「よし、目的地まであと少しだ。」
「ねぇ?倉庫がロボットに囲まれているって事はないの?」
伏兵を配しての待ち伏せが可能なら、目的地に大量に配するのが堅い。
「あり得る事ではあるでゴザルが、警備ロボの数は決まってるでゴザル。それに乗り物の免許を持つ者がどれ程いるか・・・。」
「それに倉庫は広い。無理矢理入って乗り込んじゃえば、あとは突破出来る。」
「なんて強引な。」
これは作戦と言えるのか?
甚だ疑問だ。
「坊、おかしいで・・・辺りが静か過ぎる。」
ふと、今までこの方無言を通していたNBが突然呟く。
「そういえば・・・皆、やられたのか?」
確かに先程までの喧騒が嘘のように静まりかえっている。
「ちょい待ち・・・。」
三人を制して、NBが辺りを見回す。
「違うな。熱探知に反応がある。」
「と、すると・・・。」
「皆、機会を伺っているんだ。」
先程までは数があり、開始直後だったから自分達以外の誰がヤラれても関係ない突撃が出来た。
赤信号みんなで渡れば怖くないの法則だ。
何故か妙な団結をした男子の下心は、例え誰かが倒れたとしても、最終的に目的を達成すれば・・・という雰囲気を出していた。
しかし、どうせなら達成するのは自分達のグループが良い。
そう思うのは当然である。
一路だってどうせなら、同室の二人に目的を達成させてやりたいと思う。
(ん?そういえば、僕は地球人なんだからお祭り関係ないんじゃ?)
どう考えても地球のお祭りは存在しているわけがない。
他文化のお祭りを体験するのも有意義な事ではあるが、二人に誘われて当日になって目的を述べられても、興味がそれ程あるとは言えなかった。
何より今回参加したのは、あの晩シアに言った通りそういう目的ではない。
「さて、どうするか・・・。」
だからプーが作戦を考えようとした時には、既に結論が出ていた。
「僕が囮になるよ。別にお祭り自体にそれ程思い入れないし、逃げて逃げて逃げまくって寮に帰っとくよ。」
「それじゃあ、面白くないでゴザル。」
「そうだよ、折角の"共犯"なんだから、ヤラれても最後まで行こう?」
異を唱える二人に一路は首を振る。
一路的には、二人に異を唱えてもらえただけでもう充分なのだ。
(これ以上望んだら、バチが当たるよ、きっと。)
それくらい二人には世話になったと思っている。
別にやられたとしても、命まで取られるわけでもないのだから。
「大丈夫。充分楽しかったし、それじゃあ、お土産でも買って来てよ。」
それだけ言うと持っていた木刀に力を籠めて立ち上がる。
「じゃ、また明日の朝に。行くよ、NB。」
「なっ?!ワシも一緒なんか?!」
まさかそこに自分に含まれてると思わなかったとばかりにNBは驚く。
「当然でしょう?僕のサポートロボって言ったじゃない?」
「じゃあ、二手に分かれるってコトで。」
「この借りはいずれ。」
短い言葉を交わすと、一路は走り出す。
走るというような単純な動作の運動は元々好きだった。
そういえば、先程の木刀の一撃も全力疾走も、生体強化した身体での動作だったという事を思い出す。
「んと・・・。」
グッと膝を沈ませ、バネを使って踏み出すとグンッとスピードが上がった。
これならば、視界内に入ったタコ型ロボットを振り切れるかもしれないなと思ったのだが、すぐに振り切ってしまっては、囮の意味がなくなってしまうという事に気づいてスピードを緩める。
要は踏み出す一歩目からの加速で勝負を掴めばいいのだ。
となると何処へ行くのかだが、当然プー達が目指す先の反対方向という事になるだろう。
「NB、どっちの方向に行ったら・・・NB?」
ここは名目の通りの働きをしてもらおうとNBの助言を、と声をかけたが一路の周りの何処にも彼の姿はなかった。
(何処・・・に?)
見回す範囲を広げてみると、一路に遅れて今から飛び出そうとするプー達の傍でNBが自分に手を振っているではないか!
「すまんの、坊。ワシもヲトコなんや、ヲトコにはヲトコの生き様があるんや!」
つまりは、サポートメカとしての本来の自分の存在意義を完全に放棄して、己の欲望の赴くままにプー達について行くという事である。
地球のロボット三原則も真っ青だ。
アジモフ氏に謝れと言いたくなる。
しかし、こうなると一路にはどうしたらいいのか解らない。
闇夜の中、行く先も解らず道なき道を走る事になるだろう。
「そんなぁ・・・。」
思わず落胆の声を上げる一路。
だが、囮になると言った手前、最低限その役目を果たさなければならないと思うのが、真面目な一路なのだ。
とりあえず、身を隠す事なくプー達から離れるように走ってゆく。
「ひゃぁっ?!」
頬を掠めるように飛んでいくスタンプ弾の特殊インク。
当たりはしないが、風圧を感じる。
時にジグザグ、時にS字、緩急をつけながら、そして近距離に肉薄する個体には、木刀での一撃。
それを繰り返す。
後方で何かの破砕音がするが、確認する暇はない。
「はひーっ!」
それくらいギリギリなのだ。
ただ今の音が、プー達が目的を達成した時に生じたものだったらいいなと思わずにはいられなかった。
でないと、正直この状況に晒されている意味がない。
転がるようにして、再び茂みに飛び込むと、後ろを見る事も出来ずに、一路は悲鳴を上げて暗闇の中を逃げ惑うのだった。