簡素なベットに横たわったまま、パタリと音をたてて読んでいた本を閉じる。
今日は本当に調子が悪いと感じる。
もうダメかも知れないと自覚しつつ・・・。
「はぁ・・・。」
視界を天井から横に逸らせば、昨日と変わらぬ全く同じ光景が広がっている。
そう感じられる程に部屋に馴染みつつあるお弁当の包み。
しかし、今日はそれにオマケがついている。
寧ろ、オマケというより、これが灯華をぐったりとさせた原因の張本人だった。
いや、張本人はこれを買った一路の方なのだが。
(何で・・・。)
これについての感想は、この一言に尽きる。
何故、受け取ってしまったのか?
それ以前に何が欲しいのかと問われて、これを指してしまったのか?
更に、更に遡れば、何故お弁当などを作ってしまったのか?
(それもこれも全部・・・。)
一路のせいである。
明白だ。
(あんな
どうにも一路の困った様な、戸惑うようで泣きそうな表情に弱い。
あれを見ると、仕方ないと思ってしまう。
『惚れた?』
「絶対ナイ。」
大体、灯華には恋というものは理解出来ない。
理解できないというか、未だに誰かに恋愛感情を抱いた事はない。
興味もないのだから、気にならないのは仕方ない事だろう。
そういうモノに勝手に自分を改変されるというのは、ある意味薄ら寒いものすら感じてしまうのだ。
だが、彼女の視線の先、その包みを見ると・・・。
「・・・・・・。」
無言のまま身体を起こして包みを手にする。
掴んだ仕草は無雑作だったが、包みを開けて中身を取り出す動作はとても柔らかだった。
そういえば、人から物を貰う事自体久し振りだという事を灯華は思い出す。
「・・・失敗したかも。」
中から出したソレを摘まんで、なだめすかしてから思わず呟く。
スワロフスキーで作られたクマのストラップ。
久し振りに貰ったプレゼントとしては、微妙だったかも知れないと今になって悔やむ。
このストラップというのは曲者だ。
自分で指定してプレゼントとして貰ったのだから、何処かにつけなければ相手に失礼になる。
それくらいは察する事が出来るくらいは、良くも悪くも灯華は真面目な人間だった。
これを流石、委員長と褒めるべきは別としてだが。
「何処に・・・つけよう・・・。」
律儀に目に見える所につけなくてもいいのだが、一度くらいはつけている所を見せないと、またあの困った様な泣きそうな表情をされても困る。
あれは、自分にとって思っている以上に厄介なのだ。
どうしても苦手で、どうしても目を逸らせない一路の表情。
別に一路に、他人にどう思われようと構わない灯華ではあるが、ちょっとでも一路に共感覚を持ってしまった今、それを考えなければならない。
だが、よりよってこのクマちゃんは目立つ。
つぶらな瞳のクマちゃんに罪はないが、どう扱っていいものか。
灯華は自らの前に出された難題に苦慮する。
しかし、それは実は一路の事を考える時間とイコールだという事に気づかぬまま、灯華は目の前の問題に思案を巡らす。
(こんな事をしに来たわけじゃないのに・・・。)
一路の級友になる事。
彼にお弁当を作る事。
今の生活の全て。
しかし、灯華の心は一路の前ではこんなにも揺れる。
何故か?
それは、一路の言動が灯華を必要と思ってくれているからだと。
たとえ何時か終わりが来るのだと解っていても・・・。
「はぁ・・・。」
溜め息をつく彼女の夜はまだまだ長い。
個人的には今流行りのベ○ッガイⅢのストラップとかがいいなぁ・・・。