずと気になるのは、ある意味でもう一人の弟分の方だ。

 

「一路君の方は大丈夫かな・・・西南君のように誰もついてないんじゃ・・・。」

 

 一路よりも更に遥か遠くの銀河にいる西南は、誰かがきちんとついている。

それこそ彼には危機回避能力と、生来の精神性がある。

だが、一路には・・・。

 

「天地殿。」

 

 鷲羽は何時の間にか横たえていた身体を起こし、真剣な眼差しで天地を見つめていた。

 

「あの子に何もないような言い方は、あの子に・・・何よりあの子の母親に失礼だよ。」

 

「鷲羽ちゃん・・・。」

 

「あの子には立派な覚悟が、信念がある。決意がある。」

 

「・・・そうだね。一路君はとても優しさのある良い子だったね・・そして強い子だと俺も思うよ。」

 

 気つきやすいが、健気で・・・。

 

「それにね。あの子の傍に"誰もいない"、"何も持っていない"と思うのは大間違いだよ。」

 

「えっ?」

 

 鷲羽は真剣だった表情を崩し、頭をポリポリと掻く。

 

「まぁ、"前者"はアタシもはっきりとは言えないし、アタシの口から言うもんじゃないけどね。後者の方は、ちゃんと持たせてあるのサ。それもあの子の覚悟に見合うモノをね。使う使わないは別として。」

 

 鷲羽の意外な、それも殊更一路を気遣う言葉。

 

「?何だい?」

 

 呆然とした表情で自分を見つめる天地にヤレヤレと鷲羽は嘆息する。

一体全体、自分は天地にどんな目で見られているのだろうかと。

確かに、最近は過剰に入れ込んでいる気もするが、(きちんとした人間相手の)一人息子を亡くしたばかりなのだから、これくらいならいいではないかとも思う。

 

「鷲羽ちゃん、さ、竿、引いてる・・・。」

 

「ん?」

 

 指をさす天地に促されて自分の竿を見ると、確かに浮き輪が沈み、竿がしなっていた。

 

「ありゃま。餌すらつけてないってのに、まぁ・・・やっぱりやってみるもんなんだね、人生ってヤツは。」

 

 苦笑しつつも、竿を手に取る鷲羽の姿は、心底楽しそうに天地には見えたのであった。

 

 




何って?
伏線と回収予告フラグだよ。

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