(何だろう・・・また見知らぬ天井だ・・・。)
何度目だろう、こんな事態に遭遇するのはと、ぼんやり考える。
「肩は脱臼、鼻骨は折れてる。一体、何の授業をしてたんだい?」
誰かの呆れた声が聞こえたが、それが誰だかは解らない。
ただ内容はきっと自分の容体を指しているのだろう事は、一路にも理解出来た。
(結局、何一つ通せなかったな・・・。)
暴力で解決しようとは一切思わなかったが、恐らくそれすらも通用しなかっただろう自分の弱さ、貫き通す意志の弱さに悔しくて涙が出そうだった。
「お、坊、目ぇ覚めたか?」
細長い足をカシャカシャ鳴らしてNBが一路の寝ているベッドの脇にある椅子に器用に登る。
「ここは病院、坊はブッ倒れとって担ぎ込まれたんや。んで、ブッ倒れる前の記憶はあるか?」
あんだーすたん?とNBは一路が求める前に、簡潔な説明をしてくれた。
「あ、うん・・・大丈夫。」
「あのな、坊?」
そう語りかけようとしたNBは、一路の表情を見て頬を掻き(何処までが頬なのか解らないが)言葉を切る。
「まぁ、えぇわ、ワシの話は。また機会があったらするさかいに。」
そのまま気だるげに椅子からひょいと飛び降りると、ベッドを仕切っていたカーテンの向こう側に出てゆく。
「坊、目ぇ覚ましよったで。意識もしかりしとるわ。」
一体誰と話しているのだろう?と思う間にぞろぞろと人が入って来る。
プーに照輝、リーエルにシアにエマリー・・・と、一路の見知らぬ二人。
「アンタ、馬鹿?!」
「いい加減、大人になりなさいよ、イイトシなんだから。」
矢継ぎ早にエマリーとシアからコンボのように罵倒された。
「いや・・・うん、ごめん。」
思った以上に二人の言葉が堪えて、一路も苦笑しながら謝る。
「何かあったのかい?」
早速、核心をついてきたのは、よりにもよって合わせる顔のないプーだった。
気まずさと罪悪感が一路の心を覆う。
この場合、罪悪感を感じるべき相手は他にいて、一路が悪いわけではないのは明白なのだが・・・。
それでも友人を貶された事を撤回出来なかった後ろめたさがどうしてもあるのだ。
「ううん、何も・・・。」
だからこそ、一路もそう答えるしかなかった。
「何もって、一路クン大怪我なのよ?何もないわけないじゃ・・・?」
そう問い正そうとしたリーエルの言葉を手を出してプーが遮る。
「何もなかったんだね?」
念を押すように再度の確認。
「・・・うん。」
「そっか。大方何もないところでコケたんじゃないのかい?」
「そんなワケないじゃない!」
エマリーが烈火の如く抗議の声を上げる。
勿論、この場にいる誰もがプーの話を信じるわけがないのだ。
ただ一人を除いて。
「全く、一路氏は時々お茶目でゴザルなぁ。心配する方の身にもなるでゴザルよ。」
照輝だけがプーと一路の話に乗る。
「ごめんね。もう大丈夫だから。」
結局、また自分は友達に甘えていると一路は痛感した。
"そういうコト"にしておいてくれる友人達の優しさに。
「怪我はあれど、命に関わらなくて良かったでゴザル。じゃ、拙者は用事を思い出したのでこれで。」
「うん。ありがと。」
「なんのなんの。」
一路の返事にやれやれと頭を掻く照輝。
だが、それに微笑むと、プーに目配せをして足早に去って行く。
「なんなのアレ?」
とっとと帰ってしまった照輝にエマリーが非難めいた声を上げる。
「まぁ、僕の不注意だから。」
そう一言区切ってから。
「ねぇ、プー?」
「ん?」
「僕はもっと強くなりたいな・・・照輝やプーが友達として自慢できるくらい、さ。」
それは地球で散々思い知ったというのに。
こんな不甲斐ない自分でなければ、こんな事にはならなかった。
怪我は自業自得だが、少なくとも授業中にあんな事を言われる事はなかっただろうと一路は思う。
そこが悔しい。
「あのね、いっちー?そういうんじゃないだろう?友達って。」
プーは呆れる。
一路のその真摯な態度に。
呆れると同時に、だからこそプーは嬉しくてたまらない。
「僕達の方こそ、いっちーが自慢出来る友人にならないといけないくらいだよ。ともかくだ、今は傷を治して早く戻ってきてよ。四人部屋に二人じゃ広すぎる。」
そう言うとプーは固定されていない方の一路の肩を軽く叩く。
「というワケで、美しい女性の皆さん、どうぞ、いっちーをヨロシク。ご覧の通りのヤツなんで。」
軒並み以上の美しさ誇る女性陣に恭しく一礼し、ニッと牙を見せて笑うプー。
「じゃNB、僕達も行くよ?」
「なっ?!ワシもかいな。」
チラリと一路と女性陣を見て、そしてプーを見るNB。
「・・・ハァ、何かアホらしくなってきたわ。やっぱワシも"浪花節"の方に行くわ。ほなな~。」
名残惜しそうにはしていたものの、結局NBも出て行ってしまう。
男一人だけになる一路は微妙に居心地が悪い。
(NBって僕のサポートロボじゃないの?)
真っ先にサポートを放棄していなくなるサポートロボットって・・・声に出して突っ込みたい一路だったが、それは出来ない。
女性陣の視線がそれを許さないような気がしたのだ。