「アンタ、友達は選んだ方がいいわよ?」
「同感。」
二人の発言に対しては、一路も思うところがあるので、はっきりしようと思った。
「だからあの二人が僕の友達なんだよ。」
選ぶ選ばないという話ではないが、あの二人が友達で良かったのは間違いない。
「ところで、その、リーエルさんとシアが来たのは解るけど、何でエマリーまで?というか、後ろの二人はどちらさんなの?」
リーエルはアカデミーの人間で、一路の教育係だったから連絡がいってもおかしくはない。
それにシアがついて来るのもいいだろう。
では・・・?
「いいでしょ!そんなの。後ろの二人は私のルームメイトよ。」
「黄両でーす。ヨロシク☆」
ぴょんぴょんと飛び跳ねる黄両と名乗る小さな少女。
「病院で暴れないの。」
窘めるエマリーを尻目にすっとアウラが一路の眼前に進み出る。
「?」
「アウラ。ところで、一度抱きしめても、いい?」
「は?」
えぇと、それはどういう意味だろう?と首を傾げながら、困ってエマリーを見る。
「気にしないで、この二人、正反対の意味で頭のネジ緩んでるから。」
やはり、友達というものは難しいのかも知れない。
友人を選べという二人の言葉に妙に納得しつつ。
「えと、そういうのはもっと仲良くなってからという事で・・・。」
とりあえず穏便に、かつ無難に答えたつもりだったのだが・・・。
「・・・そう。じゃあ、交換日記から始めましょう。」
「はひ?」
クキンと一路の首が90度近く傾げられる。
「あーもー、一路も真面目に答えない!アウラの言った事は120%本気なんだから。」
それはそれで正直でいい事なのではないだろうかと一路は思うのだが、一路自身がバカ正直なタイプなので、何とも救いようがない。
「どうでもいいから、一路、培養槽に入って促成栽培で治してくる。」
このままでは埒があかないとばかりにシアが割って入って告げると、一路は微妙な表情でシアを見つめる。
そしてポリポリと頬をかく。
「促成栽培って野菜じゃないんだから・・・。」
この銀河の科学水準からすれば、この程度の傷なら施設があれば一日もかからずに治ってしまうのは学習していて驚く事ではないのだが・・・。
「その事なんだけどさ・・・。」
一路は病院で目が覚めてからずっと考えていた事を周囲に告げる。
そして、その翌日から一路の姿は病院にもアカデミーの施設内にもなかった。
一方、一路が女性陣の前で話していた頃。
「お、おったおった。」
パッパカパパパ♪パッパッ♪
陽気な音を立てて、とある集団の前に球体の何かが転がっているところだった。
もし、一路がこの場にいたなら、何故笑点のテーマ?と首を傾げていただろう。
「はい~。どうもどうも~。」
腰を折り、膝前で手を叩きながら、次に出て来たのはプーと照輝だった。
その姿は完全な関西芸人そのもの。
ちなみに二人と入れ替わりに球体、NBは下がっていった。
「何事だ?」
談笑していていた集団の中心にいた青年が、二人に対してそう言葉を発する。
「嫌だなぁ、決まってるじゃないか。ね、照輝?」
「勿論、同じメに合ってもらうでゴザルよ。」
「というコトで、いっちーの腕と鼻をやった人は速やかに前に出て来てもらえるかな?」
にっこりと事も無げにプーは、集団の中心、アマギ・サキョウを見つめる。
「無礼な!」
慇懃な態度にプーに一番近くにいた男性がプーに掴みかかると、一瞬プーの毛が逆立って男が短い悲鳴を上げる。
「速やかにって、僕言ったよね?」
プーに掴みかかった男が地面に倒れピクピクと痙攣している姿を見つめる周りの者達が一様に固唾を飲む。
「何?強化レベル2だからって油断しちゃった?」
それに対してプーは平然としている。
まるで何事も無かったかのようだ。
「君達は僕が"樹雷の雨木家の雨木 左京"そして彼等を樹雷闘士の卵と知って言っているのかな?」
仲間が倒れているというのに、同じく平然とした態度で左京が言葉を返す。
慇懃無礼さは、プーよりこちらの方が上だったが、そんな彼の態度をよそに照輝は小指で自分の耳をほじっていた。
「ダメでゴザルよ、プー。コイツ等、言葉が通じてないでゴザル。」
「仕方ないよ照輝。権力が共通言語だと思ってんだから。樹雷?ここはアカデミーだよ?樹雷じゃない。闘士の卵?所詮卵だろ?本物の戦士じゃない。僕達と同じ学生さ。」
権力をチラつかせればいいとしか思っていない人間は、時に尊大に思える態度しか取れないものだ。
そして世界はそれだけで回っていると思っている。
しかし、それは傲慢でしかない。
「・・・それは、もしや、この僕を、僕達を侮辱しているのかな?」
ここに至っても、まだ左京の態度は変わらなかった。
それが人として致命的だというのも知らず。
「救えないでゴザルな。ま、拙者は"猪武者"でゴザルからなぁ。お貴族様の考える事は理解しかねるでゴザルよ。」
「僕も"獣臭い獣人"だから解らないな。」
そう言った瞬間、双方が動く。
左京の前にいた二人の男以外の男二人がプーと照輝へと踊りかかったのだった。