ガン〇ムウィ〇グの略?
それを遡る少し前、エマリーは楽しげに、少なくとも彼女にしてみればそう見える一路とアウラの姿を目撃して、咄嗟に廊下の影に身を潜めていた。
(て、何で隠れてんのよ、アタシのバカッ!)
とはいえ、隠れてしまったものは仕方がない。
今更二人の前に飛び出して行く方が不自然だ。
だが、気になっているのは事実で、そおっと二人の様子を影から覗く。
時は丁度、一路が日頃の日課をアウラに披露したその帰り、当直へ向かうところだった。
「いっちー、毎日アレをやってるの?」
「毎日?うん、そうだね。あ、でも、アカデミーに来るちょっと前に教えてもらったから、そんな長い期間やってるわけじゃないよ?」
だが、律儀といえば律儀であるだろう。
(アレって何の事?)
一方、エマリーがそう疑問に首を傾げるのも当然の反応である。
「いっちーはGP艦でアカデミーに?」
「うん。出身地が田舎だから便乗させてもらちゃった。そこでエマリーと会ったんだ・・・よ。」
語尾が怪しい。
そして、何を考えたのか、自分の手に視線を落とす一路の仕草に、エマリーは赤面した。
(わ、忘れろって言ったのに、い、今、絶対!思い出したなぁぁぁっ?!)
思い出したというのは、初対面のラッキースケベ的なハプニングである。
しかし、思春期のヲトコノコにとって、忘れろ言われても簡単に忘れられるものではない。
というか、忘れられぬ。
それ程にインパクトのある出来事なのである。
(アトでぜぇ~ったいブン殴ってやるんだから!)
決定事項にするエマリーの頭からは、湯気が吹き出しそうな勢いだ。
「・・・・・・いっちーのえっち。」
「うぇっ?!」
一路の視線の先に同じ視線を落としたアウラが、それが何を意味しているのかを気づいたらしい。
(そういえば、寮であーちゃんにその時の事を話しちゃってるんだっけ。)
こいつぁ、しまったと思ってももう遅い。
「・・・私もしてもらえば、仲良くなれるのかしら・・・?」
何を思ったのか、もにゅっと自分の胸を下から腕で持ち上げてアウラが呟く。
「はひ?い、いや、ちょ、ちょっとそれは・・・て、あーちゃん?!聞いてる?!」
一路の声が耳に入っているのか否か、何の反応も見せずにアウラはすたすたと歩き始める。
その後を慌てて一路は追いかけるのだが・・・。
「えっ?えっ?待ってってば、ちょっ!!」
アウラは思ってもいない事は、口にしないタイプだと知っているだけに、その発言は非常に問題だ。
何とか思い止まってもらわねばと、一路はギャーギャーと喚きながら、その場を去ってゆくのをエマリーは見送る。
出るタイミングを逸したからだけではない。
一路達が去った方向とはまた別から、人の気配と足音がしたからだ。
再び気配を消して、その場に留まる。
(あ、アイツ・・・。)
複数の足音、集団。
その中に見知った顔を見つける。
「何も慌てる事はない。危険すらもない。皆、手筈通りにしてくれれば悪いようにはならない。」
続く言葉に不穏当なモノを感じた。
(アイツ等、就寝前に何処に行くつもりなの?)
エマリーの視界に入ったのは昼間も目にした事のある人物、左京だった。
彼は自分の周りにいる者達を軽く一瞥すると、ゆっくりと促す。
それはこれから就寝するとは思えない顔つきで、周囲の人間も皆一様に等しかった。
彼等の向かう先は、どう考えても居住ブロックとは違う。
先程の一路達の事も気になるが、それ以上に・・・。
『それとなくアイツ等を監視くれないかい?』
一路を気遣うルームメイト、プーの言葉が頭に浮かぶ。
こんな時間にこそこそと行動している辺りもエマリーにとって気に喰わない。
とう考えてもロクな事ではないだろう。
『もし、何か少しでも不穏な動きがあれば、知らせて欲しいでゴザる。』
"不穏な動き"
確かにそう言っていた。
これはその最たるものではないのか?
エマリーは素早く辺りを見回す。
照輝は知らせてくれればいいと言ったが、生憎今の自分は端末を所持していなかった。
周囲にそれらしい物も、残念ながら見つからない。
となると、あとは・・・。
このまま見逃すという選択肢は彼女には無かった。
それは何処か、対抗意識のようなモノなのかも知れない。
少女は少しだけ自覚に芽生え始めていた。
"一路の役に立ちたい"という・・・いや、"他の者達に負けたくない"といったところなのかも知れない。
エマリーは気配を消したまっま、彼等の後を慎重に追う。
これが彼等にしても、彼女にしても、どういう事なのかも解らないまま。
そして、檜山・A・一路が抱える"ナニか"の一旦がどういうモノなのかも・・・。