「えぇ~と、コレがこぉなって、アレがあぁなるさかい・・・うぅむ!流石はワシ、えぇ仕事しとるがな。」
部屋の中をあっちにゴロゴロ、こっちにグルグルと忙しく転げ回っているのはNBだ。
相変わらず怪しい関西弁もそのままである。
「しっかし、アレやな、ココ最近のワシ、坊に毒されてないか?そう思わんか?」
壁に向かってブツブツと呟いているロボットなんて、もう末期症状と言う他ないのだが、そもそもこのNBに自己診断機能すらあるかも疑わしい。
「・・・・・・まぁ、確かに坊は悪いやっちゃないからなー。ワシとしてはやり易いんやが・・・ほら、アレやアレ。全国1千万のNB信者の皆様には物足りんとちゃうかー?」
キリっと眉を太らせ、何処から取り出したかも解らない葉巻を持ってカメラ目線。
・・・何処にカメラがあるのかは解らないが。
「あとは坊が帰って来てからのお楽しみとしてぇ~。」
お尻の辺りをむずむずと振ると1本のコードが生えてきた。
さながら、悪魔の尻尾と言いたいところだが、NBがやると何故かそういう類いのモノには全く見えない。
その先端を壁に開いた穴、端末へと差し込む。
「えぇと、ここ最近・・・あぁ、"外見は15前後なんやっけ?まぁ、えぇ、性別は牝っと。擬態やないみたいやから、身長150~160っと。」
ふんふんと鼻歌交じりに検索をかけているのは、GXPの犯罪者リストだ。
一路に毒されていると自分でも言ったように、以前一路に頼まれた事を実行している。
検索内容は、勿論灯華の居場所。
ちなみにNBのやっている事は、ハッキングである。
宇宙に出ている大勢を乗せた船は、ハッキングをする隠れ蓑に丁度良かった。
一応GP所属ではあるし、バレて追手が来てもこちらが移動している分、多少の時間は稼げる。
当然、そんな事はないようにアクセス経路は巧妙に偽装した。
「あ゛~っ!まだるっこしぃっ!!」
余りの処理速度の遅さにNBはすぐさま痺れを切らし、尻を振ると何本ものコードを吐き出す。
そして室内各所にある端末、室外の手近にある端末に次々とそれを差し込んでゆく。
「あ゛ぁ゛ぁ゛~カイカン♪ワシ、コレ、クセになりそう、じゅるり。」
ビクンビクンと身体を震わせるNB。
「最高にハイってヤツやぁ~。」
コイツが言うと何やら締まらない。
犯罪者リストの、海賊、テロリスト、賞金首・・・ブラックリストを照合し、条件にそぐわない者達を除外していく。
やがて、残った人間の数が両手の指程になると、その横に数字がそれぞれ弾き出されて表示される。
性別、外見、身体的特徴、組織とすれば樹雷に敵対する(それこそ星の数程いるが)・・・etc・・・。
条件の適合率の高さだ。
NBはその中から、比較的確率が高い者達を眺め、ピンと来た者の詳細データを見てみる。
このピンと来たという部分が、NBが高性能だと言える証拠だ。
直感の類いのような機能は、ロボットには必要ないものだし、なかなか持ち得ない高度な感覚といえる。
「ん~・・・・・・げげっ?!マジかいな・・・コイツぁ、アカン。」
表示されるデータを閲覧しての感想はそれだった。
「海賊ギルドなんやろなとは思っとたが・・・コイツは坊には見せられへんな・・・。」
NBは一人(体?)で嘆く。
だが、とにかくこのリストに載っている者全員の居場所を突き止めなければならない。
話はそれからだ。
「何を見せられないの?」
「ヒッ?!」
ご多分に漏れず、NBは後ろから声をかけられると何本もの出ていた触しゅ・・・コードを掃除機の巻き取りコードのような軌道でしゅるしゅると収める。
「なっ、何や坊、もう帰って来よったのか、どないやった研修は?」
自分に声をかけてきた一路に向き直ると、話題を逸らす。
画面はコードが抜けた際にほとんどが消えているので、一路に見られたという事はないだろう。
「何とかやれそう・・・かな?プーと照輝は?」
「そりゃ上々。二人はまだ帰って・・・。」
「ただいま。」
「で、ゴザル。」
噂をすれば、ではないがプーと照輝が帰って来て、NBは内心ほっとする。
これで完全に一路の興味を逸らす事が出来ると。
それに秘策はまだある。
「おかえり二人とも。」
何気ない一言だったが、一路はやっぱりこういう"ただいま""おかえり"という言葉のやり取りは良いものだなと笑もがこぼれる。
「いやぁ、流石に疲れたね。」
「そっちはどうだったでゴザルか?」
二人共、一路の姿を認めて今日の作業についての簡単な説明をする。
だが、そこに黄両達との会話は含まれてはいない。
当然だ。
それが一路の為なのだ。
「ん~、やっぱり覚える事が多くて大変かな。何しろ初めてだらけだし。」
大半は頭に叩き込めたとしても、何時ポロリとこぼれ落ちるか解ったものではない。
一応、小さなメモ帳に書き留めはした。
教本など、自分の学習端末に入っているので、それを開けばすぐに確認出来るのだが、悲しいかな一路はアナログ人間だった。
彼はどちらかというと、書いて、五感を使って覚えるタイプであったのだ。
お陰で、メモを取る様を見たアウラに首を傾げられるハメになったのは、少々恥ずかしかったが。
「ま、お互いどっこいどっこいか。」
「まだまだ初日でゴザル。」
初日からフル回転して、最終日までもたなければ意味がない。
「ふっふっふっ。そこでぇっ、ワシの出番や!」
キュピーンッ!と某新人類のような音を出して、三人の間でNBがポーズを決める。
「そう!こんなこともあろうかと!!」
そうお決まりのセリフを胸を張って叫び、君臨するNBの姿に、三人はぽかーんと口を開けて眺めるしかなった。
続く!
「ズコーッ!ここで引きかいっ!!」