真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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あと10話くらいでまた一区切り・・・の、予定デス。


第28縁:雲の切れ間に照らされて。

 簡素なベットに横たわったまま、パタリと音をたてて読んでいた本を閉じる。

今日は本当に調子が悪いと感じる。

もうダメかも知れないと自覚しつつ・・・。

 

「はぁ・・・。」

 

 視界を天井から横に逸らせば、昨日と変わらぬ全く同じ光景が広がっている。

そう感じられる程に部屋に馴染みつつあるお弁当の包み。

しかし、今日はそれにオマケがついている。

寧ろ、オマケというより、これが灯華をぐったりとさせた原因の張本人だった。

いや、張本人はこれを買った一路の方なのだが。

 

(何で・・・。)

 

 これについての感想は、この一言に尽きる。

何故、受け取ってしまったのか?

それ以前に何が欲しいのかと問われて、これを指してしまったのか?

更に、更に遡れば、何故お弁当などを作ってしまったのか?

 

(それもこれも全部・・・。)

 

 一路のせいである。

明白だ。

 

(あんな表情(かお)するから。)

 

 どうにも一路の困った様な、戸惑うようで泣きそうな表情に弱い。

あれを見ると、仕方ないと思ってしまう。

 

『惚れた?』

 

「絶対ナイ。」

 

 大体、灯華には恋というものは理解出来ない。

理解できないというか、未だに誰かに恋愛感情を抱いた事はない。

興味もないのだから、気にならないのは仕方ない事だろう。

そういうモノに勝手に自分を改変されるというのは、ある意味薄ら寒いものすら感じてしまうのだ。

だが、彼女の視線の先、その包みを見ると・・・。

 

「・・・・・・。」

 

 無言のまま身体を起こして包みを手にする。

掴んだ仕草は無雑作だったが、包みを開けて中身を取り出す動作はとても柔らかだった。

そういえば、人から物を貰う事自体久し振りだという事を灯華は思い出す。

 

「・・・失敗したかも。」

 

 中から出したソレを摘まんで、なだめすかしてから思わず呟く。

スワロフスキーで作られたクマのストラップ。

久し振りに貰ったプレゼントとしては、微妙だったかも知れないと今になって悔やむ。

このストラップというのは曲者だ。

自分で指定してプレゼントとして貰ったのだから、何処かにつけなければ相手に失礼になる。

それくらいは察する事が出来るくらいは、良くも悪くも灯華は真面目な人間だった。

これを流石、委員長と褒めるべきは別としてだが。

 

「何処に・・・つけよう・・・。」

 

 律儀に目に見える所につけなくてもいいのだが、一度くらいはつけている所を見せないと、またあの困った様な泣きそうな表情をされても困る。

あれは、自分にとって思っている以上に厄介なのだ。

どうしても苦手で、どうしても目を逸らせない一路の表情。

別に一路に、他人にどう思われようと構わない灯華ではあるが、ちょっとでも一路に共感覚を持ってしまった今、それを考えなければならない。

だが、よりよってこのクマちゃんは目立つ。

つぶらな瞳のクマちゃんに罪はないが、どう扱っていいものか。

灯華は自らの前に出された難題に苦慮する。

しかし、それは実は一路の事を考える時間とイコールだという事に気づかぬまま、灯華は目の前の問題に思案を巡らす。

 

(こんな事をしに来たわけじゃないのに・・・。)

 

 一路の級友になる事。

彼にお弁当を作る事。

今の生活の全て。

しかし、灯華の心は一路の前ではこんなにも揺れる。

何故か?

それは、一路の言動が灯華を必要と思ってくれているからだと。

たとえ何時か終わりが来るのだと解っていても・・・。

 

「はぁ・・・。」

 

 溜め息をつく彼女の夜はまだまだ長い。




個人的には今流行りのベ○ッガイⅢのストラップとかがいいなぁ・・・。

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