真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第51縁:おお、心の友よ・・・?

「よっ。」

 

 色々と考えた挙げ句、口をついたのは月並みな言葉だった。

元々、こういうのは自分には向いてないんだよと心の中で愚痴りながら。

そして、投げかけられた方はというと、視線を床に下ろしたまま椅子に座し、少年の言葉に反応すら示さなかった。

別に少年の言葉が月並み以下で、センスがないからではない。

 

「ちっ、シケたツラしてんなぁ、オマエ。」

 

 相手の反応に怒るわけでもなく、少年は少女の許可もとらずに傍らにどっかと腰を下ろした。

 

「オマエ、実家に帰ってきたからって、急にお嬢様ぶったって無駄だぞ?オレには通じん。」

 

 大体、幼馴染なんだしと。

それでも、相手からの反応はなく無言のままだ。

 

「折角、貴重な休みをオマエの為にだなぁ・・・。」 「頼んでないもん。」

 

 やっと口を開いたと思ったら、口をついたのは文句の言葉だった事に深い溜め息をつく。

 

「辛気臭ぇの。この世の中で、テメェが一番不幸ってツラすんのだけはヤメロ。他の世界で歯ァ喰いしばって踏ん張ってるヤツ等に失礼だ。」

 

 そんな表情していいのは、死ぬ程頑張ったか、死ぬようなメにあったヤツだけだと少年は本気で思っている。

目の前のお嬢様は少なくとも自分達よりは家柄は上だ。

しょうもないしがらみは当然あるだろうが、裕福なのは間違いし、物理的に恵まれている。

少なくとも飢えや寒さなどはない別次元に生きている事は確か。

しかし、少年には羨ましいと思う時はあれど、嫉妬心というものは全くなかった。

生まれが違うのは当たり前、自分の出自を時に呪う事はあるが、そればかりしているようでは何も変わらないのも理解出来るようになったからだ。

 

「全、あんたには解らないわよ・・・。」

 

「ん?あ~、まぁ、解らんわな。」

 

 だから相手を理解するなど到底無理な話だ。

そこは否定しない、出来ない。

しかし、解ろうというする努力を怠るというのはまた別の話。

 

「性別も生まれも違えば、育った環境も違う。どう考えても解るわきゃない。オレはオマエじゃねぇもん。でもよ?それじゃあ、あんまりだろ?」

 

「何がよ?」

 

 二人の視線は未だに交わる事が無い。

だからこそ、全は苛立つという事もなく呆れている。

 

「いっちーにさ。」

 

 ビクリと少女の身体が跳ねる。

 

「浮かばれねぇよ、オマエがそんなんじゃ。」

 

 自分の目の前で刺された少年の純朴そうな笑みが脳裏を過ぎる。

それだけで胸が締め付けられるように苦しくて、全の横にいた雨木 芽衣は思わず自分の胸元辺りの服を掴む。

 

「だってそーだろーよ?オマエの為にあそこまでやってのけたいっちーが、オマエのそんな姿を望むか?本当、いっちー報われねぇわ。それともアレか?それも頼んでないとか言うのか?」

 

 そんな事は許さないし、許されない。

鋭い視線が自分の横顔に注がれているのが、見なくても芽衣には解る。

 

「そんな・・・そんな訳ないじゃない。」

 

 それだけ。

一路に関する事で言えたのはそれだけで精一杯だった。

しかし、芽衣がやっとの想いで絞り出した声を聞いているのかいないのか、全は胡坐をかいたままで、小指で耳をほじっている。

非常にダルそうに。

芽衣が見ていないからこそ出きる態度でもある。

 

「ふむ。ですよねー。まぁ、なんだ、浮かばれないとか報われないとか言っても、別にいっちー、死んだわけじゃないしな。」

 

「え?」

 

 今、一体、全は何と言っただろう?

あまりの予想外過ぎる言葉に芽衣は脳内で処理出来なかった。

 

「オマエ、何気に酷いのな。それともアレ?心の友と書いて心友のいっちーが死んでも涙一つ流さない冷てぇヤツとか思われてんの?オレ?それも酷ぇなぁ。」

 

 確かに涙一つ流してないし、死んだというような内容の言葉は一つも全の口から出た事もない。

彼が一路に関して述べた最後の言葉は、『一路を助ける。』の一言のみ。

 

「え・・・えっ?えっ?」

 

 そうするとつまりはそういう事で・・・と、芽衣の中でようやく脳内処理が開始される。

 

「さぁ~て、休暇終わりっと。」

 

 決定的な言葉を言わぬまま、全はその場をすっくと立ち上がり、自分が入って来た出入り口へと歩き出す。

ここで休暇が終わりという事は、全はこれだけの為に来たという事だ。

 

「全く、どいつもこいつも面倒かけさせやがんね、どうも。お陰で貧乏暇なし、下級仕官は辛いねときたもんだ。」

 

 もう芽衣に興味ない。

あとは彼女自身が動く事だから。

全は背を向けたまま、手をぴらぴらと振ると部屋を出る。

部屋の外の回廊には、男が三人。

一人は全の顔見知りで、二人は芽衣の警護の人間だ。

 

「いんやぁ、幼馴染に会うだけがこんなに面倒だとは、お偉い方ってのはどうもビビリだコトで。」

 

 これみよがしに聞こえる声で述べた後、にっこりと警護の人間に微笑んだ全は、これでもかと舌を出してあっかんべー。

 

「自分達は何とも思いませんが、育ちが割れますよ"艦長"。」

 

 全の行為を笑顔のままで嗜めるのは、もう一人の男性だった。

 

「悪いな。オレは生まれも育ちも庶民で"木辺"なんてついてねーもん。」

 

 その返答に肩を竦める相手の視線を見なかった事にして全は歩き出す。

 

(しっかし、いっちー、元気にやってっかなぁ・・・。)

 

 


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