来年になっても引き続き宜しくお願い致します。
(う~ん・・・やっていけるだろうか?)
一日の学校生活の感想がこれである。
全と芽衣の会話は夫婦漫才を見ているようで飽きなくはあった。
そもそも芽衣だけに限っていえば、全と話している時以外はマトモなのである。
マトモという言い方は相手に失礼だという事を解っていてもだ。
彼女の印象を一言で言うと、お嬢様。
だがしかし、全といる時だけ、あぁなのである。
全のテンションに引きずられているとも言えるかも知れない。
この二人の白熱し続ける言い合いを絶妙なタイミングで委員長が鶴の一言をいれてくれるという展開。
ちなみに今日一日で一路は自分のクラスの本物(?)の委員長を見つけ出す事は出来なかった。
「檜山君。」
「はぃ?」
そんあ事を考えながら下校をしようとしている一路に声をかけた人物は、彼のクラスの担任である。
「どうだった?ウチは持ち上がりだし、田舎で皆昔からの顔馴染みばかりだから。」
クラス内で自分が浮くわけだと一人納得する。
「いや、全・・・的田君達がいたから楽しかったですよ。」
それにクラス内で浮いているのはどちらかというと担任の方で・・・。
彼女は教師というものの服装がよく理解していないのか、白のカットソーのシャツに赤いボディコン風のスーツ姿。
(これってOKなんだろうか?というより、田舎の学校と思えない・・・。)
都会の学校にすらいない先生の姿だ。
いや、もしかしたらこの人も全の時みたく、都会の学校の先生はこんなカンジと思い込んでいるのかも知れない。
「ならいいわ。授業の方はどう?」
どちからといえば、そっちが問題、大問題。
先程のやっていけるかどうかという一路の思いもそれが原因なのだ。
退屈。
寧ろ、苦行。
恐らく同世代の級友の誰よりも。
「まぁ・・・特にこれといった問題は・・・。」
流石にそれは言い出せなく、言葉を濁す事で誤魔化すしかなかった。
「そうよね、アナタ達の歳じゃ、そんなものよね。教師としてはアレだけれど、私がアナタ達くらいの時もそうだったし。あ、これは他の先生方にはナイショね。」
真紅のスーツは伊達じゃない。
なかなかどうして話の解る担任で良かったとは思う。
「まぁ、それはいいとして。」
ぽんっと手を合わせ、さらりと流した後、この次の話題が本題らしい。
「他の皆は2年のうちに済ませちゃったんだけど、進路相談があるのよ。」
「進路・・・相談?」
当然といえば当然。
一応、彼等は受験生。
これからの事に関して、ある程度の備えや心構えをしなければならない時期なのである。
しかし、困ったのは一路だ。
留年してしまった彼にとって、進学はするにしても試験形式は一般入試しか方法はない。
推薦などは貰えるわけがないからだ。
それと同様の原因から、一路の目標は"卒業するコト"。
義務教育なのだから、卒業なんて普通は出来るだろうというのは、一路にとってはナンセンス以外のなにものでもないのだ。
「そうそう、受験するにしても、就職するにしても。不景気な世の中だけれど、田舎のこの町じゃ中卒でも多少は仕事ある方よ?なんたって、私が教師出来るんだから。」
あははと笑うこの教師はきっと卒業しても思い出される側の人間なんだろうなと一路には好感が持てた。
「気張り過ぎはよくないって事よ?ともかくそういうのを含めての進路相談なのだけれど・・・その、三者面談なの、ね?」
一路が一人になるであろう下校のこのタイミングに声をかけたのは、"そういう意味"があっての事らしい。
それもこの教師なりの気遣いの一つなのだろう。
「あ、えーと、そうなんだろう?とりあえず父に聞いてみます。」
「そう?本当やぁね教師って、こんな杓子定規にしなきゃないないんて。」
いくらでも抜け道ややり過ごしようはあるが、一応建前として、そうしなければならないのである。
「いいえ、ありがとうございます。」
一路は深々と頭を下げた。
この教師が一年の間自分の担任である事は自分にとって素直に幸運だと思えた。
「ん。じゃ、気をつけて帰ってね?」
「はい、さようなら。」
「はい、また明日。」
ようやく一路の学校生活の初日は終了したのだが、ふと校門から出る時、自分があの担任の教師の名前をド忘れしている事に気づいて苦笑するしかなかった。
更新予定の宣言通り、1日2回行進致します。
次の更新は正午。