真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第39縁:女神の餞別?

「色々と、その、ありがとうございました。」

 

 深々と頭を下げる。

柾木家の中で一番世話になったのは鷲羽だ。

魎呼には悪いが、事実、一路はそう思っている。

恐らく、地球に帰る時も彼女の世話になる事だろう。

 

「いいの、いいの。いいかい、一路殿。一路殿を助けたいと思ったのは私等の勝手だ。ただ一路殿が一路殿だから、そうしたいと思ってやるんだよ。解るね?」

 

「でも、それに甘えるってのは・・・。」

 

 一路の人となりを見て、一路を助けたいと鷲羽達は思った。

だからそうした。

それはつまり一路自身の日頃の行いの良さと言っていい。

鷲羽の主張はそういう事だ。

しかし、それをただ受けるだけ受けるというのではいけないと一路は考える。

不公平というか、不誠実というか・・・。

 

一路(・・)。アンタはこれから宇宙に出る。宇宙は広くてアンタの常識で計れない事ばかりだ。そういう場所へ独りぼっちで出るんだ。いいかい?仲間を増やしな。なかにはアンタの優しさと誠実さを利用してくるヤツラもいるだろうね。だけど、真摯に向き合ってくれるヤツラも必ずいるよ。だから、その気持ちを絶対に失くしちゃいけない。」

 

 事実、人は醜い。

宇宙に出れば、そんな輩はごまんといるだろう。

しかし、鷲羽はそこまで口にする事は出来なかった。

ただ、一路の往く先が、彼にとってプラスになればいいと祈るばかりだ。

女神が祈るというのもアレだが。

 

「はい。」

 

 一路のはっきりとした返事に苦笑しながら、鷲羽は一路の顔に手を伸ばす。

すると、一路がそれに呼応して手を伸ばしやすい位置へと屈んだ事が、鷲羽には嬉しかった。

 

「餞別だよ。」

 

 一路の耳元で、カチリと音がする。

 

「あと、コレね。」

 

 もう一つは首に紐。

 

「・・・ピアス?」

 

 触れてみると、筒状の金属のようなモノが耳に嵌っている。

その筒の一部に何やらポッチりと丸い出っ張り。

 

「イヤーカフだよ。耳に穴なんて開いた痛みないだろ?」

 

 耳につけるモノといえば、ピアスかイヤリングくらいしか知らない一路には、まぁ、そういうものなのかとしか反応が出来ない。

そして、首から下げられたのがお守りだった。

 

「お守りだからね、もうどうにもならない!いっやーん、鷲羽ちゃんたすけて~って時に中身を取り出して祈る最終兵器♪」

 

 実際、女神に向かって祈るのだがら、用法としては間違ってないような気もするが、鷲羽という人物の人となりを知っている者からすれば、物騒なものを放り投げられただけという風にしか思えない。

 

「ありがとうございます。」

 

 知らぬが仏とも言おうか、それが一路特有の素直さとも言おうか、素直に礼を述べる。

 

「で、私から一つ、お・ね・が・い・♪」

 

 そら来た!!と、皆が皆、自分の事のように身構える。

このパターン、このパターンがお決まりともいえる災厄を呼ぶのだ。

 

「なんでしょう?」

 

(き、聞いちゃダメだっ!!)

 

 喉から出かかった叫びが何故だか、天地の口から出す事が出来ない。

こ、これがプレッシャーかっ?!と悶えようとするものの・・・。

 

「あのね、その2つ、肌身離さず持っててネっ♪」

 

(な、何の呪いのアイテムですの?!)

 

 もう二度とあのイヤーカフは一路の身体から外す事は出来ないのではないだろうかと阿重霞は不安になる。

鷲羽の一路に対する愛情のようなモノは、学校や今回の顛末を含めて、充分に信用に値するものなのだが、如何せん"日頃の行い"というものがある。

一抹どころか、多分に不安を拭う事は出来ない。

 

「はいっ。」

 

 そんな鷲羽の不吉な言葉に対して、朗らかに答えてしまう一路の性格の良さに、この先が案じられてならない。

それ以上に、更に不安になる要素がもう一つあるだけに。

 

「あ、お迎えが来たようだね。」

 

 空を見上げる鷲羽にならって、一路も空を見上げてみると、そこには巨大な飛行物体があった。

銀色一色の装甲に覆われ、鋭角な機首を持った・・・宇宙船。

 

「本当に美星さんで大丈夫なのでしょうか?」

 

 一路の宇宙への水先案内人を買って出たのが美星であるという事が、一番の不安。

 

「龍皇はユニット換装作業中だし、ノイケ殿の船はそもそも大事になりかねない。魎呼のヤツが拗ねて出て来ないんだ。どうしようもないね。」

 

 消去法で美星が選ばれるのだから、理由は推して知るべしとしか言い様がない。

 

「魎呼さん・・・。」

 

 ただ、魎呼に別れの挨拶が出来ないのは、一路としても心残りだった。

 

「ほっときな。魎呼なら大丈夫さ。一路殿に会いたくなったら、文字通り飛んで行くから。」

 

「ま、魎呼だしなぁ。」

 

「ですわね。」

 

 天地と阿重霞まで同意見なので、その通りなのだろう。

だが、魎呼の拗ねた原因だって元を正せば自分なのだからして、落胆するなと言われても早々割り切れるものでもない。

 

「兎も角、しっかりとおやり。私達も情報を掴んだら必ず連絡するからさ。」

 

 旅立ちの目的を見失ってはいけない。

自分は強くなるのだ。

 

「はい。では、その・・・"いってきます。"」

 

「「「いってらっしゃい。」」」

 

 その合唱に照れて微笑むと、一路の身体を光の帯が包む。

フワリと身体が浮き、ゆっくりと上昇して行く。

視線を下げて、下を見ると手を振る皆の姿が少しずつ小さくなってゆく。

 

(ここから・・・始まるんだ・・・。)

 


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