(あ、また良からぬ事を・・・。)
NBの言葉にすぐさまそう直感する。
どうせロクな事ではないと。
「ワシの今日一日の成果をとくと見るが良い!あ、ぽちっとな。」
3人が座る部屋の壁面に投影される映像。
勿論、こんな設備は一路達が入ってきた時はなかった。
「ぶっはぁぁッ!」
そして直後、照輝が鼻血を吹いて盛大に仰け反る。
『やだぁ、うっそぉ~。』
投影されたそこには、誰とも解らない丸い曲線、お尻が映っていた。
「こ、これって・・・まさか・・・女湯かい?」
冷静なように思えるが、NBにそう聞き返すプーの声も若干興奮気味だ。
「イカにもタコにも、アシカにもっ!」
「・・・それは意味不明だけど、NBダメだよ、これは犯罪だ。」
何とか視界にお尻を入れないように、一路はNBに向かって当然の如く、かつ真面目に注意をする。
もしかしたら、一番冷静なのは一路なのかも知れない。
興味が全くないわけじゃないところが、なんとも蒼い春ではあるが。
「何を言うか坊!これは漢の浪漫や!ろうまんと書いて浪漫!」
「いやいやいや、犯罪でしょ。」
幸い時間的にまだ早かったせいか、ほとんど入浴している者もいなければ、湯気でカメラ(?)の大部分が曇ってしまっていてはっきり見る事は出来ないが。
『二人共、早く早くー。』
『黄両、焦らないの。お風呂は逃げないわよ。』
(え?)
この声は聞き覚えがあるし、名前も記憶にある。
どう考えてもエマリー達だ。
「ダメ!NB、お終い!」
流石に自分の知っている人間の裸を見るというのは、躊躇われる。
いや、そうでなくてもこれは犯罪なのだからダメなのだが、やはり見てしまった場合、明日からどんな顔をして会話をすればいいのか解らなくなってしまう。
こんな事で距離感を見失ってしまうのが、思春期というモノなのだ。
「ええやんか、ここからがエエトコや。」
NBのその言葉に無言でぐぐっと身を乗り出すプー。
そして、何時の間にか照輝も復活する。
「・・・二人共、NBを止めてよ・・・。」
何だろう、この状況は?
変なのは自分の方なのだろうか?
思わず呆れてしまう。
「しっ、静かに!入ってくるよ。」
「・・・えー。」
何故だか嗜められてしまう。
しかも、これは送られてくる映像なので、別に静かにする必要はない。
やがて、誰かが入ってくる気配がして・・・。
「おぉっ!」
更に身を乗り出す。
『業務連絡!1時間後に艦橋要員は各担当持ち場に集合する事。尚、他の各員も部屋に待機。業務放送がある!』
画面にむさいおっさんが出てきて、その映像の顔をキスをしそうになって"二人"(と一体)は盛大にズッコケだ。
この業務連絡の後、NBが設置したカメラが故障したのか一切の映像が映し出される事はなく、歯ぎしりというより、浪漫とやらを打ち砕かれた男達はむせび泣くのであった。
ただ一人、一路を除いて。
「・・・さっきの男の人って・・・・・・。」
「メシだよ。」
そう自分にかけられた声が何時もと同じ看守の声ではないという事に気がついた少女は、声のする方へと顔を向けていた。
「何だ、やっぱり生きてるじゃないか。」
腰まで伸びた髪を無造作に束ねた房が揺れ、ニッカリと白い歯を見せて笑うと、"二つのトレー"を持ったその女性はどっかりと少女、灯華の横に腰を下ろす。
「ルビナ。」
「ルビナ"さん"。アンタに礼儀を教えたつもりはないけど、さんはつけな。」
ルビナと呼ばれた女性は灯華の手にトレーの一つを押しつけると、残ったトレーで自分の食事を始める。
「んで、"何が"あったんだい?」
食べ物を口に入れながら喋り始めるところを見ると、確かに行儀とか礼儀とか言えたものではない。
「何が?」
何かがあったと断言してしまうルビナ。
勿論、任務は失敗したが、地球であった出来事の詳細は誰にも話していない。
「あったんだろうよ。任務に成功しようが失敗しようが自分には関係ないってツラして、しれぇっとしてるアンタが、今はそんなんなんだからね。」
「そんなの・・・。」
解るわけがないと言おうとして、灯華は押し黙る。
両親がいない灯華にとって、年の近いルビナは"一般的"に見れば姉に近しい存在だ。
そういう事も解るかも知れない。
もっとも、姉といっても海賊の孤児だ。
当然、世間様のそれとは違う。
寧ろかけ離れている。
「ほれほれ。言ったらこの髪を触らせてやるゾ?」
他にも沢山いた年の近しい人間達。
その中でも、灯華がルビナを選んだのは単純明快な理由だった。
彼女の長い髪はそれはそれは見事に目立つオレンジ色で、幼少の頃の灯華は思わず引っ張ってしまったのだ。
その後、物凄い説教と折檻が待ってはいたが。
「もうそこまで子供じゃないわ・・・でも・・・。」
「うん?」
もしかしたら、年長のルビナなら答えられるかも知れない。
自分がここに入ってから考え続けていた事を。
「・・・もう謝れない人に謝るにはどうしたら・・・いい?」
「あ?あ~。」
ルビナは食事をする手をピタリと止め天を仰ぐ。
思っていた以上に予想の斜め上の質問だったからだろう。
勿論、灯華が謝る人間といえば、一路しかいない。
彼女の手に今も残る感触からいって、彼は確実に死に至った・・・と、彼女は思っているのだ。
「・・・まぁ、謝るわな。」
「だから・・・。」
その謝る相手がいないから、どうしたらいいかという話を自分はしているのに。
聞いていなかったのかと非難の目を向け・・・。
「だから謝るのさ。自分が死ぬのその時まで心の中で謝り続ける。そんな死んで一緒にアストラルの海に溶けるまでの事さ。」
それは時に信仰だとか、祈りだとか、そう呼ばれる類いのモノに近い。
「どっちにしろ、最後の最後まで生き抜かなきゃ、それも意味がないよ。だったら余計にきちんとメシ食わないとな。チャンスをふいにしちまう。」
自分の頭をポンポンと子供の時の頃のように気安く叩くルビナに反抗する事なく、灯華は首を傾げる。
「チャンス・・・?」
「そうさ、もう何周期かしたら、"ヤツ"が来る。きっと周りも浮き足立つだろうね。その時にどうするかはアンタの好きにしな。」
さぁ、さぁ、さぁっ!(謎)